ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
915 / 1,513

子どもたち

しおりを挟む
 屋敷についたあと、ディルに調査を頼んでおく。アンジェラとエマを馬車からおろし、連れて来た子どもたちを屋敷の玄関へと連れて来た。ココナが数名のメイドを連れて、慌てて玄関へくる。


「アンナ様」
「ただいま!」
「……アンナ様」


 ココナが心配と呆れと何とも言えない表情を浮かべて私の前へと来る。玄関に並んでいた子どもたちに驚いていた。


「……子ども?」
「そう。人攫いから奪い返してきたの」
「そう、だったのですか?」
「しばらくは、預かることにするわ。あちこちに特徴を書いた通知を配りましょう。心当たりがあって、引き取ってもいいという親には、返すことにするわ。ただ、子どもたちにも、どうしたいかは聞こうと思ってはいるの。小さい子も多いから、そこは、まだ、どうなるかわからないけど」


 モレン?と呼ぶと、コーコナで執事をしているディルの弟子を呼ぶ。何でしょうか?と側に来たので、通知の手配を頼むと、早速動いてくれる。ココナ?と子どもたちを見ていたココナに声をかけ、子どもたちをお風呂へ入れるように伝える。
 メイドたちに声をかけ、風呂の用意をするよう指示をし、着替えについてどうするかと尋ねてくるので、古着を用意するようにと伝える。この屋敷には、メイドたちの侍従の家族が一部住んでいる。その子らの古着でもいいかということになったので、任せることにした。

 先に幼児と女の子がお風呂に入ることになったので、残った男の子たちを連れ、部屋に移った。


「うっわぁ!すっげぇー椅子!ほら、見てみろよ!」
「お貴族様の屋敷なんだから、静かにしろよ!お貴族様は、気に入らなかったら、殺されることもあるんだぞ!」


 騒ぐ男の子を窘めるように、礼拝堂で女の子を守っていた男の子だ。その隣には、外でマリアのために戦っていた兄が頭の後ろで手を組みながら、やり取りを見ていた。
 年長者である二人。まるで、ウィルとハリーのような雰囲気を持ち、小さい子たちが、何もしないように、見張っているようだった。


「なんだか、私、他人事のように見えないわ」


 一人、その様子をごちると、遠くで、兄が大きなため息をついているような気さえしてくる。


「……あの、お、お貴族様ですよね?」


 私の顔を見上げながら、こちらを伺っているようだった。普通の子どもにしては用心深い気がしたが、レオほどの年齢であれば、少しばかりそういったことにも気を使うのかもしれない。それか、親か周りの大人に貴族と関わるなと教えられて来ていた可能性もある。
 強張った顔をしている男の子に微笑むと、顔を少し赤らめた。


「可愛いわね。こっちにいらっしゃい」
「……あの」
「何もしないわ。話を聞きたいの」


 ソファに座り、手招きすると、誰かに相談したさそうに、周りをキョロキョロする。もう一人の男の子と目が合ったとき、頷いたので、おそるおそる近づいてきた。


「ここに座って?」


 しぶしぶ座る男の子を抱き寄せる。体は思ったより細く、あまり、食べていないような印象だ。ただ、近くにいた女の子を守ろうとしたその心はとても強く、感心したのだった。


「……あ、あ、あのっ!」
「どうかして?」
「……何日も水浴びをしていませんから、その……臭いですし、その……」
「気にしないで。私は、ただ、女の子や他の子たち守ってくれたことを褒めたいだけなの」


 そういうと、細い腕が私の背中に回る。泥だらけの手で、私の着ている服をギュっと握った。


「えらかったね。あなたも怖かったでしょうに……。よく頑張りました」


 背中を軽く叩いたり、頭を撫でたりすると、肩に置かれた顔が私にもたれかかり、泣き始める。しっかりしているとはいえ、まだ、子どもだ。大人ですら、歯向かうことは躊躇うだろうことに、この細腕の少年は立ち向かったのだ。
 泣いてもいいというふうに、何度何度も背中をさすってあげると、恐怖を流し出すように嗚咽に変わっていく。少年たちよりさらに小さい子たちも泣き始めた。


「みんな、こっちにいらっしゃい。怖かったよね?よく頑張ったわ」


 安心を求めるためなのか、周りに寄ってきては私に抱きついている。一人一人の頭をなで、声をかけた。一頻り、子どもたちが泣く中、マリアの兄である少年だけが、泣きたくても泣けない、そんな表情をしている。手招きをすると、近くに立ってくれたので、よくがんばったと頭を撫でる。俯く少年は、私に涙を見られるのが恥ずかしかったようで、そっと零れるものを服の袖で拭いていた。
 集まった子どもたちに優しく声をかけ続けると、少しずつ涙は止まっていく。


「もう、大丈夫です」


 涙に濡れた目元をゴシゴシと拭って、下手くそな笑顔を見せる青年に頷いた。他の子たちも、それをならうようにニィっと笑う。


「恐怖は、少しくらい和らいだかな?」


 みんなに問うと、まだ、声にならないのか、頷く。近くにあったベルを鳴らし、ココナが部屋に入ってくる。少年たちに囲まれた私を見て、複雑そうな顔をしながら、要件をきくので、子どもたちへお菓子を用意してほしいと伝えた。
 頷き渋々ココナは出て行き、たくさんのクッキーを持ってきてくれたのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...