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子どもたち
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屋敷についたあと、ディルに調査を頼んでおく。アンジェラとエマを馬車からおろし、連れて来た子どもたちを屋敷の玄関へと連れて来た。ココナが数名のメイドを連れて、慌てて玄関へくる。
「アンナ様」
「ただいま!」
「……アンナ様」
ココナが心配と呆れと何とも言えない表情を浮かべて私の前へと来る。玄関に並んでいた子どもたちに驚いていた。
「……子ども?」
「そう。人攫いから奪い返してきたの」
「そう、だったのですか?」
「しばらくは、預かることにするわ。あちこちに特徴を書いた通知を配りましょう。心当たりがあって、引き取ってもいいという親には、返すことにするわ。ただ、子どもたちにも、どうしたいかは聞こうと思ってはいるの。小さい子も多いから、そこは、まだ、どうなるかわからないけど」
モレン?と呼ぶと、コーコナで執事をしているディルの弟子を呼ぶ。何でしょうか?と側に来たので、通知の手配を頼むと、早速動いてくれる。ココナ?と子どもたちを見ていたココナに声をかけ、子どもたちをお風呂へ入れるように伝える。
メイドたちに声をかけ、風呂の用意をするよう指示をし、着替えについてどうするかと尋ねてくるので、古着を用意するようにと伝える。この屋敷には、メイドたちの侍従の家族が一部住んでいる。その子らの古着でもいいかということになったので、任せることにした。
先に幼児と女の子がお風呂に入ることになったので、残った男の子たちを連れ、部屋に移った。
「うっわぁ!すっげぇー椅子!ほら、見てみろよ!」
「お貴族様の屋敷なんだから、静かにしろよ!お貴族様は、気に入らなかったら、殺されることもあるんだぞ!」
騒ぐ男の子を窘めるように、礼拝堂で女の子を守っていた男の子だ。その隣には、外でマリアのために戦っていた兄が頭の後ろで手を組みながら、やり取りを見ていた。
年長者である二人。まるで、ウィルとハリーのような雰囲気を持ち、小さい子たちが、何もしないように、見張っているようだった。
「なんだか、私、他人事のように見えないわ」
一人、その様子をごちると、遠くで、兄が大きなため息をついているような気さえしてくる。
「……あの、お、お貴族様ですよね?」
私の顔を見上げながら、こちらを伺っているようだった。普通の子どもにしては用心深い気がしたが、レオほどの年齢であれば、少しばかりそういったことにも気を使うのかもしれない。それか、親か周りの大人に貴族と関わるなと教えられて来ていた可能性もある。
強張った顔をしている男の子に微笑むと、顔を少し赤らめた。
「可愛いわね。こっちにいらっしゃい」
「……あの」
「何もしないわ。話を聞きたいの」
ソファに座り、手招きすると、誰かに相談したさそうに、周りをキョロキョロする。もう一人の男の子と目が合ったとき、頷いたので、おそるおそる近づいてきた。
「ここに座って?」
しぶしぶ座る男の子を抱き寄せる。体は思ったより細く、あまり、食べていないような印象だ。ただ、近くにいた女の子を守ろうとしたその心はとても強く、感心したのだった。
「……あ、あ、あのっ!」
「どうかして?」
「……何日も水浴びをしていませんから、その……臭いですし、その……」
「気にしないで。私は、ただ、女の子や他の子たち守ってくれたことを褒めたいだけなの」
そういうと、細い腕が私の背中に回る。泥だらけの手で、私の着ている服をギュっと握った。
「えらかったね。あなたも怖かったでしょうに……。よく頑張りました」
背中を軽く叩いたり、頭を撫でたりすると、肩に置かれた顔が私にもたれかかり、泣き始める。しっかりしているとはいえ、まだ、子どもだ。大人ですら、歯向かうことは躊躇うだろうことに、この細腕の少年は立ち向かったのだ。
泣いてもいいというふうに、何度何度も背中をさすってあげると、恐怖を流し出すように嗚咽に変わっていく。少年たちよりさらに小さい子たちも泣き始めた。
「みんな、こっちにいらっしゃい。怖かったよね?よく頑張ったわ」
安心を求めるためなのか、周りに寄ってきては私に抱きついている。一人一人の頭をなで、声をかけた。一頻り、子どもたちが泣く中、マリアの兄である少年だけが、泣きたくても泣けない、そんな表情をしている。手招きをすると、近くに立ってくれたので、よくがんばったと頭を撫でる。俯く少年は、私に涙を見られるのが恥ずかしかったようで、そっと零れるものを服の袖で拭いていた。
集まった子どもたちに優しく声をかけ続けると、少しずつ涙は止まっていく。
「もう、大丈夫です」
涙に濡れた目元をゴシゴシと拭って、下手くそな笑顔を見せる青年に頷いた。他の子たちも、それをならうようにニィっと笑う。
「恐怖は、少しくらい和らいだかな?」
みんなに問うと、まだ、声にならないのか、頷く。近くにあったベルを鳴らし、ココナが部屋に入ってくる。少年たちに囲まれた私を見て、複雑そうな顔をしながら、要件をきくので、子どもたちへお菓子を用意してほしいと伝えた。
頷き渋々ココナは出て行き、たくさんのクッキーを持ってきてくれたのである。
「アンナ様」
「ただいま!」
「……アンナ様」
ココナが心配と呆れと何とも言えない表情を浮かべて私の前へと来る。玄関に並んでいた子どもたちに驚いていた。
「……子ども?」
「そう。人攫いから奪い返してきたの」
「そう、だったのですか?」
「しばらくは、預かることにするわ。あちこちに特徴を書いた通知を配りましょう。心当たりがあって、引き取ってもいいという親には、返すことにするわ。ただ、子どもたちにも、どうしたいかは聞こうと思ってはいるの。小さい子も多いから、そこは、まだ、どうなるかわからないけど」
モレン?と呼ぶと、コーコナで執事をしているディルの弟子を呼ぶ。何でしょうか?と側に来たので、通知の手配を頼むと、早速動いてくれる。ココナ?と子どもたちを見ていたココナに声をかけ、子どもたちをお風呂へ入れるように伝える。
メイドたちに声をかけ、風呂の用意をするよう指示をし、着替えについてどうするかと尋ねてくるので、古着を用意するようにと伝える。この屋敷には、メイドたちの侍従の家族が一部住んでいる。その子らの古着でもいいかということになったので、任せることにした。
先に幼児と女の子がお風呂に入ることになったので、残った男の子たちを連れ、部屋に移った。
「うっわぁ!すっげぇー椅子!ほら、見てみろよ!」
「お貴族様の屋敷なんだから、静かにしろよ!お貴族様は、気に入らなかったら、殺されることもあるんだぞ!」
騒ぐ男の子を窘めるように、礼拝堂で女の子を守っていた男の子だ。その隣には、外でマリアのために戦っていた兄が頭の後ろで手を組みながら、やり取りを見ていた。
年長者である二人。まるで、ウィルとハリーのような雰囲気を持ち、小さい子たちが、何もしないように、見張っているようだった。
「なんだか、私、他人事のように見えないわ」
一人、その様子をごちると、遠くで、兄が大きなため息をついているような気さえしてくる。
「……あの、お、お貴族様ですよね?」
私の顔を見上げながら、こちらを伺っているようだった。普通の子どもにしては用心深い気がしたが、レオほどの年齢であれば、少しばかりそういったことにも気を使うのかもしれない。それか、親か周りの大人に貴族と関わるなと教えられて来ていた可能性もある。
強張った顔をしている男の子に微笑むと、顔を少し赤らめた。
「可愛いわね。こっちにいらっしゃい」
「……あの」
「何もしないわ。話を聞きたいの」
ソファに座り、手招きすると、誰かに相談したさそうに、周りをキョロキョロする。もう一人の男の子と目が合ったとき、頷いたので、おそるおそる近づいてきた。
「ここに座って?」
しぶしぶ座る男の子を抱き寄せる。体は思ったより細く、あまり、食べていないような印象だ。ただ、近くにいた女の子を守ろうとしたその心はとても強く、感心したのだった。
「……あ、あ、あのっ!」
「どうかして?」
「……何日も水浴びをしていませんから、その……臭いですし、その……」
「気にしないで。私は、ただ、女の子や他の子たち守ってくれたことを褒めたいだけなの」
そういうと、細い腕が私の背中に回る。泥だらけの手で、私の着ている服をギュっと握った。
「えらかったね。あなたも怖かったでしょうに……。よく頑張りました」
背中を軽く叩いたり、頭を撫でたりすると、肩に置かれた顔が私にもたれかかり、泣き始める。しっかりしているとはいえ、まだ、子どもだ。大人ですら、歯向かうことは躊躇うだろうことに、この細腕の少年は立ち向かったのだ。
泣いてもいいというふうに、何度何度も背中をさすってあげると、恐怖を流し出すように嗚咽に変わっていく。少年たちよりさらに小さい子たちも泣き始めた。
「みんな、こっちにいらっしゃい。怖かったよね?よく頑張ったわ」
安心を求めるためなのか、周りに寄ってきては私に抱きついている。一人一人の頭をなで、声をかけた。一頻り、子どもたちが泣く中、マリアの兄である少年だけが、泣きたくても泣けない、そんな表情をしている。手招きをすると、近くに立ってくれたので、よくがんばったと頭を撫でる。俯く少年は、私に涙を見られるのが恥ずかしかったようで、そっと零れるものを服の袖で拭いていた。
集まった子どもたちに優しく声をかけ続けると、少しずつ涙は止まっていく。
「もう、大丈夫です」
涙に濡れた目元をゴシゴシと拭って、下手くそな笑顔を見せる青年に頷いた。他の子たちも、それをならうようにニィっと笑う。
「恐怖は、少しくらい和らいだかな?」
みんなに問うと、まだ、声にならないのか、頷く。近くにあったベルを鳴らし、ココナが部屋に入ってくる。少年たちに囲まれた私を見て、複雑そうな顔をしながら、要件をきくので、子どもたちへお菓子を用意してほしいと伝えた。
頷き渋々ココナは出て行き、たくさんのクッキーを持ってきてくれたのである。
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