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変わったね
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馬車に揺られ、屋敷に帰る途中。血だらけの私をアンジェラとエマがじっと見つめてくる。先程から、どこにも怪我はないと言っているのに、心配してくれているようで、二人の頭を撫でた。
ディルが、屋敷に帰る途中のアンジェラたちを見つけ、馬車に乗らせてくれたらしく、状況が状況なだけに、目が吊り上がっている筆頭執事の方は見れずにいた。
「アンナリーゼ様」
「……何かしら?」
「お疲れさまでした。子どもたちを救ったこと、とても立派でございます」
「……ありがとう。そのあとは、お説教かしら?」
「そうしたいのは、やまやまですが、それは、屋敷に帰ってからとします。本当に、どこにも傷はないのですか?」
「えぇ、どこにも。これも私の血じゃなくて、貴族だと名乗った老人のものだし……」
「あぁ、あの。あの者には、後で……」
「それに関しては、私や領地ではなくて、公に裁いてもらうわ。国の法だもの。それに準じる形で、領地にも守るべきものはあるけど、大きく取り上げた方がいいと思うの。この国で、人攫いは、各地で起こっているし、子どもを売るなんてこともたくさんあるわ。その先が、どうなっているのか、親は知らないでしょうけどね……」
「……戦争の駒ですか?」
「そう。他国から攫ってくれば、国自体に痛みはないし、殺されたとしても外国の子だからと、目を瞑るのよ。特にインゼロ帝国では、戦争や争い、内乱が絶えないから、自分の子を差し出さなくていいのならと誰も反対なんてしないわ」
さようでございますかと無機質なディルの物言いに引っかかる。何かを感じ取ったのか、何でしょうか?とこちらに問いかけてくる。
「初めて会ったときから、もう4年……5年くらい経つかしら?」
「そうですね。ジョー様は三歳になられましたし、ジョージア様とのご結婚まえ1年もございますから。それが、どうかされましたか?」
「なんとなくだけど、ディルの印象が変わったなと思って」
「そのこころは?」
「そうね……最初はやはり異物を見るような感じだったかしら?アンバー公爵家に嫁に入る身としては、見張られている感じがしたわ。翌年には、結婚もしたし、また、その翌年にはジョーも生まれた。ジョージア様とのこともあったし、本当にこの5年でたくさんの出来事があったなって思って」
頷くディル。その先に話を進めるよう促された。
「……ディルにも子どもが生まれたからなのかな?わからないけど、今、なるべく感情が動かないように堪えたでしょ?」
「……それは、そうですね。今までは、子猫たちを可愛がってはいましたが、捨て猫を可愛がるようなもので、正直、煩わしいとさえ、思ったことはあります。エマの前でいうことではないのでしょうがね。実際、ジョー様が育つ様子をみたり、お世話するといっても、ただウロウロとどうしたものか、歩き回って、デリアに邪魔だと叱られたことはありましたが……なんと言いますか、不思議なもので、今まで感じていた煩わしさが、ジョー様に笑いかけられたとき、飛んでしまいました」
顔が少しだけ緩み、公爵家筆頭執事の顔から、優しい父親の表情に少しだけ変わる。
「デリアが命がけで生んでくれた子を手にしたとき、世界はこんなにも美しかったのかと、妙に感動したことを覚えています。もし、アンナリーゼ様から見て、変わったというのなら、そういうところなのかもしれませんね」
「まさにそうなのかも。たまに感じていた、子猫たちの扱いに寂しく思っていたの。最近は、とても大切にしているわよね?一人一人に任務から帰ってきたら声をかけたりして」
「……どこで、それを?」
「ヒーナが言っていたわ。公爵家の裏方は、とても大切にされているのね?って。どこも、裏の仕事をする私たちのようなものに、報告以外で声をかけたりしないって。その話を聞いて、嬉しくなったわ!」
「そうでしたか。今の人攫いの話を聞いて、なんだか胸が痛むと思ったら、随分、人らしくなったのですね。私も」
小さく息をはいている。ディルの仕事は、公爵家全体を守る仕事をしている。私やジョージアが表の顔なら、ディルは表にも裏にも顔がある状態だ。子猫たちを束ねて、公爵家の安寧を支えているのだから。
「それでいいじゃない。ディルだけが、裏の仕事をしなくてもいいわ。私も手伝うし」
「ありがとうございます。これは、私の仕事ですから。そういえば……」
「わかっているのね。こんな話をしたばかりで、申し訳ないのだけど、これを」
少しまじめな話を始めることに気が付いたエマが、アンジェラの視線を窓の外にうつさせた。そうすることで、ディルに持ってきたものを見せる。
「これは?」
「ディルも初めてみるかしら?」
「えぇ、そうですね。何でしょうか?」
「銃というものよ。これは、ここの引き金を押せば、火薬で飛ばす弾が出て、人を殺せる道具らしいわ。私も1度、母から密輸入されたものを見せてもらったことはあるけど、使われているのを見るのは初めてなのよ」
頭を突合せ、小声で話すとディルに渡す。重みのあるそれは、私の手からディルへと渡った。
ディルが、屋敷に帰る途中のアンジェラたちを見つけ、馬車に乗らせてくれたらしく、状況が状況なだけに、目が吊り上がっている筆頭執事の方は見れずにいた。
「アンナリーゼ様」
「……何かしら?」
「お疲れさまでした。子どもたちを救ったこと、とても立派でございます」
「……ありがとう。そのあとは、お説教かしら?」
「そうしたいのは、やまやまですが、それは、屋敷に帰ってからとします。本当に、どこにも傷はないのですか?」
「えぇ、どこにも。これも私の血じゃなくて、貴族だと名乗った老人のものだし……」
「あぁ、あの。あの者には、後で……」
「それに関しては、私や領地ではなくて、公に裁いてもらうわ。国の法だもの。それに準じる形で、領地にも守るべきものはあるけど、大きく取り上げた方がいいと思うの。この国で、人攫いは、各地で起こっているし、子どもを売るなんてこともたくさんあるわ。その先が、どうなっているのか、親は知らないでしょうけどね……」
「……戦争の駒ですか?」
「そう。他国から攫ってくれば、国自体に痛みはないし、殺されたとしても外国の子だからと、目を瞑るのよ。特にインゼロ帝国では、戦争や争い、内乱が絶えないから、自分の子を差し出さなくていいのならと誰も反対なんてしないわ」
さようでございますかと無機質なディルの物言いに引っかかる。何かを感じ取ったのか、何でしょうか?とこちらに問いかけてくる。
「初めて会ったときから、もう4年……5年くらい経つかしら?」
「そうですね。ジョー様は三歳になられましたし、ジョージア様とのご結婚まえ1年もございますから。それが、どうかされましたか?」
「なんとなくだけど、ディルの印象が変わったなと思って」
「そのこころは?」
「そうね……最初はやはり異物を見るような感じだったかしら?アンバー公爵家に嫁に入る身としては、見張られている感じがしたわ。翌年には、結婚もしたし、また、その翌年にはジョーも生まれた。ジョージア様とのこともあったし、本当にこの5年でたくさんの出来事があったなって思って」
頷くディル。その先に話を進めるよう促された。
「……ディルにも子どもが生まれたからなのかな?わからないけど、今、なるべく感情が動かないように堪えたでしょ?」
「……それは、そうですね。今までは、子猫たちを可愛がってはいましたが、捨て猫を可愛がるようなもので、正直、煩わしいとさえ、思ったことはあります。エマの前でいうことではないのでしょうがね。実際、ジョー様が育つ様子をみたり、お世話するといっても、ただウロウロとどうしたものか、歩き回って、デリアに邪魔だと叱られたことはありましたが……なんと言いますか、不思議なもので、今まで感じていた煩わしさが、ジョー様に笑いかけられたとき、飛んでしまいました」
顔が少しだけ緩み、公爵家筆頭執事の顔から、優しい父親の表情に少しだけ変わる。
「デリアが命がけで生んでくれた子を手にしたとき、世界はこんなにも美しかったのかと、妙に感動したことを覚えています。もし、アンナリーゼ様から見て、変わったというのなら、そういうところなのかもしれませんね」
「まさにそうなのかも。たまに感じていた、子猫たちの扱いに寂しく思っていたの。最近は、とても大切にしているわよね?一人一人に任務から帰ってきたら声をかけたりして」
「……どこで、それを?」
「ヒーナが言っていたわ。公爵家の裏方は、とても大切にされているのね?って。どこも、裏の仕事をする私たちのようなものに、報告以外で声をかけたりしないって。その話を聞いて、嬉しくなったわ!」
「そうでしたか。今の人攫いの話を聞いて、なんだか胸が痛むと思ったら、随分、人らしくなったのですね。私も」
小さく息をはいている。ディルの仕事は、公爵家全体を守る仕事をしている。私やジョージアが表の顔なら、ディルは表にも裏にも顔がある状態だ。子猫たちを束ねて、公爵家の安寧を支えているのだから。
「それでいいじゃない。ディルだけが、裏の仕事をしなくてもいいわ。私も手伝うし」
「ありがとうございます。これは、私の仕事ですから。そういえば……」
「わかっているのね。こんな話をしたばかりで、申し訳ないのだけど、これを」
少しまじめな話を始めることに気が付いたエマが、アンジェラの視線を窓の外にうつさせた。そうすることで、ディルに持ってきたものを見せる。
「これは?」
「ディルも初めてみるかしら?」
「えぇ、そうですね。何でしょうか?」
「銃というものよ。これは、ここの引き金を押せば、火薬で飛ばす弾が出て、人を殺せる道具らしいわ。私も1度、母から密輸入されたものを見せてもらったことはあるけど、使われているのを見るのは初めてなのよ」
頭を突合せ、小声で話すとディルに渡す。重みのあるそれは、私の手からディルへと渡った。
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