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調査報告
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執務室で朝の報告を読んでいると、ビルが入ってきた。お願いしていた調査について、報告を持ってきてくれたようで、表情が険しい。
私も居住まいを整え、ビルを迎え入れた。ただ一人、耳を澄ましていたアデルは、ビルですかねぇ?と呟いている。
「アデル」
「何でしょうか?」
「正解よ!ビルが来てくれたわ!」
声をかけられ驚いていたアデルが目隠しを取る。ビルは、よくわからない私たちのことをなんとも言えない目で見ていた。
「これは、一体何をしているのですか?」
「ちょっとしたゲームよ?目で見ないで、誰がこの部屋に入ってくるか、当てるの」
「……それは、何かの役に?」
「そうね、アデルって目に頼りきってるところがあるから、少し感覚的なものを鍛えようかと思って。レオもたまにやっているものだから、遊び感覚で出来るし、目が見えない不安もあるから、聴力、嗅覚、感覚が研ぎ澄まされてくると思うのよ。廊下を歩くだけで、誰が近づいて来ているか、わかるわ!」
「本当ですか?」
「えぇ、本当。今、エマが廊下に出て、こちらに向かっていると思うんだけど、どうかしら?」
ビルが扉を開けて廊下を確認する。扉の向こうでどうかしましたか?とエマの可愛らしい声が聞こえてきて、アデルが盛大なため息をついた。
「どうして、わかったのです?」
「エマは、足音がしないのよ。そういう訓練を受けているから、極力ね。ここに勤めている侍従、特に侍女や執事はそうね。ディルなんて、気配すらさせないこともあるくらい」
「……どうやって、わかるのですか?」
「なんていうか、あぁ、いるなって感覚かな?」
「……それって、暗殺者とかに備わっている技術じゃないんですか?」
「そうかも。ヒーナもとっても上手だしね!エリックは、逆に注目を集めるよう気を使っているけど。目立つようにって」
「公の近衛なのに、目立っちゃダメではないのですか?」
「公の近衛だから、存在感が必要なの。いつでもかかってこい、ひねりつぶしてやる!みたいな。公とは違う気の使い方ね。今度、エリック会ったときに、少し公に殺気を向けてみるといいよ!公は気付かないから大丈夫だし」
「……さすがに、危ない橋は渡りたくないので……」
「じゃあ、私がするから、見ていて!終わりの夜会はアデルも参加して!」
はい……と気乗りしないような返事をして、ビルにかけるように勧めていた。そこに侍従がお茶を持ってきてくれたようだ。
「アデル、ココナが来たから、開けてあげて」
「……ココナさん?全然気が付きませんでした」
扉をあけに向かい、廊下でノックをしようとしていたココナと目があったのだろう。ココナに向け、アデルが盛大にため息をついているのが聞こえてくる。
「アデル?」
「すみません、ココナさん。気を悪くしないで。今、訓練中で」
「いえ、大丈夫です。訓練とは、何をされて?」
「人物当てです」
「……それなら、コツがありますから、あとで教えますか?」
「いいんですか!そんな、嬉しすぎます!」
「ココナ、あんまりアデルを甘やかさないで?自身で習得してこそよ!」
私の呼びかけに頷くココナにアデルはがっくり肩を落としてしまった。自身で気が付いたことなら、忘れない。だからこそ、見つけてほしいのだ。時間がかかったとしても。ビルは当てられたので、すぐにできるようになるだろう。
ココナがお茶の用意をしてくれているあいだに、私たちは本題に入ることにした。
「この前、話したことって、どこまで調べはついている?」
「はい、今聞いているところですけど、貧民街と言うほどではないのですが、コーコナにはそういう場所があるらしいです。少々治安が悪く、粗くれものや社会に適応出来なかったもの、犯罪者やその末裔などが暮らしている場所があるそうです。一度、足を運んでみたのですが、昔のアンバーとは少し違う荒み方をしておりました」
「アンバーはただただ貧困だったからね。犯罪が出来るほどの、気力も残っていない人が多かったし、みながそうなのだからと、ただただ俯く人ばかりだったっていう印象ね」
「えぇ、まさにそうでした。コーコナの方は、暴力がまかり通っているような場所でした。私は、そんな場所があることを話には聞いたことがあっても、実際目にしたのは初めてで……とても、怖く感じました」
「その場所で、起こっているの?」
「そのようです。あとは、近隣の村とかわかりにくいように巧妙に」
「何があるのですか?」
「ココナは、この領地の出身よね?」
「えぇ、そうです。貧民街は、昔からありました。私もそこの出ではあるので……」
「そうだったの?」
「ディル様に拾ってもらったのです。両親が死んでしまったあと、身寄りがない私を」
「確かにディルの子猫たちは、そういう人物たちが多いって聞いているけど」
「救ってもらったのです。恩返しのつもりで、公爵家に仕えていますので、気に病まれることはありませんよ!」
アデルやビルが難しい顔をしているので、安心させるようにとココナがニコリと笑ったようだった。ココナにも話を聞いた方がよさそうだとなり、席に座るよう指示をした。
私も居住まいを整え、ビルを迎え入れた。ただ一人、耳を澄ましていたアデルは、ビルですかねぇ?と呟いている。
「アデル」
「何でしょうか?」
「正解よ!ビルが来てくれたわ!」
声をかけられ驚いていたアデルが目隠しを取る。ビルは、よくわからない私たちのことをなんとも言えない目で見ていた。
「これは、一体何をしているのですか?」
「ちょっとしたゲームよ?目で見ないで、誰がこの部屋に入ってくるか、当てるの」
「……それは、何かの役に?」
「そうね、アデルって目に頼りきってるところがあるから、少し感覚的なものを鍛えようかと思って。レオもたまにやっているものだから、遊び感覚で出来るし、目が見えない不安もあるから、聴力、嗅覚、感覚が研ぎ澄まされてくると思うのよ。廊下を歩くだけで、誰が近づいて来ているか、わかるわ!」
「本当ですか?」
「えぇ、本当。今、エマが廊下に出て、こちらに向かっていると思うんだけど、どうかしら?」
ビルが扉を開けて廊下を確認する。扉の向こうでどうかしましたか?とエマの可愛らしい声が聞こえてきて、アデルが盛大なため息をついた。
「どうして、わかったのです?」
「エマは、足音がしないのよ。そういう訓練を受けているから、極力ね。ここに勤めている侍従、特に侍女や執事はそうね。ディルなんて、気配すらさせないこともあるくらい」
「……どうやって、わかるのですか?」
「なんていうか、あぁ、いるなって感覚かな?」
「……それって、暗殺者とかに備わっている技術じゃないんですか?」
「そうかも。ヒーナもとっても上手だしね!エリックは、逆に注目を集めるよう気を使っているけど。目立つようにって」
「公の近衛なのに、目立っちゃダメではないのですか?」
「公の近衛だから、存在感が必要なの。いつでもかかってこい、ひねりつぶしてやる!みたいな。公とは違う気の使い方ね。今度、エリック会ったときに、少し公に殺気を向けてみるといいよ!公は気付かないから大丈夫だし」
「……さすがに、危ない橋は渡りたくないので……」
「じゃあ、私がするから、見ていて!終わりの夜会はアデルも参加して!」
はい……と気乗りしないような返事をして、ビルにかけるように勧めていた。そこに侍従がお茶を持ってきてくれたようだ。
「アデル、ココナが来たから、開けてあげて」
「……ココナさん?全然気が付きませんでした」
扉をあけに向かい、廊下でノックをしようとしていたココナと目があったのだろう。ココナに向け、アデルが盛大にため息をついているのが聞こえてくる。
「アデル?」
「すみません、ココナさん。気を悪くしないで。今、訓練中で」
「いえ、大丈夫です。訓練とは、何をされて?」
「人物当てです」
「……それなら、コツがありますから、あとで教えますか?」
「いいんですか!そんな、嬉しすぎます!」
「ココナ、あんまりアデルを甘やかさないで?自身で習得してこそよ!」
私の呼びかけに頷くココナにアデルはがっくり肩を落としてしまった。自身で気が付いたことなら、忘れない。だからこそ、見つけてほしいのだ。時間がかかったとしても。ビルは当てられたので、すぐにできるようになるだろう。
ココナがお茶の用意をしてくれているあいだに、私たちは本題に入ることにした。
「この前、話したことって、どこまで調べはついている?」
「はい、今聞いているところですけど、貧民街と言うほどではないのですが、コーコナにはそういう場所があるらしいです。少々治安が悪く、粗くれものや社会に適応出来なかったもの、犯罪者やその末裔などが暮らしている場所があるそうです。一度、足を運んでみたのですが、昔のアンバーとは少し違う荒み方をしておりました」
「アンバーはただただ貧困だったからね。犯罪が出来るほどの、気力も残っていない人が多かったし、みながそうなのだからと、ただただ俯く人ばかりだったっていう印象ね」
「えぇ、まさにそうでした。コーコナの方は、暴力がまかり通っているような場所でした。私は、そんな場所があることを話には聞いたことがあっても、実際目にしたのは初めてで……とても、怖く感じました」
「その場所で、起こっているの?」
「そのようです。あとは、近隣の村とかわかりにくいように巧妙に」
「何があるのですか?」
「ココナは、この領地の出身よね?」
「えぇ、そうです。貧民街は、昔からありました。私もそこの出ではあるので……」
「そうだったの?」
「ディル様に拾ってもらったのです。両親が死んでしまったあと、身寄りがない私を」
「確かにディルの子猫たちは、そういう人物たちが多いって聞いているけど」
「救ってもらったのです。恩返しのつもりで、公爵家に仕えていますので、気に病まれることはありませんよ!」
アデルやビルが難しい顔をしているので、安心させるようにとココナがニコリと笑ったようだった。ココナにも話を聞いた方がよさそうだとなり、席に座るよう指示をした。
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