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お迎え

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 エマに言われて、迎えに来てくれたのは、アデルだった。少し怒ったような顔をしている。これは、小言を言われるなと、覚悟を決めた。


「アンナ、どうして出かけることを言ってくれなかったんです?」
「ごめんなさい。手紙には書いたわよ?」
「じゃなくて、護衛なのですから、直接言ってくれないと。アンナが強いことは承知してますが……それじゃあ、私の役目が果たせない」
「確かにそうね。でも、出歩くのに、男性が側にいると、難しいこともあるのよね……」
「……それは、どういう?」
「ん……声、かけにくいでしょ?」
「何か、狙いがあるのですか?」
「……ある。まずは、ジョーの……」
「ジョーの?」


 そういって、アンジェラを見るアデルに苦笑いで濁しておく。不思議そうにこちらを見上げたが、そこは……言えない。


「そういえば、大きな屋敷を探しているのですね?」
「そう。今、ジョーを連れて見に行こうかと思って。この領地で行っていないところから。ビルが先行して情報を集めてくれているから、コーコナにあるハニーアンバー店に行こうかと」
「それにしたって……ジョーの足では、遠くないですか?」
「もうすぐだけど、やっぱり、そうかしら?」
「……元気いっぱいに見えるのは、私だけですかね?」
「体力は普通の子よりあると思うわ。体を動かしている時間の方が多いし……体より大きな剣を振り回したりしているし……」
「レオについて回っていますものね。よく見かけます」


 遠い目をしながら、アデルはふぅっとため息をついた。


「とりあえず、荷馬車ですけど……町までは、これで」


 御者台に座るのかと少し避けてくれたが、私は荷台にアンジェラを乗せ、私も隣に乗り込む。


「……アンナ?」
「どうかして?町まで連れて行ってくれるのでしょ?」
「そうですけど、こちらに座ればいいのでは?」
「ここがいいの。荷馬車の後ろって乗ってみたかったのよね。ジョーにもいい経験になるでしょ?」
「……仮にも公爵と侯爵令嬢が、荷馬車に後ろって……他の貴族が聞いたら寝込みますよ?」
「言わないからいいし、ウィルとかナタリーとかセバスなら、何も言わないわよ?あぁ、アンナリーゼ様らしいですね!って感じで」
「……想像出来てしまうことが、なんとも。ジョーは疲れてないかな?」
「うん、疲れてない」
「……見たとおりだったということですね。なんだか、子どもへの理解度が少々変わりそうです」
「昼間は無限に元気だからね。夜はぐっすりでしょうし」


 頭を撫でると、気持ちよさそうにするアンジェラ。それを見ながら、アデルは微笑んだ。


「なんだか、親子っぽいよ?」
「……一応、そういう役なんじゃ?」
「まぁ、そうなんだけど……、アデルは、いい父親になれるかもしれないね?」
「それは、また、別なお話ですけどね。子どももいませんし……まずは、相手もいませんし、リアンさんも……」
「まぁ、リアンはね。頑張れとしか言えないわ。うん、頑張れっ!」
「がんばれっ!」


 あははは……と母娘に応援されたことで、空笑いをする。からかいすぎたようで、背中が寂しい。
 背中にもたれるように頭をつける。


「どうかされましたか?」
「疑似恋愛的な?」
「……なるほど。でも、親子のほうが、なんだか、今は嬉しいです」
「ふふっ、どうして?」
「元々、ジョーのことは可愛いなと思っていたんですけどね……ジョージア様の手前、なかなか、そういうのって言えないじゃないですか?ある人以外は」
「あぁ、ウィルね」
「一時期、ウィル様が父親じゃないのか?って噂がありましたけど……近衛の中で。容姿を見れば、違うのは一目瞭然ですよね」
「そうね……アンバー公爵の血筋であることは、何より瞳が物語っているし、ジョージア様そっくりな容姿ですからね」
「美人すぎて、近づきがたくなりそうですね……」
「今のうちから慣れておけばいいんじゃない?そのうち、ジョーにあれしてこれしてって言われるようになるかもしれないわよ?」
「……ありえない話ではないので、なんとも」


 夏の始まりの空には入道雲になりかけのもくもくとした雲があった。綿菓子みたいだなと見ていると、ポツリとアデルが呟く。


「ジョーが大きくなるのは、本当に楽しみです。夜会の護衛として、侍ることになったら、アンナとジョーが並ぶのも見れるかもしれないのですよね!熟した赤薔薇と瑞々しい青薔薇……まさにそんな感じですかね?」
「私を赤薔薇に例えるの?」
「えぇ、似合うと思いますよ。どんな方より、赤薔薇が。二つ名が青紫薔薇ですけど、私は、赤薔薇が1番お似合いだと思います。この国で赤薔薇の大輪を咲かせられる人は、限られていますけど、今のどの妃よりも、どの公爵夫人よりも、アンナが1番似合います。ここだけの話にしておいてくださいね!」
「赤薔薇は、この国の国花ですものね。本来なら、公妃が1番似合うべきものでなくてはならない」
「……公妃様は、黒薔薇がお似合いです」
「その心は?
「……聞かないでください。私だって、命は大事ですし……まぁ、赤の話をしている時点で、不敬と言われれば、そうなんですけど」


 申し訳なさそうに笑いながら、店に着きましたよと馬車を停めてくれる。少し先に店の商品搬入口があるので、そちらに馬車を置いてくるとアデルは向かう。
 私とアンジェラは、お見せの中へ入っていった。
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