上 下
892 / 1,480

コーコナ領のお出かけ

しおりを挟む
 動きやすいドレスに着替える。

 コーコナへ着いた日に、ビルにコーコナ領にある大きな屋敷について、いろいろと聞いてみたが、どうも合うような話がなく、調べてもらうことになった。
 私は私で、お散歩という名目で出かけることにする。

 飾り気の一切ない領民たちがきているようなドレスに身を包んだ私は、大きめの麦わら帽子を被って長くふわふわしたストロベリーピンクの髪をゆるくみつあみにし、後ろに垂らす。そこに薔薇のピアスが揺れているのを鏡で確認して、よしっと立ちあがった。
 手には、男の子の服と子供用の帽子も忘れずにもって部屋を出る。

 一応ドアを開けたとき、誰もいないこと確認し、こっそり子ども部屋へと忍び込んだ。
 アンジェラは、窓際で一人、本を読んでいた。侍女見習いのエマは、部屋にはいないようだ。


「ジョー、何を読んでいるの?」
「ママ!」


 いきなり現れた私を見て、アンジェラは目を瞬かせる。こちらに来たときの約束に名を呼ばないと言っていた。3歳には難しかったかなぁ?と考えていたが、そうでもなく、すんなり受入れている。
 ふふふと笑ってアンジェラの頭を優しくなでながら、同じ質問をする。


「よくわからない!」
「これは、絵本ね。字はまだ、覚えきれていないものね。また、帰ってきてから読みましょう。それより……お出かけしましょう」
「お出かけ?」


 目を輝かせて私に笑いかける。余程、退屈をしていたのだろう。アンジェラは、どう考えても、残念なことに私に似たようだ。


「じゃあ、お外にいくから、これに着替えて!」


 持ってきた男の子の服に手早く着替えさせると、手伝わなくてもきちんと着替えていく。最後に子供用の麦わら帽子渡すと、かぶってにっこり笑っている。本当に可愛らしい。


「さあ、でかけましょうか。みんなにはお手紙を書いておいたから、こっそりね」


 ふふっと笑って、しーっと人差し指を口の前にもってくると、アンジェラも真似をした。手をつないで子ども部屋からこっそりでて、屋敷を抜け出す。
 一人で抜け出すことはあっても、アンジェラとこうして抜け出したのは初めてだ。二人とも足取りは軽く、アンジェラも外へ行くことにウキウキとしていることがわかる。


「今日は、どっちにいこうかしら? 畑? 山? 街?」
「山っ!」

 アンジェラに尋ねると、山の方に行きたいという。そうねぇ……と考えて、アンジェラの言うように山の方へ向かうことにする。
 夏にかかろうとしている今、薬草などたくさん採れる時期であり、ヨハンの助手たちが上質な薬草を求めて山を駆け回っている時期でもあった。
 あまり多くを採らないよう注意はしているので、程よく来年も収穫できるように考えられていた。


「ジョー、楽しみね。しっかりついてきてね!」


 貴族であれば馬車で移動するのが当たり前であるが、屋敷をこっそり出てきた手前、どこに行くのも徒歩である。子どもが歩くには、少々遠いが、時間をかけてゆっくり歩く。歌を歌ったり、おしゃべりしたり……私たちに足りなかった時間を埋めていく。
 途中、道端に大きな木があり、木陰になっているところがあったため休憩をはさむ。


「あの木の下で休憩しましょうか?クッキーを持ってきたのよ」


 大きな木の下で、二人並んで休憩することにした。すると、女の子が走って追いかけてくる。アンジェラの侍女見習いであるエマだった。


「エマ!」


 駆けよっていくアンジェラの背を見送っていたが、抜け出したのがだいぶ早くばれたらしく、アンジェラと母娘の時間が終わり、少し寂しくなった。


「アンナ様、お屋敷を抜け出されては困ります。総出で今、お二人を探しています!」


 アンジェラの手を引き近くまで来た幼いエマに注意されるが、私はどこ吹く風。いつものことすぎるので、微笑んでおいた。


「そう。探してくれているのね。では、エマは私たちが無事であることをモレンに報告して、帰りの馬車の用意をしてくれるかしら。今からまだ、山辺のほうへ出かけますから」


 それだけ言って、用意していたお茶を飲む。一時間程歩いてきたため、のどが潤った。キッとエマに睨まれたが、主人の言うことは絶対だ。渋々というふうではあったが、きいてくれうようだ。


「かしこまりました。すぐに戻りますので、ここを動かないでください!無駄だと思いますが……」


 その言葉とため息を残し、エマは屋敷へ駆けて戻っていく。


「エマ、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫よ。さぁ、ジョー先に進みますよ。エマに馬車の手配は頼みましたから、帰りは任せましょう」


 気の向くまま、アンジェラの手を引き、山辺の農村部まで歩いていく。
 母娘でこんな風に出かけるのは、本当に久しぶりで楽しい。アンジェラも、見たこともない土地にはしゃいでいる。
 公都でもアンバー領でも、なかなかこういう時間を取ることが難しかったので、こんな穏やかな日々が続いてくれればいいのにと願ってしまう。


「ママ、天気もよくて気持ちいいね。こんな日のお散歩は、楽しみ!」


 にこにこと笑い、アンジェラは手を握り返してくる。
 穏やかな時間をすごしているせいか、アンジェラの言葉や仕草に嬉しさと愛しさがぐっとこみあげてくる。手を握り返して、また色々な話を始めて二人は歩き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...