ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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それでは、私は

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「逐一情報はセバスやパルマ、エレーナから入ってきますので、何かあれば、お知らせいたします。国家機密をそうそうと垂れ流されては困るでしょうから、私が知りえることだけをセバスやパルマは連絡してくれると思いますが……」
「そうすると、こちらの報告書の方が、きちんとしたものになるのか」
「そうですね。公が掴む情報以上のものは、二人からは期待していません。むしろ、エルドア側にいるエレーナからの情報が、私にとって、大きな意味を持つのだと考えています。他にもニコライが動き回っていますしね!」
「……どれほどの布石を置いたのだ?」
「今回は、何も置いていませんよ。普通です」
「……アンナリーゼ様の普通は、私たちの想像を軽く越えていかれるので……」
「越えられないように、なんとか手をうった方がいいんじゃなくて?宰相」
「……そう、ですね。情報が大切なのは知っていましたが、ここまでとはと正直アンナリーゼ様に出会うまでは、思っていましたから。アンナリーゼ様を出し抜けるほどの人材を育てることが、以前よりの課題でしたから……」
「そんな低い課題は、普通、出さないと思うけど……まぁ、いいわ!私は、これにて失礼します。他にも顔を出さないといけないところがありますし、セバスとパルマ、ニコライが抜けた穴は補填しないといけませんから!」


 失礼しますと立ち上がり、執務室を出ようとしたとき、公に呼びかけられ、振り向いた。


「コーコナへ向かう前に1度、公宮へ足を運んでくれ。聞きたいことがある」
「わかりましたわ!そのときは、寄らせていただきます」


 では……と、今度こそ執務室を出た。ここからは、一人歩いて行くしかない。馬車まで歩きながら、公宮を見て回る。

 ……とても静かね。これから、戦争をするかもしれないと話し合いを他国とするような状況を知らないのだろうか。

 あまりにも静かな王宮に危機感がないのだなと、別の意味で感心してしまう。


「王宮にも私に情報をくれる人が欲しいのよね……セシリアあたりに頼もうかしら?」


 豪奢なドレスのまま、馬車に乗り込み行先を屋敷ではなく、訓練場と伝えると、すぐについた。


「少し待っていて。それほど、時間はかからないと思うから」


 御者に待っているよう伝えれば、少しだけ道の端に馬車を寄せた。私は、馬車から降り、訓練場の中へと向かう。
 派手な色のドレスは、訓練場には似つかわしくないので、注目を浴びる。その中、私に駆け寄ってくるものたちがいた。ウィルの大隊に所属する中で、最も古参の近衛たちだ。


「アンナリーゼ様、今日はドレスで、何か御用ですか?」
「土埃で、お召し物が汚れてしまいます」


 近衛を割って、私の前へ躍り出た人物こそが、ここへ来た理由である。


「セシリア、久しぶりね!」
「はい、アンナリーゼ様、お久しぶりです。今日は何用でしょうか?」
「公都に久しぶりに来たから、見学よ!」
「そのドレスでですか?」
「えぇ、見学だけですもの。動かなければ、どんなものでもいいかと思って」
「それは、そうなのですけど……」


 セシリアの後ろを見れば、私と遊びたい近衛たちが噂を聞きつけ、飛んできたようだった。


「アンナリーゼ様が来られているらしい……って、ドレス?」
「いつもドレスで……って、あれは、いつもとは違うなぁ……」
「遊びに来てくれたわけではなかったんですね……」


 口々に近衛が漏らす声に苦笑いをすると、すみませんとセシリアが申し訳なさそうに謝ってくる。


「気にしないで。私が、ここへ来るときは、体を動かしたいときだってみんな知っているから。今日は、ごめんなさいね!また、遊びに来るから!」
「「「お待ちしています!」」」
「えぇ、必ず!」
「……アンナリーゼ様」
「そんな顔をしないで?私、セシリアにお願いがあって、来たのだから」


 私からのお願いが以外だったのか、きょとんとした顔をしている。すぐに我を取り戻し、お部屋に案内しますと、ウィルの執務室へと案内される。


「この部屋に入るのは、久しぶりね……あちこち飛び回っているから、遊びにくる余裕もなくて……」
「筆頭公爵ともなると、お忙しいでしょうに……」
「公のおつかいで、あちこち飛び回っていただけよ!ウィルも付き合わせてしまったのよね……今回」
「その話、キースという隊員から聞いています」
「そうなの、一緒に旅をしていたから……」
「なんて、羨ましいのだろうと、みなで話していたのですよ!私たちはみな、アンナリーゼ様と隊長と一緒に出られることを待っているのですから」
「セシリア、私は、みなとは、どこにもいけないわ。一応、私は筆頭公爵。守られる側の人間だもの」
「それでも、南への遠征に向かわれていたのですよね?」


 苦笑いをしておく。病に対して免疫のあるものしか連れていけなかったからこそ選ばれず、私と行動を共に出来なかったことで、余計に羨ましいそうだ。


「それほど、いいものではないわよ?戦争こそ、今回はなかったけど、人はバタバタと倒れているし、すでに亡くなっている方も大勢いたわ。おまけに、領主の館では悲惨な事件があったもの。一緒に行けてよかったのかと言えば、疑問しかないわ」
「国を守るはずに私たちにとっては、寂しい話ではあります。病から国民を守ることは、近衛には難しいですからね」


 罹患したものも死者も多かったと連絡を受けていたらしい。それでも、ウィルの大隊の一部が、志願したようだが、ウィル自身が首を縦には振らず、居残りぐみは、少し、やさぐれているらしかった。
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