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お相手願おう

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「いいじゃないか。次は、俺の相手をしてくれても」
「願い下げですよ!なんで、私が?」
「ヨハン教授が失踪したと連絡が入った。その件で、対策を……」
「……はぁ、これだからヨハンの素人は困ります」
「どういうことだ?詳しくは、部屋に」
「…嫌ですけど」
「残念だ、もう着いた!」
「何故こんな場所で?」
「執務室まで行こうとすると、アンナリーゼは、絶対、ついてこないだろ?」
「だからって、ここ、ダメでしょ?普通の応接室じゃないですか?」
「ずっと、聞こうと思っていたんだが、応接室では何故ダメなのだ?」


 盛大にため息をついてみた。


「まず、応接室は、公爵を招き入れる場所としては、いい場所だと思います。ただ、ここは、廊下の人通りも多いし、誰かに聞かれるとまずい話もするでしょ?おまけに、1階ですからね。そんな場所で公が執務をとっているなんてわかったら、狙われ放題じゃないですか?わかります?公なのですよ?それでも、一応」
「……その公に随分な態度を取る公爵だな」
「公に苦言を言ってくれるのは、私以外に誰がいるのですか?ゴールド公爵は、駒にしたいでしょうけど……公を駒にするくらいなら、孫をしますかね?」
「暗殺対象かよ……当たり前です。もう少し自覚も持ってくださいね。今日は、エリックもいないようですけど、大丈夫ですか?」
「エリックがいないのは、まずいのか……?」
「当たり前です!エリックは、かなり優秀な近衛なのですよ。本当に……命があるのは、エリックのおかげだってもっと感謝した方がいいですよ!」
「じゃあ、とりあえず、執務室へ移動するか?」


 仕方ないですね……と言いながらも、エスコートされながら、執務室まで歩く。軽い罰ゲームのような好奇な目で見られるのだが、微笑みで黙らせておく。

 ……ノクトがいれば、出来ないでしょうけど、これくらいは。

 私は、喉元まで刃をあてがうように微笑みと言う名の凶器で黙らせておく。

 ……あぁ、ウィルもいたら、茶化されるから、できないわね。


「今度こそ、本当に、到着だ」


 執務室に入ると、荷物を大量に抱きかかえた宰相が私たちを見て驚いている。


「……今から向かおうと思っていたのですけど」
「アンナリーゼに応接室はダメだと、却下された」
「……却下ですか?」
「えぇ、そうさせてもらったわ。公も宰相ももう少し、自身が命を狙われているっていう自覚を持った方がいいよ?」
「狙われて……」
「当たり前でしょ?虎視眈々と狙っているものはいるわよ。誰とはいわないけど」
「……誰とはで、わかりました。公爵家も大変ですね?」
「公爵家は、別に困ることはなにもないから。お貸ししましょうか?少々値のはる猫など」
「……なるほど、商売上手だ。我が家にも子飼いはいますので、大丈夫です」
「宰相の自宅警備隊より、余程、優秀ですけど……必要になったら、ご連絡ください。とびっきりな猫をお貸しします。代金はしっかりいただきますけど」
「そこは、知り合い割で」
「宰相、そういうのは、やめておいたほうがいい」
「どうしてですか?値切った以上のことをしないといけなくなる」
「……確かに、商魂たくましい領主ですからね」


 お手柔らかにと苦笑いするので、宰相には優しく微笑んでおいた。


「それで、ヨハンのことですか?」
「あぁ、そうだった。今朝、早馬で一方をもらったのだが、心当たりはあるか?」
「……ヨハンなら、失踪ではないですね」
「それじゃあ、やっぱり、連れ去り?」
「ヨハンを連れ去るなんて、どんな破産魔ですか?」
「……破産魔?」
「公なら、意味がわかるんじゃないですか?」


 明後日の方をみながら、問い詰めている宰相の言葉を聞いていた。慌てていたところを見ると、公も焦っていたようだ。


「……確かに、ヨハンを連れ去っても、破産するようなものだな。ただ、連れ去りなら、どこかに金銭的要求が来るんじゃないか?」
「どうでしょうね?ヨハンもなかなか強いですし、なんかあったら、常備している毒でもばらまいて逃げるでしょう」
「じゃあ、なんだ?」
「ウィルから聞いている話は、最近、少し余裕が出来たから、薬草採取に向かったり、勝手に出歩いて、いろいろなところで、病人を治しているらしいですよ?」
「はぁ?治してる?医者としてか?」
「えぇ、そうですよ?何か不都合が?」
「いや、医者が出歩いて、治療をするのか?聞いたことがあるか?」
「私はありませんけど……」


 公と宰相がお互いを見て困った顔をしていた。


「私は、普通だと思っていました。ヨハンはいつもあちこちに出かけて行っては、誰かを治していたので。お金の変わりに、薬草をもらったり、おかしや野菜ものをもらったりしてましたから。
 研究費は十分でも、すぐに食べられる食べ物や薬草をもらえることが、いいらしいですよ?そうやって、ふらついています。
 ちなみに、今も月に1回は、領地の中を回っています。コーコナにいる弟子も同じようにしていますよ。
 本当に、研究費をたくさんあげているのに、物々交換よろしくなんで、困っています!」


 もぅ!っと、怒っていると呆れている。


「とにかく、連れ去りでないのなら、よかった」


 ひとまず安心だと、公は身を深く執務椅子に沈めていくのであった。
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