ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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自由の身になった元公妃様とのお茶会Ⅲ

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「あと、アンナリーゼに言っておくことがあるの」
「何でしょうか?」
「ハンナ様、私のことお姉様って呼ぶから……その、」
「大丈夫です。お義母様の家族ですもの。呼び方は気にいたしません」
「よかったわ。今日はたくさん、お土産も、お土産話も、アンナリーゼの武勇伝も聞かせてもらわないと!」
「ハンナ様は、今、何をされているのですか?」
「日長1日、本を読んだり庭を散歩したり……自堕落な生活をしていると、手紙には書いてあったけど……どうかしら?」


 侍従に案内され、通された部屋で待つ。さらに、そこから奥へ向かうため、ハンナの侍女らしき侍従が迎えに来る。


「こちらになります」
「あら、素敵ね!温室でのお茶会だなんて」
「本当ですね。季節より少し早いお花がたくさん咲いて……」
「気に入ってもらえたかしら?」
「ハンナ様」
「遠いところをよく来てくださいました、お姉様。アンナリーゼも。そちらにどうぞ」


 用意された席の前に進むと侍従が席をひいてくれる。ハンナが座ったのを見て、義母と一緒に座った。


「現公爵とお茶会なんて、私初めてですわ!」
「お招きいただき、ありがとうございます」
「ふふっ、私の娘になったかもしれない子の顔を見たくなって、今日はお姉様にお願いしたのよ」
「ハンナ様、アンナリーゼはジョージアの妻ですから、ハンナ様の娘にはなりませんよ?」
「わかっています。公が何度も振られているのわ。親の私から見ても、節操なしで……困っていたのですよ!」
「ジョージアも公の遊びには相当付き合っていたと思いますけど?」
「んふふ……そうでした。アンナリーゼが公爵家にお嫁に着てから、公もジョージアもそういう遊びは控えるようになりましたわね」
「……畏れながら、公がだと思います。ジョージア様は……」
「そうね、ジョージアは、ただ、うちの子のお守をしてくれていたに過ぎないわね。ごめんなさいね?夜中に家に帰ってきては、知らない女性の香水の香りとかするでしょ?」
「……はい。でも、香水の香りは、だいたい覚えていたので、夜会のときに、あの女性と、あの女性……って言ったら、夜遊びがなくなりましたよ?」
「アンナリーゼって、私が聞いているより、ずっと、ジョージアに思入れがあるのね。あの子が敵わないはずだわ」


 今日は、内々のお茶会に誘われたので、義母もハンナも口調が軽い。かしこまらないでと言われれば、私もなるべく気を使いながら、話をする。


「公でしょうか?」
「えぇ、実は、かなり本気で、アンナリーゼのことを娘ごと迎え入れるつもりだったのよ。私に相談にくるくらいには」
「それは、初めて聞きました。いつのお話ですか?」
「ハニーローズが生まれてからだから、ジョージアと別居しているときかしら。どうすればいいだろう?って言ってきたので、自身の想いを真摯に伝えるしかないと。でも、確か夜会が終わった後でしたか?ジョージアが訪ねて来たって。驚いていたらしいわね」
「ジョージアが、何をしに?」
「聞きたい?お姉様」
「もちろん!帰って、ジョージアをからかいたいもの」
「それは、いくらなんでも、可哀想よ!そんなことするなら、教えないわ!」
「いいじゃない。押してくれても。私とあなたの仲でしょ?」


 クスクス笑いあう二人は、どう見ても公妃でもなく公爵夫人でもなく、秘密の共有を楽しむ姉妹だ。

 ……それ、私が葡萄酒の押し売りに行ったときかな?公が、ジョージアがいきなり来たんだって言っていた気がする。


「仕方ないわね。アンナリーゼが夜会で倒れたあと、急にジョージアが訪ねてきたらしいのよね。そこで、口論になったとか」
「その原因は、もちろん?」
「お姉様の想像通り。公が本気になっていたのを感じたのかしら?」
「あら、ジョージアはずっと、アンナリーゼのことが好きで好きで……懐中時計を見ながら、周りの目も気にしないくらい、大きなため息をついていたくらいよ?」
「でも、別居していたのでしょ?その間に、アンナリーゼがいろいろしていたって話も公から聞いているの!」
「それだったら、私も、ジョージアから聞いて……いないわね。そのあたり、詳しく教えて!」


 なんというか、姉妹揃って、息子から私の話を聞いているようで、自身が起こしていることを片っ端から言われていくと、恥ずかしくて仕方がない。


「ハンナ様、お義母様……」
「どうしたの?」
「あら、顔が少し赤いようだけど?」
「……穴があったら入りたいです……、それ以上は、もう、自身の行動がそこまで大きな事件になっているかのような話になっていて、耐えられません」
「「アンナリーゼでもそんな顔するのね?」」
「お二人とも、息ぴったりです……」


 二人が見合わせたあと、私の方を見てクスクスと笑う。


「私たち、アンナリーゼの話をするのが大好きなものだから、ごめんなさいね。本人には、恥ずかしいわよね?」
「はい、とっても」
「娘自慢のつもりなんだけど……ハンナ様は、アンナリーゼとは関係ないでしょ?」
「あるわ!うちの愚息の初恋の相手よ!こんなに近くにいるのだもの。ふふっ」


 ……ハンナ様、その、ふふっってなんですか?怖いのですけど?

 私の気持ちを察してくれれば、いいのだが、どうも、この姉妹のおしゃべりは、まだまだ続きそうで、どんどん委縮していくしかなかったのである。
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