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自由の身になった元公妃様とのお茶会Ⅱ

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「私とハンナ様は、同い年なの。政略結婚も同時にすることになった。侯爵の娘だった私は公へ。子爵の娘だったハンナ様は旦那様へ。それぞれ嫁ぐことが決まっていたの」
「お義母様が公へ、ハンナ様はお義父様へですか?」
「えぇ、そうなの。本来はそうだったのよ」
「それが、どうして、入れ替わっているのですか?」
「アンナリーゼと同じと言えばいいかしら?社交界に出たときに、旦那様に一目惚れをしてしまったのよ」
「一目惚れ?確かに、お義父様は素敵な方ですけど、決まっていた政略結婚を……」
「珍しいことではないと思うわよ?」


 意外な一面を知って、何とも言えない気持ちになった。


「アンナリーゼも母国の王太子も宰相令息を振った上に、現公の第二妃の座もいらないと直談判しにきたじゃない。あれと一緒よ?旦那様に頼み込んだの。実家は裕福なほうだから旦那様は、私を迎え入れるのは無理だと、最初とても渋ってしまわれたの。公への義理もあったでしょうしね。アンバーがどんな様子なのかも知らずに、私はただ旦那様だけいればいいし、宝飾品も新しいドレスも必要なら今まで溜め込んだお金で払うからいらないとまで言ったのに、受入れてくれなかったのよ」


 私以上の押し掛けに、驚くしかなかった。

 お義母様って、物静かな感じがしていたけど、こんなに情熱的なところがあったのね。ジョージア様がたまに押しの強いのは、お義父様譲りではなく、お義母様なのかもしれないわ。


 私は、ただニッコリ笑うと、話は続く。


「ある日、公と正式なお見合いがあったのよ。行くのが嫌で、実は逃げたのだけど……」
「お義母様が逃げたのですか?」
「えぇ、そうよ!ハンナ様だけ残して。でも、結局、すぐに見つかってしまって、お城につくまでの間に父に相当なお説教をされたのよ。今でも覚えているわ!」
「なかなかのおてんばだったんですね?」
「アンナリーゼほどではないけどね。馬は乗れないし、剣なんて持ったこともない」
「……普通の令嬢ですね?」
「そう、後にも先にも私の反抗期はそれだけよ!誤解しないでおいてね?」
「……はい」


 ……結構な冒険な気がするけど、言わないでおこう。

 心の声は漏らすべきではないと、しまっておく。


「それで、どうされたのですか?」
「私、公と二人になったときに、公とは結婚したくありません!と言ったわよ?きょとんとした顔をして、どうして?なんて聞くから、好きな人がいますと正直に言ったの。でも、私の従姉妹がその人と政略結婚することになっていて、私困っているんです。取り換えできませんか?っていうと、笑うのよ?失礼だと思わない?」
「……えっと、そうですね。……公も、なんて言う……そ、そのあと、どうされたのですか?」
「旦那様と添いたいっていうと、心配してくれたわ。私は侯爵家の娘だから、正直辛い思いをすることになるって。金銭的に」
「……金銭的に」
「そうなの。公に言ってやったわ!私には自分一人なら、アンバー公爵家を頼らなくても生活できますって。そこまでいうなら、政略結婚の相手を取り換えようって話になり、公が動いてくれたの。ハンナを気に入ったから、ぜひ妃に欲しいと父に連絡してくれて。ハンナ様は、公爵家へ嫁ぐためにデビュタントの前には父の養女となっていたから、どちらも侯爵の娘で、公としては、どちらの娘を迎えても世間的にはよかったのよ」


 馬車に揺られて聞く話ではないとぼんやり考えながら、壮大な話をふむふむと聞いておく。元公妃であるハンナには、1度しか会ったことがないので、それほどの印象はなかったが、義母の話を聞いて、少しだけ親近感がわいた。


「ハンナ様があのとき、どう思ったかはわからないけど、私は旦那様と添えて幸せだったし、旦那様も愛情をかけてくださった。あんなにダメだって言ったのに、どうして君は僕と結婚したいなんて、公に言ったんだい?って叱られたけど、最後には選んでくれてありがとうって言ってくれたことが、とても嬉しかったの。持参金を持って、自領から出たときも、侍従たちにも領民たちにも心配されたけど、私はジョージアを生んで、あなたがお嫁に来てくれたこと、そして、アンジェラとネイトと家族になれたことを本当に嬉しく思っているの」
「お義母様」
「……ソフィアの話をしても?」
「えぇ、かまいません」
「私、少しだけあの子の気持ちもわかったのよ。でもね、公爵家というおおきな看板を背負っているからには、首を縦に振ることは出来なかった。婚姻を許したのも、いづれ、公爵夫人として別の女性を迎え入れる約束をしたうえでの、許可だったのよ」
「それは、ソフィアは知っていたのですか?」
「知らなかったでしょうね。誰もあの子には、何も教えなかった。公爵家の何たるかは、公爵夫人となるものしか、受け継がないから。アンナリーゼには、教育をしたけど、ソフィアにはしていないのは、そういう理由。私が、距離をおいていた理由もそこ。でも、基本的に、私とソフィアでは、うまくいかなかったと思っているわ。アンナリーゼだからこそ、良好な関係を結べているのですから」
「……お義母様、私で本当によかったですか?私は……」
「アンナリーゼでよかったのよ。私の娘はあなた以外はいらないわ!ちょっと、旦那様に似て優柔不断なところがあるのだけど、ジョージアをこれからもよろしくお願いね」
「はい、それは、こちらこそお願いしたいくらいです。ジョージア様以外、誰ももらってくれませんから」
「あら?三国一のモテる華が何をおっしゃいますやら。今頃、皇后になっていたかもしれないのでしょ?」
「……よくご存じで」
「そういうことだけは、情報がたくさん入ってきていたのよ。ジョージアの卒業式でアンナリーゼを見てから狙っていたのは、何も他の王族や貴族だけではありませんよ。旦那様と顔をあわせれば、あなたのことばかりを話していたのですから。
 あぁ、着きましたね、行きましょうか」


 馬車が停まり、扉が開く。侍従が待ってくれていたので、義母より先に降りようとしたら、止められた。


「公爵が、元公爵夫人より先に降りるなんて、ダメでしょ?」


 クスっと笑って、降りていく義母の後ろを追うように私も続いた。
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