875 / 1,480
自由の身になった元公妃様とのお茶会
しおりを挟む
「アンナリーゼ、もう、準備はできているかしら?」
執務室へ入ってきたのは、義母である。私は、アンバーからの報告書を読んでいたところだったが、顔をあげ返事をする。
「では、参りましょう。今日のお茶会をハンナ様はとても楽しみにされていたのだから」
「ハンナ様とは……公妃様のお名前ですか?」
「あぁ、そうね、アンナリーゼは知らなくて?」
「いえ、知ってはいましたが、お義母様がお名前で呼ばれることはなかったので、驚いてしまいました」
「ふふっ、そうね。いつもアンナリーゼの前では、公妃様とお呼びしていたから。今は、ハンナ様とお呼びしているわ。私たち、実は従姉妹なのよ」
「そうだったのですか?お義母様と公妃様が?」
「えぇ、あまり似ていないから、言わないとわからないのだけど……さぁ、ハンナ様が待っているから、別邸に向かいましょう」
返事をして立ち上がり、用意されたお土産をもって馬車へと乗り込む。
別邸は城とは別に公都のはずれにある小さなお城。そこに公のご両親と妹の公女が一緒に住んでいるのだ。
「お義母様」
「何かしら?」
「私は、なんとお呼びしたらいいでしょうか?公妃様のことを」
「そうね……向こうに行ってから聞きましょう」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、何でも。アンナリーゼと話をするのは大好きだから、何でも聞いてちょうだい!」
「それでは……失礼な物言いになったら、叱ってください」
「いいのよ。母娘の間ですもの。何でも聞いて」
「はい、では。お義母様はたしか名門と呼ばれる侯爵家の出だと聞いています。あっていますか?」
「えぇ、あっていますよ。アンバーからも離れていますし、公都からも離れていますから、あまり知られていない場所ですけど……フェノール侯爵家が私の実家です」
「フェノール。……今回の病が流行したとき、協力的な領地でした。お義母様のご実家とは知らず、挨拶がまだでした」
「いいのよ、挨拶なんて。何か国内で起こったとき、兄にはアンナリーゼの動向を探って
うまく時を掴む様に伝えてあるわ。それに従ったまででしょう」
「えっ?」
「教えていなかったわね。ジョージアとの結婚が決まったとき、兄に真っ先に連絡をしたの。卒業式でのあなたをとっても気に入っていたから、ずっと、兄にお嫁に来て欲しいと愚痴を言っていたものだから……それが叶ったら、今度は公爵になったり、公に呼び出しされたり……うちの嫁は本当に忙しいこと」
「すみません。公爵家を蔑ろにしているわけではないのですが……」
「いいのよ!公爵家なんて、ジョージアに押し付けて、アンナリーゼは好きなことをすればいい。あなたのおかげで、領地が、領民が明日を生きる希望が持てた。旦那様も大層お喜びになっていたのよ。頭の固いジョージアでは、あそこまで、生活水準をあげることは出来なかったでしょう」
「そんなことはないと思いますが……」
「お世辞はいいわ。ジョージアのことは、私、よくわかっているつもりよ。あのジョージアも随分雰囲気が変わって、アンナリーゼからいい刺激をもらっているようで何よりよ!あとは、カルアの実家を訪問したとき、正直驚いたわ。平民なのにっていうと失礼だけど、カルアの遺骨が置いてあった後ろの壁にレース編みがあった。あれは、カルアの母親が作ったものだってきいたとき、ビックリしてしまったの」
義母はサラおばさんの家に行ったときの話をしてくれた。領地にいるときは、あまり触れなかった話ではあったので、義母の話に頷いた。
「あのレース編み、アンナリーゼのドレスと同じものね」
「えぇ、そうですね。このドレスに使われているのは、サラおばさんが作ってくれたレースを使っているとナタリーが言っていましたから」
「そうよね。同じ柄だもの。とても素晴らしかった。教えたのは、カラマス子爵の妹かしら?」
「ナタリーではありませんが、図案はナタリーが考えたものです。レース網を得意としているものが、アンバー領で冬の間の仕事として教えているのです。今年は毛糸といって、羊の毛から出来る糸を使って何かするという話も出ていましたよ」
「また、新しいものの名前が出てきたわ!アンナリーゼの周りには、私の知らないことばかりで、ワクワクしてしまう。ジョージアや、他の貴族たちが目を離せないのも無理はないわね!」
「そんなこと、ありませんよ!」
「話が、逸れてしまったかもしれないわね?何か、聞きたかったのでしょ?」
「えぇ、もし、お嫌でなければ、教えてください。どうして、お義父様とご結婚を?」
「……アンナリーゼは、ハンナ様のことを従姉妹と言っただけで、どれほど頭が回っているのかしら?」
「……わかりません。単純に疑問を感じただけですから」
「それが、すごいわね。私なら、見逃してしまうわ」
「そんなこと……」
ふふっと笑う義母。その口から出てきた言葉に驚く。
「ジョージアには内緒よ?」
「えぇ、私とお義母様の秘密です」
ニッコリ笑う義母は、少々いたずらっ子のような顔をしていた。
執務室へ入ってきたのは、義母である。私は、アンバーからの報告書を読んでいたところだったが、顔をあげ返事をする。
「では、参りましょう。今日のお茶会をハンナ様はとても楽しみにされていたのだから」
「ハンナ様とは……公妃様のお名前ですか?」
「あぁ、そうね、アンナリーゼは知らなくて?」
「いえ、知ってはいましたが、お義母様がお名前で呼ばれることはなかったので、驚いてしまいました」
「ふふっ、そうね。いつもアンナリーゼの前では、公妃様とお呼びしていたから。今は、ハンナ様とお呼びしているわ。私たち、実は従姉妹なのよ」
「そうだったのですか?お義母様と公妃様が?」
「えぇ、あまり似ていないから、言わないとわからないのだけど……さぁ、ハンナ様が待っているから、別邸に向かいましょう」
返事をして立ち上がり、用意されたお土産をもって馬車へと乗り込む。
別邸は城とは別に公都のはずれにある小さなお城。そこに公のご両親と妹の公女が一緒に住んでいるのだ。
「お義母様」
「何かしら?」
「私は、なんとお呼びしたらいいでしょうか?公妃様のことを」
「そうね……向こうに行ってから聞きましょう」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、何でも。アンナリーゼと話をするのは大好きだから、何でも聞いてちょうだい!」
「それでは……失礼な物言いになったら、叱ってください」
「いいのよ。母娘の間ですもの。何でも聞いて」
「はい、では。お義母様はたしか名門と呼ばれる侯爵家の出だと聞いています。あっていますか?」
「えぇ、あっていますよ。アンバーからも離れていますし、公都からも離れていますから、あまり知られていない場所ですけど……フェノール侯爵家が私の実家です」
「フェノール。……今回の病が流行したとき、協力的な領地でした。お義母様のご実家とは知らず、挨拶がまだでした」
「いいのよ、挨拶なんて。何か国内で起こったとき、兄にはアンナリーゼの動向を探って
うまく時を掴む様に伝えてあるわ。それに従ったまででしょう」
「えっ?」
「教えていなかったわね。ジョージアとの結婚が決まったとき、兄に真っ先に連絡をしたの。卒業式でのあなたをとっても気に入っていたから、ずっと、兄にお嫁に来て欲しいと愚痴を言っていたものだから……それが叶ったら、今度は公爵になったり、公に呼び出しされたり……うちの嫁は本当に忙しいこと」
「すみません。公爵家を蔑ろにしているわけではないのですが……」
「いいのよ!公爵家なんて、ジョージアに押し付けて、アンナリーゼは好きなことをすればいい。あなたのおかげで、領地が、領民が明日を生きる希望が持てた。旦那様も大層お喜びになっていたのよ。頭の固いジョージアでは、あそこまで、生活水準をあげることは出来なかったでしょう」
「そんなことはないと思いますが……」
「お世辞はいいわ。ジョージアのことは、私、よくわかっているつもりよ。あのジョージアも随分雰囲気が変わって、アンナリーゼからいい刺激をもらっているようで何よりよ!あとは、カルアの実家を訪問したとき、正直驚いたわ。平民なのにっていうと失礼だけど、カルアの遺骨が置いてあった後ろの壁にレース編みがあった。あれは、カルアの母親が作ったものだってきいたとき、ビックリしてしまったの」
義母はサラおばさんの家に行ったときの話をしてくれた。領地にいるときは、あまり触れなかった話ではあったので、義母の話に頷いた。
「あのレース編み、アンナリーゼのドレスと同じものね」
「えぇ、そうですね。このドレスに使われているのは、サラおばさんが作ってくれたレースを使っているとナタリーが言っていましたから」
「そうよね。同じ柄だもの。とても素晴らしかった。教えたのは、カラマス子爵の妹かしら?」
「ナタリーではありませんが、図案はナタリーが考えたものです。レース網を得意としているものが、アンバー領で冬の間の仕事として教えているのです。今年は毛糸といって、羊の毛から出来る糸を使って何かするという話も出ていましたよ」
「また、新しいものの名前が出てきたわ!アンナリーゼの周りには、私の知らないことばかりで、ワクワクしてしまう。ジョージアや、他の貴族たちが目を離せないのも無理はないわね!」
「そんなこと、ありませんよ!」
「話が、逸れてしまったかもしれないわね?何か、聞きたかったのでしょ?」
「えぇ、もし、お嫌でなければ、教えてください。どうして、お義父様とご結婚を?」
「……アンナリーゼは、ハンナ様のことを従姉妹と言っただけで、どれほど頭が回っているのかしら?」
「……わかりません。単純に疑問を感じただけですから」
「それが、すごいわね。私なら、見逃してしまうわ」
「そんなこと……」
ふふっと笑う義母。その口から出てきた言葉に驚く。
「ジョージアには内緒よ?」
「えぇ、私とお義母様の秘密です」
ニッコリ笑う義母は、少々いたずらっ子のような顔をしていた。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる