ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
875 / 1,513

自由の身になった元公妃様とのお茶会

しおりを挟む
「アンナリーゼ、もう、準備はできているかしら?」


執務室へ入ってきたのは、義母である。私は、アンバーからの報告書を読んでいたところだったが、顔をあげ返事をする。


「では、参りましょう。今日のお茶会をハンナ様はとても楽しみにされていたのだから」
「ハンナ様とは……公妃様のお名前ですか?」
「あぁ、そうね、アンナリーゼは知らなくて?」
「いえ、知ってはいましたが、お義母様がお名前で呼ばれることはなかったので、驚いてしまいました」
「ふふっ、そうね。いつもアンナリーゼの前では、公妃様とお呼びしていたから。今は、ハンナ様とお呼びしているわ。私たち、実は従姉妹なのよ」
「そうだったのですか?お義母様と公妃様が?」
「えぇ、あまり似ていないから、言わないとわからないのだけど……さぁ、ハンナ様が待っているから、別邸に向かいましょう」


返事をして立ち上がり、用意されたお土産をもって馬車へと乗り込む。
別邸は城とは別に公都のはずれにある小さなお城。そこに公のご両親と妹の公女が一緒に住んでいるのだ。


「お義母様」
「何かしら?」
「私は、なんとお呼びしたらいいでしょうか?公妃様のことを」
「そうね……向こうに行ってから聞きましょう」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、何でも。アンナリーゼと話をするのは大好きだから、何でも聞いてちょうだい!」
「それでは……失礼な物言いになったら、叱ってください」
「いいのよ。母娘の間ですもの。何でも聞いて」
「はい、では。お義母様はたしか名門と呼ばれる侯爵家の出だと聞いています。あっていますか?」
「えぇ、あっていますよ。アンバーからも離れていますし、公都からも離れていますから、あまり知られていない場所ですけど……フェノール侯爵家が私の実家です」
「フェノール。……今回の病が流行したとき、協力的な領地でした。お義母様のご実家とは知らず、挨拶がまだでした」
「いいのよ、挨拶なんて。何か国内で起こったとき、兄にはアンナリーゼの動向を探って
うまく時を掴む様に伝えてあるわ。それに従ったまででしょう」
「えっ?」
「教えていなかったわね。ジョージアとの結婚が決まったとき、兄に真っ先に連絡をしたの。卒業式でのあなたをとっても気に入っていたから、ずっと、兄にお嫁に来て欲しいと愚痴を言っていたものだから……それが叶ったら、今度は公爵になったり、公に呼び出しされたり……うちの嫁は本当に忙しいこと」
「すみません。公爵家を蔑ろにしているわけではないのですが……」
「いいのよ!公爵家なんて、ジョージアに押し付けて、アンナリーゼは好きなことをすればいい。あなたのおかげで、領地が、領民が明日を生きる希望が持てた。旦那様も大層お喜びになっていたのよ。頭の固いジョージアでは、あそこまで、生活水準をあげることは出来なかったでしょう」
「そんなことはないと思いますが……」
「お世辞はいいわ。ジョージアのことは、私、よくわかっているつもりよ。あのジョージアも随分雰囲気が変わって、アンナリーゼからいい刺激をもらっているようで何よりよ!あとは、カルアの実家を訪問したとき、正直驚いたわ。平民なのにっていうと失礼だけど、カルアの遺骨が置いてあった後ろの壁にレース編みがあった。あれは、カルアの母親が作ったものだってきいたとき、ビックリしてしまったの」


義母はサラおばさんの家に行ったときの話をしてくれた。領地にいるときは、あまり触れなかった話ではあったので、義母の話に頷いた。


「あのレース編み、アンナリーゼのドレスと同じものね」
「えぇ、そうですね。このドレスに使われているのは、サラおばさんが作ってくれたレースを使っているとナタリーが言っていましたから」
「そうよね。同じ柄だもの。とても素晴らしかった。教えたのは、カラマス子爵の妹かしら?」
「ナタリーではありませんが、図案はナタリーが考えたものです。レース網を得意としているものが、アンバー領で冬の間の仕事として教えているのです。今年は毛糸といって、羊の毛から出来る糸を使って何かするという話も出ていましたよ」
「また、新しいものの名前が出てきたわ!アンナリーゼの周りには、私の知らないことばかりで、ワクワクしてしまう。ジョージアや、他の貴族たちが目を離せないのも無理はないわね!」
「そんなこと、ありませんよ!」
「話が、逸れてしまったかもしれないわね?何か、聞きたかったのでしょ?」
「えぇ、もし、お嫌でなければ、教えてください。どうして、お義父様とご結婚を?」
「……アンナリーゼは、ハンナ様のことを従姉妹と言っただけで、どれほど頭が回っているのかしら?」
「……わかりません。単純に疑問を感じただけですから」
「それが、すごいわね。私なら、見逃してしまうわ」
「そんなこと……」


ふふっと笑う義母。その口から出てきた言葉に驚く。


「ジョージアには内緒よ?」
「えぇ、私とお義母様の秘密です」


ニッコリ笑う義母は、少々いたずらっ子のような顔をしていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...