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自由の身になった元公妃様とのお茶会

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「アンナリーゼ、もう、準備はできているかしら?」


執務室へ入ってきたのは、義母である。私は、アンバーからの報告書を読んでいたところだったが、顔をあげ返事をする。


「では、参りましょう。今日のお茶会をハンナ様はとても楽しみにされていたのだから」
「ハンナ様とは……公妃様のお名前ですか?」
「あぁ、そうね、アンナリーゼは知らなくて?」
「いえ、知ってはいましたが、お義母様がお名前で呼ばれることはなかったので、驚いてしまいました」
「ふふっ、そうね。いつもアンナリーゼの前では、公妃様とお呼びしていたから。今は、ハンナ様とお呼びしているわ。私たち、実は従姉妹なのよ」
「そうだったのですか?お義母様と公妃様が?」
「えぇ、あまり似ていないから、言わないとわからないのだけど……さぁ、ハンナ様が待っているから、別邸に向かいましょう」


返事をして立ち上がり、用意されたお土産をもって馬車へと乗り込む。
別邸は城とは別に公都のはずれにある小さなお城。そこに公のご両親と妹の公女が一緒に住んでいるのだ。


「お義母様」
「何かしら?」
「私は、なんとお呼びしたらいいでしょうか?公妃様のことを」
「そうね……向こうに行ってから聞きましょう」
「お聞きしてもよろしいですか?」
「えぇ、何でも。アンナリーゼと話をするのは大好きだから、何でも聞いてちょうだい!」
「それでは……失礼な物言いになったら、叱ってください」
「いいのよ。母娘の間ですもの。何でも聞いて」
「はい、では。お義母様はたしか名門と呼ばれる侯爵家の出だと聞いています。あっていますか?」
「えぇ、あっていますよ。アンバーからも離れていますし、公都からも離れていますから、あまり知られていない場所ですけど……フェノール侯爵家が私の実家です」
「フェノール。……今回の病が流行したとき、協力的な領地でした。お義母様のご実家とは知らず、挨拶がまだでした」
「いいのよ、挨拶なんて。何か国内で起こったとき、兄にはアンナリーゼの動向を探って
うまく時を掴む様に伝えてあるわ。それに従ったまででしょう」
「えっ?」
「教えていなかったわね。ジョージアとの結婚が決まったとき、兄に真っ先に連絡をしたの。卒業式でのあなたをとっても気に入っていたから、ずっと、兄にお嫁に来て欲しいと愚痴を言っていたものだから……それが叶ったら、今度は公爵になったり、公に呼び出しされたり……うちの嫁は本当に忙しいこと」
「すみません。公爵家を蔑ろにしているわけではないのですが……」
「いいのよ!公爵家なんて、ジョージアに押し付けて、アンナリーゼは好きなことをすればいい。あなたのおかげで、領地が、領民が明日を生きる希望が持てた。旦那様も大層お喜びになっていたのよ。頭の固いジョージアでは、あそこまで、生活水準をあげることは出来なかったでしょう」
「そんなことはないと思いますが……」
「お世辞はいいわ。ジョージアのことは、私、よくわかっているつもりよ。あのジョージアも随分雰囲気が変わって、アンナリーゼからいい刺激をもらっているようで何よりよ!あとは、カルアの実家を訪問したとき、正直驚いたわ。平民なのにっていうと失礼だけど、カルアの遺骨が置いてあった後ろの壁にレース編みがあった。あれは、カルアの母親が作ったものだってきいたとき、ビックリしてしまったの」


義母はサラおばさんの家に行ったときの話をしてくれた。領地にいるときは、あまり触れなかった話ではあったので、義母の話に頷いた。


「あのレース編み、アンナリーゼのドレスと同じものね」
「えぇ、そうですね。このドレスに使われているのは、サラおばさんが作ってくれたレースを使っているとナタリーが言っていましたから」
「そうよね。同じ柄だもの。とても素晴らしかった。教えたのは、カラマス子爵の妹かしら?」
「ナタリーではありませんが、図案はナタリーが考えたものです。レース網を得意としているものが、アンバー領で冬の間の仕事として教えているのです。今年は毛糸といって、羊の毛から出来る糸を使って何かするという話も出ていましたよ」
「また、新しいものの名前が出てきたわ!アンナリーゼの周りには、私の知らないことばかりで、ワクワクしてしまう。ジョージアや、他の貴族たちが目を離せないのも無理はないわね!」
「そんなこと、ありませんよ!」
「話が、逸れてしまったかもしれないわね?何か、聞きたかったのでしょ?」
「えぇ、もし、お嫌でなければ、教えてください。どうして、お義父様とご結婚を?」
「……アンナリーゼは、ハンナ様のことを従姉妹と言っただけで、どれほど頭が回っているのかしら?」
「……わかりません。単純に疑問を感じただけですから」
「それが、すごいわね。私なら、見逃してしまうわ」
「そんなこと……」


ふふっと笑う義母。その口から出てきた言葉に驚く。


「ジョージアには内緒よ?」
「えぇ、私とお義母様の秘密です」


ニッコリ笑う義母は、少々いたずらっ子のような顔をしていた。
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