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任命

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 みなが集められてから1週間。セバスたちの任命式が行われた。晴れて、「宰相代行」と言う肩書がついたセバスは、重いため息をついていた。


「どうしたの?」
「いえ、なんだかた、学生のころ、思い描いていた文官とは違うので、少しため息が……」
「それって、嫌なこと?」
「そうですね……不思議です」
「どうして?」
「……アンナリーゼ様に出会っていなかったら、やっぱり、思い描いたような将来を細々と歩んでいたのだろうなって思うと、かけ離れすぎた現実に追いついていないような感覚ですかね?」
「そう。でも、それは、セバスが努力して勝ち取ったものだから、胸をはってもいいと思うよ?」


 セバスの手に握られているのは、任命書と今度の協議へ向かうさいの最高責任者であると示す飾りであった。


「こんなに軽いものですけど……」
「とっても重たいものを持っているのよね」


 ふふっと笑うと、苦笑いをするセバス。本当は、もっと年かさの文官が行くべきだと思っていると吐露されたが、私は首を縦には振らなかった。


「アンナリーゼ様は、いつもこんなものを背負っているのですか?」
「私の背負っているのアンバー公爵家と領地のみんな、セバスたち友人ね。みんなを守るために、結果的にそうなることもあるけど、手に負えるものより大きなものは、私には無理だわ」
「……そんなこと言われると、不安になるんですけど?僕なんて、まだまだですから」
「私だってまだまだよ?ウィルやセバス、ナタリーを始め、ノクトやイチア、ヨハンとか、みんなの力を借りて、やっと一人前なんだから!」
「そんなこと……」
「あるの。だから、セバスも自分一人で何でもやろうとせず、信頼できる人に相談するのは絶対ね?決めかねるときは、即断せず、まずは、話合う。それが大事だよ?」
「……はい」
「まだ、不安?」


 覗き込むようにセバスを見ると、はぁと何とも言えない表情をする。
 肩に手を起き、「セバスなら、大丈夫」と呟く。


「どうしてそう思うのですか?根拠とか」
「ないとはいわないわよ!そんな不安そうな顔して……セバスなら、大丈夫だって思えるのは、私が学生のころから、ずっと見守ってきたことと、セバスが元から持っている慎重なところがあるから。独断で何かすることもないし、きちんと考えてくれていることは、私しっているもの。
 ただね?私は、セバスのことをよく知っているけど、今度、一緒に行く方々はあまり、セバスの人となりを知らないと思うの」
「なるほど……ほとんど、城での勤務がありませんからね……」
「そこは、私が謝るところだね?」
「いえ、好きでアンナリーゼ様について行ったのですから、謝ってもらうことはありませんよ!」
「うん、ありがとう。では、セバスに難しいお題を出しましょう」


 首を傾げて何を言い出すのかとこちらを見ている。


「セバス」
「はい」
「パルマを中において、エルドアにつくまでに、今回、一緒に行く方々の人となりを把握してください。あと、できれば、仲良くなってください」
「人となりと仲良く……」
「えぇ、人となりを知れば、会話にどんな内容を言ってくるのか、思想はどうだとか、数日の間だけでも、いろいろと見えてくることもあると思うわ」
「なるほど、それは、思いもよらなかった。だから、ニコライと話す時間はないということですね?」
「それもあるけど、ニコライはニコライで他に仕事があるのよ。セバスにはもうひとつ課題を」
「他とは何でしょうか?」


 にぃっと笑うとよからぬことを考えてませんか?と視線で訴えてくるがお構いなしだ。


「たいしたことではないの。各部に繋がりを持ってもらえたらなって思って」
「何か狙いがあるのですか?」
「1つは、セバスがこちらに帰ってきてから、その繋がりで城の情報を横流ししてほしいこと」
「パルマがいるのではないですか?」
「もう少し、欲しいの。どんな些細なことでもいいから」
「わかりました。2つ目は、何か怖いですね?」
「そうでもないわよ!単純に城におけるセバスの勢力を作って欲しいだけよ。いずれは、代理をとってしまうような人材になるのだから」
「それは、アンバー領ではお役御免ということですか?」
「……そんなことない。いずれはって話よ。アンバー領でおさまっていていい人材ではないもの。ウィルもそうだし、もちろん、ナタリーも。帰る場所は、アンバー領でいい。でも、前に進んで欲しいとも考えているの。領地の改革が落ち着いたとき、私は、あなたたち三人を送り出したいと思っているから。
 セバスには、宰相を。ウィルには、近衛団長を。ナタリーには、世の中の女性たちが欲しがって仕方がない服を作る人になってほしい。私の『予知夢』だけに囚われることなく、それぞれに道を進んで欲しいと思っているの。今は、階段を登るための土台作りだと思ってくれてかまわない。それで、十分アンバー領は、変わっていっているから!」
「……宰相か。夢にも見たことない地位ですね?」
「そう?私は、似合っていると思うわよ!公を怒り飛ばしている姿なんて、とってもいい感じだと思うのだけど?」


 二人で想像して笑う。
 アンバーのために力を貸してほしいとお願いした。快く引き受けてくれたし、側にいたいと言ってくれたことは忘れていない。
 いずれ、先にいなくなってしまう私は、ここまでついてきてくれた人に、どれだけのものを残していけるか、最近考えるようになった。私にできること……それほど多くはない。思いもよらない未来へ導くことはできると、セバスに笑いかけた。
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