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865. 推薦

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 休憩も入れ、少しだけ落ち着いた雰囲気になった。セバスの元にパルマが近づき、三人で話をする。


「アンナリーゼ様、先程はありがとうございました」
「パルマのこと?」
「そうです。パルマには、雑用を押し付けることになるから、申し訳ないけど、いてくれると、とても助かるんです」
「……本当ですよ。セバス様は、僕をなんだと思っているのでしょう……でも、今回のお話、聞いたときからずっと興味を持っていたので、アンナリーゼ様に推薦してもらえて、とても嬉しいです!」

 ニコリと笑いかけてくるパルマは嬉しそうである。相談もなしに推薦した手前、どう思われているのか考えてはいたが、この様子だとパルマの方も楽しみにしてくれているようだ。


「アンナリーゼ様、昨日の時点では、そんな話をしていなかったですよね?急にどうかされたのですか?」
「特に考えていたわけではないんだけど、パルマにもお城以外も見せてあげたいなっていうのが本音かな?ディルの話を聞いていると、まだまだパルマには伸びしろがあるようだから、それならって思って。他にも何人か行くことになったけど、いい経験になると思うわ。パルマだけでなく、セバスもね。大きな交渉ごとってなかなかないし、結構ギリギリの線を話合わないといけないはずだから、難しいと思うわ。セバスなら必ず公国が有利に話を持っていけると思うし、その実力は私だけじゃない。イチアもお墨付きよ!」
「イチアさんですか。それなら、できそうな気がしてきました。イチアさんって、目の前のことに一生懸命に見えますけど、本当に、周りのこと、見えていますよね?」


 そうねと呟く。公もそろそろ話し合いの再開をしたそうにしていたので、頷いた。


「それで、他に意見のあるものはあるか?」
「じゃあ、遠慮なく」
「なんだ?何かあるのか?」
「今回の協議について、他にも推薦したいものがいるのだが……」


 元近衛団長が目を光らせる。何も文官だけが、将来のために経験を積ませたいわけではない。近衛の方からも推薦があるなら、ぜひお願いしたいところだ。


「それで、誰を推薦するんだ?」
「……後ろにいるじゃないですか?優秀なのが。作戦立案なんて、まだまだですが、今回の協議には参加させたい人物の筆頭ですね。これからの近衛を担うんですから」


 後ろと言われ、公は振り向いた。そこに立っていたのは、公の護衛をするためにいるエリックだ。


「エリックを推薦するというのか?」
「えぇ、そうです。今後は大規模な指揮の練習もしないといけません。今は、まだ、誰かの力を借りれたとしても、作戦、立案も含め、今後必要になるものでしょう。違うか?エリック」
「……違いませんが、公のお側を離れるわけにはいきません」
「案外離れているほうがいいこともある。外で経験を積むことは、必要だぞ?特に昇進が以上に早かったのだから」
「ウィル様も同じではありませんか?本来なら、ここは、ウィル様がいるべきところなのですから……」
「サーラーはなぁ……」


 私の方をチラリとみて、仕方がないと呟く。


「どうして、そこまでサーラーにこだわる?」
「今の私を拾い上げてくださった方だからです。平民である私をたくさんの者たちの中から見つけ、育ててくださいました。ウィル様が、向かわれるべきではありませんか?」
「サーラーなら、独自に成長できる機会を沢山与えてもらえている。ここにいる、公爵がその舞台を提供しているんだから」
「……ウィル様は、アンナリーゼ様の元で……」
「買い被りすぎだと思うけど……ウィルには、アンバー領の警備隊と預かっている近衛の指揮をとってもらっているから、かなり勉強していると思うわ。それこそ、常勝将軍と言われたノクトやその軍師であったイチアが手ほどきしているから、作戦・立案はある程度できるわ!」
「……ウィルに一体何をさせているんだ?」
「危機に陥ったときを想定して、机上で戦っていますよ。私とは、なかなか遊んではくれませんけど、なかなか強いのですよ?ねぇ、セバス」
「そうですね。机上なら、まだ、僕にも勝てる要素はあるのですが、実際に隊を動かしたり、演習をしたりしていたウィルの方が勝ってる部分も多いです。生身の人間に対して、指揮をとったことがない僕は、机上の理想を押し付けがちですから」


 苦笑いをするセバスに目を向いたのは公で、宰相も驚いていた。


「トライドはそんなこともしているのか?」
「そんなことって、作戦・立案ですか?」
「あぁ、文官の仕事の範疇ではないだろう?」
「……アンナリーゼ様の側にいるには、ありとあらゆる知識が必要になってきます。学園での勉学を含め、今回のような戦場における作戦行動をとる場合の立案であったり、商学や法学……本当に、僕が勉強しているだけでは、とても足りないほど、たくさんです」
「……それほどなのか?」
「はい。アンナリーゼ様は飄々としてらっしゃいますけど、僕なんかより、ずっと多くの知識を持っていらっしゃいますよ。それだけでもすごいと思うのに、公は知っていますか?」
「何をだ?……怖いんだが」
「アンナリーゼ様の知識って、勉強で取り入れたものがないって、ご存じですか?」
「はぁ?普通、本を読んだり、誰かに師事をしたりするものだろう?」
「ある意味、師事なのですけど……アンナリーゼ様はお勉強がとても苦手なのです」
「そんな顔してか?」
「そんな顔とは、どういう顔ですか?」
「ふてぶてしい顔だ!」


 そうかしら?と頬を両手でムニムニと触っていると、大きなため息が出てきた。セバスの言い方もあれだが、みなも興味があるようである。
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