上 下
863 / 1,480

エルドアへの返答

しおりを挟む
 パルマが呼ばれたことで、エルドアへの返事に関しては、パルマが書くことになった。お役御免になった私は、席を立つ。


「アンナリーゼ」
「どうかされましたか?」
「エルドアへの返事についてだが、少し考える。各方面への打診もしないといけないから、また、しばらくしたら呼び出すから」
「……私も暇ではないのですけど?」
「ハニーアンバー店、在庫一掃を手伝うと言ってもか?」
「そうですね。店のもの全て売りたいわけではないので、こちらもリストを作ってどのくらいのものなら売れるかと検討してきます。次回呼ばれるのであれば、そのときにでも」
「あぁ、わかった。それでいいだろう。主に何を売ろうとしている?」
「そうですね……どれもこれもいいんですけど、少し前から塩にも手を出してみたんですよね?」
「塩?」
「そうです。塩」
「アンバー領は、海はなかったはずだが?」
「あるんですよ!アンバー領にも海が。誰も知らなかったんですけどね……セバスにどこの領地のものか、きちんと公都にある地図で確認してもらっているので、確かです」
「……アンナリーゼは、本当に何から何まで手を出すな?」
「……公の女癖みたいなふうに言わないでもらえます?お金になることなら、何でもしますよ。人が働くための働き口の確保も必要ですから、新しい事業は少しずつ取り入れています。今は、とにもかくにも農家の支援が1番です。食べられないと、仕事どころではありませんからね」
「そういえば、識字率の話もあったな。その話は、また後程。今日は、疲れました」
「あぁ、すまなかったな。昨日、ジョージアが襲われたばかりなのに」
「いえ、どこにいるより、公都の屋敷にいるのが1番安全ですから」


 それではと部屋を出ると、小さく息を吐いた。

 ……私の『予知夢』にこの話はない。未来が少し変わっているのか、私の興味がないからしらないだけなのか……どっちかしら?公世子となる第一公子。この公子の後ろ盾は、言わずもがなゴールド公爵。その後ろに、エルドアがつくということかしら?


「わからないわ!」


 城の廊下で思わず声に出してしまったせいで、周りを歩いている文官や警護の近衛たちがこちらを向く。おほほほと苦笑いをして誤魔化しておくと、興味を失せたのか、それぞれの業務へ戻って行った。


「エルドア国の内情は、どうなっているのかしら?探りを入れてみた方がいいのかもしれないわ。ちゅんちゅんに頼むより、ここはエレーナの出番ね。深く探ってくれるよう連絡しましょう」


 馬車に乗り込み、屋敷へとついた。さっそく、執務室へと向かおうとして、玄関先でディルに捕まる。


「おかえりなさいませ、アンナリーゼ様」
「ただいまもどりました。どうかしましたか?」
「セバスチャン様がお待ちですので、執務室へ向かっていただけると」
「わかったわ!あとで、ニコライを呼んでほしいの。お願いできるかしら?」
「お安い御用です。公都にいると連絡をいただいているので、すぐに連絡を入れましょう」「ありがとう!」


 そういって執務室へと急ぐ。
 扉を開けると、セバスが応接用の椅子に座り、難しい顔をしていた。何かあったのだかろうか?と、声をかける。


「どうかしたの?」
「アンナリーゼ様、お早いお帰りで」
「私ももう少し拘束されるものだと思っていたけど、わりと早く抜け出せたわ!パルマのおかげで」
「それは、よかった。パルマが役に立てたならよかったです」
「優秀よね。今はゆっくり休めているようでよかった」
「こちらにも、そのように連絡はきていましたけど、安心しました」
「明日、会うのでしょ?」
「えぇ、一応、国の文官ですからね……報告も兼ねて城へ」
「そう。それで、どうかしたの?」
「いえ、城に呼ばれたという情報が入ってきたので、伺ったまでです。アンバー領の事業は、やはり、アンナリーゼ様の主導のものが多いですから、また拘束されると困るなと思いまして」


 なるほどねと頷くと、セバスは苦笑いをしている。


「それで、お城に呼ばれるほどの話とは、昨日のことですか?」
「うぅん、昨日のことで呼び出しをかけられはしたけど、別件だった」
「それは、伺ってもいいものですか?」
「隠しても仕方がないからいうわ。たぶん、セバスに出向の打診が来るんじゃないかって、思っているから」
「出向ですか?それは……」
「うまくまとめられれば、出世の機会が巡ってくるわ」
「爵位が上がるということですね」
「そういうこと。話の内容は、3つ」


 先程、城での話をセバスに聞かせる。やはり、突然の申し出だったことをかなり訝しみながらも、頷く。


「私から推薦はしていないけど、公か宰相から交渉の席に着くよう言われる可能性は高いわ。そのときは、借りの役職を作るのでしょうけど、権限は全権与えられるはず」
「見落としや騙されたは通らない話し合いですね」
「そうね。真面目に取り合わなくてもいいわ!セバスが有利になるような話し合いをすればいいだけよ。イチアとある程度の月日は過ごしている。交渉術に関しても問題ないと思っている。声がかかれば思いっきり、セバスらしく戦ってきなさい」
「僕らしくですか?」
「えぇ、セバスらしく。援護が必要なら、いくらでも送るわよ!物資という名の情報を」
「……それは、何より心強い。一人で向かっても、一人じゃないんですね!」
「当たり前よ!私は、セバスを見捨てないわ!今から、エルドアへ手紙を書くの。滞在場所の話ももしでれば、エレーナの……クロック侯爵の屋敷へ滞在させてもらえるよう、手配するわね!」


 ありがとうございます!と笑いかけてくれるセバス。危ない道へ向かうことには変わりないので、色々と手配しようとこっそり考えていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

最強魔導師エンペラー

ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ただひたすら剣を振る、そして俺は剣聖を継ぐ

ゲンシチ
ファンタジー
剣の魅力に取り憑かれたギルバート・アーサーは、物心ついた時から剣の素振りを始めた。 雨の日も風の日も、幼馴染――『ケイ・ファウストゥス』からの遊びの誘いも断って、剣を振り続けた。 そして十五歳になった頃には、魔力付与なしで大岩を斬れるようになっていた。 翌年、特待生として王立ルヴリーゼ騎士学院に入学したギルバートだったが、試験の結果を受けて《Eクラス》に振り分けられた。成績的には一番下のクラスである。 剣の実力は申し分なかったが、魔法の才能と学力が平均を大きく下回っていたからだ。 しかし、ギルバートの受難はそれだけではなかった。 入学早々、剣の名門ローズブラッド家の天才剣士にして学年首席の金髪縦ロール――『リリアン・ローズブラッド』に決闘を申し込まれたり。 生徒会長にして三大貴族筆頭シルバーゴート家ご令嬢の銀髪ショートボブ――『リディエ・シルバーゴート』にストーキングされたり。 帝国の魔剣士学園から留学生としてやってきた炎髪ポニーテール――『フレア・イグニスハート』に因縁をつけられたり。 三年間の目まぐるしい学院生活で、数え切れぬほどの面倒ごとに見舞われることになる。 だが、それでもギルバートは剣を振り続け、学院を卒業すると同時に剣の師匠ハウゼンから【剣聖】の名を継いだ―― ※カクヨム様でも連載してます。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓
ファンタジー
主人公、間宮陸人(42歳)は、世界に絶望していた。 そこそこ順風満帆な人生を送っていたが、あるミスが原因で仕事に追い込まれ、そのミスが連鎖反応を引き起こし、最終的にはビルの屋上に立つことになった。 そして一歩を踏み出して身を投げる。 しかし、陸人に訪れたのは死ではなかった。 眩しい光が目の前に現れ、周囲には白い神殿のような建物があり、他にも多くの人々が突如としてその場に現れる。 しばらくすると、神を名乗る人物が現れ、彼に言い渡したのは、異世界への転移。 陸人はこれから始まる異世界ライフに不安を抱えつつも、ある意味での人生の再スタートと捉え、新たな一歩を踏み出す決意を固めた……はずだった…… この物語は、間宮陸人が幸か不幸か、異世界での新たな人生を満喫する物語である……はずです。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...