ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
857 / 1,513

エルドアからの手紙

しおりを挟む
 渡された手紙をもう1度読む。確認をしていくと、手紙の向こうからこちらをじっと見据える公と目が合った。


「もったいぶらなくてもいいんだぞ?」
「読まなくてもいいんですよ?」
「……まぁ、そうは言ってくれるな。褒美は、出すから」
「……別に褒美が欲しいわけではありませんよ」
「何なら喜ぶんだ?」
「そうですね……ハニーアンバー店の中にある在庫一掃してくれれば、私も嬉しいし、領地も潤いますから助かります」
「……いや、アンナリーゼの店が空になってしまうではないか?」
「それくらいで、空になるようなやわなつくりにはなっていませんよ。在庫も程々に持っていますし。本当に、空になるだけ買おうとしたら、国が滅びますから」
「……と、ところでアンナリーゼ様」


 ん?と宰相の方を見つめてコテンと首を傾げる。今日は、とことん子どものように無邪気に接すると決めているので、可愛らしくしておいた。


「……その、砂糖の売上はどうなのでしょう?」
「初年度は、植えただけで量も取れなかったけど、今年はたくさん採れそうと聞いているわ。2年目3年目とだんだん、農家の方もこちらの気候に慣れてきたのか収穫じたいが増えているのよね。今年は秘密兵器もあるから、少し楽しみなのよね」


 ふふふっと笑うと、宰相がすかさずニコリと笑う。


「ところで、エルドアはなんと送ってきたのですか?」
「なかなか、宰相も私のことをわかってきているような気がするわね。仕方がないな……」


 大きくため息を一つ。


「書かれていることは、2つ……3つか」
「3つ?」
「今から、口出しなしで聞いてくださいね?いいですか?」
「あぁ、わかった」
「はい、じゃあ、いきますよっ!」


 コクと頷く公。こういう決まりごとはなるべく守ってくれるよようになったので少し楽になった。全てを聞かずに話し出すので面倒だということに気が付いて始めた取り決めである。


「1つ目は、秘密裏に会合を開きたいそうです。宰相位か補佐ほどの役職の持つものが好ましいと書かれていますね。内容は、対インゼロ帝国についてだそうです。エルドアの方でも、不穏な動きを感じているみたいですね」


 私は同じところを繰り返し読む。この暗号文になる前の原文を書いた人間をぶん殴ってやりたいほどの気持ちになりながら、唸る。


「……どうした?何かまずいことでも?」
「あれ?もう、いいんですか?」
「……いや、そういうわけではなくてだな、顔が険しいのが気になっただけだ。口出ししてすまぬ。続きを頼む」
「仕方がないですね。読みますよ」


 コクっと頷く公は、非常にまずそうな顔をこちらに向けてくるが、私の方がそういう顔をしているのだろう。
 唾を飲み込んでいる公と宰相。国の頂にいる人たちは、少々私の取り扱いに困っているようだった。


「ウィル・サーラーが最前線にいるなら、もう少しエルドア寄りに配備してほしいとのことです。どうですか?」
「……これは、話してもいいやつか?」
「もちろんです。どう思います?」


 宰相を見て確認をとっている。もちろん、それは、私の欲しい答えをいうためと、エルドアに角が立たないように考えているようだった。


「エルドアのいうことは、もっともな気がするが、ウィル・サーラーは本来、アンバー領で、ハニーローズ及びその家族であるアンバー公爵家の護衛をしてもらっているものだ。エルドアには申し訳ないが、もう少ししたら、最前線にいるウィルを呼び戻す予定であるから、その返事は却下だな。先日も事なきを得ているが、ジョージアが狙われた事件もあることだし、国の宝であるハニーローズは、亡くすわけにはいかない」
「公も満点の答えをくださるときもあるのですね?」
「もちろんだ。だいたい、アンナリーゼ、ウィル・サーラー、ヨハン教授には随分と世話になりすぎている」
「自覚はあったんですね?」
「嫌味か?」
「……いえ、そういうつもりではないんですけど。つい本音が」
「本音の方か!なお、悪いわ!」


 大きなため息を一つはき、公は続けていく。


「今回の病の件では、本当に世話になったと思っているんだ。この国の医師たちは未知の病気だと畏れていたわけだしな。それを救ってくれたこと、本当に感謝しているんだ。そろそろ、ウィルも子どもたちに会いたいだろうし、ヨハン教授も激務から解放したいだろ?」
「……あまり、大きな声では言えませんけど……ヨハンは、とても楽しんでいるらしいですよ?実験とかいろいろしていると、楽しそうな報告書が届いたので、1番助手に行動範囲等々を抑えるように伝令を出したところです」
「……それは、その。大丈夫なのか?」
「幸い、死者はしませんからね。大きな何かがあったとは報告を受けていません。ウィルからもないので、そこは大丈夫かと。あの研究バカのことですから、診療を抜け出し、ウロウロしていることだと思いますわ」
「それは、いいことなのか悪いことなのか、判断に迷うな」
「いいことだと思います。終息間近なのでしょう。余裕があるのは」
「……次の手紙で終息したか確認をして、終息宣言をだすか?」
「そう……」
「辞めたほうがいいですよ?インゼロに弱っているのでと知らせているようなものですから。宣言をするのでなく、北の方から、少しずつ領地を閉鎖しているところへ、解放の通知を出したらいいんじゃないですかね?一気に出すと、また、問題もあると思いますから。あくまで、領地での感染について、十分に調べてからでもいいと思います」


 私はそれとなく、二人が動きやすいように誘導していく。知ってか知らずか、私の案に乗って行くようだ。
 これからも大変だな……と、心の中で呟いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...