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これは、一体……?
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入ってきた宰相は、状況把握にまず取り掛かることにしたらしい。私なら、丸投げというか、無視して、自身の得たい情報の話を進めていくのだが、面倒見のいい宰相は、そうはならないようだ。
「これは、一体……?」
「聞いてくれ、宰相!」
「何ですか?公。今は、先程の件で事情聴取をしているのではないですか?」
「あぁ、そうなんだが、それより!新しい宗教団体ができそうで、困っている」
「……新しい宗教団体?」
「何勝手に宗教団体とか言っているんですか!私、そんなの立ち上げた記憶もないですし、私の周りにもそんなものはないですよ!」
「……あぁ、なんとなくわかりました」
察しましたという宰相が、嘆く公に大丈夫ですよと囁いた。
「何が大丈夫なんだ。アンナリーゼ教なんてものができたらだなぁ?手が付けられないぞ?」
「聞きづてならないですね!」
「宗教をいいことに、献金をぼったくるんだ!国民から」
「私、そんなことしなくても、お金なら、この国の予算の何十倍も持っていますから!」
「なら、それを無担保で国に貸してくれ!」
「なんで、そうなるんですか?」
「ヨハンに払う分の金だ!そなたがぼったくったおかげでだな?」
「ぼったくってませんよ?適正価格です。私は、その倍を払って、さらに研究費まで出しているんですからね?」
だんだん、今日のこととは別の話になっていくので、宰相がわざとらしく大きなため息をついた。
「なっ、宰相?」
「ほら、怒られてしまいなさい!公」
「二人とも、そこに座りなさい!」
宰相にまとめて座るように言われ、私は公の隣に座る。バンッと宰相が机を叩いたのでビックリして、公と私がお互いに抱きついた。
「お二人は、調書をとるためと、事情を聞くためにここにいるのですよね?」
宰相の珍しく冷たい声に、公が震えて私にきつく抱きついてきた。
「今は、何の話しているのでしたかね?」
「……はひ、えっと……なんだったっけ?」
「……ジ、ジョージア様の命を狙ったご婦人の……」
「それは、そうと、うちのアンナから離れてくれませんかね?どさくさに紛れて抱きつくとかありえませんよ?」
お互いに抱きついていたのだが、ジョージアが後ろに回って、私たちをひっぺり剥がした。
私は静かに上をみると、目が、笑っていないジョージア。これは、相当怒っているに違いない。
「……ジョージア?」
「何ですか?公。うちのアンナに抱きつくだなんて、どういった了見ですか?」
睨んでいるのがかなり本気で怒っているのだろう。
「ほら、アンナ。こっちにおいで」
そういって、元いた位置まで戻される。
普段怒らないジョージアと宰相が怒っているので、とても怖い。
「すみませんでした」
「全面的に公が悪いです。うちのアンナは悪くありませんから。それと、宰相」
「はい、ジョージア様」
「話がそれてしまったのは申し訳ないが、公の隣にアンナを座らせるのはどうかと思うよ?隙あらば何かしようとしているのに、そこらの配慮は必要だ」
「……気が付きませんでした。申し訳ございません」
「今回は仕方がないけど、次から気を付けて」
物静かな二人の怒りは、静かにおさまってくれたようだが……帰ってからも大変そうだなとジョージアをチラリと見る。やきもちやきのジョージアに心配はかけないようにしようとこっそり誓う。いつも、破ってしまうのは、私なのだけど……
「それで、状況はどうなっていますか?」
「先程のご婦人が狙ったのは、ジョージア様とのことです。先日、アンバー領でも領主暗殺の事件があったとのことで……」
「その仇討ちか何かか?」
「……私が、準男爵を殺してしまったのが原因です。領主を狙っているなら、私を狙ってくれたらここまでややこしくなかったんですけど……」
大きなため息をついて、何かありますか?と周りを見た。
「準男爵とは、先日のか?」
「そのようです。準男爵になったばかりで、どちらが領主だったのか、わからなかったのでしょう」
「ただいま戻りました」
みなが集まっているので、こそっと部屋を出ていくのは見えていたのだが、何事もなかったかのように戻ってきたヒーナ。
エリックは気が付いていたようだが、他は気付いていなかったようで、驚いている。
「それで、収穫は?」
「それほどでもありません。やはり、アンナリーゼ様の殺害を指示されていたらしいんですけど、裏では、手出ししないというか、手出し出来ないからって断っているらしいですね。腕利きばかりがそんな話をしているんだから、商売になるのかって気もしますが」
「あぁ、みんな私のことは見守ってくれているから。実は、私が1番安全な気がしているのよね。もちろん、我が家の裏方にも、いらないことしていないかみはられてはいるけど」
「アンナリーゼ、見守っているっていうのは?」
「文字通り、言葉通りです。暗殺者に狙われてはいるんですけど……いろいろと噂に尾ひれとかついちゃって、誰も遊んでくれなくなりました」
「今回のことは、どう、説明つけるんだ?」
「暗殺に来たのはいいけど、ジョージア様を狙っていたのは本当ですし、私の体調が悪すぎて、うっかりナイフが心臓に命中してしまったのです。真夜中の犯行なので、証言できるのはジョージア様しかいませんけど……正当防衛を主張します!」
私が締めくくると、筆頭公爵家を狙うにはそれ相応の罰が待っていることが、いくら準男爵になったばかりとはいえ、知っているはずだ。それでも、狙わないといけなかったことに、可哀想に思えてくる。
とりあえず、調書はとれましたのでというセシリアの言葉で、今日は解散になった。
明日、また、呼び出すと公に言われ、ウンザリしながら部屋を退出したのである。
「これは、一体……?」
「聞いてくれ、宰相!」
「何ですか?公。今は、先程の件で事情聴取をしているのではないですか?」
「あぁ、そうなんだが、それより!新しい宗教団体ができそうで、困っている」
「……新しい宗教団体?」
「何勝手に宗教団体とか言っているんですか!私、そんなの立ち上げた記憶もないですし、私の周りにもそんなものはないですよ!」
「……あぁ、なんとなくわかりました」
察しましたという宰相が、嘆く公に大丈夫ですよと囁いた。
「何が大丈夫なんだ。アンナリーゼ教なんてものができたらだなぁ?手が付けられないぞ?」
「聞きづてならないですね!」
「宗教をいいことに、献金をぼったくるんだ!国民から」
「私、そんなことしなくても、お金なら、この国の予算の何十倍も持っていますから!」
「なら、それを無担保で国に貸してくれ!」
「なんで、そうなるんですか?」
「ヨハンに払う分の金だ!そなたがぼったくったおかげでだな?」
「ぼったくってませんよ?適正価格です。私は、その倍を払って、さらに研究費まで出しているんですからね?」
だんだん、今日のこととは別の話になっていくので、宰相がわざとらしく大きなため息をついた。
「なっ、宰相?」
「ほら、怒られてしまいなさい!公」
「二人とも、そこに座りなさい!」
宰相にまとめて座るように言われ、私は公の隣に座る。バンッと宰相が机を叩いたのでビックリして、公と私がお互いに抱きついた。
「お二人は、調書をとるためと、事情を聞くためにここにいるのですよね?」
宰相の珍しく冷たい声に、公が震えて私にきつく抱きついてきた。
「今は、何の話しているのでしたかね?」
「……はひ、えっと……なんだったっけ?」
「……ジ、ジョージア様の命を狙ったご婦人の……」
「それは、そうと、うちのアンナから離れてくれませんかね?どさくさに紛れて抱きつくとかありえませんよ?」
お互いに抱きついていたのだが、ジョージアが後ろに回って、私たちをひっぺり剥がした。
私は静かに上をみると、目が、笑っていないジョージア。これは、相当怒っているに違いない。
「……ジョージア?」
「何ですか?公。うちのアンナに抱きつくだなんて、どういった了見ですか?」
睨んでいるのがかなり本気で怒っているのだろう。
「ほら、アンナ。こっちにおいで」
そういって、元いた位置まで戻される。
普段怒らないジョージアと宰相が怒っているので、とても怖い。
「すみませんでした」
「全面的に公が悪いです。うちのアンナは悪くありませんから。それと、宰相」
「はい、ジョージア様」
「話がそれてしまったのは申し訳ないが、公の隣にアンナを座らせるのはどうかと思うよ?隙あらば何かしようとしているのに、そこらの配慮は必要だ」
「……気が付きませんでした。申し訳ございません」
「今回は仕方がないけど、次から気を付けて」
物静かな二人の怒りは、静かにおさまってくれたようだが……帰ってからも大変そうだなとジョージアをチラリと見る。やきもちやきのジョージアに心配はかけないようにしようとこっそり誓う。いつも、破ってしまうのは、私なのだけど……
「それで、状況はどうなっていますか?」
「先程のご婦人が狙ったのは、ジョージア様とのことです。先日、アンバー領でも領主暗殺の事件があったとのことで……」
「その仇討ちか何かか?」
「……私が、準男爵を殺してしまったのが原因です。領主を狙っているなら、私を狙ってくれたらここまでややこしくなかったんですけど……」
大きなため息をついて、何かありますか?と周りを見た。
「準男爵とは、先日のか?」
「そのようです。準男爵になったばかりで、どちらが領主だったのか、わからなかったのでしょう」
「ただいま戻りました」
みなが集まっているので、こそっと部屋を出ていくのは見えていたのだが、何事もなかったかのように戻ってきたヒーナ。
エリックは気が付いていたようだが、他は気付いていなかったようで、驚いている。
「それで、収穫は?」
「それほどでもありません。やはり、アンナリーゼ様の殺害を指示されていたらしいんですけど、裏では、手出ししないというか、手出し出来ないからって断っているらしいですね。腕利きばかりがそんな話をしているんだから、商売になるのかって気もしますが」
「あぁ、みんな私のことは見守ってくれているから。実は、私が1番安全な気がしているのよね。もちろん、我が家の裏方にも、いらないことしていないかみはられてはいるけど」
「アンナリーゼ、見守っているっていうのは?」
「文字通り、言葉通りです。暗殺者に狙われてはいるんですけど……いろいろと噂に尾ひれとかついちゃって、誰も遊んでくれなくなりました」
「今回のことは、どう、説明つけるんだ?」
「暗殺に来たのはいいけど、ジョージア様を狙っていたのは本当ですし、私の体調が悪すぎて、うっかりナイフが心臓に命中してしまったのです。真夜中の犯行なので、証言できるのはジョージア様しかいませんけど……正当防衛を主張します!」
私が締めくくると、筆頭公爵家を狙うにはそれ相応の罰が待っていることが、いくら準男爵になったばかりとはいえ、知っているはずだ。それでも、狙わないといけなかったことに、可哀想に思えてくる。
とりあえず、調書はとれましたのでというセシリアの言葉で、今日は解散になった。
明日、また、呼び出すと公に言われ、ウンザリしながら部屋を退出したのである。
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