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あの日、何故?

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 誕生日祭りは、夜まで続く。主役は、とうに寝てしまっていても、大人たちも騒ぎたいのだろう。
 お酒の力もあってか、夜でも屋敷の前の広場は大賑わいだ。


「明るいから、夜じゃないみたいだね?」
「そうですね。なんだか、みんな子どもに戻ったようにはしゃいでますよ」


 領民たちが、踊ったり大きな声で笑い合ったりするのをジョージアと見ていた。どちらかと言えば、混ざりたい気持ちはあるが、今日のところは大人しく見ているだけにした。


「混ざりたいんじゃないの?」
「いえ、そんなことは」
「そう。きっと、ウィルがいれば、誘いに来ていただろうね。あの踊りの場へ」
「お上品じゃないから、ダメですよ」
「アンナは、そんなこと気にしないだろ?楽しく踊りたい。領民と手を取り笑いあい。それが本当のアンナの姿だと思うけど……俺じゃあ、そのアンナは、引き出せないな」
「……そんなこと。ジョージア様といる世界は居心地がいいですよ」
「貴族たちとの牽制のしあいのどこが?」
「どこが……ですか?腹の探り合いとか、わりと楽しんでますよ。自身が遅れを取ると腹も立ちますが、今のところ、ゴールド公爵が私より何枚も上手で困っています」
「腹の探り合いを楽しめるなんて、アンナ以外にはいないと思うけどね……」
「ジョージア様も公爵なのですから、そういうものを楽しまないと。貴族だからこそ出来るお遊びですよ!」


 葡萄ジュースをグラスの中でゆらゆらと揺らして、微笑んだ。


「その遊びは、受けるものが大きすぎる遊びだと思うけど?」
「そうですか?遊びは遊びですよ。ちゃんとした調停者がいれば、成立するんですけど、今のところ、そういう人はいないですからね?」
「その役は、公が担うべきものだろう?」
「はい、そうですよ。でも、公は、まだまだ、そこまでの力がありません」
「アンナの後ろ盾があったとしてもか?」
「そうですね。まだまだです。私の後ろ盾と言っても、少ないですから。今後は少しその範囲を広げるよう、イチアに頼まれています」
「なるほど。それには、俺も関わった方がよさそうだ」
「いいですけど……今、狙っているところは、どこもかしこも独身女性を抱える領主ですからね。ジョージア様が出ていくと、第二夫人、第三夫人と増えそうで……増えてもいいですけど、そうしたら、しばらく、私、実家でゆっくりしたいです。結婚してから、何度か帰りましたけど、会いたい人には会えずにいますから」
「……帰られると困るし、会いたい人はヘンリー殿かな?」
「ハリーですか?」
「違うのかい?」
「クリスとフランに会いたいのですよ。フランなんて、前はエリザベスのお腹にいたのですから……」
「あぁ、甥っ子に会いたいのか」
「そうです!私、超絶可愛いであろう、クリスとフランを可愛がりたいのですよ!」


 鼻息荒く、兄から来る手紙の内容で、二人の子の話が書かれていることが多い。クリスも小さかったこともあったり、そもそも、実家で寛ぐ辞退ではなかったので、慌ただしく動き回ていたことを思い出す。


「この前帰ったときは、可愛がれなかったの?」
「時間がなかったのです。シルキー様の容態のこともあって」
「あぁ、それも、アンナがかんでいたな」
「なんていうか、その言い方だと、私が悪いみたいな……」


 そんなことないよとクスっと笑うので、そんなことあるのだろう。


「ところで、教えて欲しいんだけど……」
「何ですか?」
「……リアンなんだけど」
「リアンが、どうかしましたか?」
「あの襲撃事件があった日、アデルを呼んでもらったんだけど、リアンは呼んでいないのに現れたんだ。どうしてだったんだろう?」


 不思議そうにしているジョージア。私は、答えを知っていた。


「リアンに直接聞きましたか?」
「聞いていないよ。なんだか、聞きにくくて……」
「そうですか?聞けば答えてくれますよ。ただ、真相までは、わかりにくいかもしれませんが……」
「アンナは、知っているのかい?」
「もちろんです。お教えしましょうか?」
「頼む。何があったんだい?」
「あの日、アンジェラが夜泣きをしたらしいのです」
「……夜泣き。たまにあるよね?アンジェラの夜泣き」
「そうですね。私も身に覚えがあるので、なんともですが……」
「アンナも?」


 えぇと曖昧に笑う。夜中に泣きながら、誰にも悟られずに兄のベッドへよく潜り込んでいた。また来たの?と眠気眼に兄はいうけど、いつも優しく迎え入れてくれる。


「もう、そんなに泣くような年じゃないだろ?」
「もうって言ったって、まだ、3歳になったばかりですよ。夢が怖ければ、泣きます」
「……夢が?それって、アンナと一緒?」
「おそらくは。まだ、アンジェラが小さすぎてうまく言葉に出来ないので、ハッキリはしないのですけど……私より、精確なものを見ているんじゃないですかね?あの晩、ジョージア様が殺される夢をみたらしいので」
「えっ?あの晩?」
「そうです。私は、その夢を見ていない。襲われる夢をみたようなぼんやりしていましたが、夜会で襲われるジョージア様の方がハッキリ見えましたから」
「アンジェラは、ハニーローズだ。過去見は出来るかもしれないけど……予知まで?アンナの血をひいているからなのか……」
「それは、どうかわかりませんけど……それで、アンジェラが泣いたので、私を呼びに来てくれた途中だったみたいです」


 なるほどと頷きながら、疑問に思っていたことが、解決できたようだ。


「アンジーは、怖かっただろうね」
「そうですね。でも、これから、こんな夢はたくさんみることになりますよ。うなされて目が覚めるとか、本当にたくさん。私は、経験をしてきたので、少しでもアンジェラの心に寄り添うようにしたいと思っています。ジョージア様はどうですか?」


 もちろんだよと微笑む。とても愛情をかけているアンジェラのこととなれば、頼もしい。
 期待していますから!と笑いかけると、二人で子どもたちを支え導いていこうと真剣な顔でいうので、私もそれに応えた。
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