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なんていい……

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「おかえり!ノクト」
「あぁ、これ、預かってきたもんな」
「……早すぎない?ジョージア様が狙われたの、昨日の……今朝がたなんだけど?」
「あぁ、その少し前に胸騒ぎがするとかで、呼び戻されていたんだ。それと……」


 小脇に抱えていた人物をおろす。くたっとして床にへなへなっと座っている少女を哀れみの目で見た。

 まさか、戦争屋の一人だなんて、この様子を見て誰も思わないわよね?

 ため息混じりに、近寄っていき両肩を瞬間的に揺さぶる。気絶に近い状況でも、戦闘要員のものなら、これで一瞬で意識が戻るだろう。


「ずいぶん、平和慣れしてないか?」
「……ん。ここ……は?」


 私とバチっと目が合った瞬間、後ろに飛びのいた。その姿がまるで、懐かない猫のようでクスっと笑う。私は立ち上がり、少し傲慢に見えるよう見下して嗤った。


「おはよう、私のかわいい子猫ちゃん。ゆっくり寝られたかしら?」


 クスクス笑うと、睨みつけるようにこちらを見上げてきた。ノクトはその茶番にため息をつき、イチアはセバスを庇うよう前に出て、セバスはポカンとみていた。


「誰が、子猫なもんか!」
「大虎って感じでもないもの。子猫で十分。ママと会えなくて、寂しかったかしら?」
「ふんっ!どこがっ!」


 その瞬間、ゴーンと音がなったんじゃないかという勢いで、ノクトのげんこつが少女の頭に落ちる。


「やっぱり、戦闘能力落ちてるんじゃないか?こんなのも避けきれないなんて……」


 頭のてっぺんをさすり、涙目でノクトに痛いと抗議している姿は、親子でもいいとすら思える。実際、それくらいの年の差なので、あながち間違いではないのだろう。


「痛いです、ノクト様」
「俺に様をつけるんじゃあなくて、お前のご主人様はあっち。俺のご主人様もあっちな?わかった?」
「……嫌です!私のご主人様になってください」
「それは、無理な話だ。俺、雇われの身だし、お前を躾けることの手伝いまではできても、ご主人様に噛みつく駄犬ならば、ディルにもっといい躾方法を教えてもらわないといけないしな?」


 ディルに恐怖抱いているのか、ブルっと震え、私の方をおずおずと見た。


「ちなみに、ディルのご主人様でもあるから、くれぐれも歯向かわないことだな。戦ったことがあるから知っているだろうが、本気なら、比じゃないぞ?」
「この前ので本気じゃないのですか?」


 私を睨んで来るので、苦笑いだけしておいた。本気か本気じゃないかと言われれば、本気だったのだ。何枚か上手だっただけで……決して、少女が弱いわけではない。裏の稼業で幹部を任されるほどの人材は、本当に強いのだから。


「それで?」
「見ての通りだが、躾は終わった。どこに連れ出しても悪くないだろう」
「そう。じゃあ、そうね……とりあえず、私につくよりジョージア様に護衛をつけたいのよね……でも、そんな感じじゃ、ジョージア様にはつけられないわ」


 ツカツカと少女の前に立ち、首につけているチョーカーに手をかけた。


「持ち主がわかるように、わざわざ女王蜂が入っているわね?」
「そりゃ、女王様に従うようにとディルにしっかり躾けられているからなぁ……まぁ、ちょっと、可哀想だよな?」
「そうは言っても、デリアもエマもその道を通ってきているのよ。ディルのやり方には、私、文句ひとつ言えないほど完璧だから」


 ふぅっと息を吐き、見下ろす。


「いつまで座っているつもり?侍女なら、それらしくしなさい。ヒーナ」
「……かしこまりました」


 渋々と言うふうではあったが、立ち上がり、私にぺこりと頭を下げる。その一部始終をみていたセバスとイチアは、何者かと問うてきた。


「南の領地で拾ってきた子猫。って言っても、成人はとうにしているただの童顔なだけで、インゼロ皇帝の玩具よ」
「……それを何故アンナリーゼ様が?」
「ジニーと一緒に掻っ攫ってきたの。行った先の領地の屋敷でね、見事に惨殺されていたのよね。全員。イチアなら知っているかしら?戦争屋のお話」
「えぇ、もちろんです。私たちは、その者たちが起こした火種を元に大火にしてきたのですから……戦争屋は、インゼロにとって、我々よりはるかに皇帝に近い位置にある組織です」
「その幹部よ。うろうろしてたからね。殺すことも考えたけど、それじゃあってね。ヒーナ、背中を」
「……嫌です」
「そう?じゃあ……」


 スカートの下から取り出したナイフを光らせる。先日、刺客の急所に刺さったナイフは、傷ひとつついていない一級品。切れ味も衰えてはいない。


「わかりました!わかりましたから!もぅ……服が少ないので、切り裂かれると困るんです!」


 するすると脱いでいく。セバスたちに背中が見えるように。


「……これは?」
「アンナリーゼ様と……この蜂たちは……」
「アンナとセバスら領地改革に関わるものが、この蜂をあらわしている。罪人に見えるよう彫るだろ?ドレスを着たとき、こうして全部見えるようになっているんだ。皇帝への裏切りの意味も込めて」
「……もういいですか?」
「えぇ、いいわ!」


 セバスはヒーナの背中に彫られていたものに驚いたようで、目を見開いたままだった。


「さて、護衛の話よね……キースが、手元にいればとも思うけど……」
「あんな弱っちいのいたって役にたたない!」
「酷い言われようね?確かに、キースの技量では、護衛として一人でつくのは、まだ難しいわね」
「しばらくは、アデルとペアで旦那様につけてやったらどうだ?」
「ヒーナをジョージア様に?それ、私が嫌なんだけど……」


 ジトっと見ると、ノクトを始めセバスとイチアがため息をつく。


「いつまでも夫婦仲のよろしいことはいいことだな。お前たちも、そう思わないか?」
「全くです。三人目は、近いかもしれませんよ?」
「……もぅっ!予定なんてないわよ!」


 いきなり下世話な話に移行していきそうな雰囲気になり慌てていると、ヒーナがニンマリして、旦那様の護衛なら任せてくださいと甘える子猫のような表情をしたのであった。
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