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少し休みなさい
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「さて、元々しようとしていたことをしようか?」
ジョージアが桶に手を入れ、中にあったタオルを絞る。
「すっかり冷えてしまっているね……風邪引いていない?」
「風邪は、大丈夫です。でも……」
「頭が痛いんだね?手早く体を拭いて、少し休みなさい」
そういって、着ている夜着を脱がせていく。温かいタオルで、たくさんかいた汗を拭っていってくれた。
「私、自分でできますけど……」
「そうだろうけど、看病なんてこんなときくらいしかさせてもらえないからね」
丁寧に拭っては、タオルを洗い、また温かなタオルで拭ってくれる。優しく拭われているのが、なんだか、こそばゆい。
「ジョージア様、くすぐったいです!」
「くすぐるようなこと、してないけど?ほら、こっちも……反対側も!」
まるで、アンジェラになった気分でされるがまま拭ってもらい、いつの間にかリアンが出してくれていた夜着に着替える。
ふぅっと息をはくと後ろから抱きついてきた。
「……アンナ?」
「どうかされましたか?」
「……無事でよかった」
「ジョージア様こそ、狙われていたんですから!何事もなくてよかったです」
「あぁ、そうだな。部屋を出たとき、肝が冷えたよ?」
「私もですけどね?」
「近くに模擬剣も転がっていたし、屋敷の中でナイフを持って歩くなんて……ないよね?ふだん」
「はい、『予知夢』をみたんです。おぼろげに。最近、ハッキリしたものは見ないのですけど、胸騒ぎがしたので、ジョージア様を追いかけたんですよ」
「そうか。助けてくれて、ありがとう」
ジョージアは、私と違いこういった荒事は苦手である。剣を振ることもできるが、近衛の、それも入って数ヶ月のものの方が強いんじゃないかと思うほど、向いていない。運動が決してダメというわけではないのだが、そういうふうにできていないのだろう。
「どういたしまして!ジョージア様が五体満足で生きていてくれること、本当に嬉しいです。それより、もうひとつ、『予知夢』を見ているので、そちらの話を少ししますか?」
「うん、そうだね。それもいいけど……少し眠ろうか。アンナは、頭が痛いんだろ?」
「はい。今も変わらず……」
「それなら、なおのこと、ゆっくり休むべきだ。朝になったら、執務に追われるんだし」
「言わないでください!余計に頭が痛くなりそうです!」
私がこめかみをグリグリとしていると、珍しいアンナと言って笑っているジョージア。いくらしくて仕方がなかった。
「変われるなら変わってあげたいけど、頭痛はね……俺も嫌だから」
「耐えてみせます。その代わり……」
「何?何かご所望ですか?」
イタズラっぽく笑いながら、どうしようかな?と悩んだふりをしている。その姿は、私をさっきの出来事から離れさせるためにやっていることはわかっていた。なので、ジョージアの提案にのることにしている。
私は、ベッドに寝転がり、隣をぽんぽんと叩く。すると、こうかい?と、隣に並ぶように寝転がる。
「あっち向いてください!」
「えっ?あっち向くのかい?」
「はい、早く!」
仕方なさそうに、寝返りを打って後ろを向くジョージアに、私は抱きついた。そのまま、瞼を落とし、眠りにつく。
薬を飲んだおかけで、少しだけ痛みが和らいでいたので、すぐに眠りにはつけたようだ。
2時間ほど眠ったのだろう。朝食の用意をしているリアンと目が合った。
「おはようございます。アンナリーゼ様。具合が悪いと聞いていたのですが、お加減はいかがですか?」
「……おはよう、リアン。よく眠ったみたいね」
「えぇ、ジョージア様も心配されていらした。さっきより顔色もいいですし、よかったです」
「頭痛なんて、全然なったことがなかったから……」
「アンナリーゼ様は、いつも元気ですからね。弱っていらしたのが珍しくて、ジョージア様もウロウロと歩き回られていましたよ」
「ふふ、なんだか心配される側にいるのは変な気分よ」
「朝ごはんは、食べられそうですか?」
「うん、食べられそう」
「ジョージア様をお呼びしてきますね?」
頷くと朝食の用意だけ済ませ、部屋から出てジョージアを呼びに行ってくれた。
しばらくして、ジョージアが来た。
「起きたかい?」
「えぇ、起きました」
「具合は?」
「ジョージア様にいただいたお薬のおかげですっかり良くなりました!これで、ほどほどに執務を頑張れそうですよ!」
「それは、よかったのかな?たまには、ゆっくりしていてもいいと思うんだけど」
朝ごはん食べようかと声をかけ、隣に座り食べ始めた。
いつもの朝とは言いにくいが、晴れていてほどほどにいい朝ではある。
「そういえば、『予知夢』に続きがあるって話してなかった?」
「えぇ、そうなのです。いつとは、はっきり覚えていないのですが、ナタリーが作ってくれたドレスを着ていたので、始まりの夜会でのことだと思います」
「ふむ。それで、内容は覚えている?」
「……言いにくいのですが、ジョージア様が女性に刺されてしまう夢を見ました」
「……女性に?恨まれるようなことは、していないはずだけど……」
遠くを見ているジョージアにジトっとした視線を送ると、さらに顔を背けた。最近はアンジェラたちのこともあるし、領地にいることが多いので、そういうお誘いがされることはないのだが、心当たりはあるようだ。
「ん?」
ニコッと微笑むと、決して無いにもないよと逆に微笑んだ。怪しいとは思えないほど、爽やかな笑み。何もないことも知っているので、アンバーで作られたベーコンを口に押し込んでやった。
ジョージアが桶に手を入れ、中にあったタオルを絞る。
「すっかり冷えてしまっているね……風邪引いていない?」
「風邪は、大丈夫です。でも……」
「頭が痛いんだね?手早く体を拭いて、少し休みなさい」
そういって、着ている夜着を脱がせていく。温かいタオルで、たくさんかいた汗を拭っていってくれた。
「私、自分でできますけど……」
「そうだろうけど、看病なんてこんなときくらいしかさせてもらえないからね」
丁寧に拭っては、タオルを洗い、また温かなタオルで拭ってくれる。優しく拭われているのが、なんだか、こそばゆい。
「ジョージア様、くすぐったいです!」
「くすぐるようなこと、してないけど?ほら、こっちも……反対側も!」
まるで、アンジェラになった気分でされるがまま拭ってもらい、いつの間にかリアンが出してくれていた夜着に着替える。
ふぅっと息をはくと後ろから抱きついてきた。
「……アンナ?」
「どうかされましたか?」
「……無事でよかった」
「ジョージア様こそ、狙われていたんですから!何事もなくてよかったです」
「あぁ、そうだな。部屋を出たとき、肝が冷えたよ?」
「私もですけどね?」
「近くに模擬剣も転がっていたし、屋敷の中でナイフを持って歩くなんて……ないよね?ふだん」
「はい、『予知夢』をみたんです。おぼろげに。最近、ハッキリしたものは見ないのですけど、胸騒ぎがしたので、ジョージア様を追いかけたんですよ」
「そうか。助けてくれて、ありがとう」
ジョージアは、私と違いこういった荒事は苦手である。剣を振ることもできるが、近衛の、それも入って数ヶ月のものの方が強いんじゃないかと思うほど、向いていない。運動が決してダメというわけではないのだが、そういうふうにできていないのだろう。
「どういたしまして!ジョージア様が五体満足で生きていてくれること、本当に嬉しいです。それより、もうひとつ、『予知夢』を見ているので、そちらの話を少ししますか?」
「うん、そうだね。それもいいけど……少し眠ろうか。アンナは、頭が痛いんだろ?」
「はい。今も変わらず……」
「それなら、なおのこと、ゆっくり休むべきだ。朝になったら、執務に追われるんだし」
「言わないでください!余計に頭が痛くなりそうです!」
私がこめかみをグリグリとしていると、珍しいアンナと言って笑っているジョージア。いくらしくて仕方がなかった。
「変われるなら変わってあげたいけど、頭痛はね……俺も嫌だから」
「耐えてみせます。その代わり……」
「何?何かご所望ですか?」
イタズラっぽく笑いながら、どうしようかな?と悩んだふりをしている。その姿は、私をさっきの出来事から離れさせるためにやっていることはわかっていた。なので、ジョージアの提案にのることにしている。
私は、ベッドに寝転がり、隣をぽんぽんと叩く。すると、こうかい?と、隣に並ぶように寝転がる。
「あっち向いてください!」
「えっ?あっち向くのかい?」
「はい、早く!」
仕方なさそうに、寝返りを打って後ろを向くジョージアに、私は抱きついた。そのまま、瞼を落とし、眠りにつく。
薬を飲んだおかけで、少しだけ痛みが和らいでいたので、すぐに眠りにはつけたようだ。
2時間ほど眠ったのだろう。朝食の用意をしているリアンと目が合った。
「おはようございます。アンナリーゼ様。具合が悪いと聞いていたのですが、お加減はいかがですか?」
「……おはよう、リアン。よく眠ったみたいね」
「えぇ、ジョージア様も心配されていらした。さっきより顔色もいいですし、よかったです」
「頭痛なんて、全然なったことがなかったから……」
「アンナリーゼ様は、いつも元気ですからね。弱っていらしたのが珍しくて、ジョージア様もウロウロと歩き回られていましたよ」
「ふふ、なんだか心配される側にいるのは変な気分よ」
「朝ごはんは、食べられそうですか?」
「うん、食べられそう」
「ジョージア様をお呼びしてきますね?」
頷くと朝食の用意だけ済ませ、部屋から出てジョージアを呼びに行ってくれた。
しばらくして、ジョージアが来た。
「起きたかい?」
「えぇ、起きました」
「具合は?」
「ジョージア様にいただいたお薬のおかげですっかり良くなりました!これで、ほどほどに執務を頑張れそうですよ!」
「それは、よかったのかな?たまには、ゆっくりしていてもいいと思うんだけど」
朝ごはん食べようかと声をかけ、隣に座り食べ始めた。
いつもの朝とは言いにくいが、晴れていてほどほどにいい朝ではある。
「そういえば、『予知夢』に続きがあるって話してなかった?」
「えぇ、そうなのです。いつとは、はっきり覚えていないのですが、ナタリーが作ってくれたドレスを着ていたので、始まりの夜会でのことだと思います」
「ふむ。それで、内容は覚えている?」
「……言いにくいのですが、ジョージア様が女性に刺されてしまう夢を見ました」
「……女性に?恨まれるようなことは、していないはずだけど……」
遠くを見ているジョージアにジトっとした視線を送ると、さらに顔を背けた。最近はアンジェラたちのこともあるし、領地にいることが多いので、そういうお誘いがされることはないのだが、心当たりはあるようだ。
「ん?」
ニコッと微笑むと、決して無いにもないよと逆に微笑んだ。怪しいとは思えないほど、爽やかな笑み。何もないことも知っているので、アンバーで作られたベーコンを口に押し込んでやった。
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