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「誰?何をしに来たの?」
「……」
「……だんまり?」
頭痛でフラフラになっていることを隠し、相対している。黒ずくめの人が立っているそこは、蝋燭の明かりでかろうじで見えていた。
じりっと詰め寄ろうとすると、逃げるように動く。
あっちは扉、そっちは窓。逃げられるのは避けたいわね。リリーは、今日は宿舎だったし……アデルは、こっちにいた気がするけど、気付くかしら?
扉と挟み撃ちできるといいんだけどな……
ズキズキと先程より痛む頭に判断が鈍ってきているような気さえして、これであっているのか?体は動くのか?考えるが、今日はうまくまとまらなかった。
『予知夢』を見てすぐだけど……こんなにハッキリ覚えていないなんて、能力が落ちてしまったのね。
少し寂しいような気もしながら、じっと見つめる。黒ずくめの人との間には食卓があり、飛び越えるしかないのだが……
「あなたは、何処から来たの?」
「……」
「公爵が話してるんだから、ちょっとくらい乗ってくれてもいいと思うんだけど?」
「ふっ、公爵か」
やっと話してくれるようになったのか、黒ずくめの男が嗤う。口元は見えていないが、侮蔑の意味が籠っているのもわかっている。
「公爵ですよ?私。あなたは、どこのどなた?」
「公爵っていっても仮初であろう?それに、子どもでも言わないだろ?」
「あなたが悪いことしているって自覚があるから、子どもでも言わないのよね」
言葉遊びをしたいわけではないが、少しでも頭痛が収まってくれるのを待ちたかった。
「おしゃべりは、このへんにしようか?仮初の公爵様」
クスと嗤う黒ずくめの男。腹もたつが、それどころではない。
「もっとおしゃべりしましょう!いいじゃない。夜は長いんだから、いっぱいお話しましょう?」
「そういうわけにもいかない。任務失敗に終わったことだし、帰らないと」
「任務失敗したから、はい、さよなら!ってわけにもいかないでしょ?それに、私を狙っているわけじゃなくて、ジョージア様を狙うだなんて……許さないよ?」
「許さないって言われても……困るし?」
だんだん軽い口調になっていく男。痛みが少しだけ和らぐ頭痛。
痛みがひいたので、にぃっと口角をあげ、駆けていく。バンッと手で机を叩き、食卓を飛び越えた。
そんなことをするとは思ってもいなかった男は、一瞬怯んでくれる。
「なっ、仮にも貴族の子女……夫人ともあろうものが!」
「ありがとう!そんなふうに言ってくれる人、本当に少ないから嬉しいわ!」
着地と同時に一気に間合いを詰める。どう考えても私の方が身軽だ。にゅっと近づくと両手て押され距離を取られる。幸い素人なのかと思わせる動きをし、ニコッと笑った。
「……な、なんだ?」
「あなた、本職は、暗殺とかじゃないよね?」
「はぁ?そんなわけ……!」
「本職さんは、失敗した時点で、まず逃げるための道筋を考える。今回だったら、私とおしゃべりしているすきに少しずつ窓や扉に近づいていくのが普通よね?」
「なっ、暗くて、……そう、暗くて見えなかった……」
「夜の暗殺にきて、夜目が利かないって致命傷よね?ジョージア様暗殺なら、それでもいいのかもしれないけど、私がいること、頭になかったかしら?」
「……くっ、な、何故そんなに」
「これでも名門武門の孫ですから、小さいころから剣も握っているし、暗器だって使えるわよ?」
ちょっと呆れたような男に、失礼ね!と声をかけると、逆に怒られた。
「割に合わないじゃないか!」
「命の代償に割に合う合わないはないわよ!」
体制を立て直し、迫ろうとしたとき、頭痛がぶり返す。
「うっ……」
「今だ!」
「……逃がさない!」
握っていたディルからもらったナイフを咄嗟に投げる。いつもは、加減をするが、今日は手元が狂った。
頭の痛さに目が霞む。
……ドサっ
……………………
男の気配はなくなり、うめき声すら聞こえてこない。
私はその場にペタリと座った。
「……生きていないわね」
ナイフの感触を思い出す。いつも練習をしているときは、母に言われ急所となる場所を狙うようにしている。うまく狙ったところへいったのだろう。
今回は、捕まえて背景を聞き出さないといけないのだ。殺すことは、最適ではない。
ふぅっと大きく息を吐き、こめかみをグリグリと押さえる。
「……アンナ?……大丈夫?」
男の倒れる音で、ジョージアと料理人が食堂へ入ってきた。月明かりでわかる場所に男は倒れ、私は暗がりに座っている。
「ひぃ……し、死んでる……?」
「……たぶん、死んでいるわ。触らないで、そのままに。アデルを呼んできてくれるかしら?」
震える料理人にアデルを呼びに行かせると、ジョージアが私に近づいてくる。明かりを見て、さらに頭が痛いと言ったので蝋燭を遠ざけてくれた。
「……アンナ」
「……大丈夫です。失敗してしまいました。暗殺者、殺して……」
「うん、大丈夫だよ」
ぎゅっと抱きしめてくれるその温かさにホッとし、あまりの頭痛に呻いたあと、私は倒れた。
アンナと呼ぶジョージアの声が聞こえた気がするが、頭の痛さにはかなわなかった。
「……」
「……だんまり?」
頭痛でフラフラになっていることを隠し、相対している。黒ずくめの人が立っているそこは、蝋燭の明かりでかろうじで見えていた。
じりっと詰め寄ろうとすると、逃げるように動く。
あっちは扉、そっちは窓。逃げられるのは避けたいわね。リリーは、今日は宿舎だったし……アデルは、こっちにいた気がするけど、気付くかしら?
扉と挟み撃ちできるといいんだけどな……
ズキズキと先程より痛む頭に判断が鈍ってきているような気さえして、これであっているのか?体は動くのか?考えるが、今日はうまくまとまらなかった。
『予知夢』を見てすぐだけど……こんなにハッキリ覚えていないなんて、能力が落ちてしまったのね。
少し寂しいような気もしながら、じっと見つめる。黒ずくめの人との間には食卓があり、飛び越えるしかないのだが……
「あなたは、何処から来たの?」
「……」
「公爵が話してるんだから、ちょっとくらい乗ってくれてもいいと思うんだけど?」
「ふっ、公爵か」
やっと話してくれるようになったのか、黒ずくめの男が嗤う。口元は見えていないが、侮蔑の意味が籠っているのもわかっている。
「公爵ですよ?私。あなたは、どこのどなた?」
「公爵っていっても仮初であろう?それに、子どもでも言わないだろ?」
「あなたが悪いことしているって自覚があるから、子どもでも言わないのよね」
言葉遊びをしたいわけではないが、少しでも頭痛が収まってくれるのを待ちたかった。
「おしゃべりは、このへんにしようか?仮初の公爵様」
クスと嗤う黒ずくめの男。腹もたつが、それどころではない。
「もっとおしゃべりしましょう!いいじゃない。夜は長いんだから、いっぱいお話しましょう?」
「そういうわけにもいかない。任務失敗に終わったことだし、帰らないと」
「任務失敗したから、はい、さよなら!ってわけにもいかないでしょ?それに、私を狙っているわけじゃなくて、ジョージア様を狙うだなんて……許さないよ?」
「許さないって言われても……困るし?」
だんだん軽い口調になっていく男。痛みが少しだけ和らぐ頭痛。
痛みがひいたので、にぃっと口角をあげ、駆けていく。バンッと手で机を叩き、食卓を飛び越えた。
そんなことをするとは思ってもいなかった男は、一瞬怯んでくれる。
「なっ、仮にも貴族の子女……夫人ともあろうものが!」
「ありがとう!そんなふうに言ってくれる人、本当に少ないから嬉しいわ!」
着地と同時に一気に間合いを詰める。どう考えても私の方が身軽だ。にゅっと近づくと両手て押され距離を取られる。幸い素人なのかと思わせる動きをし、ニコッと笑った。
「……な、なんだ?」
「あなた、本職は、暗殺とかじゃないよね?」
「はぁ?そんなわけ……!」
「本職さんは、失敗した時点で、まず逃げるための道筋を考える。今回だったら、私とおしゃべりしているすきに少しずつ窓や扉に近づいていくのが普通よね?」
「なっ、暗くて、……そう、暗くて見えなかった……」
「夜の暗殺にきて、夜目が利かないって致命傷よね?ジョージア様暗殺なら、それでもいいのかもしれないけど、私がいること、頭になかったかしら?」
「……くっ、な、何故そんなに」
「これでも名門武門の孫ですから、小さいころから剣も握っているし、暗器だって使えるわよ?」
ちょっと呆れたような男に、失礼ね!と声をかけると、逆に怒られた。
「割に合わないじゃないか!」
「命の代償に割に合う合わないはないわよ!」
体制を立て直し、迫ろうとしたとき、頭痛がぶり返す。
「うっ……」
「今だ!」
「……逃がさない!」
握っていたディルからもらったナイフを咄嗟に投げる。いつもは、加減をするが、今日は手元が狂った。
頭の痛さに目が霞む。
……ドサっ
……………………
男の気配はなくなり、うめき声すら聞こえてこない。
私はその場にペタリと座った。
「……生きていないわね」
ナイフの感触を思い出す。いつも練習をしているときは、母に言われ急所となる場所を狙うようにしている。うまく狙ったところへいったのだろう。
今回は、捕まえて背景を聞き出さないといけないのだ。殺すことは、最適ではない。
ふぅっと大きく息を吐き、こめかみをグリグリと押さえる。
「……アンナ?……大丈夫?」
男の倒れる音で、ジョージアと料理人が食堂へ入ってきた。月明かりでわかる場所に男は倒れ、私は暗がりに座っている。
「ひぃ……し、死んでる……?」
「……たぶん、死んでいるわ。触らないで、そのままに。アデルを呼んできてくれるかしら?」
震える料理人にアデルを呼びに行かせると、ジョージアが私に近づいてくる。明かりを見て、さらに頭が痛いと言ったので蝋燭を遠ざけてくれた。
「……アンナ」
「……大丈夫です。失敗してしまいました。暗殺者、殺して……」
「うん、大丈夫だよ」
ぎゅっと抱きしめてくれるその温かさにホッとし、あまりの頭痛に呻いたあと、私は倒れた。
アンナと呼ぶジョージアの声が聞こえた気がするが、頭の痛さにはかなわなかった。
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