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だるい体で
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「本当に大丈夫?」
「……大丈夫」
ベッドに座ると、私の前髪から一滴汗が落ちた。それを見て、額の汗を袖口で拭うとべったりとする。
「すごい汗だよ?本当に大丈夫なの?」
私の様子に心配してくれるので、何度も何度も聞いてくれる。
「気持ち悪いです。こんなに汗をかいたのは、初めて……」
もう一度汗を拭うと、ふぅ……と息を吐いた。ジョージアはそっと支えてくれ、様子の違う私をただただ支えてくれた。
「どうかしたの?」
「……夢を見ていました」
「『予知夢』かい?」
「はい。いつもははっきり覚えているのですけど、今日はあまりはっきり覚えていないんですけど……」
「そうか。怖い夢だったのかもしれないね?」
「どうして?」
「無意識のうちに拒否をしたってことはあるんじゃないか?アンナは人より多く夢を覚えていることが多いからね。『予知夢』自体が特殊な能力なんだから……何かしら体に負担があるのかもしれないね」
アンジェラをあやすように私を抱きしめてくれると安心する。少しずつ気持ちを落ちつけていくと、急激に頭が痛くなった。片手でこめかみの当たりを押さえる。
「頭痛?」
「えぇ、なんだか少し痛い気がします」
「アンナが頭痛って珍しいね。汗をかいたから体の水分が抜けたのかも。水、飲める?」
コクンと頷くと、ベッドから抜け出し、リアンが用意してくれていた水をコップに注ぎ、私に渡してくれたので飲む。乾いた体に染みわたるように体中に冷たい水が流れていくようだった。
「一息ついたかな?調子悪いだろうけど、汗、すごいから拭おうか?それとも、お風呂の方が……って、頭が痛いんだったね」
私からコップを取り上げ、優しく微笑んだ。
「お湯、もらってくるよ。体、拭こう」
ジョージアは部屋から出て行く。リアンを呼べは、お湯も用意してくれるだろうにとその背中を見送った。
部屋から消えるジョージアの背中。扉が閉まると同時に胸騒ぎのようなものを感じとても不安になる。
ジョージアの後を追うようにベッドから降り、扉へと向かう。頭がいっそ痛くなり、途中でギュっと目を瞑り痛さに耐えながらそろそろと歩いた。
扉に辿り着いたとき、出入口のところにある模擬剣が目についた。何故か持っていったほうがいいような気がして、柄を握る。
……これも。
ディルにもらったナイフも寝巻きの紐に挟み込み、ジョージアが向かったであろう食堂の方へと向かった。
「……ジョージア様」
熱にうなされているようなハッキリしない頭。割れるのではないかと思うほど痛く、壁にもたれかかり、その場に座り込んでしまう。
いつもと違う私に戸惑いながらも、部屋から出ていくジョージアを思いだし、模擬剣に寄りかかるようにたち立ち上がった。
「こんなこと初めて……」
静かな廊下の先をぼんやり見つめる。真夜中ということもあるが、領地の屋敷は静まりかえっていた。ここには誰も住んでおらず、私だけが取り残されているのではないかと錯覚する。
「……早く行かなきゃ……ジョージア様」
壁に手をつき、ヨタヨタと歩き始めた。いつもは手にしっくりしているはずの模擬剣は、今日はとても重く感じる。引きずりながら食堂へと向かい一歩一歩と歩を進めた。
……さっき見た『予知夢』は、2種類あった。食堂と夜会。私がその様子を見てたってことは……向かう先、ジョージア様に何か……ある。
最悪の結果を今更ながら鮮明に思い出し、怖くなり早くジョージアに合流したいと気持ちだけが急く。
想うように動かないだるい体を少しずつ前へと動かす。
さっきの寝汗が冷えたというのもあるが、新しく冷や汗も拭いてきた。
裸足でフラフラしながらゆっくり歩き、食堂に入る。
ジョージアは、食堂の奥にある調理場に行ったのだろう。朝の準備のために夜勤をしてくれている料理人がいるので、お湯はそこでもらうつもりだったようだ。
「……あぁ。じゃあ、冷めるとダメだから行くよ!」
……ジョージア様の声が聞こえる。
ホッとした。何事もなかったのだと。そのままこちらに来てくれるのかと思っていたら、調理場のほうに振り返るジョージア。
「言葉が恥ずかしいなら、赤い薔薇を一本渡すといい。庭のを持って行っていいから、感謝の意味も含めて渡せば喜ばれる」
「……ありがとうございます。夜勤明けにいただいて行きます!」
ジョージアが料理人にあまりにもらしい一言を言っているので、クスっと思わず笑う。声をかけようとしたとき、月明かりに真っ暗な部屋で鈍く光るものが見えた。食堂には、一切そんな光るものをおいていないはずなので、目を凝らしてその場をみる。
闇夜に乗じて、一人の黒ずくめの人間がジョージアを襲おうとかけ始めた。私は咄嗟に握っていた模擬剣その人物目掛けて投げた。見事、頭に命中し、すごい音で倒れた。その音に驚きジョージアも音の方を見ている。料理人も慌てて調理場からで出来た。
「ジョージア様、離れてください!」
私は叫び、頭痛でフラフラになりながら、駆け出した。もちろん、手にはディルにもらったナイフを抜き身にして、相対する。
何が起こったのかわからないジョージアは、言われたとおりに調理場へ入り、料理人がかわりに飛び出てきて素早く蝋燭に火をつけてくれた。模擬剣が頭に命中した黒ずくめの男は脳震盪を起こしたのか頭を振り、そろそろとゆっくり立ち上がり、私の方をきつくにらんだのである。
「……大丈夫」
ベッドに座ると、私の前髪から一滴汗が落ちた。それを見て、額の汗を袖口で拭うとべったりとする。
「すごい汗だよ?本当に大丈夫なの?」
私の様子に心配してくれるので、何度も何度も聞いてくれる。
「気持ち悪いです。こんなに汗をかいたのは、初めて……」
もう一度汗を拭うと、ふぅ……と息を吐いた。ジョージアはそっと支えてくれ、様子の違う私をただただ支えてくれた。
「どうかしたの?」
「……夢を見ていました」
「『予知夢』かい?」
「はい。いつもははっきり覚えているのですけど、今日はあまりはっきり覚えていないんですけど……」
「そうか。怖い夢だったのかもしれないね?」
「どうして?」
「無意識のうちに拒否をしたってことはあるんじゃないか?アンナは人より多く夢を覚えていることが多いからね。『予知夢』自体が特殊な能力なんだから……何かしら体に負担があるのかもしれないね」
アンジェラをあやすように私を抱きしめてくれると安心する。少しずつ気持ちを落ちつけていくと、急激に頭が痛くなった。片手でこめかみの当たりを押さえる。
「頭痛?」
「えぇ、なんだか少し痛い気がします」
「アンナが頭痛って珍しいね。汗をかいたから体の水分が抜けたのかも。水、飲める?」
コクンと頷くと、ベッドから抜け出し、リアンが用意してくれていた水をコップに注ぎ、私に渡してくれたので飲む。乾いた体に染みわたるように体中に冷たい水が流れていくようだった。
「一息ついたかな?調子悪いだろうけど、汗、すごいから拭おうか?それとも、お風呂の方が……って、頭が痛いんだったね」
私からコップを取り上げ、優しく微笑んだ。
「お湯、もらってくるよ。体、拭こう」
ジョージアは部屋から出て行く。リアンを呼べは、お湯も用意してくれるだろうにとその背中を見送った。
部屋から消えるジョージアの背中。扉が閉まると同時に胸騒ぎのようなものを感じとても不安になる。
ジョージアの後を追うようにベッドから降り、扉へと向かう。頭がいっそ痛くなり、途中でギュっと目を瞑り痛さに耐えながらそろそろと歩いた。
扉に辿り着いたとき、出入口のところにある模擬剣が目についた。何故か持っていったほうがいいような気がして、柄を握る。
……これも。
ディルにもらったナイフも寝巻きの紐に挟み込み、ジョージアが向かったであろう食堂の方へと向かった。
「……ジョージア様」
熱にうなされているようなハッキリしない頭。割れるのではないかと思うほど痛く、壁にもたれかかり、その場に座り込んでしまう。
いつもと違う私に戸惑いながらも、部屋から出ていくジョージアを思いだし、模擬剣に寄りかかるようにたち立ち上がった。
「こんなこと初めて……」
静かな廊下の先をぼんやり見つめる。真夜中ということもあるが、領地の屋敷は静まりかえっていた。ここには誰も住んでおらず、私だけが取り残されているのではないかと錯覚する。
「……早く行かなきゃ……ジョージア様」
壁に手をつき、ヨタヨタと歩き始めた。いつもは手にしっくりしているはずの模擬剣は、今日はとても重く感じる。引きずりながら食堂へと向かい一歩一歩と歩を進めた。
……さっき見た『予知夢』は、2種類あった。食堂と夜会。私がその様子を見てたってことは……向かう先、ジョージア様に何か……ある。
最悪の結果を今更ながら鮮明に思い出し、怖くなり早くジョージアに合流したいと気持ちだけが急く。
想うように動かないだるい体を少しずつ前へと動かす。
さっきの寝汗が冷えたというのもあるが、新しく冷や汗も拭いてきた。
裸足でフラフラしながらゆっくり歩き、食堂に入る。
ジョージアは、食堂の奥にある調理場に行ったのだろう。朝の準備のために夜勤をしてくれている料理人がいるので、お湯はそこでもらうつもりだったようだ。
「……あぁ。じゃあ、冷めるとダメだから行くよ!」
……ジョージア様の声が聞こえる。
ホッとした。何事もなかったのだと。そのままこちらに来てくれるのかと思っていたら、調理場のほうに振り返るジョージア。
「言葉が恥ずかしいなら、赤い薔薇を一本渡すといい。庭のを持って行っていいから、感謝の意味も含めて渡せば喜ばれる」
「……ありがとうございます。夜勤明けにいただいて行きます!」
ジョージアが料理人にあまりにもらしい一言を言っているので、クスっと思わず笑う。声をかけようとしたとき、月明かりに真っ暗な部屋で鈍く光るものが見えた。食堂には、一切そんな光るものをおいていないはずなので、目を凝らしてその場をみる。
闇夜に乗じて、一人の黒ずくめの人間がジョージアを襲おうとかけ始めた。私は咄嗟に握っていた模擬剣その人物目掛けて投げた。見事、頭に命中し、すごい音で倒れた。その音に驚きジョージアも音の方を見ている。料理人も慌てて調理場からで出来た。
「ジョージア様、離れてください!」
私は叫び、頭痛でフラフラになりながら、駆け出した。もちろん、手にはディルにもらったナイフを抜き身にして、相対する。
何が起こったのかわからないジョージアは、言われたとおりに調理場へ入り、料理人がかわりに飛び出てきて素早く蝋燭に火をつけてくれた。模擬剣が頭に命中した黒ずくめの男は脳震盪を起こしたのか頭を振り、そろそろとゆっくり立ち上がり、私の方をきつくにらんだのである。
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