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葡萄畑Ⅱ
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「なんと、酒を作る作業をするために集められた人が、結婚とな?」
「吊り橋効果的なものですかね?」
「協同作業をすることで、その人となりがわかるとかで……近衛からも何人か来ているので、人気ですよね。高給取りですし……結婚したら、この領地から出ることでも考えているんでしょうか?」
「……たぶん、逆だと思う。アンバー領って妙に居心地がいいから、近衛を辞めるものが多くなるんじゃないかな?俺も辞めるし」
「えっ?辞める?」
「アデルは、辞めるというより、引き抜きかな?私がお願いしたのですよ!」
ニッコリ笑いかけると、事情を知っているリリー以外が苦笑いをしていた。
「では、父様も近衛を辞めるのでしょうか?」
「ウィルは、辞めないわ!お給金の問題もあるけど、ウィルはとても強いから、小競り合いの抑止になったりするのよ。エリックが前線へ行けないから、ウィルは辞めないわ!まぁ、本人は辞めたいって言ってるけど……近衛は領地の警備に比べて危険も多いから。レオやミアという家族が出来たからこその考えなんだと思うよ」
「……父様」
「大丈夫。強いから」
「でも……」
レオの頭を撫でると、心配そうにしている顔が少しだけ変わった。
「僕が、父様を助けられるくらい強くなればいいんですね。アンナ様の変わりに父様が背を預けられるくらいに」
「うん。そうだね。でも、そんなに急がなくていい。まだ、10年はあるから。ゆっくりウィルに追いつけるよう訓練しましょう!」
首を傾げるレオに微笑む。目の前に葡萄畑が見えてきたので、みなに馬から降りるようにいい小屋に馬の手綱をくくりつけた。
「さぁ、行きましょう!ご案内しますよ!」
「アンナリーゼは生き生きしているね?」
「こういったところで駆け回っているほうが、私らしいですから」
レオと手を繋ぎ、葡萄畑へと入って行く。ユービスが事前に視察へ向かうことを葡萄農家へ言ってくれてあったので、少し上ったところで、葡萄の生育を見ながら待っていてくれたようだった。
「今年の葡萄の出来はどうかしら?」
「アンナリーゼ様?おはようございます!」
「おはよう!今日は案内をしてくれると聞いて来たのだけど、よかったかしら?」
「えぇ、もちろん!お連れの方……は、前領主様ですね!一度拝見したことがあります。ようこそ、葡萄畑へ!」
「あぁ、今日は厄介になるね。長く領主をしていたのに実は知らなかったんだ。アンナリーゼに連れてきてもらったところだよ。昨日の葡萄酒……『赤い涙』は本当に美味かった!」
「それはよかった。サムのじいさんに言ってもらえると喜ぶと思う……いや、思います」
こちらへと案内してくれる葡萄畑を管理しているの農夫は、説明をしながら歩いて行く。
「こっちにあるのが一般的な葡萄酒を造る葡萄になります。これは、渋みが強いので、加工しないと食べれたものではありません。香りはいいので、虫たちは喜んで来ますが……そういえば、香水の原料もこの葡萄から取ったと聞いていますが、ご存じですか?」
「葡萄を使った香水の話は聞いたけど、どれをとは聞いていないわ。確かに甘くて美味しそうな香りがするわ!」
「蜂や虫を集めるためのこの葡萄たちの工夫です」
「一般的と言う話だが、この葡萄はどんな酒になるんだい?」
「大旦那様が昨日飲まれたのがこの領地で最高級な『赤い涙』です。そこからずぅーっと下方にある、俺たちみたいなものが安酒として飲むものがこの葡萄で造られます」
リリーが説明をしてくれる。葡萄酒にも順位がある。もちろん、『赤い涙』は特級のお酒となるのだが、この葡萄で造る酒は、渋みが強すぎるため、3級にもなれないものだった。なので、安価で手に入りやすい。渋みを活かして料理にも使うと聞いたことがあるが、詳しくないので黙っておく。
「そうかい。それもぜひ飲んでみたい。何種類か葡萄酒にもあるのかな?」
「今、大きくわけて4種類作っています。上位が1級酒。貴族に好まれるものになります。領地外だと2級酒が好まれますね。少しずつですが、売るようになっているものです。あとは3級酒で、1番幅広く流通しているものになります。リリーが言ったお酒は、3級酒に匹敵しないお酒のことを言うのですが、渋みがえぐいほどのものがたまに出来上がります。等外として扱っていて、酔えればいいという理由で、最近では土木工事をしている近衛たちがよく飲んでいると聞きおよんでいますわ」
「よくご存じですね?この葡萄では、2級のものが稀にできることがありますが、基本的には3級か等外のものが多い。昔なら捨てられるような酒になるんですが、販売許可をユービス様が取ってくださったおかげで、利益のギリギリで出しています。丈夫な瓶を使ってくれているおかげで、その分の経費が浮くので安く提供が出来ています」
「やっぱり、瓶の回収制度は、いいことね。他のところでもやはり助かっているいるのよ。砂糖もだけど、塩も同じようにしているから」
「手を伸ばしすぎって叱られたんだけど……売れるし、なるべく地産地消をして経費は下げたいじゃない?塩って生きている限り、必要なものだし」
ふふっと笑うと確かにと声が返ってくる。
「事業は広げても利益がでないと行けないから、まだまだこれから研究を重ねていくんだけど、それは、塩だけじゃなく、葡萄も含めた農産物もよね!私の魔法使いたちは、役に立っているかしら?」
「もちろんです!もう少ししたら、早くに取れる葡萄の木が見えます。見て欲しいものがありますから、ぜひに!」
そういってニッと笑う。何があるのか、楽しみである。
「吊り橋効果的なものですかね?」
「協同作業をすることで、その人となりがわかるとかで……近衛からも何人か来ているので、人気ですよね。高給取りですし……結婚したら、この領地から出ることでも考えているんでしょうか?」
「……たぶん、逆だと思う。アンバー領って妙に居心地がいいから、近衛を辞めるものが多くなるんじゃないかな?俺も辞めるし」
「えっ?辞める?」
「アデルは、辞めるというより、引き抜きかな?私がお願いしたのですよ!」
ニッコリ笑いかけると、事情を知っているリリー以外が苦笑いをしていた。
「では、父様も近衛を辞めるのでしょうか?」
「ウィルは、辞めないわ!お給金の問題もあるけど、ウィルはとても強いから、小競り合いの抑止になったりするのよ。エリックが前線へ行けないから、ウィルは辞めないわ!まぁ、本人は辞めたいって言ってるけど……近衛は領地の警備に比べて危険も多いから。レオやミアという家族が出来たからこその考えなんだと思うよ」
「……父様」
「大丈夫。強いから」
「でも……」
レオの頭を撫でると、心配そうにしている顔が少しだけ変わった。
「僕が、父様を助けられるくらい強くなればいいんですね。アンナ様の変わりに父様が背を預けられるくらいに」
「うん。そうだね。でも、そんなに急がなくていい。まだ、10年はあるから。ゆっくりウィルに追いつけるよう訓練しましょう!」
首を傾げるレオに微笑む。目の前に葡萄畑が見えてきたので、みなに馬から降りるようにいい小屋に馬の手綱をくくりつけた。
「さぁ、行きましょう!ご案内しますよ!」
「アンナリーゼは生き生きしているね?」
「こういったところで駆け回っているほうが、私らしいですから」
レオと手を繋ぎ、葡萄畑へと入って行く。ユービスが事前に視察へ向かうことを葡萄農家へ言ってくれてあったので、少し上ったところで、葡萄の生育を見ながら待っていてくれたようだった。
「今年の葡萄の出来はどうかしら?」
「アンナリーゼ様?おはようございます!」
「おはよう!今日は案内をしてくれると聞いて来たのだけど、よかったかしら?」
「えぇ、もちろん!お連れの方……は、前領主様ですね!一度拝見したことがあります。ようこそ、葡萄畑へ!」
「あぁ、今日は厄介になるね。長く領主をしていたのに実は知らなかったんだ。アンナリーゼに連れてきてもらったところだよ。昨日の葡萄酒……『赤い涙』は本当に美味かった!」
「それはよかった。サムのじいさんに言ってもらえると喜ぶと思う……いや、思います」
こちらへと案内してくれる葡萄畑を管理しているの農夫は、説明をしながら歩いて行く。
「こっちにあるのが一般的な葡萄酒を造る葡萄になります。これは、渋みが強いので、加工しないと食べれたものではありません。香りはいいので、虫たちは喜んで来ますが……そういえば、香水の原料もこの葡萄から取ったと聞いていますが、ご存じですか?」
「葡萄を使った香水の話は聞いたけど、どれをとは聞いていないわ。確かに甘くて美味しそうな香りがするわ!」
「蜂や虫を集めるためのこの葡萄たちの工夫です」
「一般的と言う話だが、この葡萄はどんな酒になるんだい?」
「大旦那様が昨日飲まれたのがこの領地で最高級な『赤い涙』です。そこからずぅーっと下方にある、俺たちみたいなものが安酒として飲むものがこの葡萄で造られます」
リリーが説明をしてくれる。葡萄酒にも順位がある。もちろん、『赤い涙』は特級のお酒となるのだが、この葡萄で造る酒は、渋みが強すぎるため、3級にもなれないものだった。なので、安価で手に入りやすい。渋みを活かして料理にも使うと聞いたことがあるが、詳しくないので黙っておく。
「そうかい。それもぜひ飲んでみたい。何種類か葡萄酒にもあるのかな?」
「今、大きくわけて4種類作っています。上位が1級酒。貴族に好まれるものになります。領地外だと2級酒が好まれますね。少しずつですが、売るようになっているものです。あとは3級酒で、1番幅広く流通しているものになります。リリーが言ったお酒は、3級酒に匹敵しないお酒のことを言うのですが、渋みがえぐいほどのものがたまに出来上がります。等外として扱っていて、酔えればいいという理由で、最近では土木工事をしている近衛たちがよく飲んでいると聞きおよんでいますわ」
「よくご存じですね?この葡萄では、2級のものが稀にできることがありますが、基本的には3級か等外のものが多い。昔なら捨てられるような酒になるんですが、販売許可をユービス様が取ってくださったおかげで、利益のギリギリで出しています。丈夫な瓶を使ってくれているおかげで、その分の経費が浮くので安く提供が出来ています」
「やっぱり、瓶の回収制度は、いいことね。他のところでもやはり助かっているいるのよ。砂糖もだけど、塩も同じようにしているから」
「手を伸ばしすぎって叱られたんだけど……売れるし、なるべく地産地消をして経費は下げたいじゃない?塩って生きている限り、必要なものだし」
ふふっと笑うと確かにと声が返ってくる。
「事業は広げても利益がでないと行けないから、まだまだこれから研究を重ねていくんだけど、それは、塩だけじゃなく、葡萄も含めた農産物もよね!私の魔法使いたちは、役に立っているかしら?」
「もちろんです!もう少ししたら、早くに取れる葡萄の木が見えます。見て欲しいものがありますから、ぜひに!」
そういってニッと笑う。何があるのか、楽しみである。
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