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知らなかったこと
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「アンナ様、このジュースおいしいですね?」
「これは、お酒を作る用のものとは別の種類なのよ」
「葡萄にも種類があるのですか?」
「何種類かあるって、聞いているわ!私、種類までは言えないけど……色が濃く渋みの多いもの、渋みを抑えスッキリ飲めるもの、ジュースのように甘味があって飲みやすいけど度数が高いものがあったはずよ!」
「みなさんが飲んでいるのは、アンバー領の特産品と言われている『赤い涙』ですか?」
「そうよ!ウィルにもあげたんだけどね、1本。レオがお酒を飲んでもいい年になったら、封をあけるって言っていたよ。今売り出している『赤い涙』は本当にいいお酒だから、楽しみにしていてね!」
「知りませんでした。父様がそんなふうに想ってくれていたなんて」
「ふふっ、ウィルは、レオやミアのことを本当に大切にしているから、楽しみにしているのよ!」
嬉しそうに頬を緩めるレオ。
「そういえば、アンナも何かしているのかい?」
「何かって、何がですか?」
「ほら、アンジーたちのデビュタントのときとか。まだ、10年くらいあるんだけど……」
「ジョージア様は何か用意しているのですか?」
「……それは、秘密」
「ジョージア様が秘密なのに、私は言うのですか?」
「あぁ、そうだね。でも、聞きたいよね」
私には言うようにと促してくるジョージアは、少々酔っているのかもしれない。義父も何か考えているようだった。
「ジョージア様は、デビュタントのときは、何をもらったのですか?」
「……俺?」
「はい、何だったんですか?」
「両親からもらったのは……」
チラッと義父を見ている。私も視線を向けたら、ニコリと微笑まれた。私のその意味がわからず、小首を傾げる。
「領地の別荘」
「………………別荘?別荘って……」
「そう、今、俺たちが住んでいる屋敷だね?」
「……えっと、私、改装とかしちゃいましたし」
「うん」
「……友人も住んでますし」
「そうだね?」
「……なんなら、住民の憩いの場的な?」
「あぁ、そんな感じ」
「……お店もあるし、住民の手続きする場所としても提供してますよ?」
「そうだね。壁とか抜いて、俺がもらった別荘の痕形といえば、外観くらいかな?玄関ホールで踊ったこともあるしね?」
冷たい汗がどっと出て、背中を伝う。今、知った。ジョージアが、もらっていたなんて……知らなかった。言ってくれれば、別の建物を建てたのに。
「どうかした?アンナ」
「……言ってくれればよかったのに」
「いいんだ。俺の資産だったとしても、結局、アンバー領へ寄り付きもしなかった俺にとって、あってもなくてもいいものだったわけだし、アンナがやりたいことに使ってもらえるなら、これ以上の喜びはないだろ?侍従しかいなかった別荘は、とても賑やかで活気もあたたかみもあって俺は好きだよ」
「確かにデビュタントのときに、ジョージアへ渡したが……宝の持ち腐れだったのだから、今の形が一番別荘の使い方として、あっているんだろうね」
義父が助け船を出してくれるが、余計に慌てることになった。今、味方はいないかもしれないなと、汗をハンカチで拭う。
「何?心配しなくても、アンナの役にたてたんだから、いいって話だし、俺もアンバーの別荘で暮らすだなんて思ってもなかった。ちゃんと、家族の居場所は整えてくれていたんだから、問題ないんだよ!」
クスクスと笑うジョージアに苦笑いをしておく。
「アンナリーゼは、ご両親から何をもらったんだい?」
「私は、アメジストと金の地金のピアスとブレスレットです……」
「金の?」
ジョージアは何か察したのだろうか。視線がきつくなった。
「……デビュタントのお祝いに、サンストーン家からもいただいたので」
「アンナリーゼは、サンストーン家の令息とデビュタントだったのかい?」
「……はい。兄とデビュタントへ行くものと思っていたら、そうなっていました」
「……ジョージア」
「なんでしょう?父上」
「本当にアンナリーゼが選んでくれてよかったなぁ……アンナリーゼの実質の婚約者はサンストーン家の令息だったみたいだ。知っていたかい?」
「……知っているも何も、お互い想い合っていたでしょう?本当、よく俺の元に来てくれたことです。同じ筆頭公爵家でも、片や名ばかりの没落寸前の貴族。片や公爵は宰相で領地運営も素晴らしいと聞いているし、ヘンリー殿は将来の宰相候補と聞きおよんでいますよ」
ジョージアが私の手をとり、自身の掌の上に私の手を重ねる。お酒を飲んでいるからか、やたら温かい手をそっと握る。
「アンナは、ヘンリー殿と幼馴染。確か王太子もそうだったはずで、王太子はアンナに気があるというのを隠そうともしていなかったくらいですからね。あぁ、学生のころの黒い気持ちが出てきそうです」
「ジョージア様、飲みすぎではないですか?」
「そんなことはないよ?アンナは、気が付いていた?俺がどれほどアンナのことを見ていたか。いつも側にいるヘンリー殿に嫉妬していたか。きっと、気付いてなかったんだろうねぇ?あの二人のどちらかと結婚するとは言われていたけど、公もインゼロの皇子たちからも婚約打診をもらっていたそうだから」
「…………気付いていましたよ。ジョージア様が、私のことを想ってくださっていたことも」
「ほう、アンナリーゼ。そのあたりを詳しく教えてくれ!」
「恋バナは、お義母様が喜ぶ話ですけど……」
「残念なことにここにはいないが、私から伝えておこう。何故、決まっていたも同然の婚約ではなく、ジョージアだったんだい?」
「……私が、ジョージア様を慕っていたからです。他に理由はありませんよ!」
ニッコリと義父に笑いかけると、それは嬉しい話だと微笑んだ。
「では、そのまま、年を重ねていっても、ジョージアのことを愛してあげておくれ。甘く育ててしまったものだから、アンナリーゼから見れば、まだまだだろうが」
ジョージアの銀の髪をそっと撫でる。飲みすぎたらしく、酔いつぶれてしまったようで、愛おしそうに義父の眼差しが優しい。
「生きている限り、ジョージア様の側で。こんな優しい方の側にいられることは、私にとっても幸せです」
私もジョージアの銀の髪を玩ぶと、周りにいたリリーやアデルが微笑ましそうにこちらを見られていて、何だか恥ずかしい夕食となった。
「これは、お酒を作る用のものとは別の種類なのよ」
「葡萄にも種類があるのですか?」
「何種類かあるって、聞いているわ!私、種類までは言えないけど……色が濃く渋みの多いもの、渋みを抑えスッキリ飲めるもの、ジュースのように甘味があって飲みやすいけど度数が高いものがあったはずよ!」
「みなさんが飲んでいるのは、アンバー領の特産品と言われている『赤い涙』ですか?」
「そうよ!ウィルにもあげたんだけどね、1本。レオがお酒を飲んでもいい年になったら、封をあけるって言っていたよ。今売り出している『赤い涙』は本当にいいお酒だから、楽しみにしていてね!」
「知りませんでした。父様がそんなふうに想ってくれていたなんて」
「ふふっ、ウィルは、レオやミアのことを本当に大切にしているから、楽しみにしているのよ!」
嬉しそうに頬を緩めるレオ。
「そういえば、アンナも何かしているのかい?」
「何かって、何がですか?」
「ほら、アンジーたちのデビュタントのときとか。まだ、10年くらいあるんだけど……」
「ジョージア様は何か用意しているのですか?」
「……それは、秘密」
「ジョージア様が秘密なのに、私は言うのですか?」
「あぁ、そうだね。でも、聞きたいよね」
私には言うようにと促してくるジョージアは、少々酔っているのかもしれない。義父も何か考えているようだった。
「ジョージア様は、デビュタントのときは、何をもらったのですか?」
「……俺?」
「はい、何だったんですか?」
「両親からもらったのは……」
チラッと義父を見ている。私も視線を向けたら、ニコリと微笑まれた。私のその意味がわからず、小首を傾げる。
「領地の別荘」
「………………別荘?別荘って……」
「そう、今、俺たちが住んでいる屋敷だね?」
「……えっと、私、改装とかしちゃいましたし」
「うん」
「……友人も住んでますし」
「そうだね?」
「……なんなら、住民の憩いの場的な?」
「あぁ、そんな感じ」
「……お店もあるし、住民の手続きする場所としても提供してますよ?」
「そうだね。壁とか抜いて、俺がもらった別荘の痕形といえば、外観くらいかな?玄関ホールで踊ったこともあるしね?」
冷たい汗がどっと出て、背中を伝う。今、知った。ジョージアが、もらっていたなんて……知らなかった。言ってくれれば、別の建物を建てたのに。
「どうかした?アンナ」
「……言ってくれればよかったのに」
「いいんだ。俺の資産だったとしても、結局、アンバー領へ寄り付きもしなかった俺にとって、あってもなくてもいいものだったわけだし、アンナがやりたいことに使ってもらえるなら、これ以上の喜びはないだろ?侍従しかいなかった別荘は、とても賑やかで活気もあたたかみもあって俺は好きだよ」
「確かにデビュタントのときに、ジョージアへ渡したが……宝の持ち腐れだったのだから、今の形が一番別荘の使い方として、あっているんだろうね」
義父が助け船を出してくれるが、余計に慌てることになった。今、味方はいないかもしれないなと、汗をハンカチで拭う。
「何?心配しなくても、アンナの役にたてたんだから、いいって話だし、俺もアンバーの別荘で暮らすだなんて思ってもなかった。ちゃんと、家族の居場所は整えてくれていたんだから、問題ないんだよ!」
クスクスと笑うジョージアに苦笑いをしておく。
「アンナリーゼは、ご両親から何をもらったんだい?」
「私は、アメジストと金の地金のピアスとブレスレットです……」
「金の?」
ジョージアは何か察したのだろうか。視線がきつくなった。
「……デビュタントのお祝いに、サンストーン家からもいただいたので」
「アンナリーゼは、サンストーン家の令息とデビュタントだったのかい?」
「……はい。兄とデビュタントへ行くものと思っていたら、そうなっていました」
「……ジョージア」
「なんでしょう?父上」
「本当にアンナリーゼが選んでくれてよかったなぁ……アンナリーゼの実質の婚約者はサンストーン家の令息だったみたいだ。知っていたかい?」
「……知っているも何も、お互い想い合っていたでしょう?本当、よく俺の元に来てくれたことです。同じ筆頭公爵家でも、片や名ばかりの没落寸前の貴族。片や公爵は宰相で領地運営も素晴らしいと聞いているし、ヘンリー殿は将来の宰相候補と聞きおよんでいますよ」
ジョージアが私の手をとり、自身の掌の上に私の手を重ねる。お酒を飲んでいるからか、やたら温かい手をそっと握る。
「アンナは、ヘンリー殿と幼馴染。確か王太子もそうだったはずで、王太子はアンナに気があるというのを隠そうともしていなかったくらいですからね。あぁ、学生のころの黒い気持ちが出てきそうです」
「ジョージア様、飲みすぎではないですか?」
「そんなことはないよ?アンナは、気が付いていた?俺がどれほどアンナのことを見ていたか。いつも側にいるヘンリー殿に嫉妬していたか。きっと、気付いてなかったんだろうねぇ?あの二人のどちらかと結婚するとは言われていたけど、公もインゼロの皇子たちからも婚約打診をもらっていたそうだから」
「…………気付いていましたよ。ジョージア様が、私のことを想ってくださっていたことも」
「ほう、アンナリーゼ。そのあたりを詳しく教えてくれ!」
「恋バナは、お義母様が喜ぶ話ですけど……」
「残念なことにここにはいないが、私から伝えておこう。何故、決まっていたも同然の婚約ではなく、ジョージアだったんだい?」
「……私が、ジョージア様を慕っていたからです。他に理由はありませんよ!」
ニッコリと義父に笑いかけると、それは嬉しい話だと微笑んだ。
「では、そのまま、年を重ねていっても、ジョージアのことを愛してあげておくれ。甘く育ててしまったものだから、アンナリーゼから見れば、まだまだだろうが」
ジョージアの銀の髪をそっと撫でる。飲みすぎたらしく、酔いつぶれてしまったようで、愛おしそうに義父の眼差しが優しい。
「生きている限り、ジョージア様の側で。こんな優しい方の側にいられることは、私にとっても幸せです」
私もジョージアの銀の髪を玩ぶと、周りにいたリリーやアデルが微笑ましそうにこちらを見られていて、何だか恥ずかしい夕食となった。
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