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好きなことをしてますよ?
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処理場を後に、本来の目的地である葡萄畑へと足を向ける。馬がゆっくりパカパカと歩く音だけが聞こえていた。
私は久しぶりの領地をきょろきょろと見て回る。どこもかしこも春の収穫、作付けに向け忙しそうであった。
「それにしても、アンナリーゼはどうしてこんなにいろいろと思いつくんだい?」
「どうしてと言われましても……両親が私に教えてくれたことや他領で見たおもしろいことを取り入れているだけなのですけど……」
「それにしたって、私の半分も生きていないのに、思い切りがいいし、もう何十年も領地運営をしてきたかのような采配を見事にするじゃないか。ジョージアにはとてもじゃないけど、真似のできないことだよ?」
「そんなことないですよ!ジョージア様だって、健全な……」
「アンナ、そんなお世辞はいらないよ。出来ていなかったことは、ちゃんとわかっているから」
「ほら、ジョージアのいうとおり。私も出来ていたとは言えないが……アンナリーゼの年で、やはり、これだけの運営ができるのは異常だよ?」
「……それなら、私は、人に恵まれたのだと思います。確かに知識は、両親から得たものが多いと思います。領地や領民へ対する気構えや考え方などは、今すぐ育つものではありませんから、両親が将来、どこの貴族へ嫁いだとしてもと考えてくれていたのでしょう」
「人に恵まれたというのは?」
うーん、と少し悩んだようなふりをして、ニコリと義父に笑いかける。
「私の人生で、出会えた人です。確かによくない人も含まれますが、概ね、良好な人間関係が出来ているのだと。学園で同級生だった、ウィルやセバス、ナタリーは本当に貴重な存在です。そのあと出会ったサラおばさんやリリーたち領民やノクトとイチアというかかせない人もいますね!アデルたち近衛との出会いもそうですし、私一人でも本当にたくさんの人に会って、話をして、考え方を学んだり、知識を共有したり……ここ数年で私の周りは本当に目まぐるしく変わりました。なにより、私にとってジョージア様は特別ですし、お義父様やお義母様に出会えたことも素敵な出会いでした!」
「アンナリーゼは、人を大切にするね。貴族の生まれであるにも関わらず、何より領民たちに寄り添おうとする。ジョージアが知っている話は、ほんの一部なんだろうな。そうか、セバスくんあたりが、最初から関わっているんだね。じっくり話を聞こうとしよう」
納得顔で頷いている義父に、恥ずかしいですと呟く。
「何も恥ずかしがることはないさ。この領地のものしか知らないアンナリーゼや友人たち、アンバー領に関わってくれている人々の活躍の話を聞くんだ。とりわけ、領主がその先頭にたって、道を切り開いていっているということだろう?」
「好きなようにさせてもらっているだけです。みなには迷惑もかけているし、全てが成功しているとは思っていません!」
「全て成功していたら、きっと、おもしろくないだろう?失敗もあって、そこから学び、新しいことを始める。アンナリーゼは、人より次に向けての始まりが早いんだよ。それについて行けている人だけが、アンナリーゼの周りを固めている。本人を前にいうのはなんだが、ジョージアでは正直なところ、アンバー領は取り返しのつかない状態になっていたかもしれないね」
難しい顔をしながら、ジョージアをチラリと見る義父。視線があったようで、苦笑いをしている。
「ジョージア様にはジョージア様の魅力がありますよ?」
「そうかい?アンナリーゼがそういうのであれば、嬉しいね。その魅力を聞いても」
チラリとジョージアを見てみた。内心焦っているのだろうか?少々落ち着きがないように見えたが、視線があえば優しく笑いかけてくれた。
「ジョージア様の魅力は、読書量ですね。あと、記憶力。アンバー領のことをよく勉強されています。私にしても他のものにしても、他領の出身であるので、何かを始めるときには、まず、アンバー領のことを調べるところから始めますが、ジョージア様に相談すれば、どうするのがいいかとすぐに解決できます。本当に、知識量には感服させられています」
「アンバー領に関しては、小さいころからの積み重ねが、今、花開いているってことかな?それなら、私もジョージアに領地のことを教えたかいがあるね」
「はい、ジョージア様はそれくらいのこととおっしゃますが、その膨大な知識をきちんと私たちの要望にあった形で教えてくださるので、とても助かっています。謙遜は時に嫌味となることもあるのですけどね?私は、この領地に来てからというもの、お義父様に教えてもらったこと以外だと知らないことも多いのです。ジョージア様がきちんと導いてくださっているおかげで、私も心置きなく好きなことを好きなだけ出来ています。それに、もし、私の伴侶がジョージア様でなければ……」
「……なければ?」
「私の好きにはさせてくれないでしょう。寛大な心があればこそだと思っています。私は自慢ではないですけど、ジョージア様と結婚できたことは、本当に幸せなことだと思っています!」
「アンナリーゼが望んだことだっただろう?こちらこそ、ジョージアを選んでくれて、アンバー領に来てくれたこと、感謝しかないよ!領地を見て回れば、本当にその言葉しかない。ありがとう、アンナリーゼ!」
返事のかわりに義父に微笑んだ。義父の言葉はありがたいが、本当の意味で私の我儘を叶えてくれたのは、ジョージアなのだ。私の一生をかけて、返せるだけの愛情を感謝をとずっと考えている。
「ジョージア様の隣にいられることが幸せなんです。みなに褒めてもらうことはあっても、私は、誰よりもジョージア様に褒めてもらいたいです」
ジョージアへ微笑みかけると、仲がいいようでと義父が笑う。ジョージアも義父と私の話を見守るように穏やかに微笑みながら聞いてくれていた。
私は久しぶりの領地をきょろきょろと見て回る。どこもかしこも春の収穫、作付けに向け忙しそうであった。
「それにしても、アンナリーゼはどうしてこんなにいろいろと思いつくんだい?」
「どうしてと言われましても……両親が私に教えてくれたことや他領で見たおもしろいことを取り入れているだけなのですけど……」
「それにしたって、私の半分も生きていないのに、思い切りがいいし、もう何十年も領地運営をしてきたかのような采配を見事にするじゃないか。ジョージアにはとてもじゃないけど、真似のできないことだよ?」
「そんなことないですよ!ジョージア様だって、健全な……」
「アンナ、そんなお世辞はいらないよ。出来ていなかったことは、ちゃんとわかっているから」
「ほら、ジョージアのいうとおり。私も出来ていたとは言えないが……アンナリーゼの年で、やはり、これだけの運営ができるのは異常だよ?」
「……それなら、私は、人に恵まれたのだと思います。確かに知識は、両親から得たものが多いと思います。領地や領民へ対する気構えや考え方などは、今すぐ育つものではありませんから、両親が将来、どこの貴族へ嫁いだとしてもと考えてくれていたのでしょう」
「人に恵まれたというのは?」
うーん、と少し悩んだようなふりをして、ニコリと義父に笑いかける。
「私の人生で、出会えた人です。確かによくない人も含まれますが、概ね、良好な人間関係が出来ているのだと。学園で同級生だった、ウィルやセバス、ナタリーは本当に貴重な存在です。そのあと出会ったサラおばさんやリリーたち領民やノクトとイチアというかかせない人もいますね!アデルたち近衛との出会いもそうですし、私一人でも本当にたくさんの人に会って、話をして、考え方を学んだり、知識を共有したり……ここ数年で私の周りは本当に目まぐるしく変わりました。なにより、私にとってジョージア様は特別ですし、お義父様やお義母様に出会えたことも素敵な出会いでした!」
「アンナリーゼは、人を大切にするね。貴族の生まれであるにも関わらず、何より領民たちに寄り添おうとする。ジョージアが知っている話は、ほんの一部なんだろうな。そうか、セバスくんあたりが、最初から関わっているんだね。じっくり話を聞こうとしよう」
納得顔で頷いている義父に、恥ずかしいですと呟く。
「何も恥ずかしがることはないさ。この領地のものしか知らないアンナリーゼや友人たち、アンバー領に関わってくれている人々の活躍の話を聞くんだ。とりわけ、領主がその先頭にたって、道を切り開いていっているということだろう?」
「好きなようにさせてもらっているだけです。みなには迷惑もかけているし、全てが成功しているとは思っていません!」
「全て成功していたら、きっと、おもしろくないだろう?失敗もあって、そこから学び、新しいことを始める。アンナリーゼは、人より次に向けての始まりが早いんだよ。それについて行けている人だけが、アンナリーゼの周りを固めている。本人を前にいうのはなんだが、ジョージアでは正直なところ、アンバー領は取り返しのつかない状態になっていたかもしれないね」
難しい顔をしながら、ジョージアをチラリと見る義父。視線があったようで、苦笑いをしている。
「ジョージア様にはジョージア様の魅力がありますよ?」
「そうかい?アンナリーゼがそういうのであれば、嬉しいね。その魅力を聞いても」
チラリとジョージアを見てみた。内心焦っているのだろうか?少々落ち着きがないように見えたが、視線があえば優しく笑いかけてくれた。
「ジョージア様の魅力は、読書量ですね。あと、記憶力。アンバー領のことをよく勉強されています。私にしても他のものにしても、他領の出身であるので、何かを始めるときには、まず、アンバー領のことを調べるところから始めますが、ジョージア様に相談すれば、どうするのがいいかとすぐに解決できます。本当に、知識量には感服させられています」
「アンバー領に関しては、小さいころからの積み重ねが、今、花開いているってことかな?それなら、私もジョージアに領地のことを教えたかいがあるね」
「はい、ジョージア様はそれくらいのこととおっしゃますが、その膨大な知識をきちんと私たちの要望にあった形で教えてくださるので、とても助かっています。謙遜は時に嫌味となることもあるのですけどね?私は、この領地に来てからというもの、お義父様に教えてもらったこと以外だと知らないことも多いのです。ジョージア様がきちんと導いてくださっているおかげで、私も心置きなく好きなことを好きなだけ出来ています。それに、もし、私の伴侶がジョージア様でなければ……」
「……なければ?」
「私の好きにはさせてくれないでしょう。寛大な心があればこそだと思っています。私は自慢ではないですけど、ジョージア様と結婚できたことは、本当に幸せなことだと思っています!」
「アンナリーゼが望んだことだっただろう?こちらこそ、ジョージアを選んでくれて、アンバー領に来てくれたこと、感謝しかないよ!領地を見て回れば、本当にその言葉しかない。ありがとう、アンナリーゼ!」
返事のかわりに義父に微笑んだ。義父の言葉はありがたいが、本当の意味で私の我儘を叶えてくれたのは、ジョージアなのだ。私の一生をかけて、返せるだけの愛情を感謝をとずっと考えている。
「ジョージア様の隣にいられることが幸せなんです。みなに褒めてもらうことはあっても、私は、誰よりもジョージア様に褒めてもらいたいです」
ジョージアへ微笑みかけると、仲がいいようでと義父が笑う。ジョージアも義父と私の話を見守るように穏やかに微笑みながら聞いてくれていた。
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