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行ってきた?

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 義母とお茶を飲んだあと、一人部屋で座っていた。ぼんやりしながら、義母から聞いた話を反芻する。
 ジョージアの兄か姉がいたかもしれないことを聞くと、切なくなった。ジョージアが生まれるまでの間に義母がこと、自身の身には起こっていなくても、想像するだけで震える。


「お義母様は強い人なのね。立ち直られたのだから……」


 きっかけとなったのが、当時、行儀見習いとして屋敷のメイドになったカルアだと聞けば、胸が痛い。カルアとは、溝もあったけれど、よくしてもらったときもあった。デリアのことにしても、カルアが育ててくれたらしいことをうっすらと聞いたことがある。
 私さえ、アンバー公爵家に関わらなければ……義母の心に穴をあけるようなことはなかったのではないか……そう思わずにはいられなかった。


「アンナリーゼがしたことは、貴族としては正しいの。決して、私のために俯かないでちょうだい。それに、カルアもあなたのことをとても心配していたわ!アンナリーゼのこともカルアは気に入っていたのよ」


 部屋を出ていく直前に言われた言葉を反芻する。カルアの最後を思い返した。全てを受入れ、とても穏やかな顔をしていた。家族のことを考えていたであろうカルアの顔を。
 はぁ……と長いため息をついた。
 思いもしなかった義母の告白に、カルアの処分について後悔はないと言ったものの、間違っていたのではないかと、小さな疑問が浮き上がってくる。


「ただいま、アンナ」


 一人でぼんやり考えごとをしていたので、ジョージアが帰ってきたことに驚いた。


「ジョージア様?」
「うん、ただいま」
「おかえりなさい」
「……どうかしたの?顔色がよくないというか、曇っているっていうか」
「いえ、なんでも」


 そういったときには、隣に座ってもたれかからせてくれる。


「頼りない俺ではありますが……ほら、こうしていれば少しは楽になるでしょ?少し休憩したら、アンナの好きなようにしたらいいよ」


 優しい言葉に寄りかかるのではなく、抱きしめた。


「外に行っていたから土埃……」
「気にしません。私の方が、いつも泥んこですから」
「……確かに」


 クスクス笑いながら、ゆっくり髪を撫でてくれた。優しく大きな手が心地よく、胸にスリスリと頬を寄せた。


「今日は甘えん坊さんだね?珍しく」
「嫌ですか?」
「アンジーのようで可愛いからいいよ。ほとんど甘えることもないから、こんな日はどっちかっていうと嬉しい」
「……ジョージア様」
「なんだい?」
「今日……」
「カルアの実家へ行ってきた?」
「えぇ、お義母様と行ってきました」
「サラおばさんは、今日も優しかったかい?」
「はい、とっても。お義母様と三人でカルアの想い出話をしてきました」
「そうか。母も喜んだだろ?」
「……わかりません。私、お義母様に酷いことをしたのかもしれません?」
「カルアの処分のことが?」
「……はい」


 怖くて、それ以上は言えなくなった。撫でてくれていたがギュっと抱きしめられた。


「大丈夫。アンナは、間違っていないし、母上も間違っているとは思っていないよ」
「……それは、貴族として間違っていないと言ってくださいました。でも、アンナリーゼとして、一人の人間としては、お義母様にとって大切な人の命を奪ってしまったこと」
「カルアは確かに母上にとって、ちょっと特別だったかもれないな」
「何か知って……?」
「いや、俺は何も知らないよ。カルアを側に置いていたのかも何も。俺たちからしたら、年の離れた姉くらいだろ?」
「……そうですね」
「気に病むことはないよ。アンナが抱えるには重いって話なら、俺が持つよ。言いたくなったでいいから、言って……」
「言ってもいいですか?」


 混乱していた私はジョージアに縋るようにして、視線をあげる。私の大好きなトロっとした蜂蜜のような瞳が、私を心配そうに見つめていた。優しいジョージアが安心させてくれるように微笑んだ。


「……ジョージア様は、ご自身に、兄か姉がいればなって思ったことはありますか?」
「兄弟?」
「はい、そうです」
「うーん、そうだな。あんまり、思ったことはなかったかな?アンナとサシャの兄妹に会うまでは、一人で大丈夫って思っていた」
「私たち兄妹にですか?」
「あぁ、初めてアンナと会った以降、サシャと話をする機会が多くて、アンナの自慢話をするサシャを見て、兄っていいなって思ったものだよ。それが?」
「いえ、今日、お義母様から、ジョージア様の前にお子がと聞いて……」
「初耳だね?まさか、カルアとか、言わないよね?」
「違います!心を病んでしまったとき、行儀見習いで入ってきたカルアの優しさに救われたようで……」
「だから、母上にとって……って、それにしても、俺には言わないのに、アンナにいうって、どういう見解なんだろうね?全く……」


 ため息をつくジョージア。何かを悟ってくれたようで、いい子だねと耳元で囁いた。


「アンナは、気にしなくていいよ。母上は苦しいときがあったのだろうけど、カルアという希望を見つけ、乗り切った。だから、今、俺がここいるし、アンナもいる。母にとって、いつまでもその子もカルアも大切な一人だろうけど、アンナも二人に負けないくらい両親にとって大切な娘だと、俺は思っているよ。本当にアンナのことを愛しているんだ。二人ともが。だから、アンナがカルアのことは、気に病むことではないし、守れなかったのは、両親なのだから。
 アンナ、大丈夫。俺の両親は、誰よりもアンナのことを心から愛してくれているよ」


 ジョージアが、優しくかけてくれる言葉に、頬をつたうものがあった。カルアのこと、ジョージアの兄弟のこと、そして、私のこと。
 ジョージアの大丈夫は、全てを優しく包んでくれるようで、ザワザワしていた心が凪いでいくのがわかった。
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