818 / 1,480
行ってきた?
しおりを挟む
義母とお茶を飲んだあと、一人部屋で座っていた。ぼんやりしながら、義母から聞いた話を反芻する。
ジョージアの兄か姉がいたかもしれないことを聞くと、切なくなった。ジョージアが生まれるまでの間に義母がこと、自身の身には起こっていなくても、想像するだけで震える。
「お義母様は強い人なのね。立ち直られたのだから……」
きっかけとなったのが、当時、行儀見習いとして屋敷のメイドになったカルアだと聞けば、胸が痛い。カルアとは、溝もあったけれど、よくしてもらったときもあった。デリアのことにしても、カルアが育ててくれたらしいことをうっすらと聞いたことがある。
私さえ、アンバー公爵家に関わらなければ……義母の心に穴をあけるようなことはなかったのではないか……そう思わずにはいられなかった。
「アンナリーゼがしたことは、貴族としては正しいの。決して、私のために俯かないでちょうだい。それに、カルアもあなたのことをとても心配していたわ!アンナリーゼのこともカルアは気に入っていたのよ」
部屋を出ていく直前に言われた言葉を反芻する。カルアの最後を思い返した。全てを受入れ、とても穏やかな顔をしていた。家族のことを考えていたであろうカルアの顔を。
はぁ……と長いため息をついた。
思いもしなかった義母の告白に、カルアの処分について後悔はないと言ったものの、間違っていたのではないかと、小さな疑問が浮き上がってくる。
「ただいま、アンナ」
一人でぼんやり考えごとをしていたので、ジョージアが帰ってきたことに驚いた。
「ジョージア様?」
「うん、ただいま」
「おかえりなさい」
「……どうかしたの?顔色がよくないというか、曇っているっていうか」
「いえ、なんでも」
そういったときには、隣に座ってもたれかからせてくれる。
「頼りない俺ではありますが……ほら、こうしていれば少しは楽になるでしょ?少し休憩したら、アンナの好きなようにしたらいいよ」
優しい言葉に寄りかかるのではなく、抱きしめた。
「外に行っていたから土埃……」
「気にしません。私の方が、いつも泥んこですから」
「……確かに」
クスクス笑いながら、ゆっくり髪を撫でてくれた。優しく大きな手が心地よく、胸にスリスリと頬を寄せた。
「今日は甘えん坊さんだね?珍しく」
「嫌ですか?」
「アンジーのようで可愛いからいいよ。ほとんど甘えることもないから、こんな日はどっちかっていうと嬉しい」
「……ジョージア様」
「なんだい?」
「今日……」
「カルアの実家へ行ってきた?」
「えぇ、お義母様と行ってきました」
「サラおばさんは、今日も優しかったかい?」
「はい、とっても。お義母様と三人でカルアの想い出話をしてきました」
「そうか。母も喜んだだろ?」
「……わかりません。私、お義母様に酷いことをしたのかもしれません?」
「カルアの処分のことが?」
「……はい」
怖くて、それ以上は言えなくなった。撫でてくれていたがギュっと抱きしめられた。
「大丈夫。アンナは、間違っていないし、母上も間違っているとは思っていないよ」
「……それは、貴族として間違っていないと言ってくださいました。でも、アンナリーゼとして、一人の人間としては、お義母様にとって大切な人の命を奪ってしまったこと」
「カルアは確かに母上にとって、ちょっと特別だったかもれないな」
「何か知って……?」
「いや、俺は何も知らないよ。カルアを側に置いていたのかも何も。俺たちからしたら、年の離れた姉くらいだろ?」
「……そうですね」
「気に病むことはないよ。アンナが抱えるには重いって話なら、俺が持つよ。言いたくなったでいいから、言って……」
「言ってもいいですか?」
混乱していた私はジョージアに縋るようにして、視線をあげる。私の大好きなトロっとした蜂蜜のような瞳が、私を心配そうに見つめていた。優しいジョージアが安心させてくれるように微笑んだ。
「……ジョージア様は、ご自身に、兄か姉がいればなって思ったことはありますか?」
「兄弟?」
「はい、そうです」
「うーん、そうだな。あんまり、思ったことはなかったかな?アンナとサシャの兄妹に会うまでは、一人で大丈夫って思っていた」
「私たち兄妹にですか?」
「あぁ、初めてアンナと会った以降、サシャと話をする機会が多くて、アンナの自慢話をするサシャを見て、兄っていいなって思ったものだよ。それが?」
「いえ、今日、お義母様から、ジョージア様の前にお子がと聞いて……」
「初耳だね?まさか、カルアとか、言わないよね?」
「違います!心を病んでしまったとき、行儀見習いで入ってきたカルアの優しさに救われたようで……」
「だから、母上にとって……って、それにしても、俺には言わないのに、アンナにいうって、どういう見解なんだろうね?全く……」
ため息をつくジョージア。何かを悟ってくれたようで、いい子だねと耳元で囁いた。
「アンナは、気にしなくていいよ。母上は苦しいときがあったのだろうけど、カルアという希望を見つけ、乗り切った。だから、今、俺がここいるし、アンナもいる。母にとって、いつまでもその子もカルアも大切な一人だろうけど、アンナも二人に負けないくらい両親にとって大切な娘だと、俺は思っているよ。本当にアンナのことを愛しているんだ。二人ともが。だから、アンナがカルアのことは、気に病むことではないし、守れなかったのは、両親なのだから。
アンナ、大丈夫。俺の両親は、誰よりもアンナのことを心から愛してくれているよ」
ジョージアが、優しくかけてくれる言葉に、頬をつたうものがあった。カルアのこと、ジョージアの兄弟のこと、そして、私のこと。
ジョージアの大丈夫は、全てを優しく包んでくれるようで、ザワザワしていた心が凪いでいくのがわかった。
ジョージアの兄か姉がいたかもしれないことを聞くと、切なくなった。ジョージアが生まれるまでの間に義母がこと、自身の身には起こっていなくても、想像するだけで震える。
「お義母様は強い人なのね。立ち直られたのだから……」
きっかけとなったのが、当時、行儀見習いとして屋敷のメイドになったカルアだと聞けば、胸が痛い。カルアとは、溝もあったけれど、よくしてもらったときもあった。デリアのことにしても、カルアが育ててくれたらしいことをうっすらと聞いたことがある。
私さえ、アンバー公爵家に関わらなければ……義母の心に穴をあけるようなことはなかったのではないか……そう思わずにはいられなかった。
「アンナリーゼがしたことは、貴族としては正しいの。決して、私のために俯かないでちょうだい。それに、カルアもあなたのことをとても心配していたわ!アンナリーゼのこともカルアは気に入っていたのよ」
部屋を出ていく直前に言われた言葉を反芻する。カルアの最後を思い返した。全てを受入れ、とても穏やかな顔をしていた。家族のことを考えていたであろうカルアの顔を。
はぁ……と長いため息をついた。
思いもしなかった義母の告白に、カルアの処分について後悔はないと言ったものの、間違っていたのではないかと、小さな疑問が浮き上がってくる。
「ただいま、アンナ」
一人でぼんやり考えごとをしていたので、ジョージアが帰ってきたことに驚いた。
「ジョージア様?」
「うん、ただいま」
「おかえりなさい」
「……どうかしたの?顔色がよくないというか、曇っているっていうか」
「いえ、なんでも」
そういったときには、隣に座ってもたれかからせてくれる。
「頼りない俺ではありますが……ほら、こうしていれば少しは楽になるでしょ?少し休憩したら、アンナの好きなようにしたらいいよ」
優しい言葉に寄りかかるのではなく、抱きしめた。
「外に行っていたから土埃……」
「気にしません。私の方が、いつも泥んこですから」
「……確かに」
クスクス笑いながら、ゆっくり髪を撫でてくれた。優しく大きな手が心地よく、胸にスリスリと頬を寄せた。
「今日は甘えん坊さんだね?珍しく」
「嫌ですか?」
「アンジーのようで可愛いからいいよ。ほとんど甘えることもないから、こんな日はどっちかっていうと嬉しい」
「……ジョージア様」
「なんだい?」
「今日……」
「カルアの実家へ行ってきた?」
「えぇ、お義母様と行ってきました」
「サラおばさんは、今日も優しかったかい?」
「はい、とっても。お義母様と三人でカルアの想い出話をしてきました」
「そうか。母も喜んだだろ?」
「……わかりません。私、お義母様に酷いことをしたのかもしれません?」
「カルアの処分のことが?」
「……はい」
怖くて、それ以上は言えなくなった。撫でてくれていたがギュっと抱きしめられた。
「大丈夫。アンナは、間違っていないし、母上も間違っているとは思っていないよ」
「……それは、貴族として間違っていないと言ってくださいました。でも、アンナリーゼとして、一人の人間としては、お義母様にとって大切な人の命を奪ってしまったこと」
「カルアは確かに母上にとって、ちょっと特別だったかもれないな」
「何か知って……?」
「いや、俺は何も知らないよ。カルアを側に置いていたのかも何も。俺たちからしたら、年の離れた姉くらいだろ?」
「……そうですね」
「気に病むことはないよ。アンナが抱えるには重いって話なら、俺が持つよ。言いたくなったでいいから、言って……」
「言ってもいいですか?」
混乱していた私はジョージアに縋るようにして、視線をあげる。私の大好きなトロっとした蜂蜜のような瞳が、私を心配そうに見つめていた。優しいジョージアが安心させてくれるように微笑んだ。
「……ジョージア様は、ご自身に、兄か姉がいればなって思ったことはありますか?」
「兄弟?」
「はい、そうです」
「うーん、そうだな。あんまり、思ったことはなかったかな?アンナとサシャの兄妹に会うまでは、一人で大丈夫って思っていた」
「私たち兄妹にですか?」
「あぁ、初めてアンナと会った以降、サシャと話をする機会が多くて、アンナの自慢話をするサシャを見て、兄っていいなって思ったものだよ。それが?」
「いえ、今日、お義母様から、ジョージア様の前にお子がと聞いて……」
「初耳だね?まさか、カルアとか、言わないよね?」
「違います!心を病んでしまったとき、行儀見習いで入ってきたカルアの優しさに救われたようで……」
「だから、母上にとって……って、それにしても、俺には言わないのに、アンナにいうって、どういう見解なんだろうね?全く……」
ため息をつくジョージア。何かを悟ってくれたようで、いい子だねと耳元で囁いた。
「アンナは、気にしなくていいよ。母上は苦しいときがあったのだろうけど、カルアという希望を見つけ、乗り切った。だから、今、俺がここいるし、アンナもいる。母にとって、いつまでもその子もカルアも大切な一人だろうけど、アンナも二人に負けないくらい両親にとって大切な娘だと、俺は思っているよ。本当にアンナのことを愛しているんだ。二人ともが。だから、アンナがカルアのことは、気に病むことではないし、守れなかったのは、両親なのだから。
アンナ、大丈夫。俺の両親は、誰よりもアンナのことを心から愛してくれているよ」
ジョージアが、優しくかけてくれる言葉に、頬をつたうものがあった。カルアのこと、ジョージアの兄弟のこと、そして、私のこと。
ジョージアの大丈夫は、全てを優しく包んでくれるようで、ザワザワしていた心が凪いでいくのがわかった。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる