上 下
814 / 1,458

義母の付き添い

しおりを挟む
「アンナリーゼ様、本日はこちらでよろしかったですか?」


 リアンが用意してくれたドレスを見て頷いた。黒に近い濃紺のドレスに袖を通す。光沢もないので、室内で見れば黒く見え、控えめなものであった。いつもの華々しいドレスとは全く違い、たまたま部屋に入ってきたアンジェラが顔を顰めている。


「アンジェラ様もアンナリーゼ様のドレスがいつもと違うことに思うところがあるのですね?」


 アンジェラの後ろからエマがついてきており、こちらも驚いてはいた。ただ、喪服に近いそれをみれば、さっしはついたようだ。デリアの後継にと育てられているだけのことはある。


「ママ、かわい?」
「こういうものも着ることがあるわよ。アンジェラの前では、滅多にないけど。大きくなったら、アンジェラも着ることになると思うわ」
「アンも?」
「えぇ、いつか、こういうドレスも作りましょうね」


 わけもわからず、頷くアンジェラ。ドレスをギュっと握って見上げてくるので、抱き上げた。


「お義母様の用意が出来たら、向かいましょう。アンジェラはお留守番よ!」
「やだ!一緒に行く!」
「今日は、ミアと遊ぶのでしょ?」
「ママと遊ぶ!」
「……ママは、お仕事にいくのだけど、一緒に行くの?」
「お仕事は邪魔しちゃダメ……」
「いい子ね!リアンに美味しいお菓子を用意してもらうようにするわね!」
「お菓子?」
「そうよ!生クリームがある方がいいかしら?」


 生クリームと聞いて両手を頬に添えた。生クリームは、アンジェラも目がないものだ。嬉しそうにしている姿を見ればかわいいなぁ頭を撫でた。


「リアン、アンジェラのおやつは、お願いね!」
「かしこまりました。アンジェラ様、おやつの時間を楽しみにしていてくださいね!」


 リアンに元気よく返事をしたところで、義母の準備が出来たと呼びに来てくれた。


「では、行きますか。あれからもあってはいるもの……久しぶりに緊張するわ」


 ため息を漏らしたら、アンジェラが抱きついて見上げてくる。アンジェラなりに気を使ってくれているのだろう。
 性格は、私似なので、飛び跳ねたりしているわけだが、ジョージアと一緒にいるおかげもあって、とても優しい子に育った。


 アンジェラを抱きかかえたまま、玄関まで向かうと、義母が馬車に乗って待っていてくれた。


「あら、アンジェラも一緒に行くの?」
「いえ、私の部屋に来たのでお見送りしてもらおうかと……リアン、あと、よろしくね?」
「はい、アンジェラ様、お手を」


 すると、ギュっとリアンの手を握ったので、私は下に下ろす。大きくなったアンジェラは、抱きかかえるのも一苦労と言うほどになっている


「じゃあ、いいこにお留守番していてね!」
「わかった!」


 ニコッと送り出してくれるので、行ってきますと手を振る。馬車に乗り込むと、義母と二人、静かになる。馬車はゆっくり進み、目的の場所へ向かう。


「今日、向かうのはサラおばさんの家に向かいます」
「そこが、カルアの生家かしら?」
「えぇ、そうですね。元々サラおばさんは、領地改革を決心した少し前に出会った方でした。とても豪快に笑うサラおばさんが大好きです。まさか、カルアの家族だったとは、つゆにも思わなかったのです」
「たしか、お骨にしたのよね?カルアは」
「えぇ、家族の元へ帰れるようにとせめてと思い、遺骨を渡しました。遺骨を渡しにいったとき以来も交流はあります。このあたり全部を仕切ってくれている関係上、どうしても関わることが多い人物となっています」


 そうと言ったあと、一言も話さなくなった。きっと、カルアのことを思い出しているのだろうと思うと、何も言えなくなる。
 私より、カルアとの時間は義母にとって、長い年月のうちに交流があったのだろう。とても気が利く、いい侍女であった。義母が残念がっていたことは知っているので、静かにしていた。


「カルアは、本当にいい子だったと思うわ。ただ、心は弱かったのね。ダドリー男爵なんかに騙されて……それがあの子の命運だった。こんなことを言っても仕方がないけど……アンナリーゼが少しでも領地運営をしてくれていたら……もしかしたら、救えたのかもしれないわね」
「お義母様」
「ごめんなさい。アンナリーゼがしたことに口出しするつもりはないの。アンバー領についたダニの処置は、本当は私たちがしないといけなかったのですもの。アンナリーゼの手を煩わせてしまったこと、本当に申し訳なく思っているの」
「いえ、そんなこと……もうすぐ、つきますから準備ください」


 馬の歩みがゆっくりとなった。もうつくのだろう。


「お義母様、少しだけサラおばさんの家につくまで歩きになりまいます」
「かまいませんよ!少しくらいなら」


 そういって馬車を降りたとき、サラおばさんとその旦那さんと弟が私たちを待ってくれた。


「あの、今日、来ていただいてありがとうございます」
「いいよ!うちのボロに前公爵夫人がこられるならと、迎えに来ただけだよ!」


 そういって、豪快に笑うサラおばさん。自宅まで案内をしてもらい、いよいよ、カルアに対面だと、義母はきをひきしめていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,273pt お気に入り:3,686

あなたは知らなくていいのです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:84,782pt お気に入り:3,899

恋人契約~愛を知らないΩがαの愛に気づくまで~

BL / 完結 24h.ポイント:6,283pt お気に入り:831

浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

BL / 連載中 24h.ポイント:28,152pt お気に入り:1,822

偽りオメガの虚構世界

BL / 完結 24h.ポイント:298pt お気に入り:215

満員電車でうばわれて、はじまる 

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:447pt お気に入り:152

妹に婚約者を奪われましたが今は幸せです

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:38,726pt お気に入り:2,227

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,906pt お気に入り:446

魔術師セナリアンの憂いごと

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,108pt お気に入り:1,020

番から逃げる事にしました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21,285pt お気に入り:2,183

処理中です...