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領地の変わりようⅤ

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 続きをと言われ、昼からの分に手を伸ばす。まだまだありますよと言いたげに、別にあるイチアとセバスの執務室から決裁がひとやま増えた。


「しばらく、続きそうね……」


 小さな声で言ったつもりが、聞こえていたようで、イチアがニコリと笑う。ひぃーっと悲鳴をあげ、椅子にしがみついて、ふふっと笑われるので諦めた。


「この書類仕事はあと2日中には終わらせてください!」
「なぜ?」
「大奥さまと出かける場所があるのですよね?」
「……カルアの……サラおばさんの家ね!」
「それなら、なおのこと。セバスから聞いています。いつも頼りにしている麦農家の方の娘さんの話は」
「……そう。本当、私は酷い人間よね?」
「そうでしょうか?確かに何人も法に乗っ取って、アンナリーゼ様は子どもまで手をかけたと聞いています。でもね、よく考えてみてください。私は、アンナリーゼ様の何百倍の人を殺しています。敵味方なく。一般人を手にかけることだけは、避けるように指示をしていても、結局は、それを守らない兵もいるわけです。そういう輩は、この手を血に染めるのですよ。私は、どこまで行っても、戦上手な軍師です。たくさんの人を殺し、味方……国の利益になることを優先するんですよ」


 ふぅ……とため息をつくイチアを見つめる。それは、この領地に来て、初めて聞いた話のようで、その視線が寂しそうだった。


「イチア?」
「いえ、ここの生活が、あまりにも穏やか過ぎて……若かりし頃、ノクト様と戦場を駆け巡ったことが嘘のように感じています。あのころは、明日があるかもわからない日々に疲れてもいましたが、今、このような日々を過ごさせてもらえることをとても嬉しく感じているんです。あぁ、穏やかな日々と思いましたが、意外と騒がしい日々ですね。アンナリーゼ様を始め、ウィルやセバス、ナタリーが先頭切って何かを始めたり、町や村でも何かと起こるので。退屈はしません!それに、きっと、退屈をしない毎日は、嫌いじゃない。活気づいてきたということでもありますしね!人口も増えれば、問題も多くなる。
 今はもっぱら、仕事と住む場所の斡旋が忙しいのですよ?そろそろ、あの砂糖工場の隣に建てたような建物を各地に作りたいですね?」


 イチアが生き生きと話始め、進めたいことがたくさんあるのだと感じた。戦場の軍師としても一級品なのは、連勝の将軍と名高いノクトがいるからわかる。
 でも、イチアが望んだことは、今の方だと私は確信した。セバスと議論しているときも本当に楽しそうなのだ。


「ノクトとイチアを受入れないといけなくなったとき、しょうがないと思いつつも、やっぱり警戒もしたり、思うところもあったりとしてたの。
 でも、ノクトの道端で領民と話して豪快に笑っていたり、セバスと熱すぎる議論をしているイチアをみれば、来るべくして来てくれたのだと思うわ!アンバー領の発展に物凄く大きな力を貸してくれている。本当にありがとう!」
「いえいえ。こんな私も含め、この領地へ拾っていただきありがたいのは、こちらの方です。無茶難題を言われることには、なれていますが……」
「……ノクト」
「アンナリーゼ様のほうが、上回るので」
「えっ?私のほうが?そんなことないと思うけど……」
「養豚場の話……」
「あぁ、今、決裁を見ているわ!これ、改良点とか考えてくれているのね?」
「もちろんです。なるべく、お金もかけられないですからね。私財ならなおのこと」
「いいのに。将来、アンジェラやネイトが大人になったころ、回収できるように考えているから、そんなに、深く考えないで?」
「結構な額を使っていると聞いていますよ?三国の情報網を作るためとか……街道整備も学生のころから進めていたとか」
「たまたまだよ!それに、街道整備は、実はアンバー領の高級茶葉を売りさばいて出来た利益が殆どだから、循環しているのよね。これは、ほぼ村ごと買ったけど、そのおかげで、アンバー領に還元出来てるからいいんじゃないかしら?私財のうちに入れなくて」


 おおざっぱですねと苦笑いされ、養豚場の話になっていく。やはり、綺麗にしていても獣臭はするとのことで、住宅地の近くではない方がいいということらしい。なので、一体に住居地は作らない規制区域を作ることにした。ただし、生き物を育てる場でもあるので、養豚場に関わる人が住めるような建物だけは例外とする。


「加工場も近くがいいわよね」
「その一体をそういう場にしてしまうってことで。建物の建築の方に予算はこんな感じですね。小さいのだとこうなりますが……」
「どうせなら……しっかり稼ぎたいからこの大きさで。建物の値段も適正ね!」
「この値段にするのにとても苦労したんですよ?」
「えっ?もっと高額だったってこと?」
「……逆です。アンナリーゼ様のためなら、大工たちがタダで働くと言い始めて……」
「タダ?それは、困るわね……この適正価格まで、よく吊り上げられたわね?」
「それは、リリーと棟梁、あとロイドが適正価格について熱い議論をして、やっと折れてくれたらしいですよ。もしかしたら、とんでもないものがついてくるかもしれませんがね……それは、私の関するところではありませんから!」
「あっ、イチアは逃げるのね!許さないから!」
「それなら、優秀なセバスがいますから!」


 二人で、笑いあっているといいかしら?と義母が入ってきた。時計をみればちょうど休憩をしてもいい頃合いとなっていたのでリアンを呼び、お茶の用意をしてもらう。
 イチアがまたあとでと出て行こうとすると、呼び止め一緒にと義母がお茶を進めるのであった。
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