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春に向けてⅢ
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周りを見渡した。だいたい報告は終えたのだろう。それぞれも顔を見渡し頷きあっている。
「それじゃあ、報告はこれまでね?」
「そうですね。他に報告があれば、個別に向かわせてもらうということで、解散しましょうか?」
「わかったわ!私は、しばらく、屋敷にいることになると思うから、どこかにいたら捕まえてくれるかしら?」
みなが頷いたことで、報告会は終わり、部屋を出ていく。ここに残ったのは、セバスとナタリーとノクトだった。部屋を出ようとしていたジョージアが、残っている面子を見て、戻ってくる。
「他に何か報告があるの?」
「いえ、何も。ただ、アンナリーゼ様と話がしたかっただけですよ?」
「アンナと?」
「えぇ、そうです。ジョージア様も残られますか?」
「あぁ、どんな話をするんだい?」
「世間話ですよ。今回は、ローズディアの南の領地へ初めて行かれたのです。どんな印象を持たれたのか、どんなふうにアンナリーゼ様には見えたのか、興味があるのです。僕たちは、生まれも育ちもローズディアですからね。アンナリーゼ様から見たローズディアに興味があるんです」
セバスがニコッと笑うと、ナタリーはジョージアに冷たい視線を送っていた。ノクトは、三人の様子を見て苦笑いする。
「私たちは、連れて行っていただけませんでした。アンナリーゼ様、お話ください。南の領地であったことを。私たちには隠さずにお願いします。アンナリーゼ様が思い描く未来をより良いものにするためには、必要ですから」
ナタリーに促され、南であったこと、領地で起こっていたことを詳しく話していく。私からも報告はさっきしたばかりではあったが、それより詳細に離すと、セバスとナタリーは貴族に対して悪態をついたり、怒ったりしている。それに比べ、ジョージアは、信じられないという現実を突き詰められて、どう反応していいのかわからず、呆然としてしまった。
「ノクトは、この状況、どう思われますか?」
「……そうだな。あまりいい傾向ではないように思うな」
「と、いうと……戦争が近いうちに?」
「まだ、戦争までは発展しないだろう。どちらかというと、まだ、インゼロ帝国もまとまり切っていないという情報もあるくらいだ。
ただ、そうは言っても戦争好きなインゼロ。金づるを目の間にぶら下げて、手を出さないわけもないと思ってはいる」
「……小競り合いは起こる可能性があるということですね?」
「それは、ありえるな。例えばだが、公が早急に南側に兵の配置をすれば、いくばくかは、効果があるだろうが……ヒーナたちが、内情をインゼロ帝国の軍部上層部に連絡していた場合は、止めるのが難しいだろう。何しろ、敵さんは、病にかかったことがあるものが殆どだ。それに、兵を人と思っていない皇帝に誰も何も言わん。言えば、自身だけでなく家族も血だまりに倒れることになるからな……」
「誰も、戦わないのですか?自身の国の頂が、そんな恐怖政治をしていて……」
「そうは言っても、人はたらふく食える環境とそこそこ遊べる金があれば、文句は言わん。戦争によって得た捕虜は、だいたい奴隷として扱われるから元々のインゼロ帝国の住民は働かなくてもの十分楽に生活ができるから、なんとも思わない。戦争が起こっても、起こらなくても、生活さえ守られるんだったら、今の生活を手放さくていいのなら……誰も何も言わない。皇帝に近い貴族だけが、いつ不快をかうのかと戦々恐々としているだろうな」
「ノクトの家族もそうではないのです?」
ふっと笑うノクト。ナタリーの質問は、ノクトが1番気にかけていることだろう。
「俺が国を出たことで、多少は生きやすくなっているはずだ。一応、皇帝とは、現公は従兄だからな」
「ノクトがいない方が……嫌われているということですの?」
「あぁ、煙たい大人だったのだろう。残虐性は見抜いていて、密かに命を狙っていたのだからな……」
「それで、よく家族が無事ね?」
「あえていうなら、皇帝は、俺が生きていることを知っている。家族に何かあれば……自身も覚悟を決めないといけないこともあるだろう。恐怖政治だけでは、どうしようもできないこともあるんだ。俺が戻れば、軍部は逆転する可能性があるからな。刺客を送っても無駄なこともわかっているから、関わらないという選択をしたと息子からは聞いている。極力、領地から出ていないとも聞いているから、狙われることもないだろう。民衆にも人気があるしな。うちの看板は」
豪快に笑い始めるノクトをじっと見つめる。ナタリーが心配していることは、ノクトももちろん、考えていることだろう。私もそうなのだから。もし、何かあれば、頼ってほしいとも言ってあるが、何かあれば、ノクトはイチアを連れ、二人で戦場へ向かうのだろう。部屋に隠し持っている常勝将軍がつけていたマントを翻し。敵の血を浴び、赤黒くなったマントが揺れている様子が想像できた。
「それで、春に向けて……私たちは、小競り合いになった場合のことを念頭に入れておいた方がいいってことかしら?ノクト」
「あぁ、その方がいいだろう。アンナもそのつもりだったんだろ?」
こちらを睨むように見てくるので、お見通しなのねと笑う。国力が明らかに下がっている今、インゼロ帝国内が少々落ち着いていなくても、小競り合いくらいなら仕掛けられるだろう。それで、歯向かえば、もうしばらくはちょっかいを出してくることはないだろうが……ある意味、この春は正念場ではないかと考えていた。
「セバス、状況によっては、ウィルの側に向かってもらうことになるわ!」
「うん、わかっているよ!準備のために、ウィルと同じ方法で感染病に罹っておくつもりだよ。まだ、おさまっていないんだろ?」
「だいぶよくはなっているって、ウィルやヨハンから連絡はもらっているけど……最南端の完全終息は、いつになるかわからないって……伏せていた話ではあるんだけどね」
「やっぱり……何か、考えがあったから、二人を向かわせたんだって思っていたけど……」「考えすぎよ!ジニー確保に人手が足りなかったから、行ってもらっただけよ。ウィルが、向こうにいてくれている間は、少し安心ね。隊長格ではあるから、狙われることもあるでしょうけど……きっと、大丈夫」
「そうだね。きっと、ウィルなら……」
「俺は、向かった方がいいのか?」
「ノクトは行かない方がいいわ!」
わかったと頷くノクト。ナタリーも後方支援用の包帯や薬の調達の話を始めたので任せると言えば、さっそく動いてくれそうだ。
「ジョージア様、大丈夫ですか?」
「……世間話が、世間話に聞こえないんだけど?」
ついていけない話をずっと耐えて聞いていたらしい。確かに、ジョージアの元にこれだけの話が入ってくることはないだろう。
私たちは、春に向けてそれぞれ準備を行うことで、解散となった。
「それじゃあ、報告はこれまでね?」
「そうですね。他に報告があれば、個別に向かわせてもらうということで、解散しましょうか?」
「わかったわ!私は、しばらく、屋敷にいることになると思うから、どこかにいたら捕まえてくれるかしら?」
みなが頷いたことで、報告会は終わり、部屋を出ていく。ここに残ったのは、セバスとナタリーとノクトだった。部屋を出ようとしていたジョージアが、残っている面子を見て、戻ってくる。
「他に何か報告があるの?」
「いえ、何も。ただ、アンナリーゼ様と話がしたかっただけですよ?」
「アンナと?」
「えぇ、そうです。ジョージア様も残られますか?」
「あぁ、どんな話をするんだい?」
「世間話ですよ。今回は、ローズディアの南の領地へ初めて行かれたのです。どんな印象を持たれたのか、どんなふうにアンナリーゼ様には見えたのか、興味があるのです。僕たちは、生まれも育ちもローズディアですからね。アンナリーゼ様から見たローズディアに興味があるんです」
セバスがニコッと笑うと、ナタリーはジョージアに冷たい視線を送っていた。ノクトは、三人の様子を見て苦笑いする。
「私たちは、連れて行っていただけませんでした。アンナリーゼ様、お話ください。南の領地であったことを。私たちには隠さずにお願いします。アンナリーゼ様が思い描く未来をより良いものにするためには、必要ですから」
ナタリーに促され、南であったこと、領地で起こっていたことを詳しく話していく。私からも報告はさっきしたばかりではあったが、それより詳細に離すと、セバスとナタリーは貴族に対して悪態をついたり、怒ったりしている。それに比べ、ジョージアは、信じられないという現実を突き詰められて、どう反応していいのかわからず、呆然としてしまった。
「ノクトは、この状況、どう思われますか?」
「……そうだな。あまりいい傾向ではないように思うな」
「と、いうと……戦争が近いうちに?」
「まだ、戦争までは発展しないだろう。どちらかというと、まだ、インゼロ帝国もまとまり切っていないという情報もあるくらいだ。
ただ、そうは言っても戦争好きなインゼロ。金づるを目の間にぶら下げて、手を出さないわけもないと思ってはいる」
「……小競り合いは起こる可能性があるということですね?」
「それは、ありえるな。例えばだが、公が早急に南側に兵の配置をすれば、いくばくかは、効果があるだろうが……ヒーナたちが、内情をインゼロ帝国の軍部上層部に連絡していた場合は、止めるのが難しいだろう。何しろ、敵さんは、病にかかったことがあるものが殆どだ。それに、兵を人と思っていない皇帝に誰も何も言わん。言えば、自身だけでなく家族も血だまりに倒れることになるからな……」
「誰も、戦わないのですか?自身の国の頂が、そんな恐怖政治をしていて……」
「そうは言っても、人はたらふく食える環境とそこそこ遊べる金があれば、文句は言わん。戦争によって得た捕虜は、だいたい奴隷として扱われるから元々のインゼロ帝国の住民は働かなくてもの十分楽に生活ができるから、なんとも思わない。戦争が起こっても、起こらなくても、生活さえ守られるんだったら、今の生活を手放さくていいのなら……誰も何も言わない。皇帝に近い貴族だけが、いつ不快をかうのかと戦々恐々としているだろうな」
「ノクトの家族もそうではないのです?」
ふっと笑うノクト。ナタリーの質問は、ノクトが1番気にかけていることだろう。
「俺が国を出たことで、多少は生きやすくなっているはずだ。一応、皇帝とは、現公は従兄だからな」
「ノクトがいない方が……嫌われているということですの?」
「あぁ、煙たい大人だったのだろう。残虐性は見抜いていて、密かに命を狙っていたのだからな……」
「それで、よく家族が無事ね?」
「あえていうなら、皇帝は、俺が生きていることを知っている。家族に何かあれば……自身も覚悟を決めないといけないこともあるだろう。恐怖政治だけでは、どうしようもできないこともあるんだ。俺が戻れば、軍部は逆転する可能性があるからな。刺客を送っても無駄なこともわかっているから、関わらないという選択をしたと息子からは聞いている。極力、領地から出ていないとも聞いているから、狙われることもないだろう。民衆にも人気があるしな。うちの看板は」
豪快に笑い始めるノクトをじっと見つめる。ナタリーが心配していることは、ノクトももちろん、考えていることだろう。私もそうなのだから。もし、何かあれば、頼ってほしいとも言ってあるが、何かあれば、ノクトはイチアを連れ、二人で戦場へ向かうのだろう。部屋に隠し持っている常勝将軍がつけていたマントを翻し。敵の血を浴び、赤黒くなったマントが揺れている様子が想像できた。
「それで、春に向けて……私たちは、小競り合いになった場合のことを念頭に入れておいた方がいいってことかしら?ノクト」
「あぁ、その方がいいだろう。アンナもそのつもりだったんだろ?」
こちらを睨むように見てくるので、お見通しなのねと笑う。国力が明らかに下がっている今、インゼロ帝国内が少々落ち着いていなくても、小競り合いくらいなら仕掛けられるだろう。それで、歯向かえば、もうしばらくはちょっかいを出してくることはないだろうが……ある意味、この春は正念場ではないかと考えていた。
「セバス、状況によっては、ウィルの側に向かってもらうことになるわ!」
「うん、わかっているよ!準備のために、ウィルと同じ方法で感染病に罹っておくつもりだよ。まだ、おさまっていないんだろ?」
「だいぶよくはなっているって、ウィルやヨハンから連絡はもらっているけど……最南端の完全終息は、いつになるかわからないって……伏せていた話ではあるんだけどね」
「やっぱり……何か、考えがあったから、二人を向かわせたんだって思っていたけど……」「考えすぎよ!ジニー確保に人手が足りなかったから、行ってもらっただけよ。ウィルが、向こうにいてくれている間は、少し安心ね。隊長格ではあるから、狙われることもあるでしょうけど……きっと、大丈夫」
「そうだね。きっと、ウィルなら……」
「俺は、向かった方がいいのか?」
「ノクトは行かない方がいいわ!」
わかったと頷くノクト。ナタリーも後方支援用の包帯や薬の調達の話を始めたので任せると言えば、さっそく動いてくれそうだ。
「ジョージア様、大丈夫ですか?」
「……世間話が、世間話に聞こえないんだけど?」
ついていけない話をずっと耐えて聞いていたらしい。確かに、ジョージアの元にこれだけの話が入ってくることはないだろう。
私たちは、春に向けてそれぞれ準備を行うことで、解散となった。
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