上 下
787 / 1,480

領地に前領主夫妻が来る報告

しおりを挟む
 785. 報告会

「私から最後に……」


 休憩を挟んだあと、私からの最後の報告をする。たぶん、知っていると思うが、情報は共有が大事なので、話すことにした。


「みな知っていると思うんだけど、来週から3週間ほど、前公爵夫妻が領地の視察にこられます。知ってのとおり、ジョージア様の両親なんだけど、この中で、知っている人っているかしら?」
「僕とナタリーは夜会で見かけたことがあるくらいだね?」
「そうですね。お話したことは、ありません」
「あっ、あります!領地には何度も前公爵様が来られていましたから」
「リリーは、そうね。あとは商人たちもかしら?」
「ユービスは御用聞きでしたからね。私とビルは、数えるくらいですね」
「そうですね。公爵家と関わりができたのもアンナリーゼ様の代からですから」


 テクトとビルがそれぞれの商売の側から話をしてくれる。そう思うと、ここで、うま味があったのはユービスだけなのかとぼんやり聞いていた。


「ところで、その公爵様は何をしにくるんだ?」
「それは、俺から。父はアンナを中心に変わっていくアンバー領を見てみたいと常々言っていたんだ。元々、アンナの才覚に惚れ込んでいたのは、父だからね」
「それは、初耳です!」
「アンナはしらをきるかもしれないけど、トワイス国のワイズ伯爵の件の全容を知っているよ?」
「……ワイズ伯爵の件ですか?」
「身に覚えがあるだろ?俺は、父からアンナがローズディアへ来る直前に聞いたけど」
「懐かしいな」
「セバス……そこは、何も言わずに黙っておくべきよ!」
「君たちも知っていたのかい?」
「……あぁ、本当だ」
「あの噂の話のことだな。インゼロ帝国でも有名な話だぞ?小娘にまんまとやられた伯爵って」
「……みんな、話を誇張しすぎですよね?私の力だけではありませんし、そもそも、私は何もしていませんから」
「事の真相、知りたいです!」



 興味を持ったものたちが多いようで、ため息をついた。


「私は本当に何もしていないの。デリアに多額のお金を渡してちょっと商人たちをうまく操ってもらっただけだし……詳しくは聞かないで」
「それって、動機はなんだったのですか?」
「フレイゼン侯爵家のことに関わるから言わないわ!」


 残念という割に、ノクトとイチア当たりは笑っているので知っていることがわかる。

 私、話したこと、あるかしらね?

 ニコリと微笑むだけで、それ以上は何も言わない。


「何にしろ、前公爵が来て、領地の視察をしたいという話だな。アンナが、その案内をするのか?」
「そのつもりだったんだけど、私は、しばらく領地を外れていたから、ジョージア様にお願いしようと思っているのだけど、どうですか?」
「それは構わないけど、いいの?アンナがしたいんじゃ……」
「いいえ、元々、ジョージア様が治めるべき領地ですから、行ってきてください。もぅ、私なしでもどんなふうに改革を進めているのか、どの建物、どの工事、どの人物にどんな意味があるのかは知っていると思うので、大丈夫ですよ!護衛はアデルとリリーでお願いできるかしら?
「お任せください」
「やらせてください!」
「では、ジョージア様のフォローをセバスにお願いしたいのだけど?」
「任せて!ジョージア様がド忘れしたことはこっそり教えるから!」
「馬は、ちゃんと乗れる?」
「その日は、馬車で行きましょう!中でも説明したいですし!アンナリーゼ様が行ってきたこと、知ってもらいたいですからね!」


 張り切る三人に、お願いねと言えば、ちゃんと任されてくれた。


「ナタリーにもお願いがあるんだけど……」
「夫人のフォローですか?」
「うん、私のフォロー!お義母様は、視察には出ないと思うの。子どもたちともとても会いたがっていたから、そのときのフォローを。リアンとエマも一緒にいてくれるけど……」
「任せてください」


 頷くナタリー。リアンとエマと三人体制で私のフォローをしてもらえれば、とても助かる。


「三商人には、美味しい食材の手配をお願いできるかしら?」
「それは、お任せください。アンバー領で食べられる最高のものをお出しします!」
「ニコライは、出来れば、ハニーアンバー店の主力商品を少しだけこちらに持ってきてほしいわ!布地とか、お義母様が好きそうなものをお願いできる?」
「こちらにもありますが、公都から取ってまいります。しばらくは、アンナリーゼ様とのお茶会やお子様たちと触れ合う時間を多くとられると思いますので、頃合いを見計らって!」
「お願いね!」
「そのときは、私も一緒によろしいですか?」
「もちろん!ナタリーが主にドレスは作ってくれているのだもの!お義母様が、始まりの夜会に出席されるという場合、最短でドレスって作れるかしら?」
「そのドレスにもよりますが、間に合わせて見せます!そういえば、アンナリーゼ様のドレスは出来上がっていますよ!今年のは出来がまた一段と大人の女性を意識したものになっていますから、あとでみてください!」


 にこっと笑うナタリーにありがとうと言うと、私の楽しみですから!と微笑んだ。


「ノクトはいつものように、好きなことをしてくれていいわ!土木工事に向かうもよし!砂糖の作付けに向かうもよし!自由にしていて!」
「俺だけ、雑じゃないか?」
「ノクト様は、名を呼ばれるだけましではありませんか?私など、一度も……」
「イチアにもちゃんと、仕事はあるわよ?通常運転という扇の要のような重要な仕事が。誰かが、領地運営を見ている人がいてくれないと……領民から上がってくる情報の処理は早々に必要だから!」
「して、アンナは、夫人の相手だけなのか?」


 にぃっと笑う私。


「もちろん、遊撃隊!いつでもどこでもはせ参じます!人手が必要なら、どこにでも呼んでちょうだい!お義母様のことは、私も気にかけるけど……領地のこと第一に考えます!それで、いいですよね?」
「もちろん!」


 ジョージアの許可が出たところで、領地からの報告へとうつっていくのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...