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抱きしめる

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 屋敷に近づくころ、お昼前になっていた。寒々していた日差しも、ほんのりあたたかみのあるものに変わり、ちらほら領民たちも活動を始めたようだ。
 すれ違うみなに挨拶をされれば、最近どう?と聞いてまわり、一向に前へと進まない。

 領主の屋敷が見えたときには、たくさん領民と話過ぎて疲れた。ノクトは、後ろで苦笑いをしているが、領民たちの顔をみれば帰ってきたという気がした。

 今日、帰ることは屋敷へ連絡をしていなかったのだが、子どもたちの遊ぶきゃっきゃという可愛らしい声が聞こえてくる。


「あぁ、アンジェラの声がする!」
「どれがだ?」
「あっ、ほら、今、まてぇーって言っているの」
「よくわかったな?」
「これでも、アンジェラのママですから!」


 胸を張ると、殆どかまってやれてないけどな?と余計な一言に肩を落とすと、何があっても、三人の母親に変わりないさと言ってくれるが、さっきのはいらないよね?と睨む。


「ほらほら、こんな道の真ん中で睨んでないで、アンジェラを抱きしめてこい!」
「……きっと、リアンに止められると思うの。お風呂に入って着替えてからじゃないとダメだと言われるのよ……」


 予想出来た未来にため息をついたが、早く会いたいに決まっている。
 馬車でなく、レナンテで帰ってきた理由はそこにもあった。


「レナンテ、行くよ!」


 あと少しだが、レナンテを走らせる。あっという間に領主の屋敷の前までこれた。レナンテからおりると、私に気が付いたアンジェラがパッと顔を綻ばせて、走ってくる。
 たどたどしい走りではなく、しっかりこちらに向けて。それを見ているだけで、涙が出そうになった。


「なにしているんだ?」
「感動しちゃって……アンジェラがすごく成長しているなって……」
「大きくなったなぁ……」
「ママッ!」


 最後の一歩は私に抱きつくように飛び込んできた。後ろからリアンが追いかけてきてくれ、私に気付いてニコリと笑う。


「ママ、ママッ!おかえり!」
「ただいま、アンジェラ!」
「ぎゅーだね!」


 嬉しそうに甘えるアンジェラを抱きかかえると、重くなっている。その重みにもさらに上手になったおしゃべりにも成長を感じた。

 ちょっと見ない間に……成長してる。公め……覚えてろ?

 命令されればはせ参じなければならない私の身の上、子の成長を見られないかと思うと、悔しくてしかたない。


「ママ、あのね?」
「ん?どうしたの?」
「ネイトがね、お話するの!」
「ネイトもお話できるようになったの?」
「そうなの!」


 弟も大事にしているアンジェラらしく、両頬に手をあてて嬉しいと伝えてくれる。その姿も可愛くて仕方がないなぁと微笑む。


「アンナリーゼ様、おかえりなさいませ」
「ただいま、リアン、レオ」
「おかえりなさい、アンナ様」
「レオも大きくなったわね!毎日、ちゃんと訓練しているのね!いい成長をしているわ!」
「本当ですか?父様が帰ってくるのを楽しみにしていたんです。練習の成果を見てもらおうと。その、父様は一緒じゃないんですか?」
「うん、ごめんね。ウィルは、国境近くの領地まで行ったから、まだ帰ってくるまで時間かかるかな」
「そうですか……」
「でもね、レオやミアからの手紙、ウィルはきっと喜んでいたと思うよ!早く帰りたいって言ってたし」
「ミアに会いたいからじゃないですか?」
「ミア?」
「みんな、ミアに会いたいって……」
「そんなことないわよ!ウィルは、レオの成長、とても楽しみにしているって話していたもの。リアン、少し、アンジェラをお願いできる?」
「ママ?」
「少しだけよ。ちょっとだけ、待っていて?」


 よくわからないけどというふうにアンジェラは頷き、リアンに抱かれる。私は、そのままレオに抱きついた。突然のことにリアンもノクトも驚き、レオはよくわからずに固まってしまった。


「レオ、私はレオにも会いたかったよ!とっても成長したね!ウィルがいない間、本当に練習を頑張ったんだって、体や顔つきを見ればわかる。よく頑張ったね!」


 ギュっと力を込めると、レオも抱き返してくる。初めて会ったときに比べ、身長も伸び、体重も増えただろう。棒のように細かった体には年相応の肉がつき、抱きしめればわかる。ウィルが考えている柔らかさもある筋肉がついていた。


「アンナ様。僕、頑張れていますか?一人じゃ、わからなくて……」
「えぇ、とっても。ウィルが考えている理想になっているわ!本当によく頑張っているわね!少しずつの積み重ねがレオを作っていくんだから、じっくり育てていきましょう!」


 誰かに褒めてほしかったのか、レオの少しだけ緊張していた体が揺るまったような気がする。1番はウィルに褒められたいだろうが、私でもよかったみたいだ。


「アンナ様、ありがとう」
「いえいえ。いつでも貸してあげるよ!」
「それは、聞きづてならないけど……」


 はぁ……とため息が上から降ってきた。足音で近づいて来ていることはわかっていたので、レオを解放して、なんとなく淑女の礼をとった。


「さすが、筆頭公爵。揺らぎもない綺麗な礼だね!」
「アンも!」


 リアンに降ろしてもらい、私の隣で淑女の礼をとるアンジェラ。チラッとそちらを見ると、少々グラグラと揺れてはいるが、とても上手に出来ていた。ナタリーが教えてくれたのだろう。


「ただいま戻りました、ジョージア様」
「おかえり、ご苦労だったね。公のおつかい」
「本当ですよ!」


 アンジェラの手を取り立ち上がる。目線の先、トロっとした蜂蜜色の瞳と目が合い、優しく微笑んでくれた。
 その微笑みひとつで、公への不満が吹っ飛んでしまったことは内緒である。
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