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そろそろ準備が必要ね?
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茶会に夜会にと出回っている間に、季節が変わろうとしている。
非常にまずい状況に、どうしようかと執務室で悩んでいた。
「アンナリーゼ様、どうかされましたか?」
「えぇ、この春、お義父様とお義母様がアンバー領へおみえになるは知っているわよね?」
「はい、大旦那様からお手紙が来ておりました」
「季節が変わりそうなんだけど……」
「本当ですね?」
意外とのんびりしているディルに私は驚く。むしろ、ディルが率先して動いてくれるのかと思っていたのにと少しだけ期待していた。
「はぁ……そろそろ準備が必要ね?」
「そうですか?アンバー領には、大旦那様たちを迎えるにあたり、それほど大掛かりに準備は必要ないかと思いますよ?」
「本当に?私、とても心配で……」
「大丈夫ですよ。リアンがきちんと整えてくれています。アンナリーゼ様がいらっしゃらない間は、旦那様がきちんと侍従たちに指示を出しているでしょうし」
「でも、私は嫁いできたわけで……」
「そのことでしたら、お二人とも何も言いませんよ。本当に、領地の状況を見たいだけと言っていましたし、ローズディア全体のことで、アンナリーゼ様が振り回されていることもご存じです」
そうなの?とディルを疑うように見つめると、心配しすぎですと笑われた。確かにリアンがいれば、なんとかなりそうな気がするが、出迎えに私がいないのは、どうも落ち着かない。可愛がってもらったとはいえ、後から家族になった私としては、気が気ではなかった。
「アンナリーゼ様は、まだ、公からの招待があるのですから、それに出ていただかないと、アンバー公爵家としては、むしろ困ります」
ディルに諭され、肩を落とす私。公が全部、解決してくれれば、私の出る幕なんてないのに!と内心不満をぶつける。
それにしたって、いつまでも、身動きが取れないのは、正直なところ困った。
社交の季節が始まる前に一旦、アンバー領へ戻り、春からの話も聞きたいし、収穫の話や新しいものの話を聞きたいと思っていたのに、全然帰れなかった。
そうこうしているうちに、社交の季節となり、また、アンバー領へはしばらく帰れなくなるし、コーコナにも行かないといけないので、身動きが取りにくい。
「今年は、このまま社交の季節を迎えるのはいかがですか?アンバー領のことは、報告書で何とかなるでしょうし……」
「報告書では、わからないこともあるから、自身で見に行きたいと思っているの。水車小屋のこともあるし、養豚所の話もあった。何か、いろいろとアンバー領で新しいことを進めているのに、その場所にいけないことが、辛いわ……」
私が、うぅ……と唸っていると、ディルがクスクスと笑う。
「どうかして?」
「アンアンリーゼ様は本当におもしろいかたですね?普通はそこまで、熱心に領地のことなんて考えませんよ?」
「そうなの?」
「えぇ、一定の納税さえあれば、領主は気にしない人が殆どでしょう」
「でも、それって、おもしろくないし……別に、私、お金が欲しいわけではないのよね?」
「確かに。アンナリーゼ様は、アンバー領の税収より実入りのいい儲け方をしていますからね」
「そうはいっても、お金は無限ではないし、私の私財をなげうって領地改革をするには限界がある。税収の何割かは初期投資で使ったお金を返してもらっているのよ」
「そうでしたか。それはしりませんでした」
「このお金は、子どもたちに残しておいてあげたいから!」
なるほどと柔らかく微笑むディルは、自身の子どものことを考えているのだろう。もう少ししたら、生まれてくるのだから。
「ディルは、子どもが生まれたらどうするの?」
「どうと言いますと?」
「まだまだ、先でしょうが……」
「あぁ、執事か侍女教育の話ですか?」
「えぇ、他にも道を用意してあげるのかとか……?」
「それは、生まれてきてから、成長に合わせて考えようかと考えています。最低限の礼儀作法は、どこに行っても必要ですから、それは教えるつもりですが、何にしても本人がやる気を見せてくれなければ、身につきませんから」
「まずは、母子ともに元気に出産を乗り越えるところからね!」
「えぇ、そうです。毎晩、まだかまだかと、デリアの腹を触っては、そわそわしてしまいます」
「ディルもそんな顔するのね?」
「どんな顔ですか?」
わからないというふうであるので、父親の顔と笑うと、まだまだですよと返ってきた。
「私、子育ては経験がありませんので……不安なことばかりです」
「デリアも一緒でしょ?」
「デリアは、多少なり、アンジェラ様やネイト様と関わりを持っていますから……」
「それでも、主の子と自身の子とは違うものよ」
そういうものですか?と自信なさげにしているディルを見たことがないので、とても新鮮だ。なにより、生まれてくる子を本当に楽しみにしていることがわかるので、こちらも嬉しくなる。
「ディル」
「何でしょうか?」
「アンバー公爵家もお願いしたいけど、デリアと生まれてくる子も大切にしてあげてね?」
「それは、もちろんです。デリアや子には、アンナリーゼ様のようにたくさんの愛情をかけたい思っています」
「私は、ディルが思っているほど、子どもたちに時間を割いてあげれてないもの……デリアもふくめ、子の成長を見守ってあげてね!」
それはもちろんですと、見たこともないほど頬が緩んでいるディルに私も微笑んだ。
当初の悩みを棚上げにし、公から手紙が来ないかとこぼすのであった。
非常にまずい状況に、どうしようかと執務室で悩んでいた。
「アンナリーゼ様、どうかされましたか?」
「えぇ、この春、お義父様とお義母様がアンバー領へおみえになるは知っているわよね?」
「はい、大旦那様からお手紙が来ておりました」
「季節が変わりそうなんだけど……」
「本当ですね?」
意外とのんびりしているディルに私は驚く。むしろ、ディルが率先して動いてくれるのかと思っていたのにと少しだけ期待していた。
「はぁ……そろそろ準備が必要ね?」
「そうですか?アンバー領には、大旦那様たちを迎えるにあたり、それほど大掛かりに準備は必要ないかと思いますよ?」
「本当に?私、とても心配で……」
「大丈夫ですよ。リアンがきちんと整えてくれています。アンナリーゼ様がいらっしゃらない間は、旦那様がきちんと侍従たちに指示を出しているでしょうし」
「でも、私は嫁いできたわけで……」
「そのことでしたら、お二人とも何も言いませんよ。本当に、領地の状況を見たいだけと言っていましたし、ローズディア全体のことで、アンナリーゼ様が振り回されていることもご存じです」
そうなの?とディルを疑うように見つめると、心配しすぎですと笑われた。確かにリアンがいれば、なんとかなりそうな気がするが、出迎えに私がいないのは、どうも落ち着かない。可愛がってもらったとはいえ、後から家族になった私としては、気が気ではなかった。
「アンナリーゼ様は、まだ、公からの招待があるのですから、それに出ていただかないと、アンバー公爵家としては、むしろ困ります」
ディルに諭され、肩を落とす私。公が全部、解決してくれれば、私の出る幕なんてないのに!と内心不満をぶつける。
それにしたって、いつまでも、身動きが取れないのは、正直なところ困った。
社交の季節が始まる前に一旦、アンバー領へ戻り、春からの話も聞きたいし、収穫の話や新しいものの話を聞きたいと思っていたのに、全然帰れなかった。
そうこうしているうちに、社交の季節となり、また、アンバー領へはしばらく帰れなくなるし、コーコナにも行かないといけないので、身動きが取りにくい。
「今年は、このまま社交の季節を迎えるのはいかがですか?アンバー領のことは、報告書で何とかなるでしょうし……」
「報告書では、わからないこともあるから、自身で見に行きたいと思っているの。水車小屋のこともあるし、養豚所の話もあった。何か、いろいろとアンバー領で新しいことを進めているのに、その場所にいけないことが、辛いわ……」
私が、うぅ……と唸っていると、ディルがクスクスと笑う。
「どうかして?」
「アンアンリーゼ様は本当におもしろいかたですね?普通はそこまで、熱心に領地のことなんて考えませんよ?」
「そうなの?」
「えぇ、一定の納税さえあれば、領主は気にしない人が殆どでしょう」
「でも、それって、おもしろくないし……別に、私、お金が欲しいわけではないのよね?」
「確かに。アンナリーゼ様は、アンバー領の税収より実入りのいい儲け方をしていますからね」
「そうはいっても、お金は無限ではないし、私の私財をなげうって領地改革をするには限界がある。税収の何割かは初期投資で使ったお金を返してもらっているのよ」
「そうでしたか。それはしりませんでした」
「このお金は、子どもたちに残しておいてあげたいから!」
なるほどと柔らかく微笑むディルは、自身の子どものことを考えているのだろう。もう少ししたら、生まれてくるのだから。
「ディルは、子どもが生まれたらどうするの?」
「どうと言いますと?」
「まだまだ、先でしょうが……」
「あぁ、執事か侍女教育の話ですか?」
「えぇ、他にも道を用意してあげるのかとか……?」
「それは、生まれてきてから、成長に合わせて考えようかと考えています。最低限の礼儀作法は、どこに行っても必要ですから、それは教えるつもりですが、何にしても本人がやる気を見せてくれなければ、身につきませんから」
「まずは、母子ともに元気に出産を乗り越えるところからね!」
「えぇ、そうです。毎晩、まだかまだかと、デリアの腹を触っては、そわそわしてしまいます」
「ディルもそんな顔するのね?」
「どんな顔ですか?」
わからないというふうであるので、父親の顔と笑うと、まだまだですよと返ってきた。
「私、子育ては経験がありませんので……不安なことばかりです」
「デリアも一緒でしょ?」
「デリアは、多少なり、アンジェラ様やネイト様と関わりを持っていますから……」
「それでも、主の子と自身の子とは違うものよ」
そういうものですか?と自信なさげにしているディルを見たことがないので、とても新鮮だ。なにより、生まれてくる子を本当に楽しみにしていることがわかるので、こちらも嬉しくなる。
「ディル」
「何でしょうか?」
「アンバー公爵家もお願いしたいけど、デリアと生まれてくる子も大切にしてあげてね?」
「それは、もちろんです。デリアや子には、アンナリーゼ様のようにたくさんの愛情をかけたい思っています」
「私は、ディルが思っているほど、子どもたちに時間を割いてあげれてないもの……デリアもふくめ、子の成長を見守ってあげてね!」
それはもちろんですと、見たこともないほど頬が緩んでいるディルに私も微笑んだ。
当初の悩みを棚上げにし、公から手紙が来ないかとこぼすのであった。
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