ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
761 / 1,513

裏切れないシルシ

しおりを挟む
 ジニーの様子を見たあと、医師から傷は深くないので大丈夫ですよと言われホッとした。いくら、この騒動の現況だったとしても、私が奪っていい命ではないことはわかっている。

 公なら、それでも、よくやったというのでしょうけどね。

 公を思い浮かべ、目を細める姿を想像した。ダドリー男爵の断罪に始まり、高官たちの膿を取り除く処遇を決めることや、政務を多少手伝ったせいだろう。公の仕草が容易に想像できてしまった。
 ため息をついていると、ノクトが大丈夫か?と問うてくる。


「うん、なんともないわ!さすがに、走り回っていたから、疲れているのかもね……」
「それなら、今日は休め。これ以上の感染が広がることはないのだろうから」
「そうね……そうしたいわね」
「一度、公都へ戻ることも考えたほうがいいだろう。ジニーの回復を待って……」
「1週間もあれば……大丈夫ね。しばらくは、ここで滞在をして、それぞれ休むことにしましょう。それより……ヒーナのことをどうするか、考えているのだけど……処分するのが1番いいと思うのよ」
「ただ、それが戦争の引き金になるかもしれないとも考えている」
「よくわかっているわね!」


 まぁなとノクトは呟いた。ノクトとインゼロ帝国の皇帝は、おじ甥の関係。性格は熟知しているのは当たり前である。


「アンナがあやつのところへ輿入れしていたら……少しは落ち着いただろうか?」


 ふと、突拍子もないことをいうノクトに驚いて見上げた。


「あぁ、そう思っただけだ。一緒にいればいるほど……その人誑しの才能を甥にも発揮して欲しかった……そうな……」


 言ってみただけだと、弱々しく呟く。


「ノクトでも弱音を吐くこともあるのね?」
「あぁ、そりゃ、人間だからな。愚痴を言いたい日もあれば、弱音を吐きたくなる日もある。順風満帆な人生なんて、誰一人ないと思うぞ?それぞれが思い悩み、苦しみながら生きている。順調そうなものでも、その苦しみだけは、心の何処かにはあるんだ」
「そうね……誰にでもあるわね。何処かで吐き出せる場所があれば、いいのだけど……」
「吐き出せないやつも、中にはいるからな……」
「ウィルとか?」
「確かに。あいつは……なかなか、弱音を吐かないな。アンナの前だけでもとは思うが、かっこつけには難しいか」


 ノクトと視線を合わせると、ウィルのことを思いながら笑ってしまう。


「私の前だから、吐き出せない言葉もあるんじゃないかしら?」
「たしかに。溢れたとき、誰かが受け皿になってくれるといいんだがな……」
「そうね……大切な人だからこそ、自身ももっと大事にしてほしいものだわ」
「早く、結婚してしまえばいいのに」
「そういう問題でもないんじゃないの。きっと」
「原因が言えば、なるほどと納得するしかないなぁ……」


 私は苦笑いをして、それには答えなかった。


「それで、ヒーナことはどうするんだ?」
「どうしようかしら?徹底的に皇室に仕える裏方って感じなのよね……だから、殺すことは、できない。なら、いっそ、インゼロ帝国を裏切ったと噂を流しましょう!と考えているのだけど……インゼロ帝国のどこにも居場所を無くすの。私の側でしか、いられないようにしてしまう!とか?」
「それは、かなり恨まれるんじゃないか?あぁ見えて、かなり自尊心もあるし、甥への忠誠は、かなりのものだ」
「なら、早い話で、強制的にこちらに寝返らせるだけよ」
「何をする?」
「体に傷をつける。そうすれば、言い逃れができなくなるわ!」


 ギョッとするノクトに、私は薄く笑む。怖いものでも見たという顔でこちらを見下ろしてきた。


「お呼びですか?」と入ってきたヨハンの師匠に部屋へ入ってもらう。意見を聞くために呼んだのだが、異様な空気に何事を話すのかと少々期待をしているようだった。


「呼んだのは、他でもないの。今、捕らえている女の子がいるでしょ?」
「えぇ、ヒーナといいましたか?」
「そう。あの子、インゼロ帝国のおつかいの子でね……戦争仕掛け屋さんの一員なのよ」
「えっ?あんな小さな子がですか?」
「見た目がってだけよ。あれでも、成人していると思うわ!たぶん、私よりかは年下でしょうけど……それで、相談なんだけど」
「私は、命を救う医者です。その……」
「わかってる。そこは、私もちゃんと考えているのよ。もし、殺すのであれば、私が手をかけることにするわ。あれほどの人材を処分するのは、勿体ないわよね……と思うわけで……」
「それは、ジニーもか?」
「ジニーは、私は面倒をみないって言ってあるから……ヨハンが何とかするでしょ?それも、相談にはのるけど……ジニーより、危険なヒーナのことね。そろそろ、仲間も動き出すころじゃない?」
「……そうだな。それで、どうするんだ?」
「背中にね……私の紋章を彫ることはできるかしら?」


 私の提案に驚くノクトと医師。


「罪人には、つけるでしょ?シルシを」
「あぁ、腕とか手首とかにつけるな。それを、ヒーナにもってことか?」
「そう。それを背中全体に。それで、ヒラヒラのドレスを着て、夜会に連れ出してしまおうかと」
「夜会だけでも、嫌がりそうだが……」
「背中全体を見えるドレスを着せて、誰の傘下にあるのか、夜会でだいだいてきに見せるのよ」
「アンナの周りに常にいる裏のやつらが、それをインゼロの組織へ伝えるとでも?」
「伝えなくてもいいの。噂になれば、もう、ヒーナの帰る場所はなくなる。唯一の場所を取り上げるのよ」


 なるほどな……と呟くノクト。


「なんて、残酷なことを……それでは、自ら……」
「裏の人間だからね……いずれ、どこかで野垂れ死ぬこともある。天寿を真っ当できる裏稼業の人は少ないわ。それに、インゼロに居場所を無くすだけで、残念ながら、私の側では、居場所が確保できるのよね。それが不服だっていうなら、仕方がないけど……」
「ヒーナを生かすためか……」
「そうね。生かすため。その代償は、何かしら必要なのよ。命と同等のものがね。領主の屋敷を襲ったことへの償いとしては、甘すぎるのだろうけど……これからも日の光の届かない場所で生きるのを前提としたら、甘い選択ではないと思うわ。インゼロの組織から、命を狙われることになるでしょうからね。あの子は、たぶん、幹部候補くらいの位置にはいるでしょうから、いろいろと知りすぎているでしょうし……」


 頷くノクト。組織には詳しくなくとも、薄々は知っていることもあるのだろう。


「手配してくれるかしら?できることなら、今すぐ取り掛かってほしいの」
「図案はあるのか?」
「ノクトの耳についているじゃない。アメジストの薔薇が」
「あぁ、これか……アンナよ」
「何?」


 こういう図案はどうだ?と提案してきたノクトに苦笑いをした。好きにどうぞと言えば、早速、彫り師を連れてくることになる。
 普通は、日数をかけて彫るが、罰という面もあるので、それほど、時間はかからないだろうとノクトに任せることとした。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

処理中です...