ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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裏切れないシルシ

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 ジニーの様子を見たあと、医師から傷は深くないので大丈夫ですよと言われホッとした。いくら、この騒動の現況だったとしても、私が奪っていい命ではないことはわかっている。

 公なら、それでも、よくやったというのでしょうけどね。

 公を思い浮かべ、目を細める姿を想像した。ダドリー男爵の断罪に始まり、高官たちの膿を取り除く処遇を決めることや、政務を多少手伝ったせいだろう。公の仕草が容易に想像できてしまった。
 ため息をついていると、ノクトが大丈夫か?と問うてくる。


「うん、なんともないわ!さすがに、走り回っていたから、疲れているのかもね……」
「それなら、今日は休め。これ以上の感染が広がることはないのだろうから」
「そうね……そうしたいわね」
「一度、公都へ戻ることも考えたほうがいいだろう。ジニーの回復を待って……」
「1週間もあれば……大丈夫ね。しばらくは、ここで滞在をして、それぞれ休むことにしましょう。それより……ヒーナのことをどうするか、考えているのだけど……処分するのが1番いいと思うのよ」
「ただ、それが戦争の引き金になるかもしれないとも考えている」
「よくわかっているわね!」


 まぁなとノクトは呟いた。ノクトとインゼロ帝国の皇帝は、おじ甥の関係。性格は熟知しているのは当たり前である。


「アンナがあやつのところへ輿入れしていたら……少しは落ち着いただろうか?」


 ふと、突拍子もないことをいうノクトに驚いて見上げた。


「あぁ、そう思っただけだ。一緒にいればいるほど……その人誑しの才能を甥にも発揮して欲しかった……そうな……」


 言ってみただけだと、弱々しく呟く。


「ノクトでも弱音を吐くこともあるのね?」
「あぁ、そりゃ、人間だからな。愚痴を言いたい日もあれば、弱音を吐きたくなる日もある。順風満帆な人生なんて、誰一人ないと思うぞ?それぞれが思い悩み、苦しみながら生きている。順調そうなものでも、その苦しみだけは、心の何処かにはあるんだ」
「そうね……誰にでもあるわね。何処かで吐き出せる場所があれば、いいのだけど……」
「吐き出せないやつも、中にはいるからな……」
「ウィルとか?」
「確かに。あいつは……なかなか、弱音を吐かないな。アンナの前だけでもとは思うが、かっこつけには難しいか」


 ノクトと視線を合わせると、ウィルのことを思いながら笑ってしまう。


「私の前だから、吐き出せない言葉もあるんじゃないかしら?」
「たしかに。溢れたとき、誰かが受け皿になってくれるといいんだがな……」
「そうね……大切な人だからこそ、自身ももっと大事にしてほしいものだわ」
「早く、結婚してしまえばいいのに」
「そういう問題でもないんじゃないの。きっと」
「原因が言えば、なるほどと納得するしかないなぁ……」


 私は苦笑いをして、それには答えなかった。


「それで、ヒーナことはどうするんだ?」
「どうしようかしら?徹底的に皇室に仕える裏方って感じなのよね……だから、殺すことは、できない。なら、いっそ、インゼロ帝国を裏切ったと噂を流しましょう!と考えているのだけど……インゼロ帝国のどこにも居場所を無くすの。私の側でしか、いられないようにしてしまう!とか?」
「それは、かなり恨まれるんじゃないか?あぁ見えて、かなり自尊心もあるし、甥への忠誠は、かなりのものだ」
「なら、早い話で、強制的にこちらに寝返らせるだけよ」
「何をする?」
「体に傷をつける。そうすれば、言い逃れができなくなるわ!」


 ギョッとするノクトに、私は薄く笑む。怖いものでも見たという顔でこちらを見下ろしてきた。


「お呼びですか?」と入ってきたヨハンの師匠に部屋へ入ってもらう。意見を聞くために呼んだのだが、異様な空気に何事を話すのかと少々期待をしているようだった。


「呼んだのは、他でもないの。今、捕らえている女の子がいるでしょ?」
「えぇ、ヒーナといいましたか?」
「そう。あの子、インゼロ帝国のおつかいの子でね……戦争仕掛け屋さんの一員なのよ」
「えっ?あんな小さな子がですか?」
「見た目がってだけよ。あれでも、成人していると思うわ!たぶん、私よりかは年下でしょうけど……それで、相談なんだけど」
「私は、命を救う医者です。その……」
「わかってる。そこは、私もちゃんと考えているのよ。もし、殺すのであれば、私が手をかけることにするわ。あれほどの人材を処分するのは、勿体ないわよね……と思うわけで……」
「それは、ジニーもか?」
「ジニーは、私は面倒をみないって言ってあるから……ヨハンが何とかするでしょ?それも、相談にはのるけど……ジニーより、危険なヒーナのことね。そろそろ、仲間も動き出すころじゃない?」
「……そうだな。それで、どうするんだ?」
「背中にね……私の紋章を彫ることはできるかしら?」


 私の提案に驚くノクトと医師。


「罪人には、つけるでしょ?シルシを」
「あぁ、腕とか手首とかにつけるな。それを、ヒーナにもってことか?」
「そう。それを背中全体に。それで、ヒラヒラのドレスを着て、夜会に連れ出してしまおうかと」
「夜会だけでも、嫌がりそうだが……」
「背中全体を見えるドレスを着せて、誰の傘下にあるのか、夜会でだいだいてきに見せるのよ」
「アンナの周りに常にいる裏のやつらが、それをインゼロの組織へ伝えるとでも?」
「伝えなくてもいいの。噂になれば、もう、ヒーナの帰る場所はなくなる。唯一の場所を取り上げるのよ」


 なるほどな……と呟くノクト。


「なんて、残酷なことを……それでは、自ら……」
「裏の人間だからね……いずれ、どこかで野垂れ死ぬこともある。天寿を真っ当できる裏稼業の人は少ないわ。それに、インゼロに居場所を無くすだけで、残念ながら、私の側では、居場所が確保できるのよね。それが不服だっていうなら、仕方がないけど……」
「ヒーナを生かすためか……」
「そうね。生かすため。その代償は、何かしら必要なのよ。命と同等のものがね。領主の屋敷を襲ったことへの償いとしては、甘すぎるのだろうけど……これからも日の光の届かない場所で生きるのを前提としたら、甘い選択ではないと思うわ。インゼロの組織から、命を狙われることになるでしょうからね。あの子は、たぶん、幹部候補くらいの位置にはいるでしょうから、いろいろと知りすぎているでしょうし……」


 頷くノクト。組織には詳しくなくとも、薄々は知っていることもあるのだろう。


「手配してくれるかしら?できることなら、今すぐ取り掛かってほしいの」
「図案はあるのか?」
「ノクトの耳についているじゃない。アメジストの薔薇が」
「あぁ、これか……アンナよ」
「何?」


 こういう図案はどうだ?と提案してきたノクトに苦笑いをした。好きにどうぞと言えば、早速、彫り師を連れてくることになる。
 普通は、日数をかけて彫るが、罰という面もあるので、それほど、時間はかからないだろうとノクトに任せることとした。
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