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おしおき必要?
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御者台から足をぶらぶらさせているヒーナを睨む。高みの見物をしながら、ちょっとだけジニーのお手伝いをしていた彼女こそが、この組織の頭なのだろう。途中で気が付いても、騙されるふりをしていたのだが、どこまであちらも見抜いていたのかはわからない。
違和感からずっと考えていた結果から導いた答え。ノクトの顔をこんな幼そうなヒーナが知るはずもない。余程、皇室に近い場所にいない限り、公爵であり将軍であるノクトには会えないはずであった。
ニッコリ笑うその顔は、未だ興奮冷めやらぬと言わんばかりに目がランランとしていて、おもしろそうだ。
「いつから気付いていたの?」
「……最初から違和感があったのよ。あなたほど幼い容姿なのに、名乗る名乗らない関係なくノクトだとわかったことに。インゼロでは、すでにお葬式まで済ませている人物を見間違わずに、皇族に従うと判断したでしょ?普通の幼い子どもであれば、いくら訓練をしていても、躊躇するものだと思うのよね!」
「それで、泳がせていたつもりが、逆に泳がされていたのね……アンバー公爵、皇帝がいうとおり……すごいわ!」
感心したというふうに、拍手をおくってくるヒーナにどう答えるのか迷った。見た目どおりの年齢なら、デビュタントもまだくらいの年齢である。
きっと、容姿が幼いだけで、中身は大人なのだろうと思うと身震いする。子どものふりをして、ヒーナはあちこちに潜伏するのだろう。
「それより、このままにしておくと、ジニーは死んじゃうわよ?」
「そうね。それもジニーの運命ってことよね。アンバー公爵は、助けないの?人助け大好きなんでしょ?」
「……人助け大好きってわけじゃないわ!打算的なだけだもの。ヒーナと同じよ」
足を組み、余裕をみせているヒーナ。身軽な彼女を捕らえるのは、難しいだろうと考えていた。ヒーナの動きだけをじっくり見ている。それだけでも、牽制になる場合もあるからだ。
「捕まってあげてもいいわよ?もう一度」
「どういう風の吹き回しかしら?主を主と思わないような人材はいらないのだけど?」
「誰も手駒になるとは言ってない!」
「誰も手駒にするなんて言ってないわ!むしろ願い下げよ!」
「いいのかなぁ?そんなこと言って」
「組織の人間がこの国に混ざりこんでいるって言いたいんでしょ?でも、それは生憎と私の仕事ではなくて、公の仕事だから……未来におこる火種はけしておきたいのはやまやまだけど、それほど興味はないわ!それより、我が家で帰りを待つ子どもたちの元へ帰りたいの」
「その子どもたちを襲うといえば?」
「全力でつぶすわよ!」
「怖い怖い。それにしても、お貴族様になのに、言葉遣いが荒いなぁ……」
ため息交じりに、私の方を見てクスっと笑った。
「ジニーが死にそうな今、私には交渉をする必要もないのよね。かといって、あなたたちを捕まえて、近衛へ引き渡したとしても、逃げられるでしょ?」
「それなら、ここで息を止めるしかないってことだよね?」
余裕を持って話をしているのは、ヒーナが強いからなのだろう。動いたとして、確実に殺されるのは、キースであろうことはわかる。私も無事でいられるか……本気でぶつかったら、五分かもしれない。
ノクトにキースを守れと指示をだすのも変なものだしなっと思っていると、ヒーナが御者台から飛び降りた。
「とりあえず、ジニーの手当てをしましょう。捕らえないにしても、聞きたいこともあるのでしょ?」
近寄ってくるヒーナの前に剣を構えるキースであったが、私は剣を下げるよう言うと、何故ですか?と訴えてくる。緩く首を横に振るだけにした。
「予定通り、子爵家へ向かうことにするわ。そこで、手当てを」
「それなら、広場に戻りましょう!医師がいる方が、命の助かる確立は上がるし、あなたに殺されることもないでしょ?」
「……確かに。用済みだから、死んでもらうのもひとつだものね」
寝転ぶジニーを見て、馬車に運んでと伝えてくる。
「ナイフは、そのままの方が出血を抑えられるわ。ゆっくり運んでちょうだい。他の者たちは……その辺に転がして置いてくれれば、その内気が付くでしょう。勝手に集まってくるからほっといてもいいわ」
「なんだか、かわいそうね」
「弱肉強食。強いものに従うのが、この組織のルールだから仕方がないでしょ?それぞれが強ければ、ノクト将軍にもアンバー公爵にも負けるはずがないですもの。それが情けないことに、醜態を晒すとは……」
大袈裟にため息をつき、御者台に座り直す。ノクトにジニーを馬車に乗せてもらい、私も一緒に乗った。
レナンテをノクトに任せると、馬車は動き始める。二人が馬車を並走してくれているので、二人きりの馬車内でジニーを観察した。
「それにしても、ソックリね……」
頬にかかるストロベリーピンクの髪をどけると、私の顔立ちとよく似た顔があった。
坊ちゃんが描いた絵のときは、思わなかったけどな。
なるべく、揺らさないように道を選んで走ってくれるおかげで、馬車の揺れは少ない。ときおり、苦しそうに息をはくジニーは、そろそろ意識を取り戻すのだろう。
「もう少しだけ、待ってね。手当てしてあげるから」
馬車に揺られ、1時間。
広場へ戻り、診療所へと駆け込んだ。ヨハンの師匠でもある医師に見せれば、驚きはしていたが、すぐに処置をしてもらえた。
「妙な真似はしないでね?兄であるヨハンにも会わせるんだから!」
「はいはい。私は、どうしていたらいいですか?公爵様」
投げやりなヒーナに、暇なら話でもする?と問えば、苦笑いされる。
なんなら、お仕置きでもいいのだけど……と考えていたら、通じたのだろうか。ものすごく嫌な顔をしていた。
「おしおきは必要?」
「そんなもの、必要なヤツは、相当ヤバいやつよ!できるなら、いらないわ!」
「それも、そうね……でも、おしおきできるものもないし……罰を与える権限も私にはないのよね……そうね……何か……」
そう考えていたとき、思いついたことがあった。それは、もう、嫌がるだろうことを考えニッコリ笑ったのである。
違和感からずっと考えていた結果から導いた答え。ノクトの顔をこんな幼そうなヒーナが知るはずもない。余程、皇室に近い場所にいない限り、公爵であり将軍であるノクトには会えないはずであった。
ニッコリ笑うその顔は、未だ興奮冷めやらぬと言わんばかりに目がランランとしていて、おもしろそうだ。
「いつから気付いていたの?」
「……最初から違和感があったのよ。あなたほど幼い容姿なのに、名乗る名乗らない関係なくノクトだとわかったことに。インゼロでは、すでにお葬式まで済ませている人物を見間違わずに、皇族に従うと判断したでしょ?普通の幼い子どもであれば、いくら訓練をしていても、躊躇するものだと思うのよね!」
「それで、泳がせていたつもりが、逆に泳がされていたのね……アンバー公爵、皇帝がいうとおり……すごいわ!」
感心したというふうに、拍手をおくってくるヒーナにどう答えるのか迷った。見た目どおりの年齢なら、デビュタントもまだくらいの年齢である。
きっと、容姿が幼いだけで、中身は大人なのだろうと思うと身震いする。子どものふりをして、ヒーナはあちこちに潜伏するのだろう。
「それより、このままにしておくと、ジニーは死んじゃうわよ?」
「そうね。それもジニーの運命ってことよね。アンバー公爵は、助けないの?人助け大好きなんでしょ?」
「……人助け大好きってわけじゃないわ!打算的なだけだもの。ヒーナと同じよ」
足を組み、余裕をみせているヒーナ。身軽な彼女を捕らえるのは、難しいだろうと考えていた。ヒーナの動きだけをじっくり見ている。それだけでも、牽制になる場合もあるからだ。
「捕まってあげてもいいわよ?もう一度」
「どういう風の吹き回しかしら?主を主と思わないような人材はいらないのだけど?」
「誰も手駒になるとは言ってない!」
「誰も手駒にするなんて言ってないわ!むしろ願い下げよ!」
「いいのかなぁ?そんなこと言って」
「組織の人間がこの国に混ざりこんでいるって言いたいんでしょ?でも、それは生憎と私の仕事ではなくて、公の仕事だから……未来におこる火種はけしておきたいのはやまやまだけど、それほど興味はないわ!それより、我が家で帰りを待つ子どもたちの元へ帰りたいの」
「その子どもたちを襲うといえば?」
「全力でつぶすわよ!」
「怖い怖い。それにしても、お貴族様になのに、言葉遣いが荒いなぁ……」
ため息交じりに、私の方を見てクスっと笑った。
「ジニーが死にそうな今、私には交渉をする必要もないのよね。かといって、あなたたちを捕まえて、近衛へ引き渡したとしても、逃げられるでしょ?」
「それなら、ここで息を止めるしかないってことだよね?」
余裕を持って話をしているのは、ヒーナが強いからなのだろう。動いたとして、確実に殺されるのは、キースであろうことはわかる。私も無事でいられるか……本気でぶつかったら、五分かもしれない。
ノクトにキースを守れと指示をだすのも変なものだしなっと思っていると、ヒーナが御者台から飛び降りた。
「とりあえず、ジニーの手当てをしましょう。捕らえないにしても、聞きたいこともあるのでしょ?」
近寄ってくるヒーナの前に剣を構えるキースであったが、私は剣を下げるよう言うと、何故ですか?と訴えてくる。緩く首を横に振るだけにした。
「予定通り、子爵家へ向かうことにするわ。そこで、手当てを」
「それなら、広場に戻りましょう!医師がいる方が、命の助かる確立は上がるし、あなたに殺されることもないでしょ?」
「……確かに。用済みだから、死んでもらうのもひとつだものね」
寝転ぶジニーを見て、馬車に運んでと伝えてくる。
「ナイフは、そのままの方が出血を抑えられるわ。ゆっくり運んでちょうだい。他の者たちは……その辺に転がして置いてくれれば、その内気が付くでしょう。勝手に集まってくるからほっといてもいいわ」
「なんだか、かわいそうね」
「弱肉強食。強いものに従うのが、この組織のルールだから仕方がないでしょ?それぞれが強ければ、ノクト将軍にもアンバー公爵にも負けるはずがないですもの。それが情けないことに、醜態を晒すとは……」
大袈裟にため息をつき、御者台に座り直す。ノクトにジニーを馬車に乗せてもらい、私も一緒に乗った。
レナンテをノクトに任せると、馬車は動き始める。二人が馬車を並走してくれているので、二人きりの馬車内でジニーを観察した。
「それにしても、ソックリね……」
頬にかかるストロベリーピンクの髪をどけると、私の顔立ちとよく似た顔があった。
坊ちゃんが描いた絵のときは、思わなかったけどな。
なるべく、揺らさないように道を選んで走ってくれるおかげで、馬車の揺れは少ない。ときおり、苦しそうに息をはくジニーは、そろそろ意識を取り戻すのだろう。
「もう少しだけ、待ってね。手当てしてあげるから」
馬車に揺られ、1時間。
広場へ戻り、診療所へと駆け込んだ。ヨハンの師匠でもある医師に見せれば、驚きはしていたが、すぐに処置をしてもらえた。
「妙な真似はしないでね?兄であるヨハンにも会わせるんだから!」
「はいはい。私は、どうしていたらいいですか?公爵様」
投げやりなヒーナに、暇なら話でもする?と問えば、苦笑いされる。
なんなら、お仕置きでもいいのだけど……と考えていたら、通じたのだろうか。ものすごく嫌な顔をしていた。
「おしおきは必要?」
「そんなもの、必要なヤツは、相当ヤバいやつよ!できるなら、いらないわ!」
「それも、そうね……でも、おしおきできるものもないし……罰を与える権限も私にはないのよね……そうね……何か……」
そう考えていたとき、思いついたことがあった。それは、もう、嫌がるだろうことを考えニッコリ笑ったのである。
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