ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
760 / 1,513

おしおき必要?

しおりを挟む
 御者台から足をぶらぶらさせているヒーナを睨む。高みの見物をしながら、ちょっとだけジニーのお手伝いをしていた彼女こそが、この組織の頭なのだろう。途中で気が付いても、騙されるふりをしていたのだが、どこまであちらも見抜いていたのかはわからない。
 違和感からずっと考えていた結果から導いた答え。ノクトの顔をこんな幼そうなヒーナが知るはずもない。余程、皇室に近い場所にいない限り、公爵であり将軍であるノクトには会えないはずであった。
 ニッコリ笑うその顔は、未だ興奮冷めやらぬと言わんばかりに目がランランとしていて、おもしろそうだ。


「いつから気付いていたの?」
「……最初から違和感があったのよ。あなたほど幼い容姿なのに、名乗る名乗らない関係なくノクトだとわかったことに。インゼロでは、すでにお葬式まで済ませている人物を見間違わずに、皇族に従うと判断したでしょ?普通の幼い子どもであれば、いくら訓練をしていても、躊躇するものだと思うのよね!」
「それで、泳がせていたつもりが、逆に泳がされていたのね……アンバー公爵、皇帝がいうとおり……すごいわ!」


 感心したというふうに、拍手をおくってくるヒーナにどう答えるのか迷った。見た目どおりの年齢なら、デビュタントもまだくらいの年齢である。
 きっと、容姿が幼いだけで、中身は大人なのだろうと思うと身震いする。子どものふりをして、ヒーナはあちこちに潜伏するのだろう。


「それより、このままにしておくと、ジニーは死んじゃうわよ?」
「そうね。それもジニーの運命ってことよね。アンバー公爵は、助けないの?人助け大好きなんでしょ?」
「……人助け大好きってわけじゃないわ!打算的なだけだもの。ヒーナと同じよ」


 足を組み、余裕をみせているヒーナ。身軽な彼女を捕らえるのは、難しいだろうと考えていた。ヒーナの動きだけをじっくり見ている。それだけでも、牽制になる場合もあるからだ。


「捕まってあげてもいいわよ?もう一度」
「どういう風の吹き回しかしら?主を主と思わないような人材はいらないのだけど?」
「誰も手駒になるとは言ってない!」
「誰も手駒にするなんて言ってないわ!むしろ願い下げよ!」
「いいのかなぁ?そんなこと言って」
「組織の人間がこの国に混ざりこんでいるって言いたいんでしょ?でも、それは生憎と私の仕事ではなくて、公の仕事だから……未来におこる火種はけしておきたいのはやまやまだけど、それほど興味はないわ!それより、我が家で帰りを待つ子どもたちの元へ帰りたいの」
「その子どもたちを襲うといえば?」
「全力でつぶすわよ!」
「怖い怖い。それにしても、お貴族様になのに、言葉遣いが荒いなぁ……」


 ため息交じりに、私の方を見てクスっと笑った。


「ジニーが死にそうな今、私には交渉をする必要もないのよね。かといって、あなたたちを捕まえて、近衛へ引き渡したとしても、逃げられるでしょ?」
「それなら、ここで息を止めるしかないってことだよね?」


 余裕を持って話をしているのは、ヒーナが強いからなのだろう。動いたとして、確実に殺されるのは、キースであろうことはわかる。私も無事でいられるか……本気でぶつかったら、五分かもしれない。
 ノクトにキースを守れと指示をだすのも変なものだしなっと思っていると、ヒーナが御者台から飛び降りた。


「とりあえず、ジニーの手当てをしましょう。捕らえないにしても、聞きたいこともあるのでしょ?」


 近寄ってくるヒーナの前に剣を構えるキースであったが、私は剣を下げるよう言うと、何故ですか?と訴えてくる。緩く首を横に振るだけにした。


「予定通り、子爵家へ向かうことにするわ。そこで、手当てを」
「それなら、広場に戻りましょう!医師がいる方が、命の助かる確立は上がるし、あなたに殺されることもないでしょ?」
「……確かに。用済みだから、死んでもらうのもひとつだものね」


 寝転ぶジニーを見て、馬車に運んでと伝えてくる。


「ナイフは、そのままの方が出血を抑えられるわ。ゆっくり運んでちょうだい。他の者たちは……その辺に転がして置いてくれれば、その内気が付くでしょう。勝手に集まってくるからほっといてもいいわ」
「なんだか、かわいそうね」
「弱肉強食。強いものに従うのが、この組織のルールだから仕方がないでしょ?それぞれが強ければ、ノクト将軍にもアンバー公爵にも負けるはずがないですもの。それが情けないことに、醜態を晒すとは……」


 大袈裟にため息をつき、御者台に座り直す。ノクトにジニーを馬車に乗せてもらい、私も一緒に乗った。
 レナンテをノクトに任せると、馬車は動き始める。二人が馬車を並走してくれているので、二人きりの馬車内でジニーを観察した。


「それにしても、ソックリね……」


 頬にかかるストロベリーピンクの髪をどけると、私の顔立ちとよく似た顔があった。

 坊ちゃんが描いた絵のときは、思わなかったけどな。

 なるべく、揺らさないように道を選んで走ってくれるおかげで、馬車の揺れは少ない。ときおり、苦しそうに息をはくジニーは、そろそろ意識を取り戻すのだろう。


「もう少しだけ、待ってね。手当てしてあげるから」


 馬車に揺られ、1時間。
 広場へ戻り、診療所へと駆け込んだ。ヨハンの師匠でもある医師に見せれば、驚きはしていたが、すぐに処置をしてもらえた。


「妙な真似はしないでね?兄であるヨハンにも会わせるんだから!」
「はいはい。私は、どうしていたらいいですか?公爵様」


 投げやりなヒーナに、暇なら話でもする?と問えば、苦笑いされる。
 なんなら、お仕置きでもいいのだけど……と考えていたら、通じたのだろうか。ものすごく嫌な顔をしていた。


「おしおきは必要?」
「そんなもの、必要なヤツは、相当ヤバいやつよ!できるなら、いらないわ!」
「それも、そうね……でも、おしおきできるものもないし……罰を与える権限も私にはないのよね……そうね……何か……」


 そう考えていたとき、思いついたことがあった。それは、もう、嫌がるだろうことを考えニッコリ笑ったのである。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...