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いざ、ジニー探しのたび!Ⅱ
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翌朝、同じ時間にウィルたちと出発した。ただ、行程が違うので、急いでいるウィルたちとはすぐに別れ、目的地の街へと向かう。
もう一人の助手は、すでに出発していたので、お願いねと声をかけることもできなかったが、きっと、やり遂げてくれるだろう。
「しかし、南へいけばいくほど、荒れて行きますね……そこかしこに死体が並んでいる」
「そうでしょうね。本当は、死体もきちんと埋葬してあげないと、そこから別の病が発生していくのよね……今は、冬だからまだ、いいけど……夏になれば、腐るのも早くなるし……そこも対策していかないとダメね」
キースと二人で、街の様子を見ながら、目的地へと向かう。この領地の中心地も酷い有様で、南へいけばいくほど、荒れ方が酷かった。
「アンバー領のほうが、まだ、マシだったかしら?」
「マシですか?」
「……変わらないか。死体も何体もあったし……道端に」
「アンナリーゼ様は、こういう光景を見ても平気ですか?」
「平気じゃないわよ?胸は痛むわ。普通の生活を提供できることが、本来領主の役割ですもの。機能していないことが、悔やまれるの」
私たちは、広場に開設されている診療所にはよらず、直接、領主の屋敷へと向かう。ここは、門兵もおらず、領主の屋敷も荒れ放題だった。
「これは……」
「剣をいつでも抜けるようにしておいて」
コクンと頷くキース。レナンテからおりて屋敷へとはいった。そこでは、門兵の成れの果てが転がっている。
「アンナリーゼ様!」
「しっ、夜盗が入ったのかもしれないわね。これだけ、荒れているのだもの。もしかしたら、領主は生きていないのかもしれないわ!」
ゆっくりとした足取りで屋敷へと入った。中は荒らされ、金目のものは取られ、あちらこちらに死体がある。
やはり、ここは、誰も住んでいない屋敷のようだ。
慎重に執務室へと向かった。耳をすまし、あちこちに気を付けながら、音を立てずに歩く。
「執務室は……開いているわね!」
手で押すと、ぎぃーっと開く。覗くと、誰もいない。
私は、剣の柄から手を離し、中へ入って行く。
「キース、見張ってて」
「はい」
執務椅子でこと切れているのが、この領地の領主だろう。
近づくと、見覚えのあるような顔である。ゴールド公爵よりの貴族だったはずだと思い出す。
「このぶんだと、医師も殺されているかもしれないわね……」
「聞いても?」
「えぇ、何?」
「どうして、こうなったのでしょう?」
「簡単な話よ。病が流行りすぎて、みなが弱っていたところにつけ狙われたの。私は戦えるけど、普通の貴族って……爵位を継ぐね。基本的に護衛をつけているでしょ?護身術は教えられるけど、自身や家族を守れるくらいの力量は貴族にはないのよ」
「だから、金で兵や護衛が雇われるってことですか?」
「そう。でも、その護衛も病に倒れれば、戦うのも難しいわ!40度の熱を出しながら、キースなら戦える?剣を持つだけでも、精一杯だと思うわ!」
キースは話を聞き、頷く。自身に置き換えてみて、納得したようだ。
「やっぱり、薬は、ここにはなさそう。広場も人がごった返していたし……死人も多数。ということは、盗まれたわね」
「薬もですか?」
「えぇ、高値で取引しているかもしれないわ……助手が無事ならなんとかなるかもしれないけど……薬がないと、厳しいわね」
「今日は、何も持ち合わせていませんよね?」
「そうね……どうしようかしら?」
そのとき、コツコツと音がした。廊下側ではなく、この部屋の内側だ。キースと目配せをして、執務室の扉を閉める。
ダドリー男爵が作った地下室のようなものが、ここにもあるのかもしれない。領主が逃げなかったのは、もしかすると、家族を逃がすため……だったのか。
私は、音もたてずにゆっくり執務室を歩いた。明らかに何かあるのは、歩いたときの感触でわかる。
どこだろう……なんだか、わかりにくところにある……
だいたいどこも同じような作りにしてあることが多い。隠し部屋にしても同じだ。ただ、私が見た限り、違うようだったので、こうして歩いているのだが……
絨毯?
「絨毯の下かしら?」
「えっ?絨毯の?そんなところ、隠し部屋に入ったあと、痕跡が残って目立つのでは?」
「確かに。でも、ここなら、わからない!」
執務机の下なら、絨毯が捲れていても、誰かが座っていたらわからないだろう。
「キース!」
「わかりました!」
心得たとキースは領主の死体をどけてくれる。執務机の下に潜り込む。
「あったわ!キースも続いて」
「わかりました」
そう言って、隠し部屋へと、入って行った。
中は、石が詰まれ、大人二人が横並びで歩いても大丈夫なほど、広い小道である。奥の方を見ると、明かりが見えた。
「誰か、いるわ!後ろを警戒して……」
「前に……」
「いいえ、私が、このまま行きます」
ゆっくり歩を進めると、そこにはデビュタント前後の少女と母親らしい人が震えながらひそひそと話をしていた。
わざと靴音を立てて、近づく。怯えていたのはわかるが、私の顔を見た瞬間、ホッとしたような顔になった。
「アンバー公爵?」
女性が目を細め、私を言い当てる。ニコリと笑いかけると、女性が持っていた木の棒を置いた。
「よくわかったわね!」
「高位の女性……とくにアンバー公爵のドレスの流行を取り入れるのが、私の唯一の楽しみでしたので……」
衰弱しきった女性の肩に手をあてがう。
何があったのかと問えば、ここ数日の話をしてくれた。ここに逃がされたとき、持っていくようにと渡された薬。食糧も底をつき、迎えに来てくれると約束した領主が迎えにこないことで、生きることを諦めかけていたそうだ。
「ちょうど、いいところに来たようね!外は、夜盗にゴッソリ持っていかれて、何も残ってはいないわ!領主の命もね」
「……そうですか」
気丈にも涙を流さない女性。少女は、置かれた現状に涙しているので、泣けないのだろう。
「あなたたちだけでも、助かってよかった。今から、ここを抜け出します。その薬を探していたの。これを持って、領民を助けましょう」
出口は別のところにもあるらしい。そちらを案内してもらうと、屋敷の裏手に出た。広場も近いので、そそくさと診療所へ二人を預ける。ヨハンの助手と話をすれば、快く受入れてくれた。
ただ、ここも、薬不足人不足で、眠れていない助手の目の下には、くっきりとクマが出来ている。
「看病を手伝ってくれるかしら?」
私がですか?という顔を一瞬したが、目の前の助手の顔や病に苦しんでいる領民を見て、頷く。
「何をすればいいですか?」そう言って女性は、少女とともに動き出したのである。
もう一人の助手は、すでに出発していたので、お願いねと声をかけることもできなかったが、きっと、やり遂げてくれるだろう。
「しかし、南へいけばいくほど、荒れて行きますね……そこかしこに死体が並んでいる」
「そうでしょうね。本当は、死体もきちんと埋葬してあげないと、そこから別の病が発生していくのよね……今は、冬だからまだ、いいけど……夏になれば、腐るのも早くなるし……そこも対策していかないとダメね」
キースと二人で、街の様子を見ながら、目的地へと向かう。この領地の中心地も酷い有様で、南へいけばいくほど、荒れ方が酷かった。
「アンバー領のほうが、まだ、マシだったかしら?」
「マシですか?」
「……変わらないか。死体も何体もあったし……道端に」
「アンナリーゼ様は、こういう光景を見ても平気ですか?」
「平気じゃないわよ?胸は痛むわ。普通の生活を提供できることが、本来領主の役割ですもの。機能していないことが、悔やまれるの」
私たちは、広場に開設されている診療所にはよらず、直接、領主の屋敷へと向かう。ここは、門兵もおらず、領主の屋敷も荒れ放題だった。
「これは……」
「剣をいつでも抜けるようにしておいて」
コクンと頷くキース。レナンテからおりて屋敷へとはいった。そこでは、門兵の成れの果てが転がっている。
「アンナリーゼ様!」
「しっ、夜盗が入ったのかもしれないわね。これだけ、荒れているのだもの。もしかしたら、領主は生きていないのかもしれないわ!」
ゆっくりとした足取りで屋敷へと入った。中は荒らされ、金目のものは取られ、あちらこちらに死体がある。
やはり、ここは、誰も住んでいない屋敷のようだ。
慎重に執務室へと向かった。耳をすまし、あちこちに気を付けながら、音を立てずに歩く。
「執務室は……開いているわね!」
手で押すと、ぎぃーっと開く。覗くと、誰もいない。
私は、剣の柄から手を離し、中へ入って行く。
「キース、見張ってて」
「はい」
執務椅子でこと切れているのが、この領地の領主だろう。
近づくと、見覚えのあるような顔である。ゴールド公爵よりの貴族だったはずだと思い出す。
「このぶんだと、医師も殺されているかもしれないわね……」
「聞いても?」
「えぇ、何?」
「どうして、こうなったのでしょう?」
「簡単な話よ。病が流行りすぎて、みなが弱っていたところにつけ狙われたの。私は戦えるけど、普通の貴族って……爵位を継ぐね。基本的に護衛をつけているでしょ?護身術は教えられるけど、自身や家族を守れるくらいの力量は貴族にはないのよ」
「だから、金で兵や護衛が雇われるってことですか?」
「そう。でも、その護衛も病に倒れれば、戦うのも難しいわ!40度の熱を出しながら、キースなら戦える?剣を持つだけでも、精一杯だと思うわ!」
キースは話を聞き、頷く。自身に置き換えてみて、納得したようだ。
「やっぱり、薬は、ここにはなさそう。広場も人がごった返していたし……死人も多数。ということは、盗まれたわね」
「薬もですか?」
「えぇ、高値で取引しているかもしれないわ……助手が無事ならなんとかなるかもしれないけど……薬がないと、厳しいわね」
「今日は、何も持ち合わせていませんよね?」
「そうね……どうしようかしら?」
そのとき、コツコツと音がした。廊下側ではなく、この部屋の内側だ。キースと目配せをして、執務室の扉を閉める。
ダドリー男爵が作った地下室のようなものが、ここにもあるのかもしれない。領主が逃げなかったのは、もしかすると、家族を逃がすため……だったのか。
私は、音もたてずにゆっくり執務室を歩いた。明らかに何かあるのは、歩いたときの感触でわかる。
どこだろう……なんだか、わかりにくところにある……
だいたいどこも同じような作りにしてあることが多い。隠し部屋にしても同じだ。ただ、私が見た限り、違うようだったので、こうして歩いているのだが……
絨毯?
「絨毯の下かしら?」
「えっ?絨毯の?そんなところ、隠し部屋に入ったあと、痕跡が残って目立つのでは?」
「確かに。でも、ここなら、わからない!」
執務机の下なら、絨毯が捲れていても、誰かが座っていたらわからないだろう。
「キース!」
「わかりました!」
心得たとキースは領主の死体をどけてくれる。執務机の下に潜り込む。
「あったわ!キースも続いて」
「わかりました」
そう言って、隠し部屋へと、入って行った。
中は、石が詰まれ、大人二人が横並びで歩いても大丈夫なほど、広い小道である。奥の方を見ると、明かりが見えた。
「誰か、いるわ!後ろを警戒して……」
「前に……」
「いいえ、私が、このまま行きます」
ゆっくり歩を進めると、そこにはデビュタント前後の少女と母親らしい人が震えながらひそひそと話をしていた。
わざと靴音を立てて、近づく。怯えていたのはわかるが、私の顔を見た瞬間、ホッとしたような顔になった。
「アンバー公爵?」
女性が目を細め、私を言い当てる。ニコリと笑いかけると、女性が持っていた木の棒を置いた。
「よくわかったわね!」
「高位の女性……とくにアンバー公爵のドレスの流行を取り入れるのが、私の唯一の楽しみでしたので……」
衰弱しきった女性の肩に手をあてがう。
何があったのかと問えば、ここ数日の話をしてくれた。ここに逃がされたとき、持っていくようにと渡された薬。食糧も底をつき、迎えに来てくれると約束した領主が迎えにこないことで、生きることを諦めかけていたそうだ。
「ちょうど、いいところに来たようね!外は、夜盗にゴッソリ持っていかれて、何も残ってはいないわ!領主の命もね」
「……そうですか」
気丈にも涙を流さない女性。少女は、置かれた現状に涙しているので、泣けないのだろう。
「あなたたちだけでも、助かってよかった。今から、ここを抜け出します。その薬を探していたの。これを持って、領民を助けましょう」
出口は別のところにもあるらしい。そちらを案内してもらうと、屋敷の裏手に出た。広場も近いので、そそくさと診療所へ二人を預ける。ヨハンの助手と話をすれば、快く受入れてくれた。
ただ、ここも、薬不足人不足で、眠れていない助手の目の下には、くっきりとクマが出来ている。
「看病を手伝ってくれるかしら?」
私がですか?という顔を一瞬したが、目の前の助手の顔や病に苦しんでいる領民を見て、頷く。
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