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状況整理Ⅱ

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 メイドの後に続き寝室へナルド子爵の寝室へと入る。ぐったり寝込んでいる様子をみるに、また、熱が上がったのではないだろうか?

 駆けよろうとしたメイドを止め、出入口のところで待つよう伝えた。


「ナルド子爵、目をあけられるかしら?」


 私の声に反応したのか、うっすら目を開け、微かに頷いた。起き上がろうとしているのか、動いていたが、そのままでいいと言うと、大人しく従ってくれる。


「熱がだいぶ上がってきているようね。もう少しで、夫人が帰ってくると思うから、そうしたら、薬を飲みましょう。2,3日の我慢です。自業自得だけど、誰かが誰かの陰謀で死ぬのは目覚めがよくないわ!耐えてちょうだい」


 熱に浮かされているのがわかるので、頷くだけでいいと言えば、そのようにしてくれた。


「さて、聞きたいことがあるの。隠し立てすることは、子爵自身より、子爵の家族が危なくなる……そう思ってちょうだい。このイヤリングのことなんだけど……病気が治ったら話してもらうとして……今は、質問に頷くか首をふるかしてちょうだい。」


 じっと見つめるイヤリングには見覚えがあるのだろう。少しだけ、目が揺らぐ。目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。


「このイヤリングは、屋敷の応接室にあったのだけど……まぁ、その……あれよね?」


 コクン。


「ジニーのつけていたもので間違いないかしら?」


 コクン。


「ジニーがインゼロからの間者だってことは、知っていたの?」


 フルフル。


「うーん、ジニーは、インゼロから人身売買された娼婦としてあちこちを回っている?」


 コクン。


「ジニーに子爵家の妾の座を用意すると言ったかしら?」


 コクン。


「ジニーは、妾になることは断った?」


 コクン。


「もっと、いい嫁ぎ先……最終的に公爵家か公の妃にでもなるつもりだとか言っていたかしら?」


 ……コクン。


「何か言いたそうね?娼婦が公の妃になんてなれるわけないと思っているって顔かしら?」


 …………コクン。


「残念ね、なれるわ。なった事例があるってだけしかわからないけど、なれるのよ。ただし、ジニーは一応貴族の令嬢だから、後追いでもきちんと手続きすれば、ちゃんと貴族の令嬢として迎えられることになる」


 !!


「知らなかったの?インゼロ帝国では、男爵の妹よ。私より子爵は年上だから、知っていると思うけど……ローズディア公国にオレジア男爵っていたのを知っていて?」


 しばし考えていたが、思い至ったのか、かなり驚いている顔をこちらに向けてくる。


「今はない貴族名に驚いたかしら?ジニーはオレジア男爵の傍系になるようね。インゼロに逃げ延びた一族の両親が帝国への貢献をしたことによって爵位を得ているの。ただ、ジニーの両親も早くなくなり、兄であるヨハン……私の主治医なんだけど、早々に切り離されて育っていたから、今になって行方がわかったって話なんだけど……」
「……ど……き、ぞく……」
「話さなくてもいいわ!オレジア男爵は、毒を扱うことに長けていた一族何でしょ?私もその恩恵は受けているから知っているの。インゼロでは医療の分野でも力を入れていたみたいね。戦争好きなインゼロでは、捕虜は捕虜であって捕虜ではないから……人として扱われることはない。人体実験にされていたから、多くの犠牲のうえに、薬の開発や医療の発達は著しいわね」


『予知夢』を見るようになってから、自国であるトワイス、移り住む予定であったローズディアだけでなく、三国で1番被害がでるエルドアのことを調べた。それ以上に調べたのが、インゼロ帝国。国としての在り方。皇帝の考え方や思想。国民の生活水準や生活様式。ありとあらゆることを調べて行くと、最後に辿り着くのは、医療の異常な発達であった。
 三国を1と考えるなら、100あるもののうち80くらいまでは、進んでいるのではないかと思うくらいであったのを今でも覚えている。
 さらに調べていけば、捕虜として連れていかれた敗戦国の人々が、どんな扱いを受けているのかを知ることになったのだが……今は、ローズディアへ攻め入るための前布石なのだろうと考えていた。
 国力を削ぐには、経済の動きを悪くさせることがあるが、それより直接的なのは、人口減少。
 人が減れば税収も減るし、近衛や領地の警備隊に志願するものが減れば公国の防衛が厳しくなる。
 国境の警備兵を増やすよう公に進言はしているが、いかんせん、病が蔓延する国最南端では、みなが躊躇するのは当たり前である。


「このイヤリングがジニーのものとするのなら……インゼロ製のものだから、何か、仕掛けがあるのかしらね?媚薬なんて使われたのは、知っていて?」


 ふるふるとする子爵ではあるが、怪しい。そこは、あえて深く聞かないでおく。


「ジニーの居場所なんて……知らないわよね?」


 ぼそっと呟くと、子爵が動かない腕を伸ばし、机を指さし中を開けるようにと身振りで伝えてくる。

 何があるのだろうか?

 言われるがまま、机の前に立ち、引き出しを引っ張った。そこに書かれている金額と日程表のようなものがあった。昨日の日付にはナルド子爵、その前の日はルチル坊ちゃんの名前があったので、未来日を見る。


 この日程なら……明日の出発でも間に合うかしら?


 あまりこの場から離れていないところに向かっていることがわかり、少しだけホッとする。


「この紙、もう子爵には必要のないものだと思うから、もらっていくわね!」


 欲しかった情報を手に入れられ、部屋をお暇しようとしたとき、寝室のノックがされた。


「おかえりなさい、夫人」
「言われたとおり、薬と受け渡し書をいただいてきました」


 貴族夫人には珍しく、玉の汗をかいている。


「えぇ、これでいいわ。あなたも熱が出てきているのでなくて?」
「……そんなことは」
「子爵の病があなたにもうつっているの。1粒、今すぐ飲んでちょうだい」
「でも、貴重な……」
「こういうふうに、受け渡し表があれば、代金は取りませんから、夫人もきちんと治療をしてください。その前に、薬の話をしますので、一緒に応接室へいきましょう」


 私は受取った薬を持って、子爵に近づき、一粒飲ませることにした。重症であるには変わりないが、薬をのむことで改善できるのだからと無理やり薬を飲ませ、夫人を連れ、我が物顔で子爵家の廊下を歩く私をよそに、気をしっかり持たなくてはとしんどそうな夫人がフラフラになりながらついてくるのであった。
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