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ヨハンの出自Ⅱ
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「アンナリーゼ様も知っているかもしれませんね。オレジア男爵って名前を」
「……聞き覚え、あるかも。たしか……ダドリー男爵の件で話をしているときに、カレンに教えてもらったわ!毒の研究をしていたとか……没落した貴族だったはずよね?」
「そうです。ローズディアの貴族の末席に名を連ねておりました。私の本名は、ヨハン・オレジアと申します」
「オレジア男爵家の一員なの?」
「一員というか傍系といいますか……よくある話ではありますが、没落した本家のやり方に疑問を持った両親が何もかもを捨てて国を出たので、男爵家の一員として言われるのかどうかは微妙などころです」
「そうなんだ。それで、ヨハンは生きているのね?たしか、没落の理由が当時の公世子の妃と子を殺害しようとしたのよね?」
「そうです。その罪で断罪されました。それ以上は、私も小さかったので知りませんが、両親と私の三人は、難を逃れインゼロへと向かいました」
「たしか、インゼロでは、男爵位を持っていたって、さっき言ってなかった?」
「えぇ、私も一応、インゼロへ戻れば男爵として遇してもらえます。今の知識を持っていれば」
苦笑いをするヨハンを見つめた。隣国で爵位を与えられるということは、何かしらにインゼロ帝国へ貢献しているからなのだが……一体、何に貢献したのだろうか?想像できることは、1つ。
「想像しているとおりですよ、アンナリーゼ様が」
「オレジア男爵の系列だと……戦争に使う毒を作ったり、解毒剤……あとは、今回みたいな流行り病などの薬を作ったり……医師として、また、毒を操る家系として暗躍してたのかしら?」
「正解です」
「ヨハンが、医師として優秀なのも、毒の研究をしているのも……家系だからなの?」
「それもありますが、単純に興味があるので両親の研究を続けていただけですよ」
ヨハンはさすがですねと苦笑いをし、私は次の言葉を考えた。ヨハンを責めているわけではないが、ヨハンの両親の研究結果で今の状況になり、意図的に病を広められているとしたら……ゾッとする。
「アンナリーゼ様が聞きたいことは、この薬のことですか?」
「それっ!」
「お二人とも見覚えがあるものでしょう?」
薄いピンクの錠剤がヨハンの掌で転がる。私は、手を伸ばそうとして、ダメですよと仕舞われてしまう。
「それって、俺が、ちょっと前に飲んだ伝染病の元じゃ?」
「そうです、サーラー様」
「……それ、それって、どうやって手に入れたの?」
「これは、私の血からできています。私には、この病の原因となる組織が体の中にある。普段の生活でも誰かにうつるとかはないのでご安心を。両親の研究の末、私と年の離れた妹には、いくつかの病原菌が体に組み込まれているのです」
「「!!」」
どうかされましたか?とこちらへ疑問を投げかけてくるヨハン。私はウィルに目配せをして、先程の仮定がはまったことに驚きを隠せていなかったようだ。
「……私たちは、何個かの仮定を考えたの。その内のひとつが、はまったことに、とても驚いているわ!私たちが1番ありえないよねと笑っていたことが、起こっているのかもしれないって思うと……怖くなった」
ブルっと震える私は、無意識に両腕をさすった。
「今回の感染症のきっかけとなったのは、人身売買で奴隷としてインゼロから入ってきた娼婦がいたらしいわ。その中には、紫の瞳の女性がいたと聞いている。どういうわけか、変な趣向の貴族たちに私が好かれているようで、その代わりにと今回連れてこられたらしいの」
「インゼロから、紫の瞳……」
「ヨハンの妹の可能性は、あるかしら?」
「年齢から考えれば、アンナリーゼ様の年より少しだけ年下になります。まさか?」
「そう……その女性を買ったらしいゴールド公爵家の跡取りは、見事に病を発症した。舌の上が、口内炎のようなぶつぶつとしたものができていたわ!その薬を作って飲ませたか、あるいは……」
私の言葉をヨハンが噛みしめていた。妹とは、すでに生き別れているので、所在がわからないという。
「可能性は、低くはないですね。実をいうと、あるものを食べると、普段は静まり返っている病の病原菌が活性化して、他人にうつすことができます。両親は、私にそれを教えていましたが……妹は、両親が亡くなった時点で、他の貴族に取り上げられたので、生きているのかどうかもわかりませんでした。今の話からすると、病を広げている可能性は限りなく妹のような気がします」
「その食べ物って何?」
「珍しいものなのですが……」
そう言って教えてくれたのは、小さな赤い実であった。名はないらしいその実を食べることで、他人に病をうつす病原菌を呼び起こすことができるらしい。
「それって、妹さんは、知っているの?」
「知りません。子どもでしたから……ただ、妹と一緒に、両親の研究成果が書かれた数冊の本がなくなっていることはわかっています。それで、知ったのかもしれません」
「なるほど。その実は、どこでなるの?」
「もちろん、インゼロです。この病自体がインゼロで広がるものですから。赤い実は、普段、薬としてよく使うものではありますが、私と妹は、その実を使うと、生物兵器に変わってしまいます。私の方は、救利の処方は、基本的に自分で作るので問題ないのですが」
「妹さんが、そういう体質だとわかってインゼロから送り込んできたとしたら……皇帝あたりが仕組んだことかしら?ローズディアの国力を下げるために」
「姫さん、その可能性はあるな!それで、狙われたら……戦争が始まったら、たまったもんじゃない!」
「大人しくしていたと思っていたのに、インゼロの皇帝が動き始めたってこと?」
急いで、手紙を書く必要がありそうだと頭を抱える。ヨハンの話を聞きながら、私は公とジョージア、ノクトへと手紙を書き始めるのであった。
「……聞き覚え、あるかも。たしか……ダドリー男爵の件で話をしているときに、カレンに教えてもらったわ!毒の研究をしていたとか……没落した貴族だったはずよね?」
「そうです。ローズディアの貴族の末席に名を連ねておりました。私の本名は、ヨハン・オレジアと申します」
「オレジア男爵家の一員なの?」
「一員というか傍系といいますか……よくある話ではありますが、没落した本家のやり方に疑問を持った両親が何もかもを捨てて国を出たので、男爵家の一員として言われるのかどうかは微妙などころです」
「そうなんだ。それで、ヨハンは生きているのね?たしか、没落の理由が当時の公世子の妃と子を殺害しようとしたのよね?」
「そうです。その罪で断罪されました。それ以上は、私も小さかったので知りませんが、両親と私の三人は、難を逃れインゼロへと向かいました」
「たしか、インゼロでは、男爵位を持っていたって、さっき言ってなかった?」
「えぇ、私も一応、インゼロへ戻れば男爵として遇してもらえます。今の知識を持っていれば」
苦笑いをするヨハンを見つめた。隣国で爵位を与えられるということは、何かしらにインゼロ帝国へ貢献しているからなのだが……一体、何に貢献したのだろうか?想像できることは、1つ。
「想像しているとおりですよ、アンナリーゼ様が」
「オレジア男爵の系列だと……戦争に使う毒を作ったり、解毒剤……あとは、今回みたいな流行り病などの薬を作ったり……医師として、また、毒を操る家系として暗躍してたのかしら?」
「正解です」
「ヨハンが、医師として優秀なのも、毒の研究をしているのも……家系だからなの?」
「それもありますが、単純に興味があるので両親の研究を続けていただけですよ」
ヨハンはさすがですねと苦笑いをし、私は次の言葉を考えた。ヨハンを責めているわけではないが、ヨハンの両親の研究結果で今の状況になり、意図的に病を広められているとしたら……ゾッとする。
「アンナリーゼ様が聞きたいことは、この薬のことですか?」
「それっ!」
「お二人とも見覚えがあるものでしょう?」
薄いピンクの錠剤がヨハンの掌で転がる。私は、手を伸ばそうとして、ダメですよと仕舞われてしまう。
「それって、俺が、ちょっと前に飲んだ伝染病の元じゃ?」
「そうです、サーラー様」
「……それ、それって、どうやって手に入れたの?」
「これは、私の血からできています。私には、この病の原因となる組織が体の中にある。普段の生活でも誰かにうつるとかはないのでご安心を。両親の研究の末、私と年の離れた妹には、いくつかの病原菌が体に組み込まれているのです」
「「!!」」
どうかされましたか?とこちらへ疑問を投げかけてくるヨハン。私はウィルに目配せをして、先程の仮定がはまったことに驚きを隠せていなかったようだ。
「……私たちは、何個かの仮定を考えたの。その内のひとつが、はまったことに、とても驚いているわ!私たちが1番ありえないよねと笑っていたことが、起こっているのかもしれないって思うと……怖くなった」
ブルっと震える私は、無意識に両腕をさすった。
「今回の感染症のきっかけとなったのは、人身売買で奴隷としてインゼロから入ってきた娼婦がいたらしいわ。その中には、紫の瞳の女性がいたと聞いている。どういうわけか、変な趣向の貴族たちに私が好かれているようで、その代わりにと今回連れてこられたらしいの」
「インゼロから、紫の瞳……」
「ヨハンの妹の可能性は、あるかしら?」
「年齢から考えれば、アンナリーゼ様の年より少しだけ年下になります。まさか?」
「そう……その女性を買ったらしいゴールド公爵家の跡取りは、見事に病を発症した。舌の上が、口内炎のようなぶつぶつとしたものができていたわ!その薬を作って飲ませたか、あるいは……」
私の言葉をヨハンが噛みしめていた。妹とは、すでに生き別れているので、所在がわからないという。
「可能性は、低くはないですね。実をいうと、あるものを食べると、普段は静まり返っている病の病原菌が活性化して、他人にうつすことができます。両親は、私にそれを教えていましたが……妹は、両親が亡くなった時点で、他の貴族に取り上げられたので、生きているのかどうかもわかりませんでした。今の話からすると、病を広げている可能性は限りなく妹のような気がします」
「その食べ物って何?」
「珍しいものなのですが……」
そう言って教えてくれたのは、小さな赤い実であった。名はないらしいその実を食べることで、他人に病をうつす病原菌を呼び起こすことができるらしい。
「それって、妹さんは、知っているの?」
「知りません。子どもでしたから……ただ、妹と一緒に、両親の研究成果が書かれた数冊の本がなくなっていることはわかっています。それで、知ったのかもしれません」
「なるほど。その実は、どこでなるの?」
「もちろん、インゼロです。この病自体がインゼロで広がるものですから。赤い実は、普段、薬としてよく使うものではありますが、私と妹は、その実を使うと、生物兵器に変わってしまいます。私の方は、救利の処方は、基本的に自分で作るので問題ないのですが」
「妹さんが、そういう体質だとわかってインゼロから送り込んできたとしたら……皇帝あたりが仕組んだことかしら?ローズディアの国力を下げるために」
「姫さん、その可能性はあるな!それで、狙われたら……戦争が始まったら、たまったもんじゃない!」
「大人しくしていたと思っていたのに、インゼロの皇帝が動き始めたってこと?」
急いで、手紙を書く必要がありそうだと頭を抱える。ヨハンの話を聞きながら、私は公とジョージア、ノクトへと手紙を書き始めるのであった。
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