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ヨハンの出自
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珍しく、なんでもどうぞという雰囲気で私たちを見つめるヨハンに、まず、どうしてここにいるのか、尋ねた。
「単純に薬の配達ですよ。誰か他の人にお願いしようにも、頼める人がいなかったので、自身で出てきただけです。感染の広がりを見ていれば、どこにどんなふうに薬があるのか、だいたいわかりますからね。どうせ、貴族が独占しているんだろうことは、想像できましたし。
まさか、こんな場所でアンナリーゼ様に出会うとは思いませんでしたけど?」
また、余計なことに首を突っ込んでと言いたげなヨハンに苦笑いをした。私も好き好んでこんな場所にいるわけではない。そのことはわかっているようで、仕方ありませんねという顔をしている。
「アンナリーゼ様は、アンバーで、好きに遊んでいるのが1番でしょ?わざわざ、感染者の多い領地へ赴かなくても……」
「そうなんだけど、現状、出向かないといけないような状況なの。本来なら、公が出向いたほうがいいのでしょうけど……こんな病の蔓延しているところへは、さすがに出せないですからね」
「それはわかっています。この状況……これでも、助手たちのこと、可愛がっているんでね。正直、貴族たちのおかげで、使い捨てのような扱いをされたら、流石にキレそうですけどね?」
ふっと笑うヨハンの顔は初めて見た。研究者として医師としてのヨハンは知っていても、助手たちのことを考えているヨハンは見たことがない。だいたい、いつも怒鳴っていたり、研究の話を子どもみたいに話していたり、気分の浮き沈みを助手たちがオロオロしながら走り回っている印象しかなかった。
「ここまでの領地に寄ったとき、助手たちには会えなかったので、診療所へは薬だけ置いてきたんです。ちょうど、夜勤明けで寝ているというのに、起こすのは酷でしょ?」
「確かに……」
「小耳に挟んだくらいの話で、酷い状況から一転、町医者を含め、体制を整えてくれた貴族のおかげで、なんとか、診療所の形をうまく保てるようになってきたと聞きましてね。さらに、助手の負担が大幅に減ったことを聞かされたんですけど、まさか……国で2番目に偉い人が感染者のうろつくところで、動き回っているなんて、思いもしませんでしたよ。そこのお兄さんには、言われてましたけど……現実的でない。
貴族は、ふんぞりかえっているからこそ、貴族なんだと思ってました。例外は、いることを知っていますがね」
意味ありげな表情で、こちらを見た。私?と見つめ返すと、ふっと笑う。
「フレイゼン侯爵夫妻もアンナリーゼ様のように病の中だろうが、どんな状況でも領民のためにと何かできることはないかと屋敷を出て行く。親子揃ってそうなのだから、おもしろいもんですね!」
返す言葉もなく、そうなんだと呟いた。
両親のことは、誇りに思ってはいるが、実際、この目で仕事ぶりを見たことはない。屋敷に執務を持ち帰るような人たちではなかった。子どもには後ろ姿を見せることはあれど、歯を食いしばって、領民のために動き回っている姿までは見せてくれなかった。
唯一、私と兄への教育として、与えられた社交での情報収集について教えてもらうこと以外、知らないのだ。
「貴重な話を聞けたわ!私、お父様やお母様がどんなふうに領民と接していたかのか知らないの」
「知らなくて、これですか……恐れ入りますね!」
小さくため気をついたヨハンに、聞きたいことがあると切り出した。
「あぁ、アンナリーゼ様とそっくりな紫……アメジストのような瞳の少女の話は、ノクトさんから聞きましたよ」
「この瞳の色は珍しいと思うんだけど……どうなの?」
「珍しいですね。お嬢さんがハニーローズなら、アンナリーゼ様は……たぶん」
「何?」
「確信がないから、言わないでおきますが、特殊な血筋の一人でしょう」
「そうなの?」
「えぇ、このローズディアの……コーコナ領の奥深くに住んでいたのです」
「コーコナ領の?」
私は、ウィルと視線を交わす。その様子がおかしいのか、ヨハンは笑った。
「特別に、アンナリーゼ様にも秘密を打ち明けましょう」
ヨハンは、じっと私を見つめると、涙が1粒2粒と流れる。驚いていると、さらに驚くことになった。
「ヨハン!その瞳……!」
「アメジストのような瞳だ!」
「これを知っているのは、亡くなった両親と妹、フレイゼン侯爵夫妻だけですよ」
「ブルーの瞳が……そんな……」
「驚いたでしょ?アンナリーゼ様とは、とても離れた血筋になります。夫人の家系にこの血が色濃く残っているようですね」
目薬をパチパチとすると、いつもの色に戻った。それにも驚く。
「どうして、隠しているの?」
「コーコナ領……前ダドリー領では、忌子でしたからね……隠すのは当たり前です」
「……そうなの?私、紫の瞳をしているわ!」
「今は、そんなこと、言いませんよ!生まれるよりずっと昔の話ですからね」
「えっと……生まれる前?」
「えぇ、私は、ローズディアで生まれていません。ローズディアからインゼロへ逃げた貴族の一族です。一応、インゼロでは、男爵位を拝命している家系ではありますよ。両親も死に年の離れた妹もどうなったかわかりませんが、私はたまたま、フレイゼン侯爵に拾われたのです。この紫の瞳が、夫人とそっくりで綺麗だという理由だけで」
お父様……と頭を抱えたくなったが、父のことだ。何かしらの才を見出して連れ帰ったのだろうことはわかる。今をみれば、立派になったヨハンは、この国を助けるために、とても必要な人物の一人であるのだから。
私は頷き、話の先を促した。
「単純に薬の配達ですよ。誰か他の人にお願いしようにも、頼める人がいなかったので、自身で出てきただけです。感染の広がりを見ていれば、どこにどんなふうに薬があるのか、だいたいわかりますからね。どうせ、貴族が独占しているんだろうことは、想像できましたし。
まさか、こんな場所でアンナリーゼ様に出会うとは思いませんでしたけど?」
また、余計なことに首を突っ込んでと言いたげなヨハンに苦笑いをした。私も好き好んでこんな場所にいるわけではない。そのことはわかっているようで、仕方ありませんねという顔をしている。
「アンナリーゼ様は、アンバーで、好きに遊んでいるのが1番でしょ?わざわざ、感染者の多い領地へ赴かなくても……」
「そうなんだけど、現状、出向かないといけないような状況なの。本来なら、公が出向いたほうがいいのでしょうけど……こんな病の蔓延しているところへは、さすがに出せないですからね」
「それはわかっています。この状況……これでも、助手たちのこと、可愛がっているんでね。正直、貴族たちのおかげで、使い捨てのような扱いをされたら、流石にキレそうですけどね?」
ふっと笑うヨハンの顔は初めて見た。研究者として医師としてのヨハンは知っていても、助手たちのことを考えているヨハンは見たことがない。だいたい、いつも怒鳴っていたり、研究の話を子どもみたいに話していたり、気分の浮き沈みを助手たちがオロオロしながら走り回っている印象しかなかった。
「ここまでの領地に寄ったとき、助手たちには会えなかったので、診療所へは薬だけ置いてきたんです。ちょうど、夜勤明けで寝ているというのに、起こすのは酷でしょ?」
「確かに……」
「小耳に挟んだくらいの話で、酷い状況から一転、町医者を含め、体制を整えてくれた貴族のおかげで、なんとか、診療所の形をうまく保てるようになってきたと聞きましてね。さらに、助手の負担が大幅に減ったことを聞かされたんですけど、まさか……国で2番目に偉い人が感染者のうろつくところで、動き回っているなんて、思いもしませんでしたよ。そこのお兄さんには、言われてましたけど……現実的でない。
貴族は、ふんぞりかえっているからこそ、貴族なんだと思ってました。例外は、いることを知っていますがね」
意味ありげな表情で、こちらを見た。私?と見つめ返すと、ふっと笑う。
「フレイゼン侯爵夫妻もアンナリーゼ様のように病の中だろうが、どんな状況でも領民のためにと何かできることはないかと屋敷を出て行く。親子揃ってそうなのだから、おもしろいもんですね!」
返す言葉もなく、そうなんだと呟いた。
両親のことは、誇りに思ってはいるが、実際、この目で仕事ぶりを見たことはない。屋敷に執務を持ち帰るような人たちではなかった。子どもには後ろ姿を見せることはあれど、歯を食いしばって、領民のために動き回っている姿までは見せてくれなかった。
唯一、私と兄への教育として、与えられた社交での情報収集について教えてもらうこと以外、知らないのだ。
「貴重な話を聞けたわ!私、お父様やお母様がどんなふうに領民と接していたかのか知らないの」
「知らなくて、これですか……恐れ入りますね!」
小さくため気をついたヨハンに、聞きたいことがあると切り出した。
「あぁ、アンナリーゼ様とそっくりな紫……アメジストのような瞳の少女の話は、ノクトさんから聞きましたよ」
「この瞳の色は珍しいと思うんだけど……どうなの?」
「珍しいですね。お嬢さんがハニーローズなら、アンナリーゼ様は……たぶん」
「何?」
「確信がないから、言わないでおきますが、特殊な血筋の一人でしょう」
「そうなの?」
「えぇ、このローズディアの……コーコナ領の奥深くに住んでいたのです」
「コーコナ領の?」
私は、ウィルと視線を交わす。その様子がおかしいのか、ヨハンは笑った。
「特別に、アンナリーゼ様にも秘密を打ち明けましょう」
ヨハンは、じっと私を見つめると、涙が1粒2粒と流れる。驚いていると、さらに驚くことになった。
「ヨハン!その瞳……!」
「アメジストのような瞳だ!」
「これを知っているのは、亡くなった両親と妹、フレイゼン侯爵夫妻だけですよ」
「ブルーの瞳が……そんな……」
「驚いたでしょ?アンナリーゼ様とは、とても離れた血筋になります。夫人の家系にこの血が色濃く残っているようですね」
目薬をパチパチとすると、いつもの色に戻った。それにも驚く。
「どうして、隠しているの?」
「コーコナ領……前ダドリー領では、忌子でしたからね……隠すのは当たり前です」
「……そうなの?私、紫の瞳をしているわ!」
「今は、そんなこと、言いませんよ!生まれるよりずっと昔の話ですからね」
「えっと……生まれる前?」
「えぇ、私は、ローズディアで生まれていません。ローズディアからインゼロへ逃げた貴族の一族です。一応、インゼロでは、男爵位を拝命している家系ではありますよ。両親も死に年の離れた妹もどうなったかわかりませんが、私はたまたま、フレイゼン侯爵に拾われたのです。この紫の瞳が、夫人とそっくりで綺麗だという理由だけで」
お父様……と頭を抱えたくなったが、父のことだ。何かしらの才を見出して連れ帰ったのだろうことはわかる。今をみれば、立派になったヨハンは、この国を助けるために、とても必要な人物の一人であるのだから。
私は頷き、話の先を促した。
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