ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
732 / 1,511

私たちの行動の先に

しおりを挟む
 町医者の助手と薬を乗せた荷馬車を地方へと見送る。診療所へ戻り、忙しくしているみなを横目に、特に何かをするわけでもなく歩き回る。


「姫さん、邪魔だから端にどいて!」


 大量のタオルを持って歩いているウィルに叱られ、壁際へ寄った。いつの間にか、手伝いをしているウィルの後ろ姿を見ながら、私は私の行くべきところへ移動することにした。


「どこに向かわれるのですか?」
「キースもお手伝いしてくれているんじゃないの?」
「そうですけど、俺がしないといけないことは、アンナリーゼ様の護衛なんで……」
「まぁ、そうだけど……こんなところで、誰も襲ってこないわよ!」
「そうかもしれませんが、外へ向かうなら、連れて行ってください」
「それもこれも、引き抜きしてもらおう大作戦のひとつ?」
「違いますけどね?ただ、一人で出歩く公爵なんて聞いたことがないので……恰好だけでも護衛がいますよ!って見えていたほうが、襲う方にも心構えができるでしょ?」
「一人だと簡単そうだから、なめられるってことかしら?」
「まぁ、そうですね……それで、痛い目にあったら、なんとなく、襲ったほうが可哀想じゃないですか?」


 理不尽な言い訳に、むっとしながら、ついてくるなら勝手にしてと歩き始めた。行先は、だいたい歩いていけば、わかるだろう。領主の屋敷へ向かう。道に溢れかえっていた患者は、1週間前より少なくなった。
 受け入れ先として、町医者の診療所が機能しているおかげで、なんとか、病人を町中でフラフラと歩かせておくこともなくなったのだ。


「それにしても、減りましたね。このへんの人」
「なんとか、受け入れ先が見つかったり、自宅で待機だったとしても、診察に回れる余裕が出来たからね」
「確かに。受け入れ先がないと、なかなか、町を歩く人が減りませんでしたからね。あと、大きいのは、やはり町医者が手を貸してくれていることですね……これ程だとは、おもいませんでしたが、やはり、アンナリーゼ様の考えは、素晴らしいです」
「私の考えなんて、素晴らしくもなんともないわよ?爵位があるからいうことを聞いてくれるのだし、お金を払うから動いてくれるのだもの。人の使い方と言えば、少し言葉が悪いのかもしれないけど……そういうのが、公は下手よね。信頼できる部下がまだいないのがダメなのかもしれないけど……これくらいのことなら、ちょっと機転の利く人がいればできると思うんだけどな……領主や貴族を取り締まる人がいないから、現場がこんなに混乱しているし、感染者が出歩いているから、いつまでたっても減らないのよね……」


 ため息をついても仕方がないので、その代わり領主の屋敷へ向かい、門兵を睨めば通してくれた。


「領主はいますか?」


 屋敷へ入ると、執事が対応してくれる。不躾な訪問でも、文句言わないのはさすがだが、もう少し顔に出ているものをなんとかしてほしい。


「旦那様は臥せっており、代わりに奥さまが……」
「えぇ、構わないわ!たいした用事じゃないから」


 客間へと言われたが、わざわざ部屋まで行くのも面倒だな……と思い、ニコッと笑って、夫人を玄関まで呼び寄せた。未だかつていたのだろうか?玄関で話を済ませて帰るなんて……唐突にやってきた招かれざる客だとしても、公爵を玄関で帰したとなれば、貴族の名折れだろう。
 そこまで、この執事は気にしていないようだし、夫人も私がいうならというふうであった。
 本来は、それでも、客間へ通してきちんとしたおもてなしをしないといけないの上位者への常識なのだが……こんなものだろうと私は興味もない。


「あの、それで、どのようなお話でしょうか?夫が臥せっており、看病が必要でして……」
「そう。それは、大変よね。先日も来たとき、臥せっていたようだけど……まだ、治っていないのね?薬は、大量に使っていたようだけど!」
「それは……領主ですから、必要な処置として……」
「領主自らがお金を出して買ったものなら、別にどのようにしてもらっても構わないし、医師も好きにしてくれていいわ!」
「ありがとう存じます。私も夫もおかげで、もうすぐ完治するのではないかと、医師が申しておりますゆえ」
「そう。よかったわね。私が今日来たのは、お金の話をしに来たの!」
「……お金ですか?何かあるのでしょうか?」


 何のことかしら?と執事を見る夫人に、ニッコリ笑いかけた。


「公がこの領地の分として配布した薬についてですわ!先日、お返しいただきましたが、領主が勝手に持ち出した分については、実費となっていますので、請求書をお持ちしましたわ!あの薬。用法用量を守れば、3日程度で完治するのに対して、どれほどの人数を治療したのかわかりませんが、半分近くなくなっていましたの。公へ1週間以内にお支払いください。医師については、こちらへ派遣するときに、前金として渡した給金の返納を言い渡します。領主権限で、医師を囲ったのであれば、そちらの支払いもしてあげてください。生活苦で死なれて困りますから!」


 さらに笑顔を深めてやる。請求書を開いている夫人は、青ざめたと思ったら、泡を吹いて倒れてしまった。
 それも、そうだろう。この領地の3年分の金額が書かれているのだ。支払いは難しいだろう。


「こんな法外な金額、支払うことができません!しかも、税金や領民から徴収することを禁ずるだなんて!」


 夫人にかわって、執事が私に噛みついてくる。あら?と私は小首を傾げる。


「夫人の指に嵌っている宝石とネックレスにブレスレットを売買するだけでも、結構な金額になるとは思いますわよ?あと、そうですね。そこらへんにある骨とう品とか売りに出したらどうですか?他にも……あぁ、この屋敷を売買すれば、このくらいのお金にはなるでしょうね!買い手があればの話ですけど」


 執事がこちらを睨んでくるが、私が請求をしているわけではない。それに、公によって誓約書も書かせてある。その誓約書をきちんと読まなかった領主も悪いし、他の貴族にも出させればいいだけの話だ。


「期日までにお願いしますね。私の命令ではなく、公からの命令です。あと、誓約書をきちんと読んでいればこんなことにはならなかったでしょう。わざわざ、小文字ではなく他の文章と同じ文字の大きさで書いてあるのですから」


 ごきげんようと屋敷を後にした。請求の取り立てについては、私ではなく公から派遣してくれることになっているので、それは任せよう。広場へ戻り、次の領地へ向かうことを告げ、準備をした。きっと、次の領地でも同じようなことが起こっているのだろうと思うと、頭が痛くなる……そんな思いであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

処理中です...