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ここもすごい人ね?
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診療所へ入って行くと、顔を赤くしたりぐったりしている領民が床にへたりこんだりしていた。
「ここも、すごい人ね?」
「本当ですね……ここは、前の領地の比ではないですね」
「この領地は、人も多いし前の領地よりも広いから、必然的にこうなるわよね……」
床に寝転んでいる人に声をかけているここのお手伝いをしているのであろう女性も顔色が悪い。疲労もあるが、たぶん罹患しているのだろう。
診療所自体に蔓延してしまっているのではないだろうか?
「あの、こちらに何か?」
診療所の中を見ていると、訝しむ女性。私たちは、こんにちはと挨拶した。あまりにもこの場に似つかわしくない明るい声だったので、俯いていた 他の病人たちも上を見上げる。
「……こんにちは、あの……」
「ここのお医者様に会いたいのだけど、できるかしら?」
「今は……」
「忙しいのよね?この状況ですもの。ただ、この状況の打開策を持ってきたと言えば、会いたくなってくれるかしら?」
「打開策ですか?」
「えぇ、この病のことも知っているし、薬もある。助けたいと思っているなら、私にもお医者様にあう機会をくれないかしら?」
診る側も疲れているし、病に臥せっているものたちは言うまでもない。
なのに、領主から何もされていないことに、腹が立つ。これだけの病人を抱えているのなら、死者も出てきているに違いない。
「こちらにどうぞ」
「行きましょう、キース」
女性の判断を待っていた私たちはその場から案内され診察室へ入る。そこにいた医師の目は虚ろで、随分、この病に悩まされているようであった。
「あなたが、この病のことを教えてくださる方ですか?随分お若い方で驚きました」
「ありがとう。私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバー。アンバー公爵です」
「えっ?公爵様ですって?」
突然の公爵の訪問に、疲れ切って深く椅子にかけていた医者は、驚き慌てて立ち上がり、床にひれ伏した。その様子に驚く私。見慣れているのだろうキースは、何も言わない。
「立ちなさい」
「いえ、そんな……公爵様の前に私のような平民が、顔を合わせるなど……あっては……」
「いいから!指示に従わないのなら……キース。椅子に座らせて」
若干抵抗する医師を、近衛であるキースは軽々立たせて席に座らせる。それでも、申し訳ないと慌てているが、気にしないでほしい。無理だと思うけど……微笑んでおく。
「あの、その、公爵様が、何故このような場所に?危険ではありませんか?ここは、名もわからぬ病が蔓延している土地です。高貴な方が来る場所ではありません……」
「そうかしら?領地を回ることはよくあるから、特になんとも思わないわ!私、この病には1度罹っているから、罹患率がグッと低いのよ」
「それでも、危なくないですか?」
「心配してくれて、ありがとう。あなたも、罹患しているのに領民のために力を尽くしてくれてありがとう。公に代わりお礼をいうわ!」
「めっそうもございません!」
その疲れ切った顔に私は微笑んだ。
「アンバー公爵様は、噂で聖女のような方だと聞いたことがありますが、本当にそうですね。死ぬ間際に迎えに来てくださった方が、そんな方でよかった……」
「私は聖女でもなければ、死神でもありませんよ?あなたも、生きることを諦めないで!たくさんの方をこの病ですでに見送ったのですね?」
「……はい。手のうちから零れ落ちていく命の多さに、もう、耐えられません」
そう言って、町医者は涙を零した。
「ねぇ、あなたがあなたの命を諦めたら、助かる命も助からなくなるの。お願い、私たちに力を貸してちょうだい。私は、あなたたち町医者の力を借りたいの」
「……力をですか?」
「えぇ、そう。公が医師を派遣したことは知っていて?」
「はい。でも、その殆どが、貴族たちに取られたというのも聞いています」
「そうなの。だから、あなたたちの力を借りたいの。派遣された医師の中、本当に治療に関われるのは、一人だけ。それことは、みなさん知っていますか?」
「……いえ、それは。私たちは、医師が派遣され、薬を……あと、領主の命によって、その医師たちも貴族たちがと、断片的な話しか入ってきていません。何しろ、この状況ですから、情報が入ってきません。目の前の患者のことだけで精一杯で……もう……」
零れ落ちる涙は、一旦引っ込んでいたが、あまり芳しくないのだろう。精神的に追い込まれている町医者に光を見せないといけない。こんなにも苦悩をしてくれたのだから……
「今から、広場へ患者を連れて移動することは、無理でしょう。かなり弱っている人も多くいるように見えます。なので、申し訳ないが、あなたが広場へ向かい、この薬を必要な分だけ取りに行ってきてください。広場で、治療に関われる医師は、まだ、医師ではありませんから、貴族に取り込まれることはないでしょう」
「医師ではない……ですか?」
「所謂、医師の助手です。もう少ししたら、各地へ派遣を考えていた者たちなので、腕は確かですし、病気に関する情報量も治療方法もどこの医師より持ち合わせています。そして、その助手は、他ならない私の領民ですから、貴族に屈することはありません。これを持って、必要な分だけ、診察方法、治療方法、薬をもらってきてください。助手はいらっしゃいますよね?必ず、複数人で向かってくださいね!」
私は、アンバー領の紋章が入ったハンカチを渡す。事前に何かあったとき、領主である私の命に従って欲しいことは伝えてあるので、これを持っていけば、大丈夫だろう。
「アンバー領の紋章……しかし、これでは……」
「この紋章は、特別仕様になっていますから……なんなら、一筆書きましょう!」
紙とペンをもらい、サラサラっと事情を書く。
「ありがとうございます!さっそく、向かいます!」
そう言って、医師はふらつく足に力を込め、助手たちを連れ、早速診療を出て行った。
「よかったのですか?広場へ移動させなくても……」
「広場も溢れかえっていたから、バラバラに治療した方がいいわ!他のところも回りましょう!」
私とキースは他の診療所を回る。地方にも同じような伝達が向かうよう、どうすればいいかと聞いたら、運送業の面々がこちらに滞在していることを知る。私は、そちらへと足を運ぶのであった。
「ここも、すごい人ね?」
「本当ですね……ここは、前の領地の比ではないですね」
「この領地は、人も多いし前の領地よりも広いから、必然的にこうなるわよね……」
床に寝転んでいる人に声をかけているここのお手伝いをしているのであろう女性も顔色が悪い。疲労もあるが、たぶん罹患しているのだろう。
診療所自体に蔓延してしまっているのではないだろうか?
「あの、こちらに何か?」
診療所の中を見ていると、訝しむ女性。私たちは、こんにちはと挨拶した。あまりにもこの場に似つかわしくない明るい声だったので、俯いていた 他の病人たちも上を見上げる。
「……こんにちは、あの……」
「ここのお医者様に会いたいのだけど、できるかしら?」
「今は……」
「忙しいのよね?この状況ですもの。ただ、この状況の打開策を持ってきたと言えば、会いたくなってくれるかしら?」
「打開策ですか?」
「えぇ、この病のことも知っているし、薬もある。助けたいと思っているなら、私にもお医者様にあう機会をくれないかしら?」
診る側も疲れているし、病に臥せっているものたちは言うまでもない。
なのに、領主から何もされていないことに、腹が立つ。これだけの病人を抱えているのなら、死者も出てきているに違いない。
「こちらにどうぞ」
「行きましょう、キース」
女性の判断を待っていた私たちはその場から案内され診察室へ入る。そこにいた医師の目は虚ろで、随分、この病に悩まされているようであった。
「あなたが、この病のことを教えてくださる方ですか?随分お若い方で驚きました」
「ありがとう。私の名前は、アンナリーゼ・トロン・アンバー。アンバー公爵です」
「えっ?公爵様ですって?」
突然の公爵の訪問に、疲れ切って深く椅子にかけていた医者は、驚き慌てて立ち上がり、床にひれ伏した。その様子に驚く私。見慣れているのだろうキースは、何も言わない。
「立ちなさい」
「いえ、そんな……公爵様の前に私のような平民が、顔を合わせるなど……あっては……」
「いいから!指示に従わないのなら……キース。椅子に座らせて」
若干抵抗する医師を、近衛であるキースは軽々立たせて席に座らせる。それでも、申し訳ないと慌てているが、気にしないでほしい。無理だと思うけど……微笑んでおく。
「あの、その、公爵様が、何故このような場所に?危険ではありませんか?ここは、名もわからぬ病が蔓延している土地です。高貴な方が来る場所ではありません……」
「そうかしら?領地を回ることはよくあるから、特になんとも思わないわ!私、この病には1度罹っているから、罹患率がグッと低いのよ」
「それでも、危なくないですか?」
「心配してくれて、ありがとう。あなたも、罹患しているのに領民のために力を尽くしてくれてありがとう。公に代わりお礼をいうわ!」
「めっそうもございません!」
その疲れ切った顔に私は微笑んだ。
「アンバー公爵様は、噂で聖女のような方だと聞いたことがありますが、本当にそうですね。死ぬ間際に迎えに来てくださった方が、そんな方でよかった……」
「私は聖女でもなければ、死神でもありませんよ?あなたも、生きることを諦めないで!たくさんの方をこの病ですでに見送ったのですね?」
「……はい。手のうちから零れ落ちていく命の多さに、もう、耐えられません」
そう言って、町医者は涙を零した。
「ねぇ、あなたがあなたの命を諦めたら、助かる命も助からなくなるの。お願い、私たちに力を貸してちょうだい。私は、あなたたち町医者の力を借りたいの」
「……力をですか?」
「えぇ、そう。公が医師を派遣したことは知っていて?」
「はい。でも、その殆どが、貴族たちに取られたというのも聞いています」
「そうなの。だから、あなたたちの力を借りたいの。派遣された医師の中、本当に治療に関われるのは、一人だけ。それことは、みなさん知っていますか?」
「……いえ、それは。私たちは、医師が派遣され、薬を……あと、領主の命によって、その医師たちも貴族たちがと、断片的な話しか入ってきていません。何しろ、この状況ですから、情報が入ってきません。目の前の患者のことだけで精一杯で……もう……」
零れ落ちる涙は、一旦引っ込んでいたが、あまり芳しくないのだろう。精神的に追い込まれている町医者に光を見せないといけない。こんなにも苦悩をしてくれたのだから……
「今から、広場へ患者を連れて移動することは、無理でしょう。かなり弱っている人も多くいるように見えます。なので、申し訳ないが、あなたが広場へ向かい、この薬を必要な分だけ取りに行ってきてください。広場で、治療に関われる医師は、まだ、医師ではありませんから、貴族に取り込まれることはないでしょう」
「医師ではない……ですか?」
「所謂、医師の助手です。もう少ししたら、各地へ派遣を考えていた者たちなので、腕は確かですし、病気に関する情報量も治療方法もどこの医師より持ち合わせています。そして、その助手は、他ならない私の領民ですから、貴族に屈することはありません。これを持って、必要な分だけ、診察方法、治療方法、薬をもらってきてください。助手はいらっしゃいますよね?必ず、複数人で向かってくださいね!」
私は、アンバー領の紋章が入ったハンカチを渡す。事前に何かあったとき、領主である私の命に従って欲しいことは伝えてあるので、これを持っていけば、大丈夫だろう。
「アンバー領の紋章……しかし、これでは……」
「この紋章は、特別仕様になっていますから……なんなら、一筆書きましょう!」
紙とペンをもらい、サラサラっと事情を書く。
「ありがとうございます!さっそく、向かいます!」
そう言って、医師はふらつく足に力を込め、助手たちを連れ、早速診療を出て行った。
「よかったのですか?広場へ移動させなくても……」
「広場も溢れかえっていたから、バラバラに治療した方がいいわ!他のところも回りましょう!」
私とキースは他の診療所を回る。地方にも同じような伝達が向かうよう、どうすればいいかと聞いたら、運送業の面々がこちらに滞在していることを知る。私は、そちらへと足を運ぶのであった。
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