727 / 1,513
大丈夫ですか?
しおりを挟む
なかなか進まない列を見て、私はウィルに順番を任せて、その場から一旦離れることにした。キースと合流し、町医者を訪ねることにしたのだ。
「あちらは、ウィル様一人で大丈夫ですか?」
「どういうこと?」
「いえ、ウィル様は、その……」
「キースは、ウィルのこと知らないものね!不安になった?」
「いえ、そういう意味では……」
「そう。でも、ウィルは、私よりずっと優秀だから、私がいなくても……むしろ、いない方がいいと思うの!護衛にキースがいるから心配もしていないようだし」
「それほど、強くはありませんよ?伝説の大会と言われている第1回目の優勝、準優勝者を前にしたら……」
ふふっと笑うと、こちらをじっと見つめてきた。
「強さなんて、持って生まれるものではないでしょ?毎日の積み重ねがあってことだと思うけど?それに、剣が使えるだけが強さじゃないわ!他にもそれぞれの強みがあるはずよ。ウィルに関していえば、領地運営に口は出さないけど、相当できる領主になれる可能性を秘めているのよ!文武両道とは、まさにウィルのことをいうのだと思うわ!それに、与えられた役割の中で、5割から8割くらいの力でうちの領地は運営されているの。それぞれの強みを持ち合わせないとできないことよね?」
「なぜ、5割から8割の力なのですか?最初から全力をもってすればいいのではないですか?」
「簡単なことだと思うよ?有事に備えて、出し惜しみする力は常に持っておくべきだと考えているからかな?領地運営をする中で、どうしても有事はあるのよ。それに備えることは大切よね?」
「いつ起こるかわからないのに?」
「いつ起こるかわからないから、備えるのでしょ?」
「この国は、そんなふうにしているとは思えませんけど……」
私はうーんと考える。この国だけではないと思うけど……と呟くとギョッとしてこちらを向く。
「有事に備えているのは、ごくわずかだと思うわよ?アンバー領やコーコナ領は私の領地だから、少しずつ備蓄をしたりとか、何かあったらのために準備をしているわ。友人たちの領地、さらにトワイス国でも何かのためにと、食糧に加え必要なものを揃え始めているわよ!確かに、ローズディア公国にはない考えよね?今も有事ではあるのに、貴族たちが自分勝手に動いていることは、自国の国力を下げることになるのに……なんでわからないのかしら?」
「ゴールド公爵が、そういうお考えを持っていないからじゃないですか?今、病が広まっている場所は、ゴールド公爵の息のかかった場所が多い。そして、そこに隣接する領地ですよね?」
「そうね。多い気がする……今、病が抑えられているところは、セバス……私の友人が注意喚起をしてくれたおかげでもあるのだけど、領主の考えが、領民に伝わっているような領地は、難を逃れている傾向ね!」
確かにと頷くキース。公への報告で示される地図をキースは見たことがないだろうが、現場に来ていれば、地図を渡されなくともだいたいは、把握できるのだろう。
「ねぇ、あの人、今にも倒れそうよ!」
「向かいましょうか?」
「キースは、少し離れた場所で護衛をしてちょうだい。私が行くわ!」
「でも!」
「病になったことがないのに、感染したらどうするの?」
「アンナリーゼ様も完全に罹らない保証はないのでしょ?なら……」
「保証はないけど、リスクは低いわよ!罹ったとしても、それほど酷くはならないと聞いているの」
じゃあ、行ってくるから!と今にも倒れそうな女性によりそう。
「大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です」
「少し何処かで座って休みましょうか?」
「……もう少ししたら、お医者様がいるところへ向かえるのです。頑張ります」
そうは言っても、彼女は高熱で朦朧とした中、長蛇の列に並ぶのは無理だろう。どこかで、休める場所があるなら……その方がいい。
「町医者の場所ってわかりますか?」
「わかりますが……私は、向かいたいのです」
「向かったところで、長蛇の列です。そこに並んだとして、あなたは、診てもらうまで耐えられるとは思いません」
「……そんな」
私の言葉に愕然とする女性。
「家で子どもが、待っているのに……」
「子どもも罹患しているのですか?」
「はい……高い熱を出して、寝込んでいます」
「お子さんは、家族の誰かと一緒にいるのですか?」
「……一人で」
「今すぐ、家に帰りましょう!送ります!」
「でも、お薬をもらわないと……」
「心配いりません。あなたのお家へ向かいましょう」
納得の行かない女性ではあったが、子どもが待っているといえば、渋々という感じではあったが、自宅へと戻る。
キースに頷けば、後ろからそっとついてきてくれる。
「お子さん、熱が高いと苦しみますよね……でも、治しましょう。お母さんもともに」
そういうと、母親は、足早に歩くので、支えながらついて行った。
現実的に今、起こっている目の前のことに、私は肩を落とすしかない。ただ、そればかりではいけないと、心の内に灯がともる。
助手も頑張ってくれているのだ。領主の私も頑張ろうと、女性の家に入って様子を見る。
領民の酷い有様に、胸が詰まるのであった。
「あちらは、ウィル様一人で大丈夫ですか?」
「どういうこと?」
「いえ、ウィル様は、その……」
「キースは、ウィルのこと知らないものね!不安になった?」
「いえ、そういう意味では……」
「そう。でも、ウィルは、私よりずっと優秀だから、私がいなくても……むしろ、いない方がいいと思うの!護衛にキースがいるから心配もしていないようだし」
「それほど、強くはありませんよ?伝説の大会と言われている第1回目の優勝、準優勝者を前にしたら……」
ふふっと笑うと、こちらをじっと見つめてきた。
「強さなんて、持って生まれるものではないでしょ?毎日の積み重ねがあってことだと思うけど?それに、剣が使えるだけが強さじゃないわ!他にもそれぞれの強みがあるはずよ。ウィルに関していえば、領地運営に口は出さないけど、相当できる領主になれる可能性を秘めているのよ!文武両道とは、まさにウィルのことをいうのだと思うわ!それに、与えられた役割の中で、5割から8割くらいの力でうちの領地は運営されているの。それぞれの強みを持ち合わせないとできないことよね?」
「なぜ、5割から8割の力なのですか?最初から全力をもってすればいいのではないですか?」
「簡単なことだと思うよ?有事に備えて、出し惜しみする力は常に持っておくべきだと考えているからかな?領地運営をする中で、どうしても有事はあるのよ。それに備えることは大切よね?」
「いつ起こるかわからないのに?」
「いつ起こるかわからないから、備えるのでしょ?」
「この国は、そんなふうにしているとは思えませんけど……」
私はうーんと考える。この国だけではないと思うけど……と呟くとギョッとしてこちらを向く。
「有事に備えているのは、ごくわずかだと思うわよ?アンバー領やコーコナ領は私の領地だから、少しずつ備蓄をしたりとか、何かあったらのために準備をしているわ。友人たちの領地、さらにトワイス国でも何かのためにと、食糧に加え必要なものを揃え始めているわよ!確かに、ローズディア公国にはない考えよね?今も有事ではあるのに、貴族たちが自分勝手に動いていることは、自国の国力を下げることになるのに……なんでわからないのかしら?」
「ゴールド公爵が、そういうお考えを持っていないからじゃないですか?今、病が広まっている場所は、ゴールド公爵の息のかかった場所が多い。そして、そこに隣接する領地ですよね?」
「そうね。多い気がする……今、病が抑えられているところは、セバス……私の友人が注意喚起をしてくれたおかげでもあるのだけど、領主の考えが、領民に伝わっているような領地は、難を逃れている傾向ね!」
確かにと頷くキース。公への報告で示される地図をキースは見たことがないだろうが、現場に来ていれば、地図を渡されなくともだいたいは、把握できるのだろう。
「ねぇ、あの人、今にも倒れそうよ!」
「向かいましょうか?」
「キースは、少し離れた場所で護衛をしてちょうだい。私が行くわ!」
「でも!」
「病になったことがないのに、感染したらどうするの?」
「アンナリーゼ様も完全に罹らない保証はないのでしょ?なら……」
「保証はないけど、リスクは低いわよ!罹ったとしても、それほど酷くはならないと聞いているの」
じゃあ、行ってくるから!と今にも倒れそうな女性によりそう。
「大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です」
「少し何処かで座って休みましょうか?」
「……もう少ししたら、お医者様がいるところへ向かえるのです。頑張ります」
そうは言っても、彼女は高熱で朦朧とした中、長蛇の列に並ぶのは無理だろう。どこかで、休める場所があるなら……その方がいい。
「町医者の場所ってわかりますか?」
「わかりますが……私は、向かいたいのです」
「向かったところで、長蛇の列です。そこに並んだとして、あなたは、診てもらうまで耐えられるとは思いません」
「……そんな」
私の言葉に愕然とする女性。
「家で子どもが、待っているのに……」
「子どもも罹患しているのですか?」
「はい……高い熱を出して、寝込んでいます」
「お子さんは、家族の誰かと一緒にいるのですか?」
「……一人で」
「今すぐ、家に帰りましょう!送ります!」
「でも、お薬をもらわないと……」
「心配いりません。あなたのお家へ向かいましょう」
納得の行かない女性ではあったが、子どもが待っているといえば、渋々という感じではあったが、自宅へと戻る。
キースに頷けば、後ろからそっとついてきてくれる。
「お子さん、熱が高いと苦しみますよね……でも、治しましょう。お母さんもともに」
そういうと、母親は、足早に歩くので、支えながらついて行った。
現実的に今、起こっている目の前のことに、私は肩を落とすしかない。ただ、そればかりではいけないと、心の内に灯がともる。
助手も頑張ってくれているのだ。領主の私も頑張ろうと、女性の家に入って様子を見る。
領民の酷い有様に、胸が詰まるのであった。
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わがままな妹が何もかも奪って行きます
拓海のり
恋愛
妹に何でもかんでも持って行かれるヘレナは、妹が結婚してくれてやっと解放されたと思ったのだが金持ちの結婚相手を押し付けられて。7000字くらいのショートショートです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
オカン公爵令嬢はオヤジを探す
清水柚木
ファンタジー
フォルトゥーナ王国の唯一の後継者、アダルベルト・フォルトゥーナ・ミケーレは落馬して、前世の記憶を取り戻した。
ハイスペックな王太子として転生し、喜んだのも束の間、転生した世界が乙女ゲームの「愛する貴方と見る黄昏」だと気付く。
そして自身が攻略対象である王子だったと言うことも。
ヒロインとの恋愛なんて冗談じゃない!、とゲームシナリオから抜け出そうとしたところ、前世の母であるオカンと再会。
オカンに振り回されながら、シナリオから抜け出そうと頑張るアダルベルト王子。
オカンにこき使われながら、オヤジ探しを頑張るアダルベルト王子。
あげく魔王までもが復活すると言う。
そんな彼に幸せは訪れるのか?
これは最初から最後まで、オカンに振り回される可哀想なイケメン王子の物語。
※ 「第15回ファンタジー小説大賞」用に過去に書いたものを修正しながらあげていきます。その為、今月中には完結します。
※ 追記 今月中に完結しようと思いましたが、修正が追いつかないので、来月初めに完結になると思います。申し訳ありませんが、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。
※追記 続編を11月から始める予定です。まずは手始めに番外編を書いてみました。よろしくお願いします。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】白い結婚はあなたへの導き
白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。
彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。
何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。
先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。
悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。
運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる