ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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大丈夫ですか?

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 なかなか進まない列を見て、私はウィルに順番を任せて、その場から一旦離れることにした。キースと合流し、町医者を訪ねることにしたのだ。


「あちらは、ウィル様一人で大丈夫ですか?」
「どういうこと?」
「いえ、ウィル様は、その……」
「キースは、ウィルのこと知らないものね!不安になった?」
「いえ、そういう意味では……」
「そう。でも、ウィルは、私よりずっと優秀だから、私がいなくても……むしろ、いない方がいいと思うの!護衛にキースがいるから心配もしていないようだし」
「それほど、強くはありませんよ?伝説の大会と言われている第1回目の優勝、準優勝者を前にしたら……」


 ふふっと笑うと、こちらをじっと見つめてきた。


「強さなんて、持って生まれるものではないでしょ?毎日の積み重ねがあってことだと思うけど?それに、剣が使えるだけが強さじゃないわ!他にもそれぞれの強みがあるはずよ。ウィルに関していえば、領地運営に口は出さないけど、相当できる領主になれる可能性を秘めているのよ!文武両道とは、まさにウィルのことをいうのだと思うわ!それに、与えられた役割の中で、5割から8割くらいの力でうちの領地は運営されているの。それぞれの強みを持ち合わせないとできないことよね?」
「なぜ、5割から8割の力なのですか?最初から全力をもってすればいいのではないですか?」
「簡単なことだと思うよ?有事に備えて、出し惜しみする力は常に持っておくべきだと考えているからかな?領地運営をする中で、どうしても有事はあるのよ。それに備えることは大切よね?」
「いつ起こるかわからないのに?」
「いつ起こるかわからないから、備えるのでしょ?」
「この国は、そんなふうにしているとは思えませんけど……」


 私はうーんと考える。この国だけではないと思うけど……と呟くとギョッとしてこちらを向く。


「有事に備えているのは、ごくわずかだと思うわよ?アンバー領やコーコナ領は私の領地だから、少しずつ備蓄をしたりとか、何かあったらのために準備をしているわ。友人たちの領地、さらにトワイス国でも何かのためにと、食糧に加え必要なものを揃え始めているわよ!確かに、ローズディア公国にはない考えよね?今も有事ではあるのに、貴族たちが自分勝手に動いていることは、自国の国力を下げることになるのに……なんでわからないのかしら?」
「ゴールド公爵が、そういうお考えを持っていないからじゃないですか?今、病が広まっている場所は、ゴールド公爵の息のかかった場所が多い。そして、そこに隣接する領地ですよね?」
「そうね。多い気がする……今、病が抑えられているところは、セバス……私の友人が注意喚起をしてくれたおかげでもあるのだけど、領主の考えが、領民に伝わっているような領地は、難を逃れている傾向ね!」


 確かにと頷くキース。公への報告で示される地図をキースは見たことがないだろうが、現場に来ていれば、地図を渡されなくともだいたいは、把握できるのだろう。


「ねぇ、あの人、今にも倒れそうよ!」
「向かいましょうか?」
「キースは、少し離れた場所で護衛をしてちょうだい。私が行くわ!」
「でも!」
「病になったことがないのに、感染したらどうするの?」
「アンナリーゼ様も完全に罹らない保証はないのでしょ?なら……」
「保証はないけど、リスクは低いわよ!罹ったとしても、それほど酷くはならないと聞いているの」


 じゃあ、行ってくるから!と今にも倒れそうな女性によりそう。


「大丈夫ですか?」
「……はい、大丈夫です」
「少し何処かで座って休みましょうか?」
「……もう少ししたら、お医者様がいるところへ向かえるのです。頑張ります」


 そうは言っても、彼女は高熱で朦朧とした中、長蛇の列に並ぶのは無理だろう。どこかで、休める場所があるなら……その方がいい。


「町医者の場所ってわかりますか?」
「わかりますが……私は、向かいたいのです」
「向かったところで、長蛇の列です。そこに並んだとして、あなたは、診てもらうまで耐えられるとは思いません」
「……そんな」


 私の言葉に愕然とする女性。


「家で子どもが、待っているのに……」
「子どもも罹患しているのですか?」
「はい……高い熱を出して、寝込んでいます」
「お子さんは、家族の誰かと一緒にいるのですか?」
「……一人で」
「今すぐ、家に帰りましょう!送ります!」
「でも、お薬をもらわないと……」
「心配いりません。あなたのお家へ向かいましょう」


 納得の行かない女性ではあったが、子どもが待っているといえば、渋々という感じではあったが、自宅へと戻る。
 キースに頷けば、後ろからそっとついてきてくれる。


「お子さん、熱が高いと苦しみますよね……でも、治しましょう。お母さんもともに」


 そういうと、母親は、足早に歩くので、支えながらついて行った。
 現実的に今、起こっている目の前のことに、私は肩を落とすしかない。ただ、そればかりではいけないと、心の内に灯がともる。
 助手も頑張ってくれているのだ。領主の私も頑張ろうと、女性の家に入って様子を見る。
 領民の酷い有様に、胸が詰まるのであった。
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