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この紋様が目に入らぬか!
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門兵に止められ、私はウィルに目配せをする。あぁ、はいはいと預かってくれていたものを出して門兵へと渡す。
「こ……これは!」
「開けてくれないかしら?領主に話があるの」
「……どうする?」
「領主様には、何人も屋敷には入れるなって言われているし……」
「でも、なぁ……これって、まずいやつじゃないか?」
門兵の二人は、ウィルが差し出したものを見て、どうするか、相談をしていた。でも、基本的に、領主の意向にそうような雰囲気であったので、ボソッと追加しておく。
「用事があって来ている伯爵を屋敷に入れないって、まずくないかしら?」
「伯爵様ですか?」
位のわかるものなら、ウィルの持っている剣を見ただけで、身分がわかる。そして、どのくらいの爵位のものか、わかる人ならわかってしまうのだが……わからないということは、この領地の警備隊の一員なのだろう。
「どうする?本当に伯爵様であるなら、まずいんじゃないか?」
「領主様は、子爵……だったはずだよな?」
「そうしたら……お貴族様は、一番下が男爵だろ?その上が子爵……その上って、なんだっけ?」
「いや、俺たちが知るより上だってことは、わかっているんだから、まずいだろう?」
「あぁ、話してるところ悪いんだけどさ、俺が伯爵位な。それより、もっとまずいもん、待たせているからさ?」
そういって、ウィルは私の方を見る。門兵たちも、私を見たが、まさか、私が爵位持ちだとは思っていないようで、笑って過ごしてしまった。
「アンバー公爵、いかがいたしますか?門を開けていただけないようですが、門を破るなら……骨は折れますが、人を集めてきますので、ご命令を!」
ウィルが、仰々しく私に伺いをたててくる。それに応えるようにニッコリ笑いかけた。
「仰せのままに!公爵様。では、人を集めてきますので、少々、あちらの陰でお待ちください」
「ま、ま、待ってください!」
「どうかしたか?」
「門ですね……開けます!今すぐ、開けますから……」
「おしかったわね?反逆罪でしょっ引いてやろうと思っていたのに……」
ぎょっとした門兵が、顔を合わせて平に謝り始めた。
「それだけは、ご勘弁ください!」
「……う、嘘ですよね?」
「嘘だと思うんなら、開けなくてもいいけど……うちの公爵様は、結構恐ろしいことを平然とするからなぁ……お家取り潰しとか、やっちゃうけど?」
戦々恐々として、門を開けるよう慌てて門の開閉をしている兵に指示を始めた。
ぎぎっと扉が開いていく。
「……お待たせしました!」
ありがとうと笑いかけると、ブルっと震え、いえ……と二人とも視線を逸らした。
開いたところからスルッと入ると、後ろから待ってくれっ!と声がかかる。
振り返ると、キースが走ってくるところだ。
「ふぅ……間に合った」
「お疲れ!」
「あぁ、間に合わないかと思った……」
「間に合わなくても、それはそれでよかったけど、一人増えると助かるよな」
「そうね。一人増えると、持ち分が減るから楽になるわよね!」
「持ち分?」
キースは訝しんでこちらを見てくるが、私はニコニコと笑うだけで何も言わない。
代わりに、ウィルがサラっと呟いた。
「領主の抵抗があれば、戦闘になるだろ?」
「あぁ、って、えっ?」
「そうすると、姫さんと俺だけだと、ちょっと捌ききれないかもしれないね?って話をしてたわけ」
「さらっと、戦闘にって……」
「最悪は、そうなるかなって。まぁ、領主の前へ行けば、姫さんが領主に命令すれば、否応がなくても従うことになるけど、抵抗することも考えればね。その場合、領主の首に剣を突きつけてる姫さんが容易に想像出来てしまうのが……なんともだよな」
後ろで門兵が引くついているのは、見なかったことにしよう。キースも苦笑いをしている。
「あの噂って本当なんですか?」
「噂?どれ?姫さんって、あっちにもっちにも噂があって、罪作りなことをしてるから……」
「そんなこと、してないわよ!」
「そう?それで、キースは何が知りたい?」
「若手ように行われる杯が、近衛にはあるじゃないですか?」
「あぁ、アンナリーゼ杯?」
「ん?私が出たときは、違う名前だったような……」
「最初は、そういう名前だったんだよ。姫さんのための杯だったからね」
「そうだったんですか……?その杯で優勝したのが、アンナリーゼ様だって聞いたことあるけど……」
「そう、それは正解。決勝で負けたのは、俺ね!この姫さん、そんじゃそこらのご婦人じゃないから、手合わせしたかったら、アンバーに来るといい」
そうこう言っているうちに、正面玄関へとついた。私は少し振り返る。
「それは、この病がおさまってからね!さて、どんな反応を示してくれるのかしらね?」
やたら嬉しそうじゃない?と後ろから聞こえてきた軽い言葉に、そうかしら?と笑いかける。
「何やつ?ここには、どうやって……」
「門兵が開けてくれたわよ?」
「はっ?門兵が?そんなバカな!領主が誰一人入れるなと、命令をしたはず……」
そういって、正面玄関を守っていた兵が私たちに向かって剣を抜いた。
「姫さんのお望みの展開過ぎて、笑うしかねぇな?」
「お望みって……話し合いで済むなら、私はそれで構わないし、むしろ、そちらを望んでいたのだけど……」
「何をこそこそと!捕縛だ!」
兵が一斉に私たち目掛け剣を振る。
「剣を抜くってことは、そういう覚悟もちゃんとあるってことだよね?」
「あぁ、そういうことだよね?」
「反逆罪で、少々痛めつけましょうか?」
姫さん、悪い顔!と苦笑いされる。
「ウィル、剣は抜かないでね。これくらいなら、なくても余裕でしょ?」
「……アンナリーゼ様、余裕では……」
「キースは、剣を抜いてもいいわよ!公から許しを得ている私が、自身の身を守るためなら、剣を振ることを許しましょう。ただ、命はとってはダメよ!」
難しいですね……そう言いながら、抜剣してかまえた。何もしていない私とウィルが標的になるのだろう。ちょっとばかし隙を見せると、おもしろいほど、兵士が寄ってくるのであった。
「こ……これは!」
「開けてくれないかしら?領主に話があるの」
「……どうする?」
「領主様には、何人も屋敷には入れるなって言われているし……」
「でも、なぁ……これって、まずいやつじゃないか?」
門兵の二人は、ウィルが差し出したものを見て、どうするか、相談をしていた。でも、基本的に、領主の意向にそうような雰囲気であったので、ボソッと追加しておく。
「用事があって来ている伯爵を屋敷に入れないって、まずくないかしら?」
「伯爵様ですか?」
位のわかるものなら、ウィルの持っている剣を見ただけで、身分がわかる。そして、どのくらいの爵位のものか、わかる人ならわかってしまうのだが……わからないということは、この領地の警備隊の一員なのだろう。
「どうする?本当に伯爵様であるなら、まずいんじゃないか?」
「領主様は、子爵……だったはずだよな?」
「そうしたら……お貴族様は、一番下が男爵だろ?その上が子爵……その上って、なんだっけ?」
「いや、俺たちが知るより上だってことは、わかっているんだから、まずいだろう?」
「あぁ、話してるところ悪いんだけどさ、俺が伯爵位な。それより、もっとまずいもん、待たせているからさ?」
そういって、ウィルは私の方を見る。門兵たちも、私を見たが、まさか、私が爵位持ちだとは思っていないようで、笑って過ごしてしまった。
「アンバー公爵、いかがいたしますか?門を開けていただけないようですが、門を破るなら……骨は折れますが、人を集めてきますので、ご命令を!」
ウィルが、仰々しく私に伺いをたててくる。それに応えるようにニッコリ笑いかけた。
「仰せのままに!公爵様。では、人を集めてきますので、少々、あちらの陰でお待ちください」
「ま、ま、待ってください!」
「どうかしたか?」
「門ですね……開けます!今すぐ、開けますから……」
「おしかったわね?反逆罪でしょっ引いてやろうと思っていたのに……」
ぎょっとした門兵が、顔を合わせて平に謝り始めた。
「それだけは、ご勘弁ください!」
「……う、嘘ですよね?」
「嘘だと思うんなら、開けなくてもいいけど……うちの公爵様は、結構恐ろしいことを平然とするからなぁ……お家取り潰しとか、やっちゃうけど?」
戦々恐々として、門を開けるよう慌てて門の開閉をしている兵に指示を始めた。
ぎぎっと扉が開いていく。
「……お待たせしました!」
ありがとうと笑いかけると、ブルっと震え、いえ……と二人とも視線を逸らした。
開いたところからスルッと入ると、後ろから待ってくれっ!と声がかかる。
振り返ると、キースが走ってくるところだ。
「ふぅ……間に合った」
「お疲れ!」
「あぁ、間に合わないかと思った……」
「間に合わなくても、それはそれでよかったけど、一人増えると助かるよな」
「そうね。一人増えると、持ち分が減るから楽になるわよね!」
「持ち分?」
キースは訝しんでこちらを見てくるが、私はニコニコと笑うだけで何も言わない。
代わりに、ウィルがサラっと呟いた。
「領主の抵抗があれば、戦闘になるだろ?」
「あぁ、って、えっ?」
「そうすると、姫さんと俺だけだと、ちょっと捌ききれないかもしれないね?って話をしてたわけ」
「さらっと、戦闘にって……」
「最悪は、そうなるかなって。まぁ、領主の前へ行けば、姫さんが領主に命令すれば、否応がなくても従うことになるけど、抵抗することも考えればね。その場合、領主の首に剣を突きつけてる姫さんが容易に想像出来てしまうのが……なんともだよな」
後ろで門兵が引くついているのは、見なかったことにしよう。キースも苦笑いをしている。
「あの噂って本当なんですか?」
「噂?どれ?姫さんって、あっちにもっちにも噂があって、罪作りなことをしてるから……」
「そんなこと、してないわよ!」
「そう?それで、キースは何が知りたい?」
「若手ように行われる杯が、近衛にはあるじゃないですか?」
「あぁ、アンナリーゼ杯?」
「ん?私が出たときは、違う名前だったような……」
「最初は、そういう名前だったんだよ。姫さんのための杯だったからね」
「そうだったんですか……?その杯で優勝したのが、アンナリーゼ様だって聞いたことあるけど……」
「そう、それは正解。決勝で負けたのは、俺ね!この姫さん、そんじゃそこらのご婦人じゃないから、手合わせしたかったら、アンバーに来るといい」
そうこう言っているうちに、正面玄関へとついた。私は少し振り返る。
「それは、この病がおさまってからね!さて、どんな反応を示してくれるのかしらね?」
やたら嬉しそうじゃない?と後ろから聞こえてきた軽い言葉に、そうかしら?と笑いかける。
「何やつ?ここには、どうやって……」
「門兵が開けてくれたわよ?」
「はっ?門兵が?そんなバカな!領主が誰一人入れるなと、命令をしたはず……」
そういって、正面玄関を守っていた兵が私たちに向かって剣を抜いた。
「姫さんのお望みの展開過ぎて、笑うしかねぇな?」
「お望みって……話し合いで済むなら、私はそれで構わないし、むしろ、そちらを望んでいたのだけど……」
「何をこそこそと!捕縛だ!」
兵が一斉に私たち目掛け剣を振る。
「剣を抜くってことは、そういう覚悟もちゃんとあるってことだよね?」
「あぁ、そういうことだよね?」
「反逆罪で、少々痛めつけましょうか?」
姫さん、悪い顔!と苦笑いされる。
「ウィル、剣は抜かないでね。これくらいなら、なくても余裕でしょ?」
「……アンナリーゼ様、余裕では……」
「キースは、剣を抜いてもいいわよ!公から許しを得ている私が、自身の身を守るためなら、剣を振ることを許しましょう。ただ、命はとってはダメよ!」
難しいですね……そう言いながら、抜剣してかまえた。何もしていない私とウィルが標的になるのだろう。ちょっとばかし隙を見せると、おもしろいほど、兵士が寄ってくるのであった。
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