ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

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じゃあ、町医者を集めましょう!

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 私たちはヨハンの助手に説明だけして、町を歩き始める。どこに医者がいるのかは、すでに助手から聞いていたので、すぐに目的の場所へとついた。


「こんにちは!」


 元気そうな私たちを見つめ、町医者の助手だと想われる青年が目をパチクリさせる。


「あの、何か御用でしょうか?」
「えぇ、医者はいるかしら?」
「えぇ、いますが……どこか、悪いところでもあるのでしょうか?そのようには見えませんが……」
「えぇ、すこぶる元気よ!お話があってきたの。今、話、できるかしら?」


 私たちをみて訝しむ青年は、渋々こちらへと案内してくれる。私たちはその後ろへついて行くと、どうされましたか?優しそうな壮年の男性の前へと案内された。


「お話がしたいと申されたので通したのですが、どうも、患者様ではないようです」
「そうでしたか。病気か何かならと思いましたが……私どもはしがない町医者でございますので、特になにか……」


 そわそわとしている医者に私はコテンと小首を傾げた。


「あの、何かあるのですか?」
「いえ、領主様が伝染病の薬を囲い込んでいらっしゃるので……こちらにはありませんよという意味で」
「なるほど、そういうことなら……話が早いのかもしれない。伝染病の患者は、今、診ていらっしゃいますか?」
「いえ、私にはその病に関する知識も薬もございません。来られても、手を打てることがなく、お断りしているのが現状です」
「もし、伝染病の患者を診てもらいたいといったら、お手伝いしてもらえるかしら?」
「……先程も申しましたとおり」
「姫さん、なんかいろいろ抜けてる」
「……すみません。えっと……今、伝染病の患者が収容されているところで、治療にあたっているものが私の配下なのですが、公から派遣された医師を貴族たちに取られてしまい、一人で多くの患者と向き合っています。もし、少しでもお手伝いをしていただけるなら……お願いすることは可能でしょうか?」
「なんと!あの収容人数を一人の医師が診ているのですか?」
「いえ、医師ではありません。医師の助手が寝ずに病と向き合っているところです」
「医師ではない?それは……」
「きちんとした医師の元で、医師になるための勉強をしているものです。名乗れば医師になれるこの国では、珍しいのではないですか?」
「たしかに……医者と名乗った人のところへ内弟子として働きに出て、ある程度知識が揃えば、町医者になれますからね……勉学をしてというのは、珍しい。それで、寝ずとは……可哀想に」


 ふむっと頷く町医者に笑いかけた。


「人手不足でとても困っています。助けていただくことはできませんか?」
「微力ではありますが、私のようなものでよろしかったら……」
「対価については……」
「いりません。治療知識こそが私どもへの対価ですから」
「そういうわけには、いきません。対価として少しですが、お金は受取ってください。そのお金で、幅広い勉強をするもいいでしょうし、内弟子さんがいらっしゃるようなので、その方を育てるのもいいでしょう。私どもは、医師のいない領地への派遣をするために医者となりうるものを育てているところなのです。今回も、その一環として、公の医師団のまとめ役で派遣をしていました」
「なんと!それは、素晴らしい!私も是非参加したい……そう思いましたが……」


 考える町医者。私は、黙って答えが出るのを待っていた。


「わかりました。対価はお金としていただきます。ただ、私ももちろん参加させていただきますが、内弟子を育てる……そんな機会を与えていただけますか?」
「もちろんです!今、患者と向き合っている助手は、私の主治医をも頷かせるほどの逸材ですから、是非側で見て聞いて感じて行ってください。得るものがあると思います。また、領地でも医師を育てる整備をしているところですので、この病が収まりましたら、是非とも医術を学ぶ研究所へおいでください」
「よかったなぁ?」
「お師匠様、そのようなところへは、まいりませんよ?」
「そんなことをいうて……そなたが行かないのであれば、ワシが行こうかな?」


 なんだか嬉しそうな壮年の男性は、弟子に笑いかけた。


「はぁ……わかりました。私が向かいます。そして、お師匠様と一緒に、この領地で町医者をしていきたいですから!」
「そう言ってくれるのそなただけだな。そういえば、お嬢さん」
「はい、何でしょうか?」
「その、どうしたら、参加できるかの?」
「現場へ直行してもらえば、大丈夫ですよ!助手には話を通してあるので、向かってもらえば、大丈夫です」
「では、さっそく。他にも呼んだ方がいいかい?」
「はい、今から他へ行こうと思っていたのですけど……」
「それなら、ほら、行ってくるから、お嬢さんたちは、私と一緒に向かってくれないかの?」
「すみません。私たちは、他にもすることがあるので……ご一緒は出来ません。あぁ、そうだ、キースなら、いいんじゃないないかしら?」
「うへ?俺ですか?」
「そう。一緒に行ってあげて?」
「いや、でも、一緒に行った方がおもしろそうだから……」


 ちらりと見つめると、ウィルが諦めた方がいいとキースに囁いているのが目に入ってくる。


「わかりました。では、先に送り届けてから、合流しますので、なるべくゆっくり向かってくださいね?足早とか、絶対ダメですからね?」


 念をおされながら、キースと壮年の男性が部屋から足早に出ていく。取り残された内弟子は私たちを外に出し、鍵を閉めてからペコリとお辞儀をした。


「それでは、他の医者の場所へ向かってから、師匠たちに合流いたします」
「えぇ、よろしくお願いしますね!」


 私は、内弟子を見送り、踵を返す。向かう先は、厚い壁で閉ざされた領主の屋敷。足早に歩き始めると後ろから暢気な声が聞こえてくる。


「姫さん、ゆっくりな?さすがに俺も大人数の相手はきついし」
「私もいるから、大丈夫よ?」
「姫さん、手加減しないからダメでしょ?せめて、殿下くらいで踊ってくれるなら、まだいいけど……ジョージア様とか、絶対ダメだからね!」
「そんな強敵がいるとは思えないけど……ウィルの他に、こんな場所でそんな人がいるなら、驚きよね!」


 ウィルと話しながら、歩くとあっという間であった。門の前まで行くと、何やつ!と門兵が駆け寄ってくるのであった。
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