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「名前はなんて言うの?」
「……キース」
「偽名はいらないわよ?」
「心配しなくても本名だ。安心してくれ」
「問い合わせれば、わかるでしょ?ゴールド公爵に」
「なぜ、公爵に?」
今、キースと向き合って思ったのだ。なんとなく、公爵に似ているなぁ……って。あまり顔を合わせることはないけど、若いころは、きっとこんな顔をしていたに違いないと思えた。
私は、おじさんと言ってはいるが、年のころは40そこそこではないだろうか。
「勘かしらね?なんとなく、公爵に似ているから傍系かしら?と、思っただけ。近衛に入るってことは、爵位で身を立てられないわけだし」
「そんな勘があってたまるか……!」
「ていうことは?合ってるの?」
「あぁ、傍系の末端だ。ゴールド公爵の本家筋からしたら、血が薄すぎて平民と変わらないくらいになっているな」
「そうなんだ。キースは、何をしにここへ来たの?」
「お嬢さんが来た理由と同じようなもんだと思ってくれていいさ。ほとんど、興味本位なんだけどな」
私は、じっと見つめて、誰の命令か考える。まさか、ゴールド公爵ではないだろう。まかり間違っても、自身の身内をそんな危ないところへ行かせるだろうか?などと考えて見るが、答えは見つからない。
「私は、公の要請で国中を回るつもりだけど……あなたは?誰の命令で回っているのかしら?」
「俺は、独断。まぁ、近衛に入っている限りは、あまりふらふらともしにくいんだが……国の実情を見たくなったんだ」
「それなら、私たちと一緒に回ればいいんじゃない?近衛の大将に手紙でも書いて送っておいたら?アンバー公爵に捕まったので、しばらく共をすることになったとでも書いておけば、自由に歩き回れるわよ?」
「そりゃありがたい!早速かかせてもらいます!」
「ただし、本当に私と出歩くのよ?」
「あぁ、はい。それは、ついて行きます。ちなみにあの青年は、どういった立場の人なん……ですか?」
「ウィルは、近衛の中隊長よ!」
「近衛の中隊長って……公爵の護衛を?」
「えぇ、今、公から借りているからね。行動を一緒にしているの。だから、一人くらい増えてもたいしたことないわよ!」
へぇーっという、キースに自身が知っていることを聞かせてくれというと、お安い御用だと教えてくれた。
やはり、先程、ヨハンの助手が言った通り、この領地の領主は、公が遣わしたヨハンの助手だけを冷遇したらしい。一緒に来ていた医師は、貴族たちで囲い込んだという話だ。ヨハンの助手は、医師ではないので、軽く見られたようだった。ただ、医師を囲ったとして、その医師が、この病に有効な診断が出来るかといえば、そうでない。医師を他の地域へと送り出すための研修をするために、ヨハンの助手たちに対して、5名ほどの医師をつけたのだ。なのに、現状は、うまくいっていないのを目の当たりにするだけであった。
「姫さん、患者が増えてきたっぽい」
「そう。じゃあ、起こすわね!」
気絶させていた助手の意識を戻すと、驚いて飛び上がった。
「こ、ここは?」
「あなたの楽園でないことだけは、確かよ?」
「……領主様」
苦笑いをすると、少しだけ顔色がよくなった助手が口角をあげた。
「少しだけど、休めたかしら?」
「はい……ありがとうございました。これから、また、頑張れそうです」
「そう。体を壊さないようにしてね?」
「えぇ、そうできることを、願いますが……」
「たとえば、町医者を連れてきても研修をすれば、この治療に対して、手伝ってもらえるかしら?」
「……たぶん、町医者のほうもよくわからない病気で大変だとは思います……患者数も多いですし」
「そっか……私、行ってきてもいいけど……」
「はい、期待はしない方がいいかと。では、診察に戻ります」
その言葉を残して、次の方どうぞと声をかけていた。
私は、診察室からでて、ウィルとキースに話しかける。
「どう思う?」
「町医者?」
「そう。もし、手がすいているなら……あるいは、患者をこちらにうつしてもらって、数人体制で、この診療所を回せないかしら?」
「それは、いい考えですけど、薬がないんじゃ、どうしようもないですよね?」
「薬なら、あるわよね?1ヶ月分くらいなら」
ウィルに同意を求めると頷いた。じゃあ、状況確認しましょうと、診療所を手伝ってくれている女性を捕まえ、収容されている人数やどれくらいまでの人なら受け持てるかと確認する。すでに、収容人数を大きく上回っているが、受入れられないわけではないと話す。
「では、決まりね!町医者を集めましょう!そこで、患者もいるなら、こちらの診療所にうつして、一括管理にしてしまえればいいわね!」
決まれば、話は早い。
「ウィル!」
「了解。行ってくる」
そういって、さっきまでいた助手の診療部屋を覗き、患者が出て行った頃を見計らって話をしに行ってしまう。
「阿吽の呼吸とはいうけれど、どういったことになっているのです?」
ウィルの行動に目を白黒させているキースに付き合いが長くて濃くなると意思疎通も容易になるというと、呆れられた。
「いくら付き合いが長くても、そこまで読み取れる人がどれほどいるのか……長年連れ添った夫婦でさえ、難しいと思うのだが……」
「私たちは、アンバー領の改革をするために集まった者どおしだから、たくさんの相談やじっくり意見交換会をしているし、だいたいは何を考えているかわかるわ!キースの言う通り、夫婦間の意思疎通の方が難しいわよね……」
はぁ……とため息をつきたいところをグッと我慢する。ジョージアとの不仲説の噂なんて流れたらたまったものではない。
「そういうものか?」
「そういうものじゃなくて?同じ目的のために、じっくり意見を交換することはあっても、男女の仲でどこまで伝わっているのか……私にはわからないこともあるもの」
ふふっと微笑むと、そういうものだなと身に覚えがあるというふうに空を見つめる。
キースは、不思議と私にもウィルにも馴染むのが早く、普段話さないようなことも、つい、話してしまう。聞き上手ってことかな?と思いながら、これ以上は話さないでいたいと、口をつぐむのであった。
「……キース」
「偽名はいらないわよ?」
「心配しなくても本名だ。安心してくれ」
「問い合わせれば、わかるでしょ?ゴールド公爵に」
「なぜ、公爵に?」
今、キースと向き合って思ったのだ。なんとなく、公爵に似ているなぁ……って。あまり顔を合わせることはないけど、若いころは、きっとこんな顔をしていたに違いないと思えた。
私は、おじさんと言ってはいるが、年のころは40そこそこではないだろうか。
「勘かしらね?なんとなく、公爵に似ているから傍系かしら?と、思っただけ。近衛に入るってことは、爵位で身を立てられないわけだし」
「そんな勘があってたまるか……!」
「ていうことは?合ってるの?」
「あぁ、傍系の末端だ。ゴールド公爵の本家筋からしたら、血が薄すぎて平民と変わらないくらいになっているな」
「そうなんだ。キースは、何をしにここへ来たの?」
「お嬢さんが来た理由と同じようなもんだと思ってくれていいさ。ほとんど、興味本位なんだけどな」
私は、じっと見つめて、誰の命令か考える。まさか、ゴールド公爵ではないだろう。まかり間違っても、自身の身内をそんな危ないところへ行かせるだろうか?などと考えて見るが、答えは見つからない。
「私は、公の要請で国中を回るつもりだけど……あなたは?誰の命令で回っているのかしら?」
「俺は、独断。まぁ、近衛に入っている限りは、あまりふらふらともしにくいんだが……国の実情を見たくなったんだ」
「それなら、私たちと一緒に回ればいいんじゃない?近衛の大将に手紙でも書いて送っておいたら?アンバー公爵に捕まったので、しばらく共をすることになったとでも書いておけば、自由に歩き回れるわよ?」
「そりゃありがたい!早速かかせてもらいます!」
「ただし、本当に私と出歩くのよ?」
「あぁ、はい。それは、ついて行きます。ちなみにあの青年は、どういった立場の人なん……ですか?」
「ウィルは、近衛の中隊長よ!」
「近衛の中隊長って……公爵の護衛を?」
「えぇ、今、公から借りているからね。行動を一緒にしているの。だから、一人くらい増えてもたいしたことないわよ!」
へぇーっという、キースに自身が知っていることを聞かせてくれというと、お安い御用だと教えてくれた。
やはり、先程、ヨハンの助手が言った通り、この領地の領主は、公が遣わしたヨハンの助手だけを冷遇したらしい。一緒に来ていた医師は、貴族たちで囲い込んだという話だ。ヨハンの助手は、医師ではないので、軽く見られたようだった。ただ、医師を囲ったとして、その医師が、この病に有効な診断が出来るかといえば、そうでない。医師を他の地域へと送り出すための研修をするために、ヨハンの助手たちに対して、5名ほどの医師をつけたのだ。なのに、現状は、うまくいっていないのを目の当たりにするだけであった。
「姫さん、患者が増えてきたっぽい」
「そう。じゃあ、起こすわね!」
気絶させていた助手の意識を戻すと、驚いて飛び上がった。
「こ、ここは?」
「あなたの楽園でないことだけは、確かよ?」
「……領主様」
苦笑いをすると、少しだけ顔色がよくなった助手が口角をあげた。
「少しだけど、休めたかしら?」
「はい……ありがとうございました。これから、また、頑張れそうです」
「そう。体を壊さないようにしてね?」
「えぇ、そうできることを、願いますが……」
「たとえば、町医者を連れてきても研修をすれば、この治療に対して、手伝ってもらえるかしら?」
「……たぶん、町医者のほうもよくわからない病気で大変だとは思います……患者数も多いですし」
「そっか……私、行ってきてもいいけど……」
「はい、期待はしない方がいいかと。では、診察に戻ります」
その言葉を残して、次の方どうぞと声をかけていた。
私は、診察室からでて、ウィルとキースに話しかける。
「どう思う?」
「町医者?」
「そう。もし、手がすいているなら……あるいは、患者をこちらにうつしてもらって、数人体制で、この診療所を回せないかしら?」
「それは、いい考えですけど、薬がないんじゃ、どうしようもないですよね?」
「薬なら、あるわよね?1ヶ月分くらいなら」
ウィルに同意を求めると頷いた。じゃあ、状況確認しましょうと、診療所を手伝ってくれている女性を捕まえ、収容されている人数やどれくらいまでの人なら受け持てるかと確認する。すでに、収容人数を大きく上回っているが、受入れられないわけではないと話す。
「では、決まりね!町医者を集めましょう!そこで、患者もいるなら、こちらの診療所にうつして、一括管理にしてしまえればいいわね!」
決まれば、話は早い。
「ウィル!」
「了解。行ってくる」
そういって、さっきまでいた助手の診療部屋を覗き、患者が出て行った頃を見計らって話をしに行ってしまう。
「阿吽の呼吸とはいうけれど、どういったことになっているのです?」
ウィルの行動に目を白黒させているキースに付き合いが長くて濃くなると意思疎通も容易になるというと、呆れられた。
「いくら付き合いが長くても、そこまで読み取れる人がどれほどいるのか……長年連れ添った夫婦でさえ、難しいと思うのだが……」
「私たちは、アンバー領の改革をするために集まった者どおしだから、たくさんの相談やじっくり意見交換会をしているし、だいたいは何を考えているかわかるわ!キースの言う通り、夫婦間の意思疎通の方が難しいわよね……」
はぁ……とため息をつきたいところをグッと我慢する。ジョージアとの不仲説の噂なんて流れたらたまったものではない。
「そういうものか?」
「そういうものじゃなくて?同じ目的のために、じっくり意見を交換することはあっても、男女の仲でどこまで伝わっているのか……私にはわからないこともあるもの」
ふふっと微笑むと、そういうものだなと身に覚えがあるというふうに空を見つめる。
キースは、不思議と私にもウィルにも馴染むのが早く、普段話さないようなことも、つい、話してしまう。聞き上手ってことかな?と思いながら、これ以上は話さないでいたいと、口をつぐむのであった。
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