ハニーローズ ～ 『予知夢』から始まった未来変革 ～

出かける準備

「アンナリーゼ様！」
「アデル？寝ていないとダメじゃない！」
「夢うつつに公都へ向かわれると声が聞こえていたので……その、すみません。こんなときに……」
「何をいっているの？アデルは、私や領地のためによく働いてくれたわ！だから、今は、ゆっくり体を休めてちょうだい」
「でも……」
「休まないっていうなら、病が治ったら、アンバー領へ派遣から外れてもらいます」
「それは……アンバー領へ」
「いいえ、違うわ！領主のいうことを聞けないような人はいらないのよ。ただでさえ、アンバー領は、底から少しだけよくなっただけの領地なんだから！みなが一丸で頑張らないといけないときに、一人に振り回されている暇はないの。だから、クビよ？」
「……それは、困りますね。再就職先をアンバー領でお願いしようとしていたのに、領主様に嫌われてしまえば、就職するどころでは無くなってしまいます」


　ふふっと笑うと、苦笑いするアデル。ぎゅっと抱きしめる。慌てていることがわかるが、大人しくしてくれていた。


「アデル、本当にありがとう。あなたの支えがあったから、私はコーコナで躓かずに前を向けるようになった。辛いこともあったけど……支えてくれたアデルがいてくれたことに本当に感謝しているの。今は、ゆっくり休んで。春の前に1度戻ってきます。そのときには、リリーと一緒に、この領地で両翼を担えるほどに成長していて」
「ハハ……すごい課題ですね……ウィル様がいるのに、それは無理でしょう？」
「ウィルは……私の協力者だもの。でも、アデル。あなたは、領主の元で研鑽していくことを決めてくれたのでしょ？」
「えぇ、そうです。春までに、アンナリーゼ様の期待に応えられるよう、リリーと力を合わせて頑張ります」


　アデルから離れると、照れていたのか、ほんのり顔が赤い。まっすぐ私を見る目は、力強くて安心する。


「アンナリーゼ様、お帰りをお待ちしております」
「えぇ、行ってくるわ！アンバー領のこと、頼みますね！」


　私は、頭を下げているアデルに背を向け、廊下を歩き始める。執務室へ入って行くと、すでに領地にいたであろうみなが集まっていた。


「姫さん、公都へ帰るって？」
「えぇ、公からの召喚があったから、行ってくるわ！アンバー領のこと、みんな、お願いね。ジョージア様に領地のことはお願いしていますが、セバスとイチアを中心に相談をしながら纏めてちょうだい。ジョージア様も、決して一人で判断せず、迷ったら、まず、二人に相談してください」
「わかったよ。アンナこそ、こんな時期に公都へ向かって大丈夫なのかい？」
「えぇ、私は一応罹患していますから、もし、再度罹ったとしても、それほど重くはならないと思います」
「姫さん、護衛に俺がついて行くよ」
「ウィル……」
「ダメだって言っても、ついて行くから。一人くらい護衛がいないと、さすがにまずいだろ？城へ詰めるなら、なおのこと」
「エリックに誰か手配してもらおうと思っていたんだけど……」
「それなら、俺を連れていけば問題ない」


　アイスブルーの瞳は、絶対ひかないと物語っていた。チラッとセバスやナタリーの方を見ても、ウィルと同じような視線を送ってくる。


「アメジストにかけて、私はウィルを守るわ！」
「それなら、俺も姫さんを守るから」
「ジョージア様のセリフ取られちゃいましたね？」
「……え、あぁ、そうだな。元々、アンナは自分の背中をウィル以外に託したことなんてないしさ。それほどまでに信用されているのは、あとにも先にもウィルとセバス、ナタリー。君たち三人だけだよ」
「そんなことないと思いますよ！ジョージア様がいないと、我らの大将は、からっきしダメになりますから！」


　ウィルが茶化すと、ジョージアがありがとうと呟く。嬉しかったのか、俯きながらも頬が少しだけ緩んだ。


「では、私は行ってまいります！春には、前領主夫妻が戻ってきますから、それの準備も怠らないでくださいね！リアン」
「はいっ！」
「あなたは、こちらに残ってちょうだい」
「それは……」
「まずは、公都まで馬で駆けていきます。ウィルとなら、早くつきますが、リアンがいると」
「足手まといなのですね。わかりました」
「……ごめんね」
「いえ、私もナタリー様ほど、乗馬がうまければ、ついていけたのでしょうけど……」
「いいのよ。私は、リアンにそんなことを求めていないもの！両親が戻られる部屋の準備をお願いします。こちらの屋敷でもいいですし、元領主の屋敷の方でも構いません」
「かしこまりました」
「あと、1番重要なお仕事です」
「何でしょうか？」
「レオとミアへたっぷり愛情を注いであげてください」
「……それは」
「いつも、私が連れまわしてしまってますからね。リアンであったり、子どもたちであったり。私のいない間、二人との絆をもっと深めておいてください。あと、うちの子どもたちのことも、よろしくお願いね！きっと、ジョージア様だけでは、立ち行かないから。エマと二人で、見てあげて！」


　ふふっと笑うリアン。もちろんだという顔をしている。


「ナタリーもうちの子どもたちを……」
「アンナリーゼ様、心配しなくても……領地にいるみんなが、アンナリーゼ様のお子たちを愛しんでいますから！私ももちろんのことです。春には3歳になる、アンジェラ様も少しずつ淑女教育の計画も考えないといけませんからね！前領主ご夫妻が帰ってこられたとき、恥ずかしくないよう、アンジェラ様もジョージ様も少し練習をしておきます！」


　ニッコリ笑うナタリーに頷いた。

　私は私室へ戻り、男装へと着替え、リアンに公都までの荷物を持たせてもらう。
　久しぶりの遠出にレナンテもなんだか、ソワソワとしている様子が見て取れた。


「行きましょうか。公都へ。ウィル、よろしくね！」
「あぁ、こちらこそ」


　レナンテに跨り、出発の指示を出す。公都へと勢いよく、レナンテは駆け始めたのであった。