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アデルの近くで雑談
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扉越しにジョージアと話をしたことを思い返す。聞いていたであろうイチアは、微妙な顔であった。
「ジョージア様も優秀なんですけどね……私より、ずっと……」
「学園での勉強と実際の領地運営とは、少々違いますからね。アンナリーゼ様は、どちらかと言えば、領主向きの性格だと思いますよ」
「どうして?」
「自身の周りを見てみてください。人材の登用で、その人がどんな人なのかわかります」
「それは……周りがとても優秀だって言いたい?」
「端的に言えば……アンナリーゼ様は、好きなことを好きなようにすれば、周りが合わせてくれることってありませんか?」
イチアに言われて、頷く。どう考えても、自身の目的のために……みなが動き回っているような気がしていた。それがうまく回っているように思えるのは、周りがしっかり調整をしてくれているおかげなのだろうことは、常々感じているし感謝している。
「あなたは、人を惹きつける才能があるのですよ。ジョージア様がコツコツと誰にも頼らず、ただ、机の上の帳面合わせをしている方だと、私は考えています。かたや、アンナリーゼ様は、あれがしたいの、これがしたいの!どうすれば出来る?と、周りに投げるだけなげますよね?」
「……面目ないです」
「それが悪いことだなんて、一言も言ってないですよ。もう1度言いますね?アンナリーゼ様は、人を惹きつける才能があるのです。やりたいことに対して、人や物、機会が自ずと寄ってくるのですよ」
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことありますよ。ちょっと、見回してください。普段、私が1番長く一緒にいるのはセバスですが、学生の頃から目をかけていたと聞いたことがありますよ?」
「うん、セバスは、とても勉強熱心なのよ。ちょっと要領が悪いところがあるんだけど……そこさえ、補える人がいれば、才能はもっと伸びると思ったの。例えば……うちのお兄様とか……」
「なるほど、サシャ様ですか。確かに広い知識をお持ちですね!」
「同年代となると、セバスに近い人って、お兄様になるのよ。初めて会わせたとき、徹夜で語りあかしていたことを思い出します……そんなに、何を話すのかは知りませんけど……イチアともそんな感じではないのかしら?」
イチアの方へ視線を送ると、まぁ、そうですねと苦笑いした。きっと、ここに兄を含めると3日は徹夜をして、お互いの知識の広さを話すのだろう。まだまだ、兄もセバスも人生経験が長いイチアにはかなわないだろうが……と、思うとクスっと笑ってしまった。
「ウィルも目を付けたって聞いていますよ」
「そんなことないよ!初めて話しかけてきたのは、ウィルだもん。ウィルから始まった友人って、セバスもナタリーもだし……あっ!ウィル」
ほらという顔をされれば、違うとは言いにくい。
「アンナリーゼ様は、人に恵まれて羨ましいですね。おじもアンナリーゼ様を気に入ってこの領地へ移り住んできたわけだし、イチアも気に入っているようだから……」
「ライズは、皇太子としてノクトたちに支えて欲しいとは言わなかったの?」
「言っても無駄だろ?」
チラッとイチアの方を見るライズ。私もつられて見ると、イチアは含みを持たせて笑う。
「ライズでは、ノクト様を動かすことは、難しいでしょう」
「どうして?」
「見ての通り、世間知らずの坊ちゃんだからです。皇太子の執務さえ、きちんと出来ていたとは言い難いですよ」
「そんなことっ!」
「ありますよ!私は見せていただきましたから……もし、アンバー領へ来ていなかったら、私は皇太子の教育係になるよう言われていたのですから」
「もし、イチアがライズの教育係になっていたら……、きっと、うちの国は、隣国の武力に震えることなくいられたんじゃないかしら?」
「そんなことないですよ。遅かれ早かれ、椅子は奪われていたと、ノクト様は言っていましたから。無用な血が流れるのを少しでも抑えられた方だということです。ライズでは、皇国を治めるには、知識も経験も人を惹きつける魅力も足りなさすぎるといってらっしゃいました」
「確かに……」
「アンナリーゼ様!」
「本当のことだから、仕方がないでしょ?違うというなら、教えてくれるかしら?」
苦虫を嚙み潰したような顔をするライズ。皇太子としての意地は多少はあったのだろう。今は、それに縋れない……そのことだけは、わかっているようで、それ以上は何も言わなかった。
私たち三人がゆっくり話をすることは、少ない。と、いうより、初めてであった。アンバー領の領主で公国の筆頭公爵の私、隣国の皇国の元皇太子、そして、常勝将軍の軍師が顔を合わせている。たまには、くだらない話をするのもいいだろう。
「ん……」
寝返りをうったのか気が付いたのか、アデルの方を見ると、ゆっくり体を起こすところだった。ぼうっとしているので、まだ、熱は高いのだろう。
「アデル、具合はどう?」
熱のせいか虚ろな目を私に向けてきた。視点が合っていないのか、じっくり見つめられる。やっと私を認識出来たときには、驚き慌てて座り直した。
「アンナリーゼ様!何故、ここに?」
「何故って……アデルは、高熱で倒れたのよ?」
「……倒れた?」
「まだ、頭がぼんやりしているかしらね……熱は、どう?」
アデルの額に顔を近づけおでこをあてると、まだまだ熱かった。それに驚いて、今度は飛び上がる。
「アンナリーゼ様!あの、そ……」
「熱をみただけよ?」
「……ありがとうございます」
「熱は、どうですか?」
「うん、まだ、熱いわ!」
「そうですか……少し、何か食べた方がいいですね。体が弱ると困るので」
「アデル、パン粥なら、食べられるかしら?」
「……食欲はあまり」
「うーん……りんごでも擦ってもらう?」
イチアの方を見ていると頷いた。コンコンっと扉をノックする音がしたので、ライズが扉越しに要件を聞いているところだった。
「ジョージア様も優秀なんですけどね……私より、ずっと……」
「学園での勉強と実際の領地運営とは、少々違いますからね。アンナリーゼ様は、どちらかと言えば、領主向きの性格だと思いますよ」
「どうして?」
「自身の周りを見てみてください。人材の登用で、その人がどんな人なのかわかります」
「それは……周りがとても優秀だって言いたい?」
「端的に言えば……アンナリーゼ様は、好きなことを好きなようにすれば、周りが合わせてくれることってありませんか?」
イチアに言われて、頷く。どう考えても、自身の目的のために……みなが動き回っているような気がしていた。それがうまく回っているように思えるのは、周りがしっかり調整をしてくれているおかげなのだろうことは、常々感じているし感謝している。
「あなたは、人を惹きつける才能があるのですよ。ジョージア様がコツコツと誰にも頼らず、ただ、机の上の帳面合わせをしている方だと、私は考えています。かたや、アンナリーゼ様は、あれがしたいの、これがしたいの!どうすれば出来る?と、周りに投げるだけなげますよね?」
「……面目ないです」
「それが悪いことだなんて、一言も言ってないですよ。もう1度言いますね?アンナリーゼ様は、人を惹きつける才能があるのです。やりたいことに対して、人や物、機会が自ずと寄ってくるのですよ」
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことありますよ。ちょっと、見回してください。普段、私が1番長く一緒にいるのはセバスですが、学生の頃から目をかけていたと聞いたことがありますよ?」
「うん、セバスは、とても勉強熱心なのよ。ちょっと要領が悪いところがあるんだけど……そこさえ、補える人がいれば、才能はもっと伸びると思ったの。例えば……うちのお兄様とか……」
「なるほど、サシャ様ですか。確かに広い知識をお持ちですね!」
「同年代となると、セバスに近い人って、お兄様になるのよ。初めて会わせたとき、徹夜で語りあかしていたことを思い出します……そんなに、何を話すのかは知りませんけど……イチアともそんな感じではないのかしら?」
イチアの方へ視線を送ると、まぁ、そうですねと苦笑いした。きっと、ここに兄を含めると3日は徹夜をして、お互いの知識の広さを話すのだろう。まだまだ、兄もセバスも人生経験が長いイチアにはかなわないだろうが……と、思うとクスっと笑ってしまった。
「ウィルも目を付けたって聞いていますよ」
「そんなことないよ!初めて話しかけてきたのは、ウィルだもん。ウィルから始まった友人って、セバスもナタリーもだし……あっ!ウィル」
ほらという顔をされれば、違うとは言いにくい。
「アンナリーゼ様は、人に恵まれて羨ましいですね。おじもアンナリーゼ様を気に入ってこの領地へ移り住んできたわけだし、イチアも気に入っているようだから……」
「ライズは、皇太子としてノクトたちに支えて欲しいとは言わなかったの?」
「言っても無駄だろ?」
チラッとイチアの方を見るライズ。私もつられて見ると、イチアは含みを持たせて笑う。
「ライズでは、ノクト様を動かすことは、難しいでしょう」
「どうして?」
「見ての通り、世間知らずの坊ちゃんだからです。皇太子の執務さえ、きちんと出来ていたとは言い難いですよ」
「そんなことっ!」
「ありますよ!私は見せていただきましたから……もし、アンバー領へ来ていなかったら、私は皇太子の教育係になるよう言われていたのですから」
「もし、イチアがライズの教育係になっていたら……、きっと、うちの国は、隣国の武力に震えることなくいられたんじゃないかしら?」
「そんなことないですよ。遅かれ早かれ、椅子は奪われていたと、ノクト様は言っていましたから。無用な血が流れるのを少しでも抑えられた方だということです。ライズでは、皇国を治めるには、知識も経験も人を惹きつける魅力も足りなさすぎるといってらっしゃいました」
「確かに……」
「アンナリーゼ様!」
「本当のことだから、仕方がないでしょ?違うというなら、教えてくれるかしら?」
苦虫を嚙み潰したような顔をするライズ。皇太子としての意地は多少はあったのだろう。今は、それに縋れない……そのことだけは、わかっているようで、それ以上は何も言わなかった。
私たち三人がゆっくり話をすることは、少ない。と、いうより、初めてであった。アンバー領の領主で公国の筆頭公爵の私、隣国の皇国の元皇太子、そして、常勝将軍の軍師が顔を合わせている。たまには、くだらない話をするのもいいだろう。
「ん……」
寝返りをうったのか気が付いたのか、アデルの方を見ると、ゆっくり体を起こすところだった。ぼうっとしているので、まだ、熱は高いのだろう。
「アデル、具合はどう?」
熱のせいか虚ろな目を私に向けてきた。視点が合っていないのか、じっくり見つめられる。やっと私を認識出来たときには、驚き慌てて座り直した。
「アンナリーゼ様!何故、ここに?」
「何故って……アデルは、高熱で倒れたのよ?」
「……倒れた?」
「まだ、頭がぼんやりしているかしらね……熱は、どう?」
アデルの額に顔を近づけおでこをあてると、まだまだ熱かった。それに驚いて、今度は飛び上がる。
「アンナリーゼ様!あの、そ……」
「熱をみただけよ?」
「……ありがとうございます」
「熱は、どうですか?」
「うん、まだ、熱いわ!」
「そうですか……少し、何か食べた方がいいですね。体が弱ると困るので」
「アデル、パン粥なら、食べられるかしら?」
「……食欲はあまり」
「うーん……りんごでも擦ってもらう?」
イチアの方を見ていると頷いた。コンコンっと扉をノックする音がしたので、ライズが扉越しに要件を聞いているところだった。
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