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報告は……

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 執務室で、また、二人になり、報告を聞くことにした。アデルについては、別途、報告があるだろうとジョージアから話があった。


「ジョージア様、コーコナの方はどうですか?」
「コーコナは、もう、落ち着いたね。土砂崩れの方も、伝染病もアンナがいた頃から、すでに終わりが見えていたから、俺は、何もすることがなく、ただ、経過を見ていただけかな?」
「経過ですか?」
「アンナに報告するのは、コーコナのことより、ローズディア全体の方が多いかもしれない。コーコナは、アンナが領民に声をかけていたおかげで、それぞれが支え合っているから、ヨハンがそれに便乗して指示を出してた。ココナが、それに追随するように、いろいろなことを手配してくれていたから、実際は、ここにサインを判子をと言われるのに従っていただけだな……アンナが、全ての段取りをしていってくれたおかげで、殆ど何もせずに、ただ、見守っているだけで数ヶ月が過ぎてしまったよ。アデルを始め、土木工事の方も、後片付けだけでなく、他にも少し何かをしていたようだったけど……」


 情けないなと呟くジョージアの肩に優しく手を置く。


「領主なんて、本当はいてもいなくても、領民の生活に直接は関係ないのかもしれませんね。それぞれの営みがあって、領地が成り立っているのですから。お金を徴収したり、公共事業として、街道整備なんかをするのに、旗振りする人間が必要なだけで……ジョージア様は、ちゃんと、領主をしてくださいましたよ!あれ以降、病の人は増えなかったのですし、コーコナは完治しましたから!見守るのも、領主の勤めです!私は、ついつい、首を突っ込んでしまいますけど……」


 そんな私を見上げて、苦笑いをするジョージア。容易に想像できる私に、呆れているのはわかっているが、それが私なのだからと理解もしてくれている。


「アンナは、どうして、それほどまでに愛されるんだろうね?」
「……何にですか?」
「全てにだよ。人からももちろんだけど、大きな災害やら、病やら……商売にもお金にも愛されているようだけど……」
「何か、愛されたくないものまで入っていませんでしたか?」
「そうだね」
「災害や病には、ぜひとも嫌われたいです……そうすれば、困る領民も減りますし……そういうのは、望んでいるわけでもありませんから。人からは、愛されているばかりではありませんよ?」
「そんなことないだろう?最近、噂で聞くところによると、ゴールド公爵が是非ともアンナと食事でもしたいと……」
「それ、毒でも盛りたいんじゃないですか?トカゲのしっぽくらいの貴族にやらせるんですよ!ジョージア様、そういうのに乗っちゃダメですよ?」
「そうはいうが、公都では、今、わりと有名な噂話ではあるよ?」
「公妃を蔑ろにしているのに、そんなわけはありませんよ!愛されているんじゃなくて、亡き者にしたい!それが正解です」


 ニッコリと笑いかけると、その笑顔が怖いなとブルっと震えるジョージア。実際、ゴールド公爵は、私の政敵と言っても過言ではない。
 婚姻を結んでいるわけでもないのに、公を意のままに動かしていることに、絶対、腹を立てているに決まっている。
 ましてや、正当な公室筋の生まれであるジョージアが筆頭ならまだしも、隣国からジョージアへ嫁いだだけの私が筆頭であることも理由だろう。ゴールド公爵も正当な公室の血筋なのだから……その思いは、なおのことだ。


「そういえば、ずっと聞かなかったことなんだけど……」
「なんですか?」
「ダドリー男爵と最後に交わした言葉……」
「今更ですよ!ジョージア様。あのときは、きっと、男爵となら、いいお友達になれたでしょうけどね!って話をしたんですけど……ゴールド公爵とは、絶対無理ですね。理解できませんし!だいたい、南の方で、私に似た奴隷を自身の配下の貴族や商人に与えていたって話ですからね!」
「えっ?そうなの?」
「そうですよ?私、少々悪目立ちしすぎているおかげか、そういう対象のようですね……どうにかしたいらしいです!」
「ちょ、ちょっと待って!それって、不敬じゃないか?」
「不敬の前にローズディアは、奴隷制度も人身売買も違法なのですから、それを許してしまっている自体が、まずいですよ!そうはいても、ゴールド公爵の周りにはトカゲがいっぱいいるので、しっぽなんて腐るほどあるんでしょうけどね!」


 呆然と私を見ている。


「どうかされましたか?」
「どうかって、自分の奥さんがそんな対象に見られているのって、すごい嫌なんだけど……」
「仕方ないですよ!そういうご趣味の方々に、目をつけられてしまったのですから。おかげで伝染病が蔓延しているわけですけどね?」
「えっ?」
「話していませんでしたか?」
「公にうっすら聞いた気がする。もしかして、アンナ似のお嬢さんが、今回の感染病の元だったりするの?」
「まぁ、代表的に言えば……インゼロ帝国からの人身売買で来たうちの誰かが感染していたようで、それが、瞬く間に広まった……それが、ことの顛末です。南の方にある暗い場所でも、かなり流行っているようで、おかげで刺客が減ったってウィルは言ってましたけど……」
「暗い場所?」
「ジョージア様には、あまり、馴染みのない場所かもしれませんね!」
「それは?」
「貧民街と言えばいいのですかね?あまり治安のいい場所ではないです。とはいえ、アンバー領全体も、それに近い場所になりつつあったんですけど……数年前までは」
「もしかして、あの状態のところ?」
「実際はもっと酷いと思いますよ。力あるものが、街を仕切るでしょうから……犯罪で溢れているでしょうし、そこから抜け出せずに一生を終える人もいます。手を差し伸べる者が、いるとしたら……表立って頼めない仕事をしてほしい人たちからの安い賃金か、売り買いされる身くらいかもしれません。私は、そういう場に行ったことがないので、わかりませんが……そういう場所は、意外と病気も流行りやすかったりもしますよ」


 私の方を見ながら考え事をしているジョージアに、小首を傾げた。意を決したのか、こちらを見てひとつ頷く。


「アンナが1番初めに、アンバー領でしたことは、確か掃除だったよね?」
「そうです。お世辞にも綺麗だとは言えない町や村の掃除から始めました。人を含めてね!」
「それは……」
「ヨハンから、聞いていたからですよ!清潔にすることで、病気は減るって。死体もありましたからね……道端に。埋葬されるでもなく」


 今の町並みからは想像出来ないほどではあるが、実際は、本当に酷かったのだ。食べるものもなく、働くこともできず、虚ろな目の人ばかりがいた。
 今では、想像できないだろうその景色を思い出す。ジョージアも記憶にあるアンバー領を思い出していたのだろう。


「本当に、救われたんだなって、改めて思うよ。ありがとう、アンナ」
「私だけじゃないですから!みんなで頑張った結果です。協力なくして、領地改革は進んでいませんよ!」


 ズレてしまった話を元に戻すべきだろう。私は、ジョージアへと報告を促す。
 すまないと謝りながら、再度、報告が始まるのであった。
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