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試作品Ⅷ
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「さて、次はあなたたち二人の番ね!」
「私たちにも、お話があるのですか……?」
「すごい羨ましそうな顔をして、言われたら、ちょっと意地悪したくなるなぁ?」
「ウィル……」
「はいはい。ごめんなさいな。どうぞ、続けてください、お姫様」
茶化すウィルにもぅ!と怒ると、みなが笑う。私たちのこの会話を聞いていると、いつもの日常で安心できるらしい。
「ウィルにちゃかされちゃったけど……改めて……」
「はい、どうでしょうか?」
「一言でいえば……」
「……言えば」
「……ゴクン」
ラズベリーの評価を聞いていたからか、こちらにも緊張が伝わってきた。これは、思わず、からかいたくなる。しばらく、見つめるだけで口を開かないでいると、こちら側から声がかかる。茶化したウィルでなく、真面目なセバスから。
「アンナリーゼ様も、二人をからかわないでください!そんなことしていると、飾り箱を作ってもらえなくなりますよ!」
「いや、それは、ダメ!言うわ、言う、言う!」
「慌てなくていいですから、待っている二人に丁寧な評価の結果を知らせてあげてください」
はいっとセバスとナタリーに応え、私は向き直った。
「ごめんね」
「いえ……あの、それで……」
「うん、試作品は私たちが考えていたモノよりずっと素晴らしい出来だわ!ひとつひとつ丁寧な作りになっていて、素晴らしかった!このまま、作ってほしいのだけど……」
「「ありがとうございます!」」
ペコペコと頭を下げる二人に微笑んだ。本当に素晴らしい出来であったのだ。
「これを作ってもらうことになるんだけど……何点かの改善と相談があるんだけど」
「はい、何でしょうか?」
「まずは、朝も言ったとおり、領地の紋章を箱の見える場所に入れて欲しいの」
「わかりました。目立つところに入れられるよう作り直します」
「2つ目は、この飾り箱、凝っているぶんは、1箱どれくらいで出来るかしら?」
「1日に3箱です」
「今から、作ってもらって……わりとギリギリになるかもしれないわね?休憩もちゃんととったうえで、今度は作ってほしいから」
「……はい」
「これは、まだ、始まりだからね!この後に続くものが、本番なんだから!」
「……はい。重々身に染みています」
二人が頷きあっていた。今日、寝てしまったことをコルクもグランも反省しているようだった。
「それで、数だけど……」
「はい。120箱ですよね!」
「えぇ、薔薇を30箱、リンゴとこの宝石がたのを20箱ずつ」
「……あとは、長方形と楕円形のものでということですか?」
「えぇ、不満かしら?」
「いえ……そういうわけでは……」
「不満なのね」
ふふっと笑うと、また否定をするコルク。控えている仕事も考えてほしいのだが……と苦笑いする。
「まだ、あなたたちは、これからが大変なんだけど……今、お願いしたのは……いわゆる新製品を売るための下準備みたいなものだから、これに時間を取られていると困るの。このあと、ちゃんとした製品を作るときにも飾り箱が必要だから、そっちに重きを置いてほしいわ!」
「……それは」
「大口発注って受けたことないかしら?領主からの依頼、受けてくれる?」
「おう、コルク……」
「なんだ?グラン?」
「領主からの依頼と聞こえたんだが……それも大口だと……」
「夢、なのか?」
「……わからない」
「二人とも、頬を叩きましょうか?」
「……お、お願いします!」
「お、おい!姫さんに叩かせるのだけは、やめとけって!」
パーンと乾いた音が2つ鳴り響いた。ウィルが止めるのが少々遅かったようで、二人の頬を綺麗な音とともに叩いたあとだった。
「……ひぃぃぃぃ!」
「やめとけって言ったのに……」
「も、もう少し、早く言ってください!」
頬をさすりながら、涙目のコルクとグランはウィルに訴えた。
「夢じゃないということもわかったことだし、お話、詰めましょうか?」
可哀想に思ったのか、テクトから話をしますと言うふうになった。釈然としない私ではあったが、仕方がない。
「いつも思うんだけど、加減を覚えた方がいい。姫さん、いつでも全力すぎる」
「うそっ!私、軽く叩いただけだけど……」
「あれで、軽くですか?」
「えぇ、そうよ?」
そういうと、みなが視線を外した。失礼ねと思いながら、コルクとグラン、テクトが話をしているところを見る。頬をさすりながら、それでも口元を緩め、嬉しそうに話をしていた。
「そうだ!コルク!」
名を呼んだ瞬間、一瞬飛び上がったような気がするが、気のせいだろう。見なかったことにしておくと、精一杯の微笑みをこちらに向けてくる。
「何でございましょう?」
「あなたたちも、紋章つけていいわよ!ただし、今のところは、香水の飾り箱にだけね!」
「えっ?」
「飾り箱に価値がつく……とは、なかなか考えにくいんだけど……試してみたいの!」
「そういうことでしたら……ありがたく、つけさせていただきます!」
「ただし」
「わかっています。長方形や楕円形以外の分ということですね!」
「そう!察しがよくて助かるわ!」
ニッコリ笑うと、こちらこそ、取り立てていただきというので、私は手を振る。おもしろいものをおもしろいと言っただけだ。努力は職人がしないといけないし、紋章がつけば、それが二人の商品の顔にもなる。
責任は重くなるわけだが、あの二人なら……大丈夫だろうと思えたからのはからいでもあった。
まだ、こちらに来てからの日は浅い。職人としても、年若い二人はそれほど長い職歴ではないかもしれないが、可能性の広がりそうな二人を応援したいと思えた。
「私たちにも、お話があるのですか……?」
「すごい羨ましそうな顔をして、言われたら、ちょっと意地悪したくなるなぁ?」
「ウィル……」
「はいはい。ごめんなさいな。どうぞ、続けてください、お姫様」
茶化すウィルにもぅ!と怒ると、みなが笑う。私たちのこの会話を聞いていると、いつもの日常で安心できるらしい。
「ウィルにちゃかされちゃったけど……改めて……」
「はい、どうでしょうか?」
「一言でいえば……」
「……言えば」
「……ゴクン」
ラズベリーの評価を聞いていたからか、こちらにも緊張が伝わってきた。これは、思わず、からかいたくなる。しばらく、見つめるだけで口を開かないでいると、こちら側から声がかかる。茶化したウィルでなく、真面目なセバスから。
「アンナリーゼ様も、二人をからかわないでください!そんなことしていると、飾り箱を作ってもらえなくなりますよ!」
「いや、それは、ダメ!言うわ、言う、言う!」
「慌てなくていいですから、待っている二人に丁寧な評価の結果を知らせてあげてください」
はいっとセバスとナタリーに応え、私は向き直った。
「ごめんね」
「いえ……あの、それで……」
「うん、試作品は私たちが考えていたモノよりずっと素晴らしい出来だわ!ひとつひとつ丁寧な作りになっていて、素晴らしかった!このまま、作ってほしいのだけど……」
「「ありがとうございます!」」
ペコペコと頭を下げる二人に微笑んだ。本当に素晴らしい出来であったのだ。
「これを作ってもらうことになるんだけど……何点かの改善と相談があるんだけど」
「はい、何でしょうか?」
「まずは、朝も言ったとおり、領地の紋章を箱の見える場所に入れて欲しいの」
「わかりました。目立つところに入れられるよう作り直します」
「2つ目は、この飾り箱、凝っているぶんは、1箱どれくらいで出来るかしら?」
「1日に3箱です」
「今から、作ってもらって……わりとギリギリになるかもしれないわね?休憩もちゃんととったうえで、今度は作ってほしいから」
「……はい」
「これは、まだ、始まりだからね!この後に続くものが、本番なんだから!」
「……はい。重々身に染みています」
二人が頷きあっていた。今日、寝てしまったことをコルクもグランも反省しているようだった。
「それで、数だけど……」
「はい。120箱ですよね!」
「えぇ、薔薇を30箱、リンゴとこの宝石がたのを20箱ずつ」
「……あとは、長方形と楕円形のものでということですか?」
「えぇ、不満かしら?」
「いえ……そういうわけでは……」
「不満なのね」
ふふっと笑うと、また否定をするコルク。控えている仕事も考えてほしいのだが……と苦笑いする。
「まだ、あなたたちは、これからが大変なんだけど……今、お願いしたのは……いわゆる新製品を売るための下準備みたいなものだから、これに時間を取られていると困るの。このあと、ちゃんとした製品を作るときにも飾り箱が必要だから、そっちに重きを置いてほしいわ!」
「……それは」
「大口発注って受けたことないかしら?領主からの依頼、受けてくれる?」
「おう、コルク……」
「なんだ?グラン?」
「領主からの依頼と聞こえたんだが……それも大口だと……」
「夢、なのか?」
「……わからない」
「二人とも、頬を叩きましょうか?」
「……お、お願いします!」
「お、おい!姫さんに叩かせるのだけは、やめとけって!」
パーンと乾いた音が2つ鳴り響いた。ウィルが止めるのが少々遅かったようで、二人の頬を綺麗な音とともに叩いたあとだった。
「……ひぃぃぃぃ!」
「やめとけって言ったのに……」
「も、もう少し、早く言ってください!」
頬をさすりながら、涙目のコルクとグランはウィルに訴えた。
「夢じゃないということもわかったことだし、お話、詰めましょうか?」
可哀想に思ったのか、テクトから話をしますと言うふうになった。釈然としない私ではあったが、仕方がない。
「いつも思うんだけど、加減を覚えた方がいい。姫さん、いつでも全力すぎる」
「うそっ!私、軽く叩いただけだけど……」
「あれで、軽くですか?」
「えぇ、そうよ?」
そういうと、みなが視線を外した。失礼ねと思いながら、コルクとグラン、テクトが話をしているところを見る。頬をさすりながら、それでも口元を緩め、嬉しそうに話をしていた。
「そうだ!コルク!」
名を呼んだ瞬間、一瞬飛び上がったような気がするが、気のせいだろう。見なかったことにしておくと、精一杯の微笑みをこちらに向けてくる。
「何でございましょう?」
「あなたたちも、紋章つけていいわよ!ただし、今のところは、香水の飾り箱にだけね!」
「えっ?」
「飾り箱に価値がつく……とは、なかなか考えにくいんだけど……試してみたいの!」
「そういうことでしたら……ありがたく、つけさせていただきます!」
「ただし」
「わかっています。長方形や楕円形以外の分ということですね!」
「そう!察しがよくて助かるわ!」
ニッコリ笑うと、こちらこそ、取り立てていただきというので、私は手を振る。おもしろいものをおもしろいと言っただけだ。努力は職人がしないといけないし、紋章がつけば、それが二人の商品の顔にもなる。
責任は重くなるわけだが、あの二人なら……大丈夫だろうと思えたからのはからいでもあった。
まだ、こちらに来てからの日は浅い。職人としても、年若い二人はそれほど長い職歴ではないかもしれないが、可能性の広がりそうな二人を応援したいと思えた。
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