ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

悠月 星花

文字の大きさ
上 下
695 / 1,515

試作品Ⅲ

しおりを挟む
「この話は、香水が軌道に乗ってから話しましょうか。とりあえず、今、するべきは香水のほうね!ラズ、持っている香水をその長方形の飾り箱に入れてくれる?」
「はい、これですね!」


 そういって、ラズベリーは長方形の飾り箱の中に咲きかけの薔薇の瓶を入れた。うっすらとピンク色をしている香水入りの瓶を詰めて見ると、さっきまでと印象が変わり、とても素敵になった。


「なるほど……この飾り箱は、香水を入れて、初めて完成する……そういう代物ですね!」


 黙っていたイチアが、余程気に入ったのか、口を開いた。
 たしかに、1つ小瓶が入っただけだが、先程とは全く違うものだ。


「いいわね!香水にガラス瓶、飾り箱の3つが揃って、初めて1つの商品として扱えるのね。どれがかけていても、この美しさは出来ないわね!」
「本当ですね!」
「今日、初めて合せましたが、想像以上にいい仕上がりになっています!」
「飾り箱の落ち着いた色に、優しい香水の色。ガラスのキラキラとしたのもいいわね!」


 みなが見惚れる中、ナタリーだけが顔を曇らせている。


「ナタリーどうかして?」
「いえ、とても素敵なのですが……」


 握りしめた中綿を見ていた。

 そうか、ナタリーは……中綿を?


「あの、僭越ながら、もうひとつだけ、手を加えてもいいでしょうか?」
「何をなさるのですか?ナタリー様」


 ビルが聞き返すと、これよと握りしめていた中綿を机に置く。コルクが試しに置いたという白い光沢のある布で作られた中綿ではあったが、何か思いついたのだろうか?


「アンナリーゼ様、中綿に使うこの光沢のある布地については、私の方で手配させていただくことは、可能ですか?」
「えぇ、いいけど……どうするの?」
「考えがあります。やらせてください!」
「任せたわ!」
「姫さんも、そんなあっさり頼んでいいのかよ?」
「布に関して、ナタリー以上に知っているものが、ここにいて?」
「確かに……しかしながら、ナタリー様には、たくさんお仕事がありますし」
「そのための、ベリルですわ!」
「えっ?私ですか?」
「そう、ベリル、あなたに仕事を任せるわ!あなたが作ってもいいし、指示を出して作ってもらってもいい。布地だけは、私が選ぶから、やってみなさい!」
「そんな、私には無理です!」
「無理かどうかは、やってみてからにしなさい。ダメだったら、私が責任を取るから、自分が思う通りにしてみて!なんなら、ライズも貸すから!」
「……ライズさんは、どう見ても使い物には……」
「荷物持ちや、連絡係くらいならできるわよ?」


 私は、ぐっと堪えた。いい年して、元皇太子が荷物持ちや連絡係しか出来ないって……と。小言を言いたいが、ナタリーが辛抱強く育てた結果、少しだけでも使えるようになったのだから、恩の字だ。


「……わかりました。やってみます」
「デザインは私がおこすから、コーコナから、この前、試しに作ってもらった布を取り寄せて!」
「わかりました!あの布を使うんですか?」
「そう、手触りもいいし、綿に関しては、コットンに連絡すればいいし!」


 二人のやり取り聞き、何も出来なかった温室育ちのベリルの成長を垣間見た。
 ライズも少しくらい成長はしているようだ。ナタリー様様の成長に私は少しだけホッとした。


「中綿は、ナタリーに任せていいかしら?」
「はい。動くのはベリルですが、私が責任持って作らせます」


 私は頷き、ベルを鳴らす。


「アンナリーゼ様、お呼びでしょうか?」
「えぇ、リアン。ここの三人を客間に案内してくれる?あと……」
「心得ております。では、ラズベリーさん、コルクさん、グランさん。こちらへついてきてください!」
「えっ?でも……」
「私たちは、これからどれを作るのかの話し合い……」


 驚きと戸惑いでおどおどする三人に、有無を言わせないデリア直伝の微笑みをリアンも覚えたようだ。
 ビクッとする三人には悪いが、少しだけ寝てもらう。試作品を作るのに殆ど寝ずにいたのだろうことは、わかる。


「アンナリーゼ様……」


 私に泣きつこうとするラズベリーにニコニコっと笑うと、諦めたようだった。


「三人とも別室で待機してちょうだい。ここからは、私たちハニーアンバー店で売るものに対しての意見交換をするから、職人はいない方がいいの。悪いわね!少しだけ、待っていて!」


 そういうことならと、席を立つ三人を見送り、ため息をついた。


「職人ってみんなあんななのかしら?目の下にクマを作って……体調管理も考えて欲しいわね!」
「あんなものだと思いますよ?経験上、1つのものを作るのに夢中になりますから!」
「ナタリーもよく徹夜してるもんな!」
「ウィル、それは、アンナリーゼ様には言わない約束でしてよ?」


 ウィルをキッと睨むナタリーにため息をついた。


「ナタリーもほどほどにね……あなたがいないと、服飾の方は回って行かないわ!」
「後進は育てていますから、大丈夫ですよ!私がアンナリーゼ様だけのドレスを作るのに時間を費やしたいですから!」
「うわっ、本音が出た!」
「本当のことを言って、何が悪いのかしら?私の愛はアンナリーゼ様を輝かせるためだけにあるのですから!」


 胸を張るナタリーに何か声をかけようかと思ったが、ナタリーにそれを許可しているのだから、何も言わずにいよう。胸の奥で、静かにするのであった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

「「中身が入れ替わったので人生つまらないと言った事、前言撤回致しますわ!」」

桜庵
ファンタジー
※重複投稿です 「「人生つまらない」」とつぶやく現代女子高生と異国のご令嬢。彼女たちが手にしているのは一冊の古びたおまじないの本。「人生一番つまらないときに唱えると奇跡が起きる」というおまじないの言葉を半信半疑に試みた翌日、目覚めると2人の人格が入れ替わっていた。現代日本と異国、人格の入れ替わりはあるが魔法もチートもないそれぞれの世界で二人の少女の物語が今始まる。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

処理中です...