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揃いそうですね!
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今日は、視察に出ていた報告をセバスとイチアを混ぜて話すことになっている。と、言っても、返事はもうもらったので、あとは、ものができるのを待つだけとなっているのだが、よくよく考えると、ラズベリーが作るガラス瓶とコルクとグランが作る飾り箱が、それぞれを引き立てるようなものでなくてはいけないことに今更気付いた。
「結果からいうと、ラズもコルクとグランも今回の仕事、受けてくれることになったの。1週間後に領主の屋敷で、確認できるように見本を作ってくるようお願いしたんだけど……それって、先に2組の顔合わせをするべきだったのかしら?」
「……まず、アンナリーゼ様は、今回、打診をしに、それぞれの職人に会いに行ったと記憶しています。いつの間に試作を作る方向に話が進んでいるのですか?」
イチアに言われ、確かにそうだったと思いおこした。ただ、2組とも意欲的で……意欲的だったよね?と首を傾げながら、自分をまず納得させる。
「ラズは、乗り気だったから、そのままお願いしたの。試作が出来たら、それに合わせて飾り箱をと思っていたけど……ナタリーのおかげで、コルクとグランも乗り気になってくれて……微調整はあとでするとして……試作、作ってくれるって……」
「それが、ラズさんの作るガラスと合わなかった場合、どうするの?」
「それも、そうだよね……セバスの言う通りだわ。まずは、試作だから、そのまま買い取るわ!宝石箱として売っても、いい出来のものだもの」
三人で話していると、そこにテクトとビルが加わった。
「遅れてしまい、すみません。こちら、コルクからの手紙です」
「コルクから?」
テクトが預かってきたというコルクの手紙を手に取った。まさに、今、話をしていたことが書かれていて、驚く。
「なんて、書かれているのですか?」
イチアの質問には答えず、手紙をそのまま渡した。その隣からセバスが覗き込んで何事かをイチアへと耳打ちしている。
「アンナリーゼ様、このコルクというのが飾り箱を作る職人ですか?」
「コルクは、さしずめ、デザイナーってところかしらね?実際、作っているのはグランの方らしいわ!」
「なるほど……それで、コルクがラズさんのところへ向かったんですね?」
「そう、みたいね!私が失念していたところを、見事に埋めてくれたわね」
「そうですね。こちらからの指示がなくとも、動いてくれる職人さんはありがたいです」
「イチアは、コンテストの作品を見たかしら?」
「『赤い涙』を入れるための瓶とその飾り箱のですか?」
「そう。今年は、この二人の作った飾り箱が、選ばれたらしいわ!何か印象に残っている飾り箱って覚えている?」
たしか……と、イチアが記憶を探る。なにか、思い当たるものがあったのか、考え込んで俯いていた頭をあげた。
「今年の1番は、ガラスを使ってある飾り箱がありましたね。斬新で、驚きました!」
「まさに、それね!あの二人が作る飾り箱は、ガラスも使ったものなの」
「なるほど……あれは、よくできていた。アンナリーゼ様は、それをもっと世に広めたいのですね?」
私はニコリと笑うと、商人二人も怪しい笑顔を張り付ける。
「でも、二人の技術ですから、今度の大量生産してもらうとなると、数的に難しいのではないですか?」
「そうなの。だから、ひとつ、相談事を二人に考えてもらうように言ってきた」
「他の人が作ってもいいのかという話ですね」
「そう。ただ、他の職人に任せてもいいという話に、仮になったとしても、二人だけのために何か付加価値をつけたいわ!例えば、サイン入れるとか……」
「なるほど……あくまで、あの二人のための飾り箱であると」
「そう。ずっと、考えていたのよ。ラズにしたって、何か自分が作ったものなんだって、証を残すべきだと思うの。消費されるものではなく、収集物としての価値があるから、なおさら。本物が本物を作ったという価値をつけたいなって……それは、作品に入れるのが1番いいと思うのよね!」
「確かに、アンナリーゼ様が言ってたことだね。収集家によって、収集される価値あるものになるんじゃないかって。そうすると、いずれ、偽物が出回る可能性もある。本人、もしくは収集家にしかわからない証があれば、確かにそれは、付加価値になる」
私はセバスの話に頷いた。今、『赤い涙』や高級酒となっているアンバーの蒸留酒には、ラズを始め、とても個性の強い職人がコンテストを勝ち抜いて年に何本もない瓶を作っている。それをただの瓶として扱わず、きちんとした収集家によって、集められ始めたことを知った。それなら、それも含めて、瓶や飾り箱にも付加価値をつけておくべきなんじゃないかと考えていたのだが、なかなか話し合う時間がなく、やっと話せる機会ができたというところだ。
職人や知っている人だけが、誰の作品なのかわかればいいということではなく、誰もが知る作品となり、ゆくゆくは、城などの展示で使われるような一品となってほしい。
それが、願いではあった。まずは、収集家たちの目に留まり、集めてもらい、価値を上げてもらう必要があるが、美術品のひとつとして世に知らしめてほしいなんて考えてもいた。
「次、ラズさんたちが来たときに、要相談だね。ビルさんたちも今の考え、どう思う?」
「とても、いい案だと思います。美術品のひとつとして城に飾られるとなれば……アンバーの職人の知名度も上がるでしょうし、職人たちの創作意欲にも火がつきそうですね。そうして、職人の技術も上がれば、さらにアンバー領の誇れる産業が出来上がります!」
「そうね、そうすると、アンバー領の底上げにも貢献できるから、職人たちとの相談をしてみるか、まずは、ラズたちに聞いてみましょう!」
報告会は無事に終わった。私たちは、みなが集まる日にもう一度話し合うことにして、お開きとなった。
私たちの考えがよくても、職人たちにも自分が作るものに誇りを持っている。職人には職人の考えがあるのだから、提示だけしてみることになったのである。
「結果からいうと、ラズもコルクとグランも今回の仕事、受けてくれることになったの。1週間後に領主の屋敷で、確認できるように見本を作ってくるようお願いしたんだけど……それって、先に2組の顔合わせをするべきだったのかしら?」
「……まず、アンナリーゼ様は、今回、打診をしに、それぞれの職人に会いに行ったと記憶しています。いつの間に試作を作る方向に話が進んでいるのですか?」
イチアに言われ、確かにそうだったと思いおこした。ただ、2組とも意欲的で……意欲的だったよね?と首を傾げながら、自分をまず納得させる。
「ラズは、乗り気だったから、そのままお願いしたの。試作が出来たら、それに合わせて飾り箱をと思っていたけど……ナタリーのおかげで、コルクとグランも乗り気になってくれて……微調整はあとでするとして……試作、作ってくれるって……」
「それが、ラズさんの作るガラスと合わなかった場合、どうするの?」
「それも、そうだよね……セバスの言う通りだわ。まずは、試作だから、そのまま買い取るわ!宝石箱として売っても、いい出来のものだもの」
三人で話していると、そこにテクトとビルが加わった。
「遅れてしまい、すみません。こちら、コルクからの手紙です」
「コルクから?」
テクトが預かってきたというコルクの手紙を手に取った。まさに、今、話をしていたことが書かれていて、驚く。
「なんて、書かれているのですか?」
イチアの質問には答えず、手紙をそのまま渡した。その隣からセバスが覗き込んで何事かをイチアへと耳打ちしている。
「アンナリーゼ様、このコルクというのが飾り箱を作る職人ですか?」
「コルクは、さしずめ、デザイナーってところかしらね?実際、作っているのはグランの方らしいわ!」
「なるほど……それで、コルクがラズさんのところへ向かったんですね?」
「そう、みたいね!私が失念していたところを、見事に埋めてくれたわね」
「そうですね。こちらからの指示がなくとも、動いてくれる職人さんはありがたいです」
「イチアは、コンテストの作品を見たかしら?」
「『赤い涙』を入れるための瓶とその飾り箱のですか?」
「そう。今年は、この二人の作った飾り箱が、選ばれたらしいわ!何か印象に残っている飾り箱って覚えている?」
たしか……と、イチアが記憶を探る。なにか、思い当たるものがあったのか、考え込んで俯いていた頭をあげた。
「今年の1番は、ガラスを使ってある飾り箱がありましたね。斬新で、驚きました!」
「まさに、それね!あの二人が作る飾り箱は、ガラスも使ったものなの」
「なるほど……あれは、よくできていた。アンナリーゼ様は、それをもっと世に広めたいのですね?」
私はニコリと笑うと、商人二人も怪しい笑顔を張り付ける。
「でも、二人の技術ですから、今度の大量生産してもらうとなると、数的に難しいのではないですか?」
「そうなの。だから、ひとつ、相談事を二人に考えてもらうように言ってきた」
「他の人が作ってもいいのかという話ですね」
「そう。ただ、他の職人に任せてもいいという話に、仮になったとしても、二人だけのために何か付加価値をつけたいわ!例えば、サイン入れるとか……」
「なるほど……あくまで、あの二人のための飾り箱であると」
「そう。ずっと、考えていたのよ。ラズにしたって、何か自分が作ったものなんだって、証を残すべきだと思うの。消費されるものではなく、収集物としての価値があるから、なおさら。本物が本物を作ったという価値をつけたいなって……それは、作品に入れるのが1番いいと思うのよね!」
「確かに、アンナリーゼ様が言ってたことだね。収集家によって、収集される価値あるものになるんじゃないかって。そうすると、いずれ、偽物が出回る可能性もある。本人、もしくは収集家にしかわからない証があれば、確かにそれは、付加価値になる」
私はセバスの話に頷いた。今、『赤い涙』や高級酒となっているアンバーの蒸留酒には、ラズを始め、とても個性の強い職人がコンテストを勝ち抜いて年に何本もない瓶を作っている。それをただの瓶として扱わず、きちんとした収集家によって、集められ始めたことを知った。それなら、それも含めて、瓶や飾り箱にも付加価値をつけておくべきなんじゃないかと考えていたのだが、なかなか話し合う時間がなく、やっと話せる機会ができたというところだ。
職人や知っている人だけが、誰の作品なのかわかればいいということではなく、誰もが知る作品となり、ゆくゆくは、城などの展示で使われるような一品となってほしい。
それが、願いではあった。まずは、収集家たちの目に留まり、集めてもらい、価値を上げてもらう必要があるが、美術品のひとつとして世に知らしめてほしいなんて考えてもいた。
「次、ラズさんたちが来たときに、要相談だね。ビルさんたちも今の考え、どう思う?」
「とても、いい案だと思います。美術品のひとつとして城に飾られるとなれば……アンバーの職人の知名度も上がるでしょうし、職人たちの創作意欲にも火がつきそうですね。そうして、職人の技術も上がれば、さらにアンバー領の誇れる産業が出来上がります!」
「そうね、そうすると、アンバー領の底上げにも貢献できるから、職人たちとの相談をしてみるか、まずは、ラズたちに聞いてみましょう!」
報告会は無事に終わった。私たちは、みなが集まる日にもう一度話し合うことにして、お開きとなった。
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