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コルクとグラン

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「随分と大量の荷物だな?」


 ウィルの背をゆうに越えた高さの荷物を大男が器用に部屋の中へと持ってきた。その後ろから、小男も大量の荷物を持って入ってきた。


「遅くなってすみません」


 話しかけているのは、小男の方で、まるで、荷物が話しかけているようにしか聞こえなかった。


「気にしなくていいさ。領主様は、そういうところはあまり気になさらないし、今、別の話をしていたところだから」


 そうですよね?とテクトがこちらを向くので苦笑いをする。普通、領主より先に来ないといけないのだが、テクトの言う通り、私は細かいことは気にしない。この大量の荷物を見ればわかるように、たぶん、ここまで運んでくるだけでも大変だったのは明白だ。


「そうね、私は気にしないわ!ただ、他の領地で同じことをすると、どうなるかわからないから、気を付けてちょうだい!」
「……恐れ入ります!」
「それより、荷物を置いたらどうかしら?重いでしょ?」
「いえ、箱なので……」
「それでも、木箱だから重いでしょ?細工もされていると聞いているし」


 机の上をどけてくれるかしら?とリアンに言うと、飲んでいたカップをどけてくれ、綺麗にしてくれた。


「机、空いたから、おいてもいいわよ!そちらの男性の方もどうぞ!」


 私は大男と小男の二人に声をかけると、二人がコソコソと話し、ゆっくり机の上に荷物を置く。
 ふぅっと、小男の方が小さく息を吐く。きっと、重かったのだろう。
 荷物を置いたことで、私の顔が見えたのだろう。こちらを見て、顔をほんのり赤くさせる。


「は……はじ、初めまして!」


 小男が挨拶をするが、声が裏返ってしまった。私に緊張をしたのだろう。


「コルク、緊張しすぎだ。息を吐け、そして、吸え!」
「えっ、あ、あぁ……ありがとう、グラン」


 はぁ……すぅ……っと、息を整え再度、コルクは私を見た。


「初めまして、領主様。木工職人のコルクと申します。本日は、お招き頂ありがとうございます」
「本当は、工房に向かいたかったのですけど……初めまして、コルクとグラン」
「初めまして、領主様。お名前を……」
「さっき、あなたたちの会話を聞いていたのよ!それだけだわ!」
「なるほど……」
「グラン、敬語っ!」
「今日のところは、敬語は必要ないわ!普段通りにしてちょうだい」
「しかし!」
「いいのよ、領地では、領主っていうより、アンナちゃんで通っているから、そこらへんにいる町娘?として会話してちょうだい!」
「滅相もございません!」
「そうなの?ウィル?」
「あぁ、まぁ、いいんじゃない?好きに話させてあげれば。敬語を使い慣れてないところは、普段のように話せばいいし。今日は、公式な場所ではないから、本当に自由にしてくれて構わないさ」


 ほら、護衛もこう言ってるし!なんていうと、逆に委縮してしまった。そんな様子を見て、テクトが笑い始める。


「て、て、テクトさん!」
「なんだ?コルク」
「そんな、笑ったら、失礼ですよ!それに、叱られるだろうし、領主様の機嫌を損ねたら、どうするんですか!」
「心配しなくても、アンナリーゼ様は、そんなことはしないさ。貴族であり領主ではあるけど、領地や俺たち領民のことを一番に考えてくれている。仕事をしやすいようにと。だいたい、よそから移住してきた二人が、こうして呼ばれるのは、ひとえにアンナリーゼ様が珍しい物が好きだからな。他の領地とは、少々、趣が違う」


 テクトが、コルクに言い聞かせると、こちらをチラッと見てくる。私は、ニッコリ笑いかけた。


「ママ、これ何?」


 たくさん積まれた木箱に興味を持ったのか、部屋の隅で遊んでいた子どもたちの輪から離れ、こちらに来た。


「そこに座って。お兄さんたちに見せてもらいましょうか?」
「うんっ!」


 そういうと、コルクがこちらに寄ってきて、机に置かれたうちのひとつを私に渡してくれる。


「壊したら、ダメだからね?振り回したり、落としたりもよ!」
「はいっ!」


 そのまま、アンジェラに渡す。ソファに座って膝の上において、木箱を開いた。領地の管理簿がすっぽり収まる大きさなので、ちょうど、アンジェラの座ったつま先まであった。
 その木箱の飾りを見ればわかる。丁寧に文様が彫られ、その中に宝石のように輝くガラスが入っていた。


「これ、素敵ね!ガラスよね?この輝いているのは」
「そうです。これは、特殊な加工によりできるガラスを使い、光らせてあります。まるで、ダイヤモンドの輝きのように光の加減で見えるかと……」
「えぇ、見えるわ!とても素敵ね!私、『赤い涙』を入れる飾り箱を今年は見ていないの。だから、言伝で聞いていたのだけど……素敵過ぎるわ!」
「ありがとうございます」
「他もこんな感じかしら?」
「今日は、いろいろな種類を持って来させていただいております」


 机の上に持ってきたときのまま積まれていた木箱を、ひとつひとつ机の上に並べていく。
 アンジェラが持っているもののような木箱が多い中、普通の飾り切りされたものもある。


「どれもこれも、繊細で、いいわね!このガラスの使ったのは、どうやって作ったの?」
「それは、私たちの故郷の技法で作られた、特殊なガラスです。それを使っています」
「そうなんだ……」


 私は、うーんと唸る。確かに細工も申し分がない。ガラスの部分も綺麗に出来ている。開けるのも蓋を上げるのではなく、蝶番になっているので、開くという発想がおもしろかった。


「蝶番は今までなかった手法ね!おもしろいわ!」
「お褒めに預かり、ありがとうございます!」


 コルクは、私に例を言ったが、グランは押し黙ったままだった。何かあるのかしら?と考えながらも、もう少し、この二人の話も聞きつつ、今度の香水の纏め売りの話をしようと思った。
 お世辞ではなく、本当に素敵だと感じたのだ。是非とも、私たちが手掛ける香水の飾り箱もお願いしたいなと、口説き文句を考え始めたのだった。
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