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ベーコンを作りましょ?
しおりを挟む「ベーコンを作りましょ?」
「あぁ、やっぱり、ベーコンでしたか」
「……?」
「あぁ、今日、ウィルとお弁当を持って視察に出たと言う話をリアンさんから聞いていたもので」
「そうだったの?」
「えぇ、そのお弁当がベーコンを挟んであったと聞いていたので、もしやと思いまして」
「イチアは知っていたのね?」
「えぇ、アンバー領を任されていましたから、アンナリーゼ様のようにいろいろなことに耳を傾けていましたから!」
ニッコリ笑いかける。イチアに領地をお願いしてよかったと思えた。
「ところで、ベーコンって何でしょうか?」
「ヤイコ……フレイゼンから来てくれている子はわかるわよね?」
「あぁ、あのヤイコですか?いつも獣臭い」
「その言い方は、どうなの?ロイド」
「本当のことです。それで、ヤイコがどうかしたのですか?」
「養豚場を始めたの!」
「養……トン……場……?」
何のことだ?とイチアに目配せをしているロイドだが、そこらへんは、お金を扱う仕事をしているのであれば、情報収集をしておいて欲しい。
「知らなかったの?この領地は、あちこちでいろいろな事業が起こっているわよ!経済を動かすなら、まずは、そういうところからの情報収集が必要ね!イチアの側でいれば、そういう情報も入ってくると思うんだけど……」
「申し訳ありません。私が情報共有を怠っていたので……ロイドさんは、悪くありません」
「そう。でも、イチアが謝ることではないわね!与えられたものなら、ロイドの存在意義が霞んでしまうもの!」
「うぐ……」
「なかなか、手厳しい反応だね?アンナリーゼ様にしては」
「そうだったかな?でも、お父様やお兄様に選ばれて、アンバーに来ているのですもの。もちろん、それなりのものは積んでいるのだから、しっかりしてほしいわ!」
「面目ないです」
「それで、養豚場をきちんとした生産体制にするための資金と加工場の体制を整えるための資金が必要だわ!」
私は、さてどうしましょうと声をかけると、先程の挽回とでもいうようにロイドがサッと割って入ってくる。
「資金の関係なんですけど……」
「何?何かいい案があるの?」
ロイドの方を見ると、うっすら色のついている液体が入った小瓶を10種類出してきた。
「アンナリーゼ様が帰ってきたら、見てもらおうと思っていたものです」
「これは……もしかして、香水?」
「えぇ、あまり乗り気ではありませんでしたが、瓶を作っている彼女……えっと……」
「ラズ?」
「そう、ラズさんに会いに行ったんですよ!教えてもらって。そこで、香水の話をしたらおもしろそうと言って瓶を作ってもらう約束をしてきました!」
「……まだ、世に出ていないもの……!香りね」
「香水って、貴族たちがつけてなかったか?」
「ウィルは、女性相手の情報収集してくれているから、よく知っているわよね!そういうの」
「好きでしているわけじゃないんだけど……それで?」
「匂いってきつくない?目立つためと言えば、目立つためではあるのだけど……もう少し、香りを抑えたらもっと素敵になるのにって思ったことはないかしら?どう?セバスも」
「確かに……すごい悪臭を巻き散らしている人いるよね。他にもきつめの匂いが多いから混ざることもあって……気持ち悪い」
私は苦笑いをしてしまう。私も社交界へ出るときは、そのドレスにあった香水をつけることにしているのだが、控えめに言っても、濃すぎる。鼻先をくすぐるくらいの優しい香りとか、本物の花が香っているような香りを求めているのだが、なかなかなかったのだ。
それをロイドにお願いしていたのだ。
しぶしぶではあったのだが、わりと乗り気でやってくれたようだ。
「ラズにあって、こういう香りがいいというのが思いついたんだ。ガラス工房に入れてもらって、あの……」
「裸体のお姉さん?」
「そう、見せてもらって……匂いたつような色香を思わせる肢体にドキドキさせられたよ!」
「あれはね、蒸留酒を入れると、もっと色香がたつわよ!」
「姫さん、一応、ご婦人ね?」
「それはおいといて……それで?」
「私も貴族のご婦人や少々成金のご婦人たちがこぞって香水をつけているのは知っているんだが、アンナリーゼ様のいう鼻先をくすぐるような匂いっていうのに近いと思う。そういうものを頭に描きながら、作ってみたものが、この10点。薔薇から抽出したもの、オレンジから抽出したもの、あとは、それぞれ花や果実から抽出したものを混ぜてある」
ひとつひとつ確認していくと、薔薇だといっても、何種類かの香りがあった。甘く誘うようなもの、上品なもの、華やかなもの……
「私、この青い色のが好きだわ!」
「それは、青薔薇から抽出したものに、少しだけ細工をして華やかな香りにしたもの」
「うんうん、だから、青いのね!どれもいい香りね!」
「あとは、この黄色いのを嗅いでみてくれ!これが1番の力作だ!」
進められて小瓶をとると、爽やかな香りである。オレンジだった。
「オレンジ?」
「そう、オレンジ。瑞々しい時期に皮と花から抽出したものなのだが、どうだろう?」
「いいわね!柑橘系は爽やかでいいわ!こういうのを好む人も絶対いると思う!」
頷くロイズ。自身が1番気に入っているようで、私も気に入った。ただ、私の理想像をナタリーとデリアたちが作ってくれるのだが、そのときに合わせられるのは、青薔薇の香水だろうと考えていた。
「これらを売り出してもいいのかしら?」
「あぁ、材料費的にはそれ程かかっていないが、店の看板商品として扱えるなら、多少の値段でも貴族なら、買ってくれるんじゃないだろうか」
「そうね。あとは、何か付加価値……」
「それなら、ラズに容器の試作品を頼んである!まだ、出来上がってないけど……それを見てからでどうだろう?」
私は頷き、試作品ができるまで、保留としたのである。もらった10個の試作品は、私の方で保管することにした。
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